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腐食は大丈夫ですか?見落とされがちなビルピット防水工事

ビルの地下には、さまざまな施設があります。

特に水回りの設備が地下にあると、下水配管よりも低い位置になり、自然に排水できません。

そこで貯水槽としてビルピットを作り、排水ポンプでくみ上げる仕組みを取ります。

ビルピットは排水をため込むための設備で、所有者が維持管理しなければいけません。

もし異常があれば、周囲の環境に対して悪臭を含めた被害が出るのは容易に想像できるはずです。

そこで防水処置が必要ですが、本当に今でもしっかり機能しているでしょうか。

ビルピット防水工事は非常に重要ですが、見落とされがちです。

そこでビルピットではどのようなことが起きるのか、防水工事の必要性などを詳しく解説していきます。

ビルピットと防水工事

ビルピットは適切に維持管理しなければいけません。

そのためにも役割と構造、防水工事の関係を見ていきましょう。

ビルピットとは

ビルの地下で発生した排水を一時的に溜めるための設備です。

公共の下水配管より高い位置であれば、自然に排水できます。

ところが、地下にある設備などは、高さの関係上、公共下水に自然に排水できません。

下水は浄水とは違い、圧力をかけて排出する仕組みではないからです。

低いところから高いところへと流すためには、ポンプでくみ上げ排水する必要が出てきます。

ポンプでくみ上げるために溜めおくのが、地下に作るビルピットの役割です。

常にビル内で発生する排水を溜めることから、堅牢になるようコンクリートで作ります。

ビルピットの防水工事の必要性

もしも、ビルピットの排水が漏れ出したらどうなるでしょうか。

ビル内で発生したさまざまな排水をため込むのがビルピットの役割になるため、もし漏水するようなことがあれば、必ず悪臭を伴います。

ビルの設備に対してだけでなく、周辺環境にも悪影響を与えるかもしれません。

日常生活が遅れないような悪臭が漂えば、生活環境にも大きな影響を与えかねない問題です。

そのため、コンクリートにも影響を与えないよう防水処置をします。

もちろん、新築のときには防水処置が新しく漏水する可能性は低いでしょう。

ところが、いつまでもこの状態が保てるわけではありません。

防水が機能するよう定期点検が必要で、状態によっては改めて防水工事が必要です。

ビルピットとライニング材

ビルピットはコンクリートで作られる設備です。

しかし、このままでは排水に含まれる物質に侵食される可能性があることから、ライニング材を使って被覆します。

コンクリートを守ると同時に、漏水に対する防水の役割を果たすのです。

ビルピットのライニング材としては、ゴムシートや塩ビシート、エポキシ樹脂、強化プラスチックなどが一般的に使われてきました。

明確な定義ではありませんが、厚みが1mm以上ある場合をライニングと呼び、1mm以下をコーティングと分類しています。

ビルピットの場合、いろいろな排水が流れ込むことから、エポキシ樹脂のような塗布型ライニング材に10年保証が義務付けられるようになりました。

それぐらいの耐久性がなければ周辺環境に与える被害が大きく、メーカー側としても責任が問われることから、年々品質が高まっています。

ライニング材が劣化する原因

ビルピットには防水処置としても、ライニング材が使われます。

理由はいくつかありますが、通常の防水処置だけでは対策できないからです。

排水には想定外の物質が流れ込んでくる可能性があり、通常の防水処置だけではビルピットを劣化させるため、耐えられるライニング材が必要となりました。

これまでビルピットといえば、硫化水素が大きな焦点になったのは間違いありません。

強烈な悪臭の原因で、排水を2時間以上貯留するだけで生成されることがわかっていたからです。

硫化水素は人体に有害であり、高濃度な状態で吸い込めば死亡原因にもつながります。

高い危険性を持つ気体ですが、ライニング材を使うことで、コンクリートに対する侵食も抑えていました。

ところが、ビルピットの中で発生する物質の研究が進んだことで、防水処置に使われる樹脂も侵食する可能性が指摘されるようになったのです。

ビルピットでは、下水処理場などで確認されている有機酸が発生することがわかっています。

この有機酸がライニング材も侵食するため、耐食性を高めたライニング材が必要となったのです。

ここで問題になるのは、ライニング材だけでは防水性がありません。

防水処置では耐食性の問題があるため、両立できる防水工事の必要が出てきたといえるでしょう。

気が付きにくいビルピットのコンクリート防食

ビルピットのコンクリートを侵食するといっても、なかなか理解できないかもしれません。

堅牢で強固なコンクリートも、実はもろい部分があるからです。

コンクリートは侵食されて劣化する

かつてコンクリートは100年持つといわれてきました。

古い建築物でも残っているため、そう思うのも致し方ありません。

ですが、現在は50年どころか30年もたたずに劣化するとまでいわれるようになりました。

環境によっても違いますが、コンクリートには劣化する要因がいくつもあるからです。

特にビルピット内でも起こる中性化の問題は、非常に大きな影響を与えます。

硫化水素とコンクリートの強度

コンクリートは腐食する可能性があります。

腐食とは、その名前の通り腐ることですが、正確には無機物であるコンクリートは腐りません。

しかし、徐々になんらかの物質によって侵食され、まさに腐るようにボロボロになることがあるのです。

そのひとつが硫化水素です。

コンクリートはアルカリ性物質です。

強度を保つためにも、アルカリ性でなければいけません。

硫化水素は排水に含まれている微生物や細菌が作り出しますが、気中に放出されると硫酸を作り出すのです。

硫酸は酸性物質ですので、アルカリ性のコンクリートとぶつかると中性化させます。

アルカリ性を保てなくなったことで結合力を失い、ボロボロと劣化するのです。

硫化水素はビルピット内では2時間も排水を放置すれば発生するのですから、まさにコンクリートにとっては最悪の環境といえます。

ビルピットのコンクリートを守るためライニング材が存在しますが、有機酸などが劣化させると、硫化水素の影響で腐食が進むのです。

ビルピットが常に維持管理の点検、防食と防水施工が必要なのは、こうした複雑な関係が起因しています。

ビルピットのコンクリートが劣化したらどうなるか

もしビルピットのコンクリートが劣化し、漏水したらどうなるでしょうか。

硫化水素は、人体にも影響を与えます。

居住空間に漏れ出せば、正常な生活を脅かすことになり、必ず大きな問題につながるのです。

高いリスクがあるからこそ、各自治体が厳格に指導してきました。

一定期間での清掃や維持管理はもちろんですし、構造の基準も厳格です。

それでも、コンクリートの劣化は進むかもしれません。

だからこそ、しっかりとした防食を含む防水工事をしなければいけないといえます。

なぜコンクリートの劣化に気が付かないか

コンクリートの劣化は、昨日今日に始まった問題ではありません。

しかし、ビルピットの防水が保たれなくなり、漏水や悪臭の事例があとを絶たないわけです。

理由にあげられるのが、屋上などと違い地下にあることでしょう。

ビルピットはその機能上、地下の最下層に作ります。

屋上の貯水設備などと違い、漏水してもまずは地下に漏れ出すためすぐ発見できません。

すぐにわからないことから、どうしても対応が遅れるのです。

非常に大きな問題に発展してから気が付くことからも、定期的な点検が必要といえます。

専門業者に依頼しないと点検できないことも問題です。

ビルピットがあることは知っていても、自分で点検するでしょうか?

見に行ったとしても、道具や知識もなければ点検もできません。

つまり、ビルピットの防水は、後手に回りやすいのです。

ビルピットの防水施工にも関係する法令

ビルピットに関する法令として、建築物における衛生的環境の確保に関する法律があります。

もともと昭和45年に作られた法律ですが、令和4年に改正されました。

この法律では、良好な状態に維持管理できる措置を定めること、6カ月以内に1度は清掃しなければいけないとしています。

実際に東京都の条例には、建築物における排水槽等の構造、維持管理等に関する指導要綱(ビルピット対策指導要綱)があり、少なくとも4カ月に1度の清掃と汚泥除去を義務付けるなど、細かに定められているのが重要です。

つまり、ビルピットの内部は定期的に清掃する必要があり、防水できているか点検が必要だとしています。

なにもしていないと、ビルピットの防水や防食が6カ月程度でも耐えきれなくなる可能性も示唆しているのです。

それほど防水や防食がビルピットにとって重要な要素なのがわかります。

ビルピットの防水工事の手法

ビルピット防水工事にもさまざまな方法があります。

防水工事だけではなく、防食を含めた工法の選択が重要です。

エポキシ樹脂防食

ビルピットで基本的な工法なのが、エポキシ樹脂防食です。

施工条例に合わせ、いくつもの工法が作られてきました。

工場排水などにも使われている工法で、有機酸に対する耐性を持ったものもあります。

粘性によって、目地やひび割れにも浸透させることができるため、幅広い対応が可能です。

ポリマー樹脂系防水

エマルジョン樹脂とセメント系のパウダーを配合した材料を使う防水工法です。

有機溶剤は一切必要ないため、環境にも優しい工法といえます。

しかし、これだけでは防食まではいかないため、ビルピットでは下地として使われる方法です。

FRP防食

有機酸のなかには、耐食エポキシ樹脂では対応できないものがあるのがわかっています。

そこで繊維強化プラスチックを用いた工法がFRP防食です。

アルカリや溶剤にも対応できます。

ポリエチレン系防食

水性ポリエチレンを使った防食防水工法で、有害物質を抑えられます。

環境ホルモンも発生させない環境にやさしい素材です。

防食被覆工法

クロスを使わない防食防水工法で、溶剤も必要ないため安全です。

水性のエポキシ樹脂を使うことで、防食性を高めています。

コンクリート躯体と緻密化するのも特徴です。

まとめ

この記事のまとめです。

  • ビルピットは、防水だけでなく防食工事が必要
  • 法令によって点検や維持管理に定めがある
  • 工法はいろいろあるが、使用する環境によって選ぶ必要が出てくる

ビルピットといってもテナント店舗などによって、内部の環境に差が出てきます。

状況にあった防食防水を施すことが大切です。

点検とともに、適切な維持管理のためにも、専門会社に依頼していきましょう。

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