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区分所有法に基づいた大規模修繕工事の決議方法を解説

マンションの大修繕を行う際の管理組合の総会決議の方法について知りたい

マンション管理組合の理事をされている方の中には、このような悩みをお持ちの方もいらっしゃると思います。

分譲マンションの大規模修繕工事は、区分所有法に基づいて行われるため、管理組合総会において区分所有者の同意を取得する必要があります。

大規模修繕の内容に応じて、異なる2つの決議方法が存在するため、慎重に進めることが必要です。

マンションの大規模修繕に必要な決議方法と同意の割合について説明します。

マンション管理組合の「総会」とは

マンションの大規模修繕工事の実施は総会で決まります。

総会とは、マンション管理組合が開き、マンションの区分所有者が集ってマンションの運営方針などの重要な事柄の意思決定を下す会のことです。

通常、管理組合が組織されるのは分譲マンションです。

分譲マンションは多くの区分所有者の共有物です。そのため、下記のような事柄は区分所有者の同意が必要になります。

  • 規約の見直し
  • 決算や事業報告
  • 建物・敷地の管理に関しての事柄の決定
  • 大規模修繕工事の実施

マンション総会の開催は少なくとも年に1回と区分所有法で定められています。

マンション総会の種類|通常総会と臨時総会

マンション管理組合の総会には、「通常総会」と「臨時総会」の2つがあります。

以下に管理組合の総会に関する詳細を説明します。

通常総会

通常総会は、区分所有法に基づいて開催される、共同所有物の管理や運営に関する会合です。

毎年1回会計年度開始の2ヶ月以内に開催しなければなりません。

通常総会の議題は以下のとおりです。

議題内容
建物の管理に関する事項の報告と承認管理組合や管理会社から建物や施設の状況に関する報告が提出され、区分所有者からの承認を受けます
報告内容には、建物の維持、修繕、清掃、保険などに関する事項が含まれています
事業報告と収支決算報告管理組合または管理会社は、前年度の事業報告と財務状況に関する収支決算報告を区分所有者に提出します
監査報告外部の監査機関からの報告書が提出され、監査結果が所有者に説明されます監査結果は会計処理や資金の適切な管理に使われます
次年度の事業計画と予算次の会計年度において実施すべき事業計画と予算案を議論します
区分所有者の同意で承認になります
修繕工事の提案建物や施設の修繕や改修についての提案が行われ、所有者からの賛成または反対が決定されます

マンションの大規模修繕に関する議題は、この通常総会で提案されます。

臨時総会

臨時総会は通常総会とは異なり、緊急または特定の重要事項が発生した場合に開催されます。

以下のような理由で、臨時総会は招集されます。

招集目的詳細
緊急の修繕工事建物や施設に予期せぬ損傷や問題が発生し、急ぎの修繕が必要な場合
予算超過当初の予算を超える支出が生じた場合
新たな予算の承認や財政状況についての議論が行われることがあります
法的問題法的紛争や契約違反などの法的問題が発生した場合
法的問題の対処方法について議論します
他の緊急事態その他の緊急事態や運営上の重要な問題が発生した場合

臨時総会は理事会が決議を経て開催が必要だと認めた場合に開催する会で、いつでも開催することできます。

理事会以外の区分所有者でも、一定の条件を満たせば臨時総会を開くことができます。

総会での決議方法|特別決議と普通決議

総会での決議方法には、「普通決議」と「特別決議」という2つのタイプがあり、これらの決議方法は議案の内容に応じて使い分けられます。

以下に、「普通決議」と「特別決議」それぞれの決議方法を詳細に解説します。

特別決議

特別決議は、通常の総会決議(普通決議)よりも条件が厳しい決議形式です。

通常、特別決議は以下のような事項に関連して必要とされます。

  • 管理規約の改定(変更・制定・廃止)
  • 管理組合法人の設立または解散
  • 共有部分の変更(階段部分をエレベーターに改造する工事などが該当)
  • 大規模修繕工事
  • 建物の建て替え
  • 専有部分の使用禁止の請求(専有部分で共同の利益に反する行為をした区分所有者に対して)
  • 区分所有権の競売の請求
  • 義務違反の占有者に対する契約解除と引き渡し請求

特別決議における通過の条件は以下のとおりです。

  • 区分所有者総数の4分の3以上の承認
    特別決議の承認には、管理組合の区分所有者の総数のうち、4分の3以上の賛成が必要。これは過半数ではなく、より多くの区分所有者の支持が必要。
  • 議決権総数の4分の3以上の承認
    特別決議を通過させるためには、管理組合内の議決権の総数のうち、4分の3以上の賛成が必要。議決権は通常、区分所有者の持分に応じて割り当てられる。

上記2つの条件を満たしていなければ承認されません。

普通決議

普通決議は、管理組合の日常的な運営や共同所有物に関連する通常の事項に関して使用される決議形式です。

以下は、普通決議が適用される一般的な事項の例です。

  • 前年度の管理組合の活動報告
  • 前年度の会計報告(管理費会計・修繕積立金会計などの収支予算)
  • 収支予算案と事業計画案の提案
  • 使用細則の改定(制定・変更・廃止)
  • 管理費・修繕積立金の変更の提案
  • 役員の選任・解任

普通決議における通過の条件は以下のとおりです。

  • 区分所有者の1/2以上の承認
    普通決議は、管理組合の区分所有者の総数のうち、1/2以上の賛成が必要。つまり、過半数の支持が必要。
  • 最低限の出席数
    普通決議の場合、一定の出席者数が規定されている。区分所有者の1/2以上が出席しなければならない。

共有部分の変更に関する決議方法

共有部分の形状や機能を著しく修繕・改修する場合は特別決議、軽微な修繕・改修であれば普通決議で提案します。

なぜ工事の程度・範囲によって決議が異なってくるのでしょう?

共有部分の決議方法は区分所有法で定められています。

現在の区分所有法の第17条では次のようなことが記されています。

共用部分の変更

第十七条 共用部分の変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議で決する。ただし、この区分所有者の定数は、規約でその過半数まで減ずることができる。

建物の区分所有等に関する法律

この「その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。」の部分が重要です。

つまりこの部分は、大規模修繕で行う共有部分の工事が、現状の形を大きく変えたり、機能を付加する工事ではなく、補修・修繕を目的とした工事であれば、「普通決議」で提案を通すことができる、ということを意味しています。

ただし、普通決議で通す際の注意点は2つあります。

1つは承認の条件を満たす必要があることです。前述で挙げた2つの条件を満たさなければ、大規模修繕の実施は叶いません。

2つ目は補修・修繕を目的とした工事だったとしても、管理規約の内容によっては「普通議決」で通せない場合があります。特別決議と普通決議のどちらで決議するかは、管理規約の内容を確認する必要があります。

また、「著しい変更」という言葉は抽象的なため、工事の程度がどちらの決議に該当するのか判断に迷う方もいるでしょう。

判断に迷った場合は専門家に相談するのがおすすめです。

特別決議が必要な修繕工事

建物のグレードアップを目的とした大規模修繕であれば、特別議決で提案を通す必要があります。

グレードアップ工事とは、建物の見た目を大きく変えたり、新たな機能を付加させる工事のことを指します。

特別議決が必要となる具体的な例は以下のとおりです。

修繕・改修工事の種類修繕・改修工事の内容
バリアフリー化工事・階段部分のリニューアル
・エレベーターの設置 など
その他の工事・集会室、駐車場、駐輪場の増改築工事
・大規模な工事
・著しい改修が必要な工事

上記とは反対に、次のような内容の修繕・改修工事は普通決議で承認できるとされています。

修繕・改修工事の種類修繕・改修工事の内容
バリアフリー化工事・建物の基本構造を取り壊すなどの改変を伴わない工事
スロープの併設やスロープの取り付けなどが該当する
耐震修繕工事・耐震性を強化する工事
・壁や筋交いなどに耐震部材を設置するなど、小さな構造躯体に対する加工工事
防犯化工事・防犯カメラや防犯灯の設置
・共用部分の加工の程度が小さい工事オートロック設備を設置する際に配線を空き管路内に通したり、建物の外周に敷設したりする工事などが該当する
IT化工事・光ファイバー・ケーブルの敷設工事などで、既存のパイプスペースを利用するなど共用部分の形状に変更を加えない場合の工事
・新たに光ファイバー・ケーブルを通す場合、外壁や耐力壁などの形状に変更が伴う工事であっても、建物の躯体部分に大きな加工を要するものではなく、外観を見苦しくない状態に復元する工事
計画修繕工事・鉄部塗装工事
・外壁補修工事
・屋上等防水工事
・給水管更生
・更新工事
・照明設備の更新工事防火設備の更新工事
・エレベーター設備の更新工事 など
その他の工事・窓枠、窓ガラス、玄関扉などの交換
・不要となったダストボックスや高置水槽の撤去

端的に言えば、建物の躯体部分に手を加えて建物をグレードアップさせる工事なら特別決議、新築時の状態に戻す工事なら普通決議になります。

議決権の付与数

議決権の付与については、区分所有法の第14条で定められています。

共用部分の持分の割合

第十四条 各共有者の持分は、その有する専有部分の床面積の割合による。

2 前項の場合において、一部共用部分(附属の建物であるものを除く。)で床面積を有するものがあるときは、その一部共用部分の床面積は、これを共用すべき各区分所有者の専有部分の床面積の割合により配分して、それぞれその区分所有者の専有部分の床面積に算入するものとする。

3 前二項の床面積は、壁その他の区画の内側線で囲まれた部分の水平投影面積による。

4 前三項の規定は、規約で別段の定めをすることを妨げない。

建物の区分所有等に関する法律

区分所有法では「専有部分の床面積で議決権を定める」とされていますが、床面積を元にした議決権の付与は複雑な計算が必要となるため、この方式はほとんどのマンションで採用されていません。

上記方式の代わりに、所有している戸数に応じて議決権を付与する方法が多くのマンションで採用されているようです。

例えば、1つのマンションに1戸の住戸を所有している者には議決権を1付与し、3戸の所有権を持つ区分所有者の場合には議決権を3付与するという方式です。

修繕委員会を結成するメリット

マンションに大規模修繕工事を実施する場合、修繕委員会を結成するのがおすすめです。

修繕委員会とは、理事会の代わりに大規模修繕プロジェクトを進める組織のことです。

修繕委員会はマンションの居住者で構成され、主な役割は、大規模修繕に関する打ち合わせや施工会社の選定、居住者への対応です。

修繕委員会の結成は必須ではありませんが、結成することで次のようなメリットを得ることができます。

  • 管理組合の理事会や監事の負担が分散され、より効率的に大規模修繕工事を進めることができる
  • 任期を定める必要がない修繕委員会が大規模修繕の窓口になることで、任期がある管理組合の理事会や監事よりも、綿密で一貫性のある長期修繕計画を作成することができる
  • 住民自身から成り立っているため、住民の要望が反映されやすい

修繕委員会の立ち上げは上記のようなメリットがあるので、大規模修繕に取り組む際は修繕委員会の結成を検討してみましょう。

大規模修繕を行う際の注意点

大規模修繕を行う際の注意点は、居住者からの理解を得てから工事に踏み切ることです。

大規模修繕は、共有部分の維持と価値を向上させるために不可欠な工事ですが、住民がその重要性を理解していなければ、工事の成功は難しいです。

また、大規模修繕は計画書や予算案などを通常総会で通過しなければ、実施は叶いません。通常総会の特別議決や普通議決で承認されるには、区分所有者、つまり居住者の賛同が必要不可欠です。

居住者が大規模修繕の意義や重要性を理解すれば、総会はスムーズに進み、争点や疑念が解消される可能性があります。

そのためには、次のような取り組みが効果的だとされています。

  • 大規模修繕や居住環境に関するアンケート調査
  • 説明会の開催
  • 資料やパンフレットの作成・配布
  • オープンフォーラムを設ける
  • 個別相談の窓口を設ける

大規模修繕を成功させるポイントは「居住者の理解と協力」です。

居住者の中には、なぜ大規模修繕が必要なのか、どのような工事を行うのか、など疑問や不満を抱く人が少なからずいます。

反対を押し切って大規模修繕のプロジェクトを進めてしまえば、トラブルに発展する可能性が大いにあります。

トラブルを回避するためにも、大規模修繕に対する居住者の理解と協力を得る取り組みが重要です。

まとめ

分譲マンションにおける大規模修繕の実施には、マンション管理組合の総会での承認が必要です。決議方法には「普通決議」と「特別決議」の2つがあり、どちらの方法を採用するかは議案の内容によります。

普通決議では、区分所有者の1/2以上の賛成が必要です。一方、特別決議では「区分所有者総数の4分の3以上」と「議決権総数の4分の3以上」の賛成が必要です。特に建物の建て替えについての決議を得る場合は、「区分所有者総数の5分の4以上」と「議決権総数の5分の4以上」の賛成が必要です。

大規模修繕プロジェクトは通常数年にわたり、計画から工事完了までのプロセスが含まれます。したがって、プロジェクトをスムーズに進めるためには、修繕委員会を組織し、プロジェクト管理とコミュニケーションの中心となるメンバーを選出することが重要です。

工事内容に関する決議方法が不明確な場合、法的アドバイスを提供できる弁護士や専門家に相談することがおすすめです。専門家に相談することで適切な決議方法や法的手続きについてのアドバイスを受けることができます。

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