マンション大規模修繕工事は、分譲・賃貸問わず12~15年ごとに実施され、都度工事範囲が拡大します。
マンションの修繕工事は、共用部分の経年劣化や不具合を補修や改修することで、資産価値の維持、住環境や生活水準を高めます。
しかし、騒音によるトラブルが問題になることも多いです。
施工業者は防音シートの使用や騒音の少ない設備を選ぶなどの対策を講じますが、「うるさい」という苦情や騒音問題はなくなりません。
今回は、マンションの大規模修繕で音が発生する理由と、「うるさい」という苦情への対策について解説します。
目次
マンション大規模修繕で音がうるさい工事の種類
音に対する敏感さは、人によって違います。
ある程度の音であれば平気な方もいれば、敏感に反応して苦情につながる方もいます。
最初に、どのような工事で騒音が発生しやすいのかを解説します。
足場の設置・撤去
マンションの修繕工事では、外壁を補修するために仮設足場が設置されますが、足場は鉄骨でできているため、組み立てや解体の際に大きな金属音がします。
また、足場を組み立てる際には、足場の変形や倒壊を予防するために「壁つなぎ」を設置しなければなりません。
壁つなぎは穴あけドリルで穴を開けて設置をしますが、設置時に大きな穴あけ音が発生します。
また、足場の組み立て時、資材を下から上に渡すため、工事関係者の大きな声が聞こえることがあります。
外壁改修工事
外壁タイルの工事では、ひび割れたタイルを電動カッターで剥がす際に大きな音がします。
また、タイルの剝がれを予防するために接着剤を注入する穴を開ける際に、ドリルの音が響くことがあります。
加えて、タイルを張り替える前には電動工具を使って外壁の下地コンクリートを補修しなければならず、サンダーやドリルの作動音に加え、コンクリートを削る音も大きくなる。
高圧洗浄中作業
大規模修繕の場合、外壁や屋根の下地を高圧洗浄機で洗浄します。
仕上がりを左右する大切な作業ですが、高圧洗浄機を使うと、エンジンとモーターで高圧の水が噴射されるため、エンジン音と水の出る音がします。
遮音性に優れた機種もありますが、エンジン音は抑えられません。
掃除機をかける
工事現場で出る細かいホコリや資材の塵を掃除する必要があり、防水層や塗膜をきれいに仕上げるためには必要な作業です。
しかし、作業現場でゴミを捨てる際の掃除機も「うるさい」という苦情の原因になります。
塗装の撤去工事
塗装の改修は、騒音が出る作業のひとつです。
マンションの敷地内の道路、駐車場などを改修する場合、既存アスファルトを剥がしますが、ドリルやカッターの音が響きます。
また、工事範囲が広ければ広いほど、騒音の発生時間も長くなり、「うるさい」と感じる方も増えるでしょう。
その他の騒音
マンションの修繕工事では、多くの作業員が作業するため、声や足音が聞こえてきます。
現場の入り口にはガードマンが常駐し、資材を運ぶ車両やクレーン車の安全を確保するために大声で指示を出すこともあります。
また、作業現場に近い部屋では、テレビの音が聞こえにくかったり、騒音にさらされ続けることでストレスが増すケースも少なくありません。
騒音が続くと、マンション住民だけではなく近隣住民からも「うるさい」と苦情が出る可能性が高いです。
うるさいマンション大規模修繕のトラブル予防法と対処法
マンションの修繕には、入居者の理解と協力が不可欠です。
工事騒音をゼロにはできませんが、大きなトラブルを防ぐために、オーナーはどのような対策や準備ができるのでしょうか。
入居前や着工前にすべき対策を紹介します。
想定できるトラブルは施工業者に事前相談
時間制限や騒音抑制機器の使用など、騒音対策について施工業者と綿密に相談することが大切です。
さらに、振動の影響を最小限に抑える工夫を業者と一緒に考えるのもよいでしょう。
工事の進捗状況に応じて定期的に打ち合わせを行うことで、問題の早期発見・早期対処が可能になります。
想定外のトラブルにも迅速に対応できる体制を構築できることもメリットです。
騒音トラブル発生時のスピーディーな対応だけではなく、トラブルを予防するための計画を立てて実行することは、入居者と施工業者との信頼関係を深め、満足度が高い仕上がりにつながります。
工事内容・実施日を事前に周囲に伝える
マンションの大規模修繕工事は、必ず騒音が発生します。
大規模修繕工事は安心で快適なな暮らしのために必要なものですが、入居者や近隣の迷惑にならないよう、できるだけ騒音を抑える対策が必要です。
そのため、入居者や近隣住民に修繕工事を行うことを事前に知らせることが大切です。
マンションの入り口やエレベーターに大規模修繕工事の期間や工事内容の案内を掲示する、ポストに投函するなどの対策をしましょう。
居住者から許可を得た時間帯に工事を行う
マンションの外壁工事は、入居者の生活に大きな影響を与える可能性が高いため、決められた時間内に工事を行うことが大切です。
スケジュール通りの工事実施が信頼関係を築き、工事を円滑に進めることにつながるためです。
まずは、許可が必要な期間を確認しましょう。
昼間の工事時間帯:できるだけ多くの住民が外出する時間帯を中心に設定
夜間の制限:夜間の騒音に配慮する必要があるため、工事禁止時間帯を設定
休日の扱い:土日祝日など、入居者が在宅している可能性のある日についても別の配慮が必要
工事時間の設定にあたっては、入居者の要望やライフスタイルを参考にするための話し合いが大切です。
了解を得たうえで、工事時間を明確に決定します。
次に、承認された時間帯を厳守し、遅れが生じないように進めましょう。
特段の事情で作業時間を変える必要が生じた場合は、速やかに入居者に通知し、理解をしてもらいます。
さらに、工事の進捗状況を定期的に報告して透明性を維持し、苦情に迅速に対応できる体制を整えることも重要です。
吸音材を使用する
騒音の低減には吸音材の使用が効果的です。
吸音材は音を吸収して反響を抑え、周囲への騒音の広がりを抑えます。
防音シートを使用した工事現場の騒音レベルが平均5デシベル下がったというデータもあり、「うるさい」と感じることが多い大規模修繕では、吸音材を積極的に取り入れることが重要です。
窓を閉めて作業を行う
作業中に窓を閉めることは、騒音が室内に侵入するのを防ぐのに効果的です。
窓ガラスは音の伝わりを防ぐバリアとなり、特に二重ガラスの窓が効果的といわれています。
窓を閉めて作業した場合、室内の騒音レベルは外より約10デシベル下がったというデータがあり、騒音が発生する工事を行う場合はできるだけ窓を閉めることが望ましいでしょう。
騒音対策を講じることで、大規模修繕工事における騒音トラブルを軽減し、入居者の快適な暮らしを守ることができます。
大規模修繕工事はマンションの価値を維持するために必要不可欠ですが、入居者の生活への配慮も同じくらい大切です。
適切な対応とコミュニケーションで、快適な生活をサポートしていきましょう。
騒音に関する規則
大規模修繕工事による大きな音は、騒音規制法により規制されています。
ここでは、騒音規制法の内容と規制内容、損害賠償発生のリスクを解説します。
騒音規制法とは
騒音規制法の制定は、騒音が際限なく発生することを防止し、適切なレベルまで低減することによって、日常生活を守ることが目的です。
騒音規制法では、著しい騒音を発生する車両や工具を使用する建設工事を「特定建設作業」として規制しています。
特定建設作業を含む建設工事を行う事業者は、市町村長などの地方公共団体の長に届け出なければなりません。
規制されている作業時間・騒音レベル
建設工事中の騒音をどの程度規制するかは、各都道府県の自治体の判断に委ねられています。
騒音規制法第27条では、法律で定められた規制のほかに、各自治体が必要な規制を定めることを認めています。
例えば、東京都では一般住宅地の第一種区域規制は以下のようになっています。
工事の時間帯(作業時間) | 7:00~19:00までのうち10時間以内 |
連続作業日数 | 連続6日まで |
日曜・祝祭日 | 作業禁止 |
騒音の上限 | 85デシベル |
なお、各機器の使用許可については細かい基準があります。
例えば、エアープレスを使用する作業の規定は、「電動機以外の原動機を使用する作業で、さく岩機として使用する場合を除き、原動機の定格出力が15W以上のもの」です。
各都道府県の自治体の規定を必ず事前に調べておきましょう。
騒音に対する損害賠償
騒音規制があっても、過去には耐えられない騒音が続けば損害賠償が認められたケースもあります。
過去の判例では、工事の差し止めと騒音による損害賠償10万円の請求が認められています。
しかし、損害賠償の請求の前に施工業者や役所に相談することが一般的です。
修繕工事中に騒音や振動の問題が発生した場合、入居者は市役所にある窓口に相談することが可能です。
例えば、東京都では各区役所や市役所に「公害苦情相談窓口」が設置されており、必要に応じて事業者への改善勧告や命令を出しています。
突然「大規模修繕の音がうるさい」と訴訟を起こすことはないといえますが、トラブルを予防するためにも、うるさい工事の音や振動には注意を払うことが大切です。
まとめ
マンション大規模修繕の騒音について解説しました。
まとめると、
- 足場設置や洗浄時にうるさい音が鳴る
- 騒音規制法により作業時間は限られている
- 事前の対策でうるさい音に対する苦情を減らす
マンションの修繕工事を行う際には、騒音対策を徹底し、工事の情報を常に掲示し、工事中も住民が安心して生活できるようアフターケアに配慮している業者を選ぶことが重要です。
マンションの建て替えには数十年かかります。
建て替えまでに何度も大規模修繕が必要になるため、長期的なケアに配慮した信頼できる業者に依頼することが、建物を安全に長く保つことにつながるでしょう。