8 min

マンションの修繕費が払えない!大規模修繕の費用が不足した時の対処法を解説

大規模修繕工事を行うマンションは多いですが、修繕積立金が実際の工事費に満たないケースは少なくありません。

修繕工事はどのくらいの頻度で、どのような場所で行われるのか、修繕費の不足にどう対処すべきかを事前に把握しておくことも大切です。

そこで、修繕積立金が不足する理由、工事の費用を払えない場合の対処法を紹介します。

マンションの大規模修繕の周期

マンションの大規模修繕工事は12年が目安です。

2008年4月に建築基準法が改正され、検査の基準や検査方法も変わり、竣工・改修後10年以上経過したマンションは10年経過日から3年以内に「全面打診調査」を受けることが義務づけられました。

打診調査とは、モルタルやタイルなどの表面を打診棒で叩いて浮き具合を調べる方法で、外壁の落下を予防するために実施します。

マンションの外壁を調査する場合、足場を組まなければなりません。

また、高層マンションの場合、足場を組むだけでも多額の費用がかかります。

そのため、全面打診調査のタイミングで年大規模修繕を検討することが一般的です。

加えて、国土交通省の「長期修繕計画作成ガイドライン」や「マンションリフォーム・建替え」の資料では、12年ごとに建物の性能・機能を向上させる工事を行うことが重要であるとしています。

様々な理由から、建設会社も12年ごとの修繕工事を推奨しているのです。

なお、国土交通省「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」によると、回数を重ねるごとに工事個所は増え、費用も高額になっていることがわかります。

工事回数築年数工事箇所総費用
1回目12~16年外壁、屋上防水、屋根、バルコニー、鉄部の補修4,000~6,000万円
2回目26~33年外構補修貯水槽の取り替え建具の交換郵便受けの交換6,000~8,000万 円万円
3回目27~45年内部の設備や部材の更新玄関ドアやサッシや手すりの交換インターネット設備や電話設備の交換屋外鉄骨階段や給排水管、ガス管の取り替え10,000~15,000万円

12年目に初めて行う大規模修繕は、外壁、屋上防水、屋根、バルコニー、鉄部などを中心に行います。

3回目の修繕は平均36年目であり、給排水管やガス管の交換、鉄骨階段の補修など屋外工事が大規模であり、1回目、2回目に比べて修繕の割合が多いです。

劣化の程度が軽いからという理由で修繕を先延ばしにすると、経年劣化による傷みや破損が大きくなる可能性があります。

なお、1戸あたりの費用は1回目が100万円~120万円、2回目、3回目は75万円~100万円以下が平均値です。

将来「修繕費用が払えない」というトラブルが起こらないようにするためにも、適切なメンテナンスを行うことをおすすめします。

マンションの修繕費が払えないときの対処法

大規模修繕の時期が来たものの、実際の修繕積立金が長期修繕計画で算出した金額に達していない場合はどうすればよいのでしょうか。

安易に工事を延期すると劣化が進むため、修繕費を準備する前提で検討しなければなりません。

ここでは、マンションの修繕費が払えないときの対処法を4つ紹介します。

入居者から一時金を徴収

入居者から不足額を一括で徴収する「一括払い」を利用します。

借り入れのような手数料や金利がかからず、すぐに不足分を補える点がメリットです。

しかし、入居者の様々な事情を考えると、想定外の大金をすぐに用意できる家庭がどれだけあるのかという疑問が生じるでしょう。

国土交通省の調査でも、「管理費や修繕積立金を滞納している入居者がいる」と回答しているマンションもあり、全世帯から滞りなく集金することは難しいと考えられます。

入居者からスムーズに合意をもらえればよいですが、徴収を考えるのであれば分割徴収も視野に入れましょう。

大規模修繕プロジェクトでは、契約時、着工時、竣工時といった節目で支払いが行われることが多いです。

その間に分割で支払うことで、住民の負担はある程度軽減されます。

不足分をローンでカバー

修繕積立金の不足分を金融機関から借り入れる方法です。

総会決議が必要ですが、一括徴収と比較すると決議が通りやすいため、現実的な方法といえるでしょう。

ただし、お金を借りることになり、利息が発生します。

返済する際には修繕積立金を増やさなければならないことも予測しておいたほうがよいでしょう。

大規模修繕内容を再検討

大規模修繕工事を分けて行う方法もあります。

最初は外壁塗装だけ、屋上防水だけなど、必要な部分だけ工事を行います。

工事を分けて行う場合、工事範囲を絞ることで一時的な出費は先送りできますが、後の工事計画を見直し、住民からの徴収額を見直すことで修繕費を確保しなければなりません。

また、国土交通省の長期修繕計画作成ガイドラインでは、5年ごとくらいに見直すことを推奨しています。

長期修繕計画の内容について、修繕計画の作成時期や内容が非現実的ではないか再考してみましょう。

多くのマンションでは、新築時に長期修繕計画を作成しています。

しかし、計画はどのマンションにも適用できる雛形で作成されている可能性があり、現実的ではない可能性が高いです。

例えば、エレベーターの台数や照明などの違いにより、発生しなくてもよい費用が予算に含まれている場合があります。

大規模修繕工事を延期

上記のいずれの方法でも対処できない場合は、大規模修繕を延期します。

しかし、修繕積立金が足りないからといって大規模修繕を先延ばしにすることは望ましいことではありません。

建物の状況にもよりますが、大規模修繕工事を先延ばしにすると劣化が進み、工事費がさらにかさむ可能性があります。

そのため、大規模修繕延期を極力避けるためにも、十分な積立金を確保し、マンションが古くならない時期から計画的に適切な修繕を行うようにしましょう。

マンションの修繕費が払えない場合に起こることとは?

マンションの修繕費が払えないと、最悪の場合は差し押さえられることになります。

ここでは、修繕費が払えないと起こる問題や、払えないまま放置するリスクを解説します。

マンションの住環境が悪化

管理費や修繕積立金を滞納すると、清掃やメンテナンスが行き届かなかったり、不足分を他の入居者が補わなければならなくなったりします。

管理費や修繕積立金の滞納は、1人だけの問題ではなく、入居者すべてに迷惑をかけることになります。

資産価値が低下する

マンションの管理費や修繕積立金は、毎日の清掃や大規模修繕など、マンションの資産価値を維持し、快適な住まいを守るために使われるものです。

マンションの修繕費を滞納すると、修繕工事ができなくなり、建物や設備が劣化して資産価値が下がります。

また、費用を払えない場合に入居者から追加徴収すると、不公平が生じ、滞納すると支払いを拒否する住民が増える可能性があるでしょう。

差し押さえされる

マンション管理費や修繕積立金を滞納している入居者には、管理組合から連絡や督促状を送ります。

督促に応じず長期間滞納が続くと、管理組合は裁判所に提訴し、法的措置をとることが可能です。

滞納を解消するだけの現金がない場合は、車や家財道具などの資産の差し押さえや、マンションが競売にかけられることもあります。

競売とは、裁判所の権限によって強制的に不動産を売却することです。

競売は不動産所有者の意向が反映されない強制売却であり、売却価格は市場価格より5~7割程度安くなることもあります。

競売は売主にとって非常に大きなデメリットがあるため、法的措置をとられる前に管理費や修繕費を支払うことが大切です。

マンション大規模修繕の費用が不足する原因

マンションの資産価値は、定期的に大規模修繕工事を行うことで守れるといわれています。

そのため、修繕費は管理組合を通じて積み立てることが大切です。

しかし、国土交通省の「平成30年マンション総合調査「によると、修繕積立金のみで工事費を捻出できている管理組合は72.3%でした。

なぜ修繕費が払えない事態が生じるのでしょうか。

積立金額の設定が低い

修繕積立金を払えない原因のひとつは、設定額が低いためです。

国土交通省のガイドラインを参照して決める積立金ですが、過去の曖昧な基準で管理費の1割を修繕費として徴収しているマンションもあります。

理由のひとつは、新築の場合、販売会社が物件を購入してもらいやすいよう修繕費を低く設定し、月々の負担が少ないように見せかけることが多いためです。

段階的に積立金を値上げしようとしても、管理組合はスムーズに徴収額を増やせないのが現実で、住民の同意が得られずトラブルに発展する可能性もあります。

滞納者の増加

滞納者の増加により、毎月の税金の徴収が思うように進まない原因のひとつとなっています。

国土交通省が2018年に実施した調査では、約25%の管理組合が「管理費や修繕積立金の滞納者がいる」と回答しました。

滞納者が増えていることは、マンション入居者の高齢化も関係しています。

2018年の全国調査では、マンション世帯主の49.2%が60代と70代で、2013年の調査と比べて70代の割合が増えていました。

物件の竣工年を見ると、1970年以前に建てられた物件では、入居者の約半数70歳を超えています。

築年数が古いほど修繕費がかさみますが、年金暮らしの高齢者にとっては、修繕積立金を増やすどころか、支払うことすら難しいのです。

設備に費用をかけすぎている

エレベーターや機械式駐車場など、維持管理費が高額になる設備を多く設置している場合、管理費で賄えないことがあります。

マンションにもよりますが、エレベーターの保守点検には年間50万円前後の費用がかかります。

しかし、事故防止や性能維持のためには必要不可欠な経費です。

結果、今まで貯めていた修繕積立金はエレベーターの保守点検費用に充てることになり、修繕積立金が貯まらなくなってしまいます。

また、どのような機械でも20年経てば買い替えを検討する時期なため、24年後の大規模修繕工事には数千万円の出費を覚悟しなければなりません。

入居者の収入の減少

管理費や修繕費が払えなくなるパターンとしては、定年後の収入減が挙げられます。

老後は仕事からの収入が減り、年金や貯金で生活する方が増えます。

住宅ローンとは違い、管理費や修繕費はマンションに住んでいる限り発生し続けるため、老後の家計を圧迫する要因になりやすいでしょう。

また、修繕費は築年数が経てば経つほど高くなり、値上がりに伴って支払いが難しくなるケースも少なくありません。

入居者の数が少ない

マンションで管理費が払えない理由のひとつに、入居者数が少なく、一人当たりの負担が大きくなることが挙げられます。

最初に、管理会社がマンション全体でどれくらいの管理費・修繕費が必要になるかを計算します。

次に、マンションの入居者数から1人当たりの管理費と修繕費を割り出します。

つまり、マンションの入居者数が多ければ多いほど、1戸あたりの管理費・修繕費は安くなる計算です。

半来に、マンションの戸数に比べ空室が多く入居者数が少なければ、1人当たりの管理費と修繕費の金額は大きくなります。

国土交通省の「マンション統計・データ-平成30年度マンション総合調査結果-」によると、管理費は多くのマンションで9,000円~12,000円、20戸以下のマンションでは13,000円程度です。

同様の傾向は、修繕費にも見られます。

メンテナンスの費用が大きい

設備が充実しているマンションほど維持管理に手間と費用がかかるため、管理費と修繕費は高くなります。

特に、機械式駐車場は狭い土地に多くの車を駐車できるので便利ですが、特に維持費がかかる設備です。

さらに、耐用年数が15年と短く、修繕積立金を上げる要因になります。

また、高級マンションやタワーマンションには、専用の豪華なラウンジやジム、庭園などが付いていることが多いです。

設備のメリットに目が行きがちですが、将来的に高い維持費を払い続けることが難しくなるリスクもあります。

段階増額積立方式による修繕金値上げ

修繕積立金の徴収方法には、「均等積立方式」と「段階増額積立方式」の2種類があります。

均等積立方式は、マンション建設時に将来の修繕費を見積もり、長期間にわたって一定額を徴収する方式です。

住民の負担増のリスクが少ないため、国が奨励している方式でもあります。

一方、段階増額積立方式は、新築時の修繕積立金を安く設定し、修繕が必要になったときに徴収額を段階的に引き上げていく方式です。

つまり、築年数が経つほど修繕積立金は高くなり、不払いのリスクも高くなります。

段階増額積立方式を取り入れているところは全体の約43%と言われており、築年数の浅いマンションほど取り入れている傾向にあります。

適切な修繕計画を立てていない

マンションの管理組合は、大規模修繕工事に備えて工事計画を策定することが推奨されます。

具体的には、大規模修繕が必要な場所と工事内容を特定し、そこから修繕積立金の徴収額を算出します。

しかし、「2018年マンション総合調査結果」によると、そもそも長期修繕計画を作成していない管理組合は7%でした。

さらに、修繕計画を策定していても、計画に基づく積立金額を設定していないところは46.4%にのぼります。

長期修繕計画を設定していないマンションでは、将来工事を行うための積立金が不足し、突然積立金を値上げしたり、一時金を徴収したりする事態に陥る恐れがあります。

修繕費不足の予防策

大規模修繕の費用を払えない場合、どのように対処すればよいのでしょうか。

いざという時に慌てないように、対処法を把握しておきましょう。

大規模修繕工事の費用目安を把握しておく

施工業者に見積もりを出してもらうことで、ある程度平均的な工事費用を確認できます。

しかし、工事計画が進まなければ見積もりを出してもらえない場合もあります。

そのため、管理会社に協力を仰ぎ、大規模修繕工事の内容や築年数などの条件が近い物件の資料を確認することがおすすめです。

大規模修繕の費用相場

一般的に、最初の大規模工事では1戸あたり100万円~150万円程度の工事費が必要と考えておくとよいでしょう。

なお、大規模修繕のたびに修繕箇所が増えることから、2回目の修繕費用は1回目よりも高くなり、3回目の修繕費用は2回目よりも高くなります。

工事回数総費用
1回目4,000~6,000万円
2回目6,000~8,000万 円万円
3回目10,000~15,000万円

管理費の相場

国土交通省が発表した「平成30年度マンション総合調査結果」では、マンションの管理費全体の平均は217円/㎡でした。

支払う管理費の額は、住戸の広さによって決まります。

ルーフバルコニーなど特別な共用設備がない限り、同じ広さの部屋であれば何階に住んでも管理費は変わりません。

広めの70㎡の平均管理費は月額15,190円、80㎡の平均管理費は月額17,360円です。

修繕積立金の相場

同じく国土交通省の調査によると、2018年(平成30年)の修繕積立金平均額は月に11,243円です。

しかし、修繕積立金が今後も同額とは言い切れません。

修繕の回数や頻度は時間の経過とともに徐々に増えていき、長期修繕計画では計画的・段階的に修繕費を増やしていくことが多いです。

ただし、管理会社ごとに考え方は異なるため、長期修繕計画の内容や将来の修繕積立金の見込みは必ず確認しておきましょう。

修繕積立金の徴収金額を見直す

マンションの購入を検討している方全員が、修繕積立金のことを深く理解しているわけではありません。

そのため、売り手は販売手法として修繕積立金の額を低く設定することがあります。

結果、修繕積立金が不足したり、修繕積立金の値上げに反対したりなどの問題が生じています。

国土交通省が「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」を公表しており、少なくともガイドラインの金額を下回る金額に設定しなければなりません。

また、築年数が経過するほど修繕費が高額になることを考慮し、中古マンションの場合はガイドライン以上の金額にする必要があります。

節約できる出費があるかを見直す

定期的なメンテナンスで、削減できる費用を考えることが大切です。

例えば、共用スペースの電気代や清掃・管理会社への委託費など、現在かかっている経費を節約できるのであれば、コスト削減を検討する価値があるかもしれません。

また、大規模修繕工事の施工業者を選定する際、管理会社に任せるのではなく、管理組合が探すという方法もあります。

管理会社を通して施工業者を選べば手間が省け、管理組合の負担も減りますが、仲介手数料がかかる場合が多いです。

自身で探すことで、複数の施工業者から見積もりを取り、比較できるでしょう。

マンション大規模修繕費用のまとめ

マンション大規模修繕の費用が払えないときの対処法を解説しました。

まとめると、

  • 修繕計画に基づいた積立金額を設定をできていないケースがある
  • マンションの修繕費が払えないときは積立金の値上げや一時金を徴収する
  • 修繕が必要な場所や工事内容を確認し、逆算して修繕積立金の額を決定する

将来の大規模修繕工事に備えて、マンション管理組合で修繕計画を立てましょう。

関連記事
公式サイト