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大規模修繕工事の前に建物劣化診断が必要な理由・調査内容・費用を解説

大規模修繕の建物診断について知りたい人

大規模修繕の建物診断について知りたい人

建物診断の調査内容は?
大規模修繕前に建物を調査する必要がある?
大規模修繕に必要な建物診断とは?
大規模修繕工事の劣化診断とは?
建物診断はマンションの大規模修繕工事で必要?
建物調査診断費用はいくら?助成金はある?
建物診断とは?マンションに劣化診断を行うメリットは?

建物診断はマンションやビルの大規模修繕を行う上で、非常に欠かせない事前調査です。

建物診断をしなければ、無駄な出費をしてしまうかもしれません。

この記事では、大規模修繕の準備期間に行われる建物診断について詳しく解説していきます。

建物診断を行うメリットや調査内容、かかる費用を知ることができます。

大規模修繕工事における建物診断とは

建物診断とは、建物の劣化状況や不具合を確認する調査作業のことです。

「建物劣化診断」とも呼ばれており、建物劣化診断や給排水管劣化診断など、さまざまな調査を行ないます。

マンション・ビル・住宅などの建物に大規模な修繕を行う際、工事を実施する前にこの建物診断を行い、補修・修繕が必要な箇所を洗い出します。

マンション・ビルの場合は、診断・調査結果を元に、劣化進行を予測しながら大規模修繕の実施計画を立てていきます。

大規模修繕工事に建物診断が必要な理由

建物診断は、大規模修繕工事を行う前の事前調査として実施されるものです。

事前調査以外にも、工事実施時期の判断材料にしたり、長期修繕計画の見直しのきっかけにしたりすることもできます。

ここでは、大規模修繕工事の事前調査として建物診断が必要な理由を3つ紹介します。

建物の状態を把握して工事内容に活かすため

大規模修繕では、建物の外壁や屋上、共用部などの広範囲を補修していきます。

事前に建物調査を行うことで、現在の建物の劣化状態などを把握することができるため、より具体的に工事内容を組み立てていくことができます。

建物の劣化状態はさまざまな影響を受けて左右されるため、耐用年数だけで判断することはできません。

事前調査でしっかりと専門家が建物の状態を判断することで、適切な箇所の修繕を行うことができるでしょう。

劣化状態によっては、長期修繕計画とは異なる工事や追加の工事を行う可能性もあります。

工事実施の時期を判断するため

分譲マンションでは、各マンションごとに長期修繕計画をたてて大規模修繕工事を予定します。

12〜15年に一度を目安に大規模修繕が行われることが一般的です。

長期修繕計画で予定している工事実施時期の1年ほど前になると、建物診断を実施します。

建物診断の結果によって、長期修繕計画通りの時期に大規模修繕工事を行うこともあれば、工事の時期を変更することもあります。

建物にとってベストな時期に大規模修繕工事を実施するためにも、事前の建物診断が必要です。

また、個人が所有するビルや賃貸マンションなどの場合では、そもそも長期修繕計画がたてられていないこともあります。

そのような場合では、建物診断によって修繕工事の時期を検討することになるでしょう。

専門家による建物診断では建物の寿命を予測することもできるため、修繕するのか建て替えるのかという判断のためにも建物診断が役立ちます。

長期修繕計画の見直しのため

長期修繕計画は、20年、30年先といった長期間にわたって修繕工事を予定するものです。

かなり先の工事の内容や費用までを計画するため、実際に時間が経って工事予定の時期を迎えた時、長期修繕計画通りの工事内容が適切であるとは限りません。

建物はさまざまな影響を受けて劣化していくため、30年先の劣化状態を正確に予想することは難しいです。

時間の経過によって長期修繕計画の内容とその時必要な工事内容がずれてしまうことは珍しくないため、定期的に建物診断を行うことで長期修繕計画の内容を見直していく必要があります。

分譲マンションの場合は、長期修繕計画をもとに資金計画をたて、居住者が支払う修繕積立金の金額を決めることが一般的です。

長期修繕計画の見直しが長年されていなければ、工事が必要となった際に思わぬ費用が必要となり、修繕積立金が足りなくなるというリスクも考えられます。

そのため5年ごとを目安に建物診断を行って、長期修繕計画や修繕積立金の見直しを行うことが理想です。

建物診断を行うメリット

建物診断を行うと、さまざまなメリットが得られます。

ここでは、建物診断を行うメリットを2つ紹介します。

適正な工事が実施できる

建物診断を行うことで、現時点での正確な建物の劣化状態を判断することができます。

そのため、どの箇所にどのような修繕が必要となるのか、具体的な工事内容がはっきりとわかります。

建物診断を行うことで長期修繕計画とのずれを発見して、建物の状態に合わせた適正な工事が実施できるでしょう。

不要なコストの削減につながる

建物診断を行った結果、長期修繕計画で予定していた補修が必要ない場合もあります。

建物診断の結果によって必要な修繕箇所や工事内容を決めていくため、予想よりも劣化が進んでいない箇所があれば工事の実施時期を後にずらす場合も少なくありません。

このように、建物診断の結果をもとに建物の劣化状態に合わせて工事の実施時期を検討していくことが、不要なコストを削減することにもつながります。

修繕積立金を有効に使っていくためにも、不要なコストを削減できることは大きなメリットです。

建物診断の実施がおすすめな人の特徴

大規模修繕を行うべきか悩んでいたり、建物がどれくらい劣化しているのか気になりませんか?

下記の特徴に当てはまる方は、建物診断の実施を検討してみてください。

  • 築年数10年が経過している
  • 修繕時期が迫っているため、修繕・補修の優先度や費用が知りたい
  • 雨漏りの原因がわからない
  • 地震が心配
  • 修繕が必要な時期なのかわからない
  • マンション・アパートの空き部屋が埋まらない原因を知りたい
  • 貸家または売却を行うにあたり、改修の必要性・規模を知りたい

マンションやアパートの大規模修繕の実施周期は一般的に12年〜15年だと言われています。建築から10年経ったあたりから修繕工事が検討され、12年〜15年で初めての大規模修繕が行われるようです。

ただ、建物に関する心配・不安・悩みがある場合は、築年数に構わず、建物診断を行う業者に一度相談してみるのがおすすめです。適切なアドバイスで、抱えている問題を解決してくれるでしょう。

建物診断で調査する建物の部位

こちらを参考にしてください。

建物診断では、実際に建物のどのような部分を診断するのか知っていますか?

ここでは、建物診断で調査する建物の部位を紹介します。

下記の表を参考にしてみてくださいね。

調査する建物の部位調査項目
構造躯体ひび割れ・亀裂・欠損の有無コンクリート中性化・圧縮強度土台・柱の腐食鉄骨の錆
屋上・屋根防水層・塗装の劣化度
外壁塗装の劣化度タイルの浮き外壁の剥離・割れ・欠損附着力
防水処理外階段・廊下・バルコニーなどの床の防水機能
鉄部塗装外階段・廊下・バルコニーなどの鉄部の錆・塗装の剥がれ
シーリングサッシ廻り・打ち継ぎ目地などのシーリング部分の劣化度
共用部エントランス・バルコニー・廊下などの床・壁・天井の劣化度・雨漏りの有無
共用設備電気設備・給排水設備・衛生設備・エレベーターなど異常調査
外構フェンス・自転車置き場・ゴミ置き場などの状況

表の通りに、建物診断では共用部と外壁や屋根を中心として、建物全体のチェックを行っていきます。

調査は、専門家による目視や触診、道具を使用する打診などさまざまな方法で行われます。

建物診断は足場を組まずに行うことが一般的です。

超音波装置を使用した検査や一部分を抜き取るサンプリング検査なども行うため、素人では発見できない劣化症状を発見することができます。

調査後は建物の劣化具合を考慮して修繕の緊急度を評価し報告書にまとめてくれるため、わかりやすく結果を確認することができるでしょう。

建物診断の調査方法

ここでは、建物診断の具体的な調査方法について紹介していきます。

9つの調査方法を詳しく解説するので、ぜひ参考にしてみてください。

建物の図面を確認

建物の図面の確認は、事前調査とも呼ばれています。

実際に建物診断を行う前に、建物の図面やこれまでの修繕履歴などの建物に関する情報を確認します。

建物の構造や設備、使用状況などの情報を確認することで、建物調査を行う前に建物の特徴や情報を把握し整理しておくことが重要です。

アンケート調査

建物の居住者に対して、建物の問題点や困っていることの情報を集めるアンケート調査を実施します。

居住者は建物の異変に気づいていることも多いため、アンケート調査によって漏水や劣化などの情報が得られるでしょう。

居住者の意見を取り入れるためにも、アンケート調査は必要な作業です。

目視・打診調査

目視・打診調査では、専門家である調査員が実際に建物を訪問し、建物の劣化状態を調査していきます。

目視では、ひび割れや損傷などの目で見てわかる劣化症状を確認して記録します。

打診調査は、打診棒と呼ばれる専門の道具を使用した調査です。

目視だけではなく、道具を用いた調査でより正確に劣化状態を確認していきます。

打診を行うことにより、目では見えないタイルの間にできた隙間などの劣化を発見できるようになります。

打診棒で壁面を叩いた際の音の変化で、建物内部の劣化状態を判断することが可能です。

仕上材付着力試験

仕上材付着力試験は、タイルや塗膜などの仕上材の付着力を調べる調査です。

専用の機械を使用して、仕上材がコンクリートにしっかりと接着できているかどうかを調査します。

目視・打診調査で異常が見られなかった壁面に対して、この仕上材付着力試験を実施します。

仕上材とコンクリートの接着が弱い場合、壁面が剥がれ落ちるリスクがあると言えるでしょう。

大きな事故につながる危険性があるため、仕上材とコンクリートの接着が弱いと判断されれば補修工事が必要です。

赤外線外壁劣化調査

赤外線サーモグラフィーカメラを使用することで、外壁の異常箇所がないかの調査を行います。

赤外線サーモグラフィーカメラで外壁を撮影すると、温度分布が測定できます。

この温度分布の状態を見ることで、外壁の異常箇所の発見が可能です。

建物調査は一般的に足場を組まない範囲で行うため、赤外線サーモグラフィーカメラを使用すれば目視や打診棒では届かない高所などの調査が行えます。

ただし、以下のようなポイントに注意が必要です。

  • 気象条件・日照時間の影響を受ける
  • 撮影距離が十分に取れない狭い場所では撮影できない場合がある

シーリング材物性試験

シーリング材は、外壁のつなぎ目やサッシ周りなどの隙間を埋めるゴム状の材料です。

シーリング材は経年劣化が避けられないため、しっかりと劣化状態を判断していく必要があります。

シーリング材物性試験では、シーリング材の伸び率などの計測を行います。

経年劣化したシーリング材は硬くなるため、伸び率を計測して基準値と比べることで劣化状態の判断が可能です。

シーリング材が劣化によりやせたり亀裂が入ったりしていれば、その劣化部分から空気や水侵入し建物の耐久性を損なうリスクが高まります。

そのため、シーリング材に劣化症状が見られれば、大規模修繕工事のタイミングでシーリングの打ち替えを行います。

コンクリート中性化試験

アルカリ性のコンクリートは内部の鉄筋を保護してサビにくくする役割がありますが、時間が経つにつれてコンクリートはアルカリ性が抜けて中性化していってしまいます。

コンクリートの中性化は、表面から内部に向かって進行していきます。

この現象の進行度合いを調査するのが、コンクリート中性化試験です。

コンクリート中性化試験は、外壁のコンクリートの一部を採取してフェノールフタレイン溶液と呼ばれる薬剤を吹き付けることで行います。

フェノールフタレイン溶液はアルカリ性に反応する薬剤であるため、その色の変化でコンクリートの中性化の進行度合いがわかる試験です。

フェノールフタレイン溶液を吹き付けた部分の色が変わればアルカリ性に反応しているということで、色が変わらない部分は中性化が進んでいると判断できます。

コンクリート簡易圧縮強度調査

コンクリート簡易圧縮強度調査は、コンクリートの強度を測定できる調査です。

調査には、シュミットハンマーと呼ばれる専用の道具を使用します。

シュミットハンマーでコンクリートに打撃を与えた際の衝撃の強さで、コンクリート強度の推定が可能です。

コンクリートに穴をあけたり一部を採取したりすることなく、コンクリートの強度を測定できる調査です。

鉄筋位置・かぶり厚調査

鉄筋位置・かぶり厚調査では、電磁波を使用してコンクリート内部の状態の調査を行います。

電磁波を使用した専門の機械により、鉄筋の位置や鉄筋を覆っているコンクリートの厚さの測定ができます。

こちらもコンクリート簡易圧縮強度調査と同様に、コンクリートを破壊することなく行える調査です。

建物診断の流れ

建物診断・建物劣化診断の基本的な流れを見ていきましょう。

  1. STEP

    業者を決定し打ち合わせを行う

    診断を行ってくれる業者を決定するのは、マンションの組合や管理会社です。

    コンサルタントを通したり、コンサルタントが業者を派遣するケースもあるようです。

    建築診断業者と「どんな診断を行なうのか」「費用はいくらかかるのか」といったことを打ち合わせます。

  2. STEP

    図面などの書類の確認

    次にマンションの竣工図(完成図)や仕様書、管理規約などの書類の内容を、建築診断業者に確認してもらいます。
    上記のような書類を確認することで、建物の構造や、建物に使っている材料などが分かります。

    劣化が発生しやすい箇所も把握できるので、建築診断がスムーズに進むでしょう。

  3. STEP

    マンション住人へのアンケートを行う

    マンション住人へのアンケートにより、さらに建築診断の精度が上がります。

    建築診断では分からない不具合もあるので、ぜひマンション住人に協力してもらいましょう。

  4. STEP

    目視や打診による調査の実施

    実際の調査では、目視や打診により劣化状況を診断します。

    外壁コンクリートの中性化試験や、給排水管の内視鏡調査など依頼内容によっては、さらに専門的な調査を行なうこともあります。

  5. STEP

    調査報告書が提出される

    建築診断業者は、マンション側へ調査報告書を提出します。
    場合によっては建築診断終了後に、組合員に向けての調査報告会が行なわれることも。

    調査報告会では次回の修繕計画について、組合員に理解をしてもらえるようにも努めましょう。

診断結果は住人に共有を

建物診断・建物劣化診断の結果は、説明会や広報誌などで共有されることが多いようです。

こういった情報を共有しておくことで、いざ大規模改修工事の計画を立てなくてはいけない時に住人の理解や協力を得やすくなります。

もし、修繕費用の積み立てが足りなくなれば住人の協力は不可欠となるので、普段からの情報共有は重要です。

建築診断にかかる期間

小規模・中規模マンションであれば、1~2日で建築診断が完了することが多いです。

ただしその以前から業者との打ち合わせや、マンション住人へのアンケート、調査の日程調整なども必要です。

建築診断業者に相談してから2~3週間後には、実際に建築診断を実施できるでしょう。

大規模マンションの場合は調査する面積が広いため、報告書の作成・提出までおよそ1ヶ月かかります。

建物診断にかかる費用

大規模改修工事に不可欠となってくる建物診断・建物劣化診断ですが、どのくらいの費用がかかるのか気になりますよね。

建物診断に必要な費用は、以下のとおりです。

建物費用相場
一戸建て住宅5~15万円
小規模マンション(30戸以下)20~40万円
中規模マンション(50~100戸)30~80万円
大規模マンション(200戸以上)50~100万円

ただしこの金額はあくまでも目安です。
建物の劣化状況や工事面積、木造か鉄骨造か、などによって大きく変動します。

安く済ませたい場合は「簡易検査だけ行なう」ということも可能です。

無料診断と有料診断の違いは?

建築診断には「無料診断」というものもあります。その名のとおり無料で建築診断を行なってもらえますが、あくまでも簡易的な調査に留まります。

基本的には共用部分の目視と打診のみで、専用の機器を使ったコンクリート中性化試験などは行なわれません。

有料診断の場合は共用部分の綿密な調査だけでなく、専有部分の調査も行なってもらえます。

新築から間もないマンションなら、無料診断でも良いかも知れません。

まとめ

今回は、大規模改修工事前に行われる建物診断・建物劣化診断について解説してきました。

大規模改修工事は、マンションに長期間安全に居住するためには不可欠な工事です。

その大事な工事を判断する材料となる建物診断・建物劣化診断もまた大事なものとなります。

診断や改修工事を行い、大切にすることで建物は長生きします。

日頃からたくさんの人が暮らすみんなのマンションを、大切にすることを意識していただければと思います。

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