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マンション大規模修繕の工事内容は?工事別の費用と全体の流れを解説

マンションの管理、運営をする方や、居住している方は、大規模修繕について事前に知っておかなければなりません。

新築マンションであっても、建物や設備は経年劣化します。

そこで、なぜ大規模修繕が必要なのか、費用や流れなど、工事について知っておくべき基本情報を紹介します。

マンションの大規模修繕の必要性

最初に、なぜマンションに大規模修繕が必要なのかを紹介します。

大規模修繕工事が必要な理由は大きく分けて2つあるため、それぞれ詳しくチェックしておきましょう。

設備や建物は経年劣化する

マンションの大規模修繕は、建物や設備の経年劣化による不具合を直す目的で行われます。

購入時に新築であっても、年月が経てば徐々に様々な部分が汚れたり傷んだりするのは避けられません。

例えば、屋根や外壁は紫外線や風雨にさらされ、乾燥によるタイルが剝がれる、ひび割れるなどのトラブルが起こります。

劣化した部分を定期的にメンテナンスすることが大規模修繕の主な目的です。

なお、専有部分の玄関ドアの内側、給排水・ガス給湯配管の専有部分(枝管)は、所有者が修繕する必要があります。

資産価値を維持するため

大規模修繕は資産価値を維持するためにも必要な工事です。

大規模修繕を行わずに経年劣化を放置しておくと、漏水や設備の不具合によって日常生活に悪影響を出したり、外観やイメージが悪化したりする恐れがあります。

故障や設備トラブルだけではなく、付属設備の仕様が陳腐化して生活が不便になることもあるでしょう。

住民が暮らしにくくなると、マンションの価値が下がり、売却や賃貸に出す際に、家賃や値段を下げることになります。

資産を維持し、価格に影響を及ぼさないようにするためにも、大規模修繕は非常に重要です。

なお、マンションを売買する際には、大規模修繕を行っているかどうかや工事内容、修繕履歴、今後の予定など、重要事項を購入者に伝えることが義務づけられています。

マンションの大規模修繕の費用相場

大規模修繕にかかる費用は、マンションの戸数や造りによって異なります。

一般的な目安として、国土交通省が公表している大規模修繕の費用目安を確認しておきましょう。

一戸あたりの費用相場

国土交通省が平成29年度に実施した調査結果では、マンションの大規模修繕にかかる1戸あたりの費用は以下のとおりです。

1位:75万円~100万円(30.6%)

2位:100万円~125万円(24.7%)

3位:50万円~75万円」(13.8%)

上記の調査結果から、マンションの大規模修繕には1戸あたり100万円程度かかるケースが多いことがわかりました。

例えば、戸数が100戸のマンションで大規模修繕を実施した場合,費用は約1億円と非常に多額の資金が必要であることを示しています。

マンションの大規模修繕には多額の費用がかかるため、区分所有者は毎月一定額の修繕積立金を積み立てています。

2018年の調査によると、修繕積立金の平均額は11,243円でした。

しかし、11,243円という平均額は今後増加する可能性があります。

理由は、2013年度以前に実施された調査と比較するとすでに増加傾向にあり、34.8%のマンションが「計画に対して積立額が不足している」と回答しているためです。

マンション大規模修繕の工事内容

大規模修繕は、マンションのどこで、どのような修繕工事が行われるのかを紹介します。

建物外部と建物内部で行う修繕工事の内容を把握し、工事の全体像をイメージしましょう。

躯体の補修

躯体とは、柱、壁、梁、床など、建物の構造を支える部分を指します。

マンションでは、主に外壁で問題が発生することが多いです。

外壁の剥離から雨水が侵入し、錆が発生したりコンクリートが露出したりします。

躯体補修の際には、柱に使用されているコンクリートの浮き、ひび割れなどを補修します。

屋上防水

雨にさらされる屋上は、太陽光の影響も受けて劣化しやすい場所です。

一般的に、屋上には防水加工が施されていますが、経年劣化により防水性能は徐々に弱くなります。

防水性能が弱まると、雨が漏れやすくなるだけではなく、浸水して建物の構造に影響を及ぼす危険性も高いです。

大規模修繕のほか、定期的に防水工事を実施し、防水層を維持する必要があります。

床・廊下の防水

建物内部の防水工事は、主に廊下、階段、バルコニーなどで行われます。

長尺シートは耐久性に優れ、防水性能を高める効果もあるため、近年では長尺塩ビシートの施工が多いです。

長尺シートには滑り止め効果があり、歩行者の滑りや転倒を防ぎ、安全性を高める効果が期待できます。

外壁タイルの補修・張替え

外壁タイルは、紫外線、雨風、外気などの影響により劣化していきます。

外壁タイルの劣化症状には浮きや剥がれなどがあり、これらは下地のコンクリートとの接着性が弱くなることで起こります。

タイルの劣化を放置しておくと、剥離や落下が起こる恐れがあります。

タイルが落下すると通行人に危険が及ぶこともあるため注意が必要です。

さらに、タイルが劣化すると雨水が浸入し、外壁だけではなく、建物全体の耐久性が低下する可能性もあります。

外壁タイルの補修・交換は、建物の耐久性を高め、安全性を確保するために必要な工事です。

外壁塗装

外壁の塗装工事は景観を守る大切な工程です。

適切な塗装には、コンクリートの腐食を防ぎ、躯体の劣化を遅らせる目的があります。

防水工事としても行われる外壁塗装は、大規模修繕工事には欠かせません。

塗料の種類は、防水性、遮熱性、防カビ性などに優れたものなど、目的に応じて選ぶことができます。

施工業者に一任するのではなく、どのような仕上がりにしたいかを事前に相談しておきましょう。

マンションの共用鉄部の塗装

マンションの共用鉄部とは、階段、エレベーター、鉄骨階段のことです。

経年劣化で塗装が剥がれ、サビが発生しやすいため、定期的に塗装することで美観を保ち、鉄部の劣化を防ぐことができます。

外構(エクステリア)

エクステリアとは、駐車場や駐輪場、照明、フェンスなど、マンションの周囲に設置されるものです。

鉄部の錆、剝がれ、アスファルト舗装の剥がれを補修する工事も含まれます。

居住者の要望によっては、プライバシーを確保するための防犯工事やフェンスを設置することもあります。

また、入居者の高齢化に伴い、マンション入り口をバリアフリー化することも多いです。

電気設備の交換

電気設備は、使用頻度の高い設備です。

大規模修繕の際には、建物に電気を引き込む共用部の引込開閉盤の補修・交換を行います。

また、電気設備だけではなく、LEDなどの照明器具の交換のほか、電気容量が不足しているのであれば主電源の改修を検討することもあります。

マンション大規模修繕工事の流れ

マンションに合った大規模修繕工事を実施するためには、現状調査の際に専門的な知識を持った方を巻き込み、アドバイスを取り入れながら計画を立てましょう。

その後、施工業者を選定し、居住者への工事説明会を行い、工事に着手します。

仮設工事

工事が始まると、最初に仮設工事が行われます。

仮設工事とは、足場や現場事務所などの仮設設備を設置することで、工事が終われば撤去されます。

足場は重量物や細かい作業を行う職人の安定した床となるため、重要な工事です。

また、足場を囲むメッシュシートには、塗料の飛散や落下物を防ぐ役割があります。

いずれも工事の安全を確保するために欠かせない重要な設備です。

下地補修工事

下地補修工事は、壁や天井などのコンクリート構造物に発生したひび割れを補修する工事です。

下地補修の出来栄えは、後の工程を左右します。

例えば、塗装をきれいに仕上げても、下地の状態が悪ければ、すぐに劣化症状がぶり返すこともあります。

つまり、建物の耐久性や寿命を左右する重要な工程です。

タイル補修工事

年月が経つと、しっかりと接着されたタイルでも、下地から浮き上がったり、ひび割れが生じたりします。

劣化を放置しておくと、ひび割れから浸入した雨水がコンクリートの劣化を進め、剥がれたタイルが剥がれ落ちてしまうこともあるでしょう。

また、ひび割れから侵入した雨水でコンクリートが傷み、剥がれたタイルやコンクリートが落下して通行人に当たる可能性もあり危険です。

大規模修繕工事では、作業員が足場に登り、打診や目視でタイル全面の状態を確認・修繕します。

タイルの状態を確認することで、耐久性や防水性を高める工事を選択でき、安全性も確保されます。

さらに、見た目もきれいで清潔感がある印象のマンションになり、資産価値を高めることにもつながるでしょう。

シーリング工事

外壁の目地やサッシ廻りなどに多く使用されているシーリング材は、経年劣化により硬化し、ひび割れを起こしやすくなります。

わずかな隙間からも雨水やホコリなどの汚れが侵入します。

見た目に異常がなくても、サッシと壁の隙間や、外壁の目地の込まない隙間から雨漏りすることも少なくありません。

また、工事には足場が必要なため、大規模修繕工事と同時に交換することが一般的です。

新しいシーリング材にすることで、躯体や建物内部への雨水の浸入を防ぐだけではなく、建物の気密性や断熱性を高められます。

外壁塗装工事

塗装工事は、美観の維持だけではなく、雨水や汚れからマンションを保護する役割もあります。

塗装が劣化して下地との密着性が低下すると塗装が剥がれ、侵入した雨水がコンクリートを傷めてしまうため、塗装工事が必要です。

大規模な補修工事では、最初に下地と塗料の密着性を確認します。

密着性に問題がなければ上から再度塗りますが、密着性が弱い場合は、現在の塗料を剥がして新しい塗料を塗り直します。

鉄部塗装工事

外階段やドア、手すりなどに使われるスチールは、年数が経つと錆が発生して外観や耐久性に問題が出てきます。

錆が発生している場合は、ワイヤーブラシやサンドペーパーで最初に錆を除去しなければなりません。

錆を落としてから、塗料を何度も塗り重ねて保護することで、見た目も耐久性も向上します。

防水工事

コンクリートは耐久性が高いものの、経年劣化で生じたひび割れから内部に水が浸入すると、躯体を傷める原因になります。

廊下、屋上やバルコニーなど、雨水や汚れからコンクリートを守るために防水工事を行うことが重要です。

防水工事には、塗膜防水やシート防水など様々な工法があります。

防水層に破れ、膨れなどの症状が表れている場合、早めに補修をしなければなりません。

その他工事

マンション大規模修繕では、上記以外にも細かい補修工事を行う場合があります。

例えば、給排水管の改修工事、エントランスのバリアフリーや自動ドアやオートロック設置工事、玄関ドアやサッシの交換などです。

近年では、段差の解消や、手すりの設置による玄関のバリアフリー化などが人気です。

また、玄関ドアやサッシの交換は、見た目が良くなるだけではなく、玄関ドアが軽くなる、エアコンの効きが良くなるなどのメリットを直接体感できます。

大規模修繕工事では、劣化箇所の補修だけではなく、機能性の向上や時代に合った設備を取り入れることで、快適さを向上させることが可能です。

なお、給排水設備は長年使用して劣化すると水漏れの原因になるため、築30年以上の建物は1度点検をしましょう。

その他、電気設備、ガス設備、防災設備など、設備工事には多くの項目があります。

どの程度の設備が必要になるのかを事前に把握しておくことが大切です。

マンションの大規模修繕開始前後の準備

マンションの大規模修繕開始前後には、管理組合が準備をしなければならないことがあります。

大規模修繕開始前後の期間や、管理組合の対応について紹介します。

着工までにかかる期間

基本的に、大規模修繕の準備から実際の工事実施までは約2年かかります。

そのため、大規模修繕は早めに検討を始めましょう。

着工までに行うこと

準備期間中は、管理組合が提携する会社(設計事務所、管理会社、施工業者)の決定、見積もりを検討、理事会での業者の決議、工事契約の締結、工事説明会などを行います。

大規模修繕の準備は、理事会で大規模修繕の実施を検討し、修繕委員会を設置するところから開始です。

施工業者に依頼する方法は、業者と相談しながら工事監理を行う「設計監理方式」と、設計から工事までを管理会社に依頼する「責任施工方式」があります。

大規模修繕の工事を施工業者に委託する「責任施工方式」にするか、協力業者を選定するかなど、管理組合内の決議が得られないと工事は進まず、2年以上かかることもあります。

着工後にかかる期間

着工から完成までの期間は、マンションの規模によって異なります。

30戸で3~4ヶ月、50戸で4ヶ月、100戸で5~5ヶ月半が目安です。

大規模マンションや集合住宅、高層マンションでは工期だけで1年以上かかります。 

工期が予定より長引いたり、補修箇所の劣化が当初の診断より進行していた場合など、追加費用が発生する可能性もあります。

管理組合の対応

竣工後に現場で欠陥が発見されることも少なくありません。

大規模修繕工事のトラブルを未然に防ぐためには、管理組合が積極的に動くことが重要です。

工事期間中、管理組合は施工業者や工事管理会社にすべてを任せるのではなく、毎月1回定例会を開催し、工事の進捗状況や修繕状況の報告を受けましょう。

定例会では、工事状況の詳細や、追加費用が発生するかどうかなど、コストの変化も確認します。

マンション大規模修繕工事内容のまとめ

この記事では、マンション大規模修繕の内容について解説しました。

まとめると、

  • 資産価値を守るためにも工事が必要
  • 工事内容は躯体から外壁まで建物全体にわたる
  • 管理会社、施工業者、工事監理会社にすべてを任せない
  • 管理組合が定期的に進捗状況を確認する

大規模修繕の業者選定に関しては、マンションの区分所有者に議決権があるため、居住者が大規模修繕の当事者意識を高めることも大切です。

大切なマンションの快適性や安全性を高めるためにも、大規模修繕の工事内容を十分に把握しましょう。

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