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マンション大規模修繕で固定資産税が減税に!長寿命化促進税制とは? 

マンション長寿命化促進税制という新しい制度が2023年4月に創設されました。

なぜこの制度ができたのか、メリットは何か、申請要件や必要なものなど、活用方法が分からない方も多いのではないでしょうか。

そこで、マンション長寿命化促進税制の内容と、申請方法について解説します。

マンション長寿命化促進税制とは

マンション長寿命化促進税制とは、一定の条件を満たしたマンションが大規模修繕工事を実施した場合、区分所有者に課される翌年度の固定資産税が減額される特例措置です。

令和5年度税制改正の大綱に盛り込まれました。

実施期間は令和5年4月1日〜令和7年3月31日までです。

この制度は、大規模修繕工事で必要な修繕積立金の確保や、長寿命化工事の適切な実施に向けた管理組合の合意形成を後押しすることが目的です。

つまり、マンション長寿命化促進税制を利用すれば、翌年度の固定資産税が減額されるため、管理組合の合意形成が進みやすくなります。

マンション長寿命化促進税制の導入背景

マンション大規模修繕で「マンション長寿命化促進税制」を利用すると、翌年度の固定資産税が減税される制度ですが、なぜこのような特例措置が導入されたのでしょうか。

ここでは、マンション長寿命化促進税制が導入された3つの背景を詳しく紹介していきます

修繕工事が必要な高経年マンションが増加したため

日本では、修繕・補修を必要する高経年マンションの数は年々増加しています。

国土交通省によると、2021年末時点のマンションストック数は約685万戸で、そのうちの築40年以上の物件は約115万戸あると言われています。20年後には築40年以上の物件は425万戸に増えると国土交通省は予測しています。

築年数が多い建物でも充分に管理されていれば長持ちします。しかし、修繕や補修が適切に行われていないと、建物や設備は老朽化していきます。

老朽化した建物は倒壊の危険性を孕んでいます。、居住者や近隣居住者の生命に危険を及ぼすため、自治体が税金を出して強制的に取り壊すケースが出ています。

老朽化した高経年マンションは、マンションの居住者のみならず、地域全体の問題になっています。

合意形成が難しい事例が増えたため

分譲マンションのように、ひとつの建物に複数の所有者がいる建物は区分所有建物と呼ばれています。

区分所有建物で大規模な修繕工事を行う場合は、工事内容にもよりますが、通常総会の普通議決または特別議決で区分所有者からの承認が必要です。つまり、合意形成です。

しかし、近年は区分所有者の高齢化や非居住化(賃貸・空き住戸化)が進行し、管理組合員の担い手不足・総会の開催が困難・議決の条件が満たせないなどの問題が生じています。

また、定年退職などの理由で収入が減少したことで、大規模修繕工事の実施を渋る人が増えています。

このように、多くのマンションで合意形成が難しい状況になっています。

修繕積立金の不足トラブルが多発しているため

マンション長寿命化促進税制が創設された背景には、築年数の古いマンションに修繕積立金が不足しているケースが多いことがあります。

国土交通省が実施した「平成30年度マンション総合調査」によると、修繕積立金のストック状況は以下のとおりです。

  • 現在の修繕積立金が計画に対して不足している:34.80%
  • 現在の修繕積立金が計画に対して余っている:33.80%
  • 不明:31.40%

全体の34.8%のマンションが「現在の修繕積立金が計画に対して不足している」と回答しており、少なくとも3件に1件は修繕積立金が不足していることが判明しました。

また、「わからない」と回答した31.4%のマンションのなかにも修繕積立金が不足している物件がある可能性があり、実際には34.8%以上のマンションで修繕積立金が不足している可能性があります。

国は修繕積立金が不足しているマンションが多いことを問題視し、2021年9月には「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」を改定しました。

加えて、上記調査は2018年時点のものですが、近年の建築費の高騰により、2018年調査段階よりも修繕積立金が不足しているマンションが増えている可能性も考えられます。

修繕積立金が不足するマンションが増えれば、寿命を延ばすための大規模修繕を適切に行えない物件も増えることが予想されます。

適切に大規模修繕が行われないと、外壁が剥落して建物が廃墟と化し、周辺地域に大きな悪影響を与えかねません。

全国のマンションが適切な修繕積立金を確保し、大規模修繕を適切に実施できるよう、管理組合の合意形成を支援できる施策が求められていたため、マンション長寿命化促進税制が創設されました。

マンション長寿命化促進税制は利用したほうがいい?

マンション長寿命化促進税制を利用することには、どのようなメリットがあるのでしょうか。

制度について調べ、申請するのは手間がかかるため、利用すべきかどうか迷う方もいるでしょう。

ここでは、マンション長寿命化促進税制を利用するメリットを解説します。

固定資産税が減額される

マンション長寿命化促進税制を利用することで竣工翌年の建物の固定資産税額が1/6~1/2の範囲内(参酌基準:1/3)でに減額されます。

減額率は自治体市町村ごとに異なります。マンション長寿命化促進税制の詳細は自治体のホームページなどで確認できます。

東京都のマンション長寿命化促進税制を例にあげて固定資産税額を計算してみます。東京都では減額期間・金額は以下のように定めています。

(1)減額期間 工事完了年の翌年度分(改修工事完了日が1月1日の場合はその年度分)
(2)減額金額 当該住宅の一戸当たり100㎡の床面積相当分までの固定資産税額の、条例で定める割合※
※東京23区においては、「2分の1」です。

東京23区の場合、減額率は1/2であるため、竣工翌年の固定資産税額が10万円なら、1/2の5万円が減額されます。つまり、固定資産税額は5万円になります。

注意点は減額の対象は建物部分のみで、土地固定資産税と都市計画税は対象外です。また、1戸あたり建物100㎡相当分までが対象で、店舗・事務所は対象外です。

減税額はどのくらい?

減税の額は、課税明細書で確認ができます。

課税明細書は固定資産税の「納税通知書」と一緒に届きます。これらは4月〜6月ごろに自治体が固定資産税を納める人に向けて送るものです。

課税明細書には土地や家屋の所在・地番・価格などが記載されており、固定資産税の金額は『家屋』という欄に書かれています。

マンションすまい・る債の利率が上乗せされる

マンションすまい・る債とは住宅金融支援機構が出す債券です。この債券を購入すると、利息の支払やマンション共用部分リフォーム融資の金利の引き下げなど、さまざまな特徴や特典を利用することができます。

マンションすまい・る債では、マンション長寿命化促進税制の利用を促進するメリットを設けています。

住宅金融支援機構の2023年度募集要項によると管理計画認定を受けたマンションの社債は「マンションすまい・る債」の金利が「0.525%」に引き上げられます。普通社債の金利(10年満期の年平均金利(税引前))は0.475%です。

修繕積立金の運用先としてマンションすまい・る債を利用する管理組合にとっては、管理計画認定を受けたほうがお得だと言えます。

管理組合の負担が軽減される

修繕積立金の値上げは区分所有者の経済的負担を増大させるため、合意形成がスムーズに進まない可能性があります。

固定資産税の軽減という区分所有者全員のメリットで合意が得られれば、管理組合の負担も軽減できます。

マンション大規模修繕で固定資産税の減額を受ける方法

どのようなマンションでも、固定資産税が減額されるわけではありません。

マンションの大規模修繕工事で固定資産税の減額を受けるためには、一定の条件を満たし、認定を受ける必要があります。

ここでは、固定資産税の減税を受ける方法、条件を紹介します。

減税の条件を満たす

対象となるマンションの条件は次のとおりです。

  • 築後20年以上経過した10戸以上のマンション
  • 過去に一度でも適切な長寿命化工事を実施していること
  • 長寿命化工事に必要な積立金を確保していること
  • 積立金を一定以上積み立て、管理計画の認定を受けている※地方公共団体の助言・指導を受けて適切に長期修繕計画の見直し等をした場合も対象

なお、1回目の大規模修繕工事は対象になりません。対象になるのは、2回目以降の大規模修繕工事を行うマンションです。

長寿命化工事とは、屋上防水工事・床の防水工事・外壁塗装工事などを指します。要するに、大規模修繕工事で屋上や屋根・共用部分・外壁を直さなくてはなりません。

期間内に長寿命化工事を実施・完了する

令和5年4月1日〜令和7年3月31日までの間に、長寿命化に貢献し、なおかつ、2回目以降の大規模修繕工事を完了したマンションが対象です。

期間内に工事を完了していればいいので、着工日は関係ありません。

マンション管理計画認定制度を受ける

マンション長寿命化促進税制の対象になるには、管理計画の認定制度を受けることが条件の一つです。認定の取得期限は、減額申告の時点かつ工事完了の翌年の1月1日までです。

管理計画の認定制度とは、2022年4月に始まった「マンション管理計画認定制度」のことで、マンション管理適正化法に基づき、適切な管理計画を有するマンションを自治体が認定する制度です。マンション管理の適正化を推進し、質の高い管理が行われているマンションが不動産市場で適正に評価されるよう促すことが制定の目的です。

マンション管理計画認定制度は分譲マンションなど、管理組合があるマンションが対象です。

ただし、この制度はすべての自治体にあるわけではなく、マンション管理適正化推進計画を作成する自治体に限られます。さらに認定の基準は自治体ごとに異なります。国土交通省が定めた認定基準に、自治体が独自の条件を上乗せしている場合があります。

マンション管理適正化推進計画の有無と認定基準は、インターネットで「自治体名+マンション管理適正化推進計画」と検索すると確認することができます。

なお、認証の有効期間は5年間で、認定には手数料がかかります。認定手数料は自治体ごとに異なります。

  • 管理組合の運営
    • 管理者及び監事が定めている
    • 集会(総会)が定期的に開催されている(年1回以上開催されていること)
  • 管理規約
    • 管理規約が作成されている
    • 管理規約にて下記について定められている
      • 緊急時等における専有部分の立ち入り
      • 修繕等の履歴情報の保管
      • 管理組合の財務・管理に関する情報の提供
  • 管理組合の経理
    • 管理費と修繕積立金の区分経理がされている
    • 修繕積立金から他の会計への充当がされている
    • 修繕積立金の滞納に適切に対処されている(修繕積立金の3ヶ月以上の滞納額が全体の1割以内であること)
  • 長期修繕計画の作成及び見直し等
    • 長期修繕計画(標準様式準拠)の内容及びこれに基づき算定された修繕積立金が集会(総会)で決議されている
    • 長期修繕計画が7年以内に作成又は見直しがされている
    • 長期修繕計画の計画期間が30年以上かつ残存期間内に大規模修繕工事が2回以上含まれている
    • 長期修繕計画において将来の一時金の徴収を予定していない
    • 長期修繕計画の計画期間全体での修繕積立金の総額から算定された修繕積立金の平均額が著しく低額でない
    • 計画期間の最終年度において、借入金の残高のない計画となっている
  • その他
    • 組合員名簿、居住者名簿が適切に備えられている(1年に1回以上は内容の確認を行なっていること)
    • 都道府県等マンション管理適正化指針に照らして適切なものである

引用:国土交通省『マンションの大規模修繕をすると固定資産税が減税されます!

工事完了から3ヶ月以内に申請書類を提出する

減税措置は、自動で適用されるわけではないため注意しましょう。

固定資産税の減免を受けようとする区分所有者は、建築後3ヶ月以内に市区町村に届け出なければなりません。

マンション管理士などが、「大規模修繕で長寿命化を図るものである」ことを証明する書類とともに申告書を提出します。

マンション大規模修繕固定資産税まとめ

マンション大規模修繕の固定資産税の減額制度について解説しました。

固定資産税の減額は、大規模修繕工事を行なっても自動で適用されるわけではないため注意しましょう。

固定資産税の減額を受けるには、工事完了日から3ヶ月以内に自治体に申告しなければなりません。

申告では、主に以下の書類が必要になります。

  • 大規模修繕工事が行われたマンションに対する固定資産税減額申告書
  • 大規模の修繕等証明書又はその写し
  • 過去工事証明書またはその写し
  • 総戸数が10戸以上であることがわかる書類(例:設計図書など)
  • 管理計画の認定通知書
  • 修繕積立金引上証明書

管理組合が助言や指導を受けたマンションの場合は、助言・指導内容実施等証明書が必要になります。

提出が求められる書類の種類は自治体ごとに異なる可能性があるため、大規模修繕工事を行う前に、ホームページなどで必要書類を確認しておくとよいでしょう。

マンション大規模修繕固定資産税まとめ

マンション大規模修繕の固定資産税の減額制度について解説しました。

まとめると、

  • 「適正に管理されているマンションである」と認められる必要がある
  • 期間内に大規模修繕工事が完了した際に限られる
  • 期間は令和5年4月1日〜令和7年3月31日までの2年間

支払わなければならない固定資産税が軽減されるのは、マンションオーナーにとって大きなメリットです。

期限が決められた特例措置であるため、大規模修繕を検討している場合は特例措置の利用がおすすめです。

まずは、マンションが減税対象の条件をクリアしているかどうか、確認してみる必要があります。

固定資産税は、令和7年3月31日までに工事が完了した場合に特例措置で減税できるため、大規模修繕工事を検討している管理組合は早めの利用を検討しましょう。

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