マンションの大規模修繕は義務?管理組合が知っておくべき目的や法律における定義を解説

2025/10/22

マンションの大規模修繕は法律で義務付けられているの?
もし実施しなかったら罰則があるのだろうか…

管理組合の理事になったばかりの方や賃貸マンションを所有するオーナー様から、このようなご相談をいただくことがよくあります。

大規模修繕には多額の費用と長期間の工事が伴うため、本当に必要なのか、法律上どこまでが義務なのかを正確に理解したいというお気持ちは当然のことです。

結論からお伝えすると、大規模修繕そのものは法律で義務付けられていません

しかし、マンションの管理者や所有者には、建物を適切に維持管理する責任が課されており、それを果たすための現実的な手段として大規模修繕が位置づけられています。

この記事では、大規模修繕と法律の関係、実際に負っている義務の内容、そして義務でなくても実施すべき理由について、わかりやすく解説していきます。

あなたの不安を解消し、適切な判断ができるよう、一歩ずつ丁寧にご案内いたします。

目次

大規模修繕は法律で義務付けられているのか?

多くの方が最初に抱く疑問が「大規模修繕は法律上の義務なのか」という点です。

ここでは、法律における大規模修繕の位置づけを明確にし、賃貸と分譲でどのような違いがあるのかを整理していきます。

大規模修繕自体に法的な実施義務はない

建築基準法第2条第14号では、大規模修繕を「建築物の主要構造部の一種以上について行う過半の修繕」と定義しています。

しかし、この条文は大規模修繕が何を指すのかを説明しているだけで、実施を義務付けているわけではありません。

同様に、区分所有法マンション管理適正化法といったマンションに関連する主要な法律を確認しても、「〇年ごとに大規模修繕を実施しなければならない」といった明確な義務規定は存在しないのです。

つまり、大規模修繕の実施そのものは、法律で強制されているわけではありません。

ただし、これは「大規模修繕をしなくてもよい」という意味ではありません

後述するように、建物の維持管理に関する間接的な義務が複数存在し、それらを適切に果たそうとすると、結果的に大規模修繕が必要になるという構造になっています。

賃貸マンションのオーナーには修繕義務がある(民法606条)

賃貸マンションの場合、状況は大きく異なります。民法第606条第1項には、「賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う」と明記されています。

これは、賃貸マンションのオーナーには、入居者が安全に快適に暮らせるよう建物を維持管理する法的義務があるということです。

外壁の剥落や給排水設備の老朽化など、居住に支障をきたす状態を放置すれば、この修繕義務違反となる可能性があります。

実際に、修繕を怠ったために入居者に被害が生じた場合、オーナーは損害賠償責任を負うことになります。

賃貸マンションのオーナーにとって、建物全体の修繕は法的義務であり、大規模修繕はその義務を果たすための重要な手段といえるでしょう。

分譲マンションの管理組合が負う義務とは?

分譲マンションの場合、個々の区分所有者は自分の専有部分を所有すると同時に、共用部分を他の区分所有者と共有しています。

区分所有法第3条では、区分所有者全員で構成される管理組合の存在が定められており、この管理組合には共用部分を適切に管理する責任があります。

また、マンション管理適正化法第5条では、管理組合による適正な管理の推進が努力義務として規定されています。

2020年の法改正では、国や地方公共団体が講じる施策への協力も努力義務に加えられ、管理組合の責任がより明確化されました。

これらの法律は大規模修繕の実施を直接義務付けてはいませんが、建物を安全で快適な状態に保つという管理組合の責務を果たすためには、計画的な大規模修繕が不可欠となっています。

建築基準法における「大規模修繕」の定義

法律上の義務を正しく理解するためには、まず「大規模修繕」が何を指すのかを明確にする必要があります。

ここでは建築基準法における定義と、実務での解釈について詳しく見ていきましょう。

主要構造部の過半を修繕する工事を指す

建築基準法第2条第14号によれば、大規模修繕とは「建築物の主要構造部の一種以上について行う過半の修繕」と定義されています。

ここで重要なのが「主要構造部」「過半」という2つのキーワードです。

主要構造部とは、建築基準法第2条第5号で定められている以下の部分を指します。

  • 壁(ただし構造上重要でない間仕切壁を除く)
  • 床(最下階の床を除く)
  • 梁(はり)
  • 屋根
  • 階段(屋外階段など一部を除く)

これらの主要構造部は、建物の構造上無くてはならない重要な部分であり、建物の安全性に直結します。

そして「過半」とは、その部分の半分を超える範囲を意味します。

例えば、マンションの外壁全体の60%を修繕する場合、これは主要構造部である「壁」の過半を修繕することになるため、建築基準法上の「大規模修繕」に該当します。

一方、外壁の30%のみを部分的に補修する場合は、過半に達していないため大規模修繕には該当しません。

建築基準法第2条の具体的な条文内容

建築基準法第2条では、大規模修繕と併せて「大規模の模様替」についても定義されています。

両者の違いを理解することで、より正確な法解釈が可能になります。

用語条文番号定義
大規模の修繕第2条第14号建築物の主要構造部の一種以上について行う過半の修繕
大規模の模様替第2条第15号建築物の主要構造部の一種以上について行う過半の模様替

修繕とは、既存の材料と同等のものを使って劣化した部分を元の状態に近づける行為を指します。

一方、模様替とは、既存とは異なる材料や仕様を用いて造り替え、建物の性能を回復または向上させることを意味します。

どちらも主要構造部の過半に及ぶ工事であれば、建築基準法上の「大規模」な工事として扱われ、場合によっては建築確認申請が必要になることがあります。

大規模修繕と通常の修繕の違い

実務上、全ての修繕工事が「大規模修繕」に該当するわけではありません。マンションで行われる修繕工事は、その規模と内容によって以下のように分類できます。

修繕の種類対象範囲工事内容の例建築基準法上の扱い
日常的な修繕部分的・小規模・共用廊下の電球交換
・軽微なひび割れ補修
通常の修繕
中規模修繕主要構造部の半分未満・外壁の一部補修
・屋上防水の部分改修
通常の修繕
大規模修繕主要構造部の過半・外壁全面塗装
・屋上防水全面改修
・給排水管全面更新
大規模の修繕

この分類を理解することで、自分のマンションで予定している工事が法律上どのように扱われるのか、建築確認申請が必要かどうかを判断する手がかりになります。

マンション管理組合が負う3つの法的義務

大規模修繕そのものは義務ではありませんが、マンションの管理組合には他の重要な法的義務が課されています。

ここでは、実際に守らなければならない3つの義務について解説します。

【義務1】タイル外壁の全面打診調査(10年ごと)

平成20年に国土交通省が建築基準法第12条第1項に基づく定期報告制度を見直した結果、現在は竣工または外壁改修から10年ごとに、マンション外壁タイルの全面打診調査を実施し、特定行政庁に報告する義務が課されています。

この調査では、外壁タイル全面に対して打診棒などを用いた調査を行い、タイルの浮きや剥離の危険性を確認します。

タイルが剥落すれば歩行者に重大な被害を与える可能性があるため、法律で義務化されているのです。

調査にはマンション全体に足場を組む必要があり、相応の費用がかかります。しかし、この報告義務には例外規定があり、3年以内に大規模修繕を行う予定がある場合は、大規模修繕のタイミングまで報告期限を延長できる制度が設けられています。

この制度があることで、多くのマンションでは打診調査と大規模修繕を同時期に実施する計画を立てています。

これが、大規模修繕が10~15年周期で行われることが一般的となっている理由の一つです。

【義務2】管理組合への加入義務(区分所有法)

区分所有法第3条では、区分所有者は全員で建物や敷地、付属施設の管理を行うための団体を構成すると定められています。

これが管理組合であり、分譲マンションの区分所有者になった時点で、自動的に管理組合への加入が義務付けられます

管理組合は区分所有者全員で構成され、その中から選出された理事会が実務を担当します。大規模修繕の業者選定、修繕計画の立案や修正なども、この理事会や修繕委員会の重要な業務となります。

つまり、マンションの区分所有者である以上、管理組合の一員として建物の維持管理に関わる責任を負っているということです。

この責任を果たすためには、長期修繕計画に基づいた計画的な大規模修繕の実施が不可欠となります。

【義務3】共用部分の適切な維持管理(マンション管理適正化法)

マンション管理適正化法第5条では、管理組合による適正な管理の推進が努力義務として定められています。

2020年6月の改正では、従来の「マンションの適正な管理」に加えて、「国及び地方公共団体が講ずるマンションの管理の適正化の推進に関する施策への協力」も努力義務として明記されました。

努力義務は強制力のある義務ではありませんが、法律が管理組合に期待する行動指針として重要な意味を持ちます。

また、2022年4月から開始された管理計画認定制度では、適切な管理計画を立てているマンションを地方公共団体が認定する仕組みが導入されています。

認定を受けるためには、以下の基準を満たす必要があります。

  • 修繕その他の管理方法が国土交通省令の基準に沿っている
  • 修繕等の資金計画が適切である
  • 管理組合の運営状況が基準に沿っている
  • マンション管理適正化指針に照らして適切である

これらの基準を満たすためには、長期修繕計画の策定と、それに基づく計画的な修繕の実施が求められます。

法的には努力義務であっても、マンションの価値を維持し、居住者の安全を守るためには、適切な維持管理が管理組合の重要な責務となっているのです。

大規模修繕が義務でなくても実施すべき3つの理由

ここまで見てきたように、大規模修繕そのものは法律上の義務ではありません。

しかし、実際には多くのマンションが10~15年周期で大規模修繕を実施しています。それはなぜでしょうか。

ここでは、義務ではなくても実施すべき明確な理由をご説明します。

居住者の安全を守るため

建物は時間の経過とともに必ず劣化します。外壁のひび割れから雨水が浸入すればコンクリートの中性化が進み、鉄筋が錆びて強度が低下します。

タイルが剥落すれば歩行者に直撃する危険性があり、給排水管の老朽化は漏水事故を引き起こします。

これらの劣化を放置すれば、居住者の生命や財産に重大な被害が及ぶ可能性があります。

大規模修繕は、こうした危険を未然に防ぎ、居住者が安全に暮らせる環境を維持するための予防保全なのです。

特に、築年数が古くなるほど劣化の進行は加速します。小さなひび割れを放置すれば、やがて大規模な補修が必要になり、費用も工期も大幅に増大します。

定期的な大規模修繕によって建物を良好な状態に保つことが、結果的に居住者の安全を守り、修繕コストの抑制にもつながります。

マンションの資産価値を維持・向上させるため

建物の外観や設備の状態は、マンションの資産価値に直結します。

外壁が汚れて剥がれ、共用部分が老朽化したマンションと、適切に修繕されて美観が保たれているマンションでは、売却価格や賃貸需要に大きな差が生じます。

国土交通省の調査によると、計画的な大規模修繕を実施しているマンションは、実施していないマンションと比較して、築年数が同じでも査定価格が高くなる傾向が確認されています。

これは、適切な維持管理が将来の資産価値を左右する重要な要素だということを示しています。

また、大規模修繕では単なる原状回復だけでなく、耐震性の向上やバリアフリー化、省エネ設備の導入など、建物の機能や性能を向上させる改修工事を同時に行うことも可能です。

これにより、築年数が古くても魅力的で競争力のあるマンションを維持できるのです。

法的義務を果たすための現実的な手段として

前述したように、大規模修繕そのものは義務ではありませんが、マンションの管理組合には複数の法的義務が課されています。

特に重要なのが、10年ごとのタイル外壁全面打診調査と、共用部分の適切な維持管理義務です。

打診調査で外壁タイルの浮きや剥離が発見されれば、当然補修が必要になります。

また、給排水設備の劣化、屋上防水の損傷など、建物各所の劣化は同時期に進行することが多く、それらを個別に修繕するよりも、まとめて計画的に実施する方が効率的でコストも抑えられます。

つまり、法的義務を確実に果たし、建物を適法な状態に維持しようとすると、結果的に10~15年周期での大規模修繕が最も合理的な選択肢となるのです。

これが、義務ではないにもかかわらず、多くのマンションが大規模修繕を実施している実態です。

大規模修繕の実施周期と法律の関係

大規模修繕の周期として「12年」「15年」といった数字をよく耳にしますが、これらはどこから来ているのでしょうか。

ここでは、実施周期の根拠と法律との関係を詳しく見ていきます。

12~15年周期が一般的な理由

国土交通省が公表している「長期修繕計画作成ガイドライン(令和6年6月改訂版)」では、大規模修繕の目安を「概ね12~15年に1回」としています。

ただし、これはあくまで目安であり、法的な義務として定められているわけではありません

実際に、国土交通省の「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」によれば、1回目の大規模修繕の平均周期は約13年、2回目は約14年となっています。

調査対象の約7割が12~15年周期で実施しており、この期間が実務上の標準となっていることがわかります。

この周期が一般化した理由には、以下のような要因があります。

  • 外壁塗料や防水材の耐用年数が概ね10~15年程度である
  • 建築基準法の全面打診調査が10年ごとに義務付けられている
  • 国土交通省のガイドラインが目安として12~15年を示している
  • 修繕積立金の計画が12~15年周期を前提に設計されることが多い

これらの要素が相互に関連し合い、結果として12~15年周期が最も合理的な選択となっているのです。

外壁打診調査の時期と重なるため

前述のとおり、建築基準法第12条に基づく定期報告制度により、特定建築物に該当するマンションでは、竣工または外壁改修から10年ごとに外壁タイルの全面打診調査を実施し、特定行政庁に報告する義務があります。

この調査には足場の設置が必要となり、数百万円規模の費用がかかります。

そこで多くのマンションでは、調査と修繕を同時に実施することで、足場の設置費用を一度で済ませる工夫をしています。

また制度上、3年以内に大規模修繕を予定している場合は報告期限を延長できるため、10年目の調査時期に合わせて12~13年目に大規模修繕を計画するマンションが多いのです。

この法的義務と実務上の効率性が、12~15年周期の大きな根拠となっています。

長期修繕計画の作成義務(努力義務)

マンション管理適正化法や国土交通省が定めるマンション管理適正化指針では、管理組合に対して長期修繕計画の作成と定期的な見直しを求めています。

これは法的な強制義務ではなく努力義務ですが、適切な管理を行う上で不可欠な取り組みとされています。

国土交通省の「長期修繕計画作成ガイドライン」では、以下の基準が示されています。

項目基準
計画期間30年以上
見直し時期5年ごと
大規模修繕の周期概ね12~15年
修繕積立金計画に基づいた適切な積立

長期修繕計画は、将来必要となる修繕工事を予測し、それに必要な資金を計画的に積み立てるための設計図です。

多くのマンションでは、この計画に基づいて12~15年ごとの大規模修繕を組み込み、毎月の修繕積立金を設定しています。

2022年4月から開始された管理計画認定制度では、この長期修繕計画の有無や内容が認定の重要な判断基準となっており、計画的な修繕の実施がマンション管理の適正性を示す指標として位置づけられています。

大規模修繕に関連する主要な法律一覧

大規模修繕を適切に進めるためには、関連する法律の全体像を理解することが重要です。

ここでは、実務上関係する主要な法律をまとめてご紹介します。

建築基準法(定義と確認申請)

建築基準法は、建築物の安全性、防火性、衛生性などの最低基準を定めた法律です。大規模修繕に関しては、主に以下の2つの側面で関わってきます。

第一に、大規模修繕の定義を定めていることです。第2条第14号で「建築物の主要構造部の一種以上について行う過半の修繕」と明確に規定されており、これが法律上の大規模修繕の判断基準となります。

第二に、一定の条件を満たす大規模修繕では建築確認申請が必要となることです。

建築基準法第6条では、特殊建築物や一定規模以上の建築物について、大規模修繕を行う際に建築確認を受けることを義務付けています。

対象となる建築物の基準は複雑ですが、多くの分譲マンションが該当する可能性があるため、事前の確認が必要です。

また、第12条の定期報告制度により、10年ごとの外壁打診調査が義務付けられていることも、大規模修繕の計画に大きな影響を与えています。

区分所有法(特別決議の必要性)

正式名称を「建物の区分所有等に関する法律」という区分所有法は、マンションのような区分所有建物の権利関係や管理運営のルールを定めた法律です。

大規模修繕に関して特に重要なのが、第17条の共用部分の変更に関する規定です。

共用部分の形状や効用の著しい変更を伴う場合、区分所有者および議決権の各4分の3以上の賛成による特別決議が必要とされています。

ただし、通常の大規模修繕は建物の現状を維持・回復することが目的であり、「著しい変更」には該当しないケースが多いため、過半数の賛成による普通決議で実施できる場合もあります。

一方、外観のデザインを大幅に変更する場合や、新たな設備を追加する場合などは特別決議が必要になることがあります。

また、第3条で区分所有者全員による管理組合の構成が定められており、第5条では区分所有者の建物維持管理義務が規定されています。

これらの条文が、管理組合による計画的な修繕実施の法的根拠となっています。

マンション管理適正化法(管理計画認定制度)

マンション管理適正化法は、マンション管理の適正化を推進し、良好な居住環境を確保することを目的とした法律です。2020年の改正により、管理組合の責任がより明確化されました。

第5条では、管理組合の努力義務として、適正な管理の推進と、国や地方公共団体の施策への協力が定められています。

また、2022年4月からは管理計画認定制度が開始され、適切な管理計画を立てているマンションを地方公共団体が認定する仕組みが導入されました。

認定を受けるためには、修繕方法や資金計画が適切であること、長期修繕計画が策定されていることなどが求められます。

認定を受けたマンションには、住宅ローンの金利優遇や税制上の優遇措置が適用される場合があり、資産価値の維持にもつながります。

民法(賃貸オーナーの修繕義務)

民法第606条は、賃貸借契約における賃貸人の修繕義務を定めています。

第1項では「賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う」と明記されており、賃貸マンションのオーナーには建物を適切に修繕する法的義務があります。

ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によって修繕が必要となった場合は、この義務は免除されます。

また、賃借人が賃貸人の承諾を得て修繕できる場合や、急迫の事情がある場合については、賃貸人の義務が制限されることもあります。

賃貸マンションのオーナーがこの修繕義務を怠り、入居者に被害が生じた場合、損害賠償責任を負うことになります。

賃貸マンションにおける大規模修繕は、この法的義務を果たすための重要な手段といえるでしょう。

大規模修繕工事の義務や法律に関するよくある質問

ここまでの内容を踏まえて、管理組合の理事やマンションオーナーの方々から特によく寄せられる質問について、専門家の視点からお答えします。

Q1. 大規模修繕を実施しないと罰則はありますか?

大規模修繕そのものを実施しないことに対する直接的な罰則はありません。前述のとおり、大規模修繕の実施は法律で義務付けられていないためです。

ただし、関連する義務を怠った場合には罰則や責任が生じる可能性があります。

例えば、建築基準法第12条に基づくタイル外壁の打診調査を実施せず、報告も行わなかった場合、建築基準法第101条により100万円以下の罰金が科される可能性があります。

また、賃貸マンションのオーナーが民法第606条の修繕義務を怠り、その結果入居者に被害が生じた場合、損害賠償責任を負うことになります。

外壁タイルの落下で歩行者が負傷した場合なども、管理組合やオーナーの責任が問われる可能性があります。

さらに、適切な維持管理を怠ったことで建物が著しく劣化し、周辺に危険を及ぼす状態になれば、特定空家等対策特別措置法や建築基準法第10条に基づき、行政から改善命令が出される場合もあります。

大規模修繕自体に罰則はなくても、その結果生じる問題に対しては法的責任が発生するということを理解しておく必要があります。

Q2. 管理組合の総会で大規模修繕を否決されたらどうなる?

もし総会で大規模修繕が否決された場合、法的には実施を強制することはできません。しかし、否決された場合に生じるリスクを理解しておく必要があります。

まず、建物の劣化が進行し、居住者の安全が脅かされる可能性があります。外壁の剥落や漏水事故などが発生すれば、管理組合には責任が生じます。

また、10年ごとの外壁打診調査は法的義務であり、調査の結果必要な修繕が明らかになった場合、それを放置することは義務違反となる可能性があります。

さらに、建物の劣化は資産価値の低下に直結します。適切な修繕が行われないマンションは市場での評価が下がり、全ての区分所有者の財産価値が目減りすることになります。

否決を避けるためには、事前に十分な説明会を開催し、修繕の必要性や工事内容、費用の妥当性について丁寧に説明することが重要です。

専門家による建物診断結果を示し、修繕を行わない場合のリスクを具体的に提示することで、区分所有者の理解を得やすくなります。

Q3. 賃貸と分譲で大規模修繕の義務は違いますか?

賃貸マンションと分譲マンションでは、大規模修繕に関する法的な位置づけが大きく異なります。

項目賃貸マンション分譲マンション
修繕義務の根拠・民法第606条
(賃貸人の修繕義務)
・区分所有法
・マンション管理適正化法(維持管理責任)
法的性質・明確な法的義務・努力義務・責務
義務を負う主体・マンションオーナー(賃貸人)・管理組合(区分所有者全員)
義務違反の効果・損害賠償責任
・契約解除のリスク
・建物劣化
・資産価値低下

賃貸マンションでは、オーナーに民法上の修繕義務があり、入居者が安全に快適に暮らせるよう建物を維持する法的責任があります。

これを怠れば、入居者から損害賠償請求を受けたり、契約解除の原因となったりする可能性があります。

一方、分譲マンションでは、大規模修繕の実施そのものは直接的な法的義務ではありませんが、管理組合には共用部分を適切に維持管理する責務があります。

また、10年ごとの外壁打診調査など、間接的に大規模修繕につながる義務が課されています。

いずれの場合も、建物の安全性を維持し、資産価値を守るためには、計画的な大規模修繕の実施が不可欠であることに変わりはありません。

Q4. 大規模修繕で建築確認申請が必要なケースは?

建築基準法第6条では、一定の規模や用途の建築物について、大規模修繕を行う際に建築確認申請を行うことを義務付けています。

具体的には、以下のいずれかに該当する建築物が対象となります。

  • 特殊建築物で、その用途に供する床面積の合計が200㎡を超えるもの
  • 木造で3階建て以上、または延べ面積が500㎡を超え、高さが13mまたは軒高が9mを超えるもの
  • 木造以外で2階建て以上、または延べ面積が200㎡を超えるもの
  • 都市計画区域、準都市計画区域、景観法や都道府県知事が指定する区域内にある建築物

多くの分譲マンションは「木造以外で2階建て以上」に該当するため、原則として建築確認申請の対象となります。

ただし、実際には全ての大規模修繕で申請が必要になるわけではなく、工事の内容や範囲によって判断が分かれます。

建築確認申請が必要な場合、工事着工前に建築主事または指定確認検査機関に申請書類を提出し、確認済証を受け取る必要があります。

申請には建築士による設計図書の作成が必須で、手続きには一定の期間と費用がかかります。

確認申請の要否については、事前に特定行政庁や専門家に相談することをお勧めします。

必要な手続きを怠ると、違法工事となり、工事の中止命令や是正命令が出される可能性があります。

Q5. 長期修繕計画の作成は義務ですか?

長期修繕計画の作成は、法的な強制義務ではなく努力義務として位置づけられています。

マンション管理適正化法第5条や国土交通省の「マンション管理適正化指針」では、管理組合に対して長期修繕計画の作成と定期的な見直しを求めていますが、作成しなかったことに対する直接的な罰則はありません。

しかし、実務上は長期修繕計画の作成が不可欠です。その理由は以下のとおりです。

  • 将来必要となる修繕工事を予測し、計画的に資金を準備できる
  • 修繕積立金の適切な金額を算定する根拠となる
  • 管理計画認定制度の認定を受けるための要件となる
  • マンションの売買や金融機関の融資審査で重視される
  • 区分所有者に対する説明責任を果たせる

国土交通省の「長期修繕計画作成ガイドライン」では、計画期間を30年以上とし、5年ごとに見直すことが推奨されています。

多くの管理会社では、このガイドラインに基づいた長期修繕計画の作成支援サービスを提供しています。

2022年4月から開始された管理計画認定制度では、長期修繕計画の有無と内容が認定の重要な判断基準となっており、適切な長期修繕計画の策定が、マンション管理の適正性を示す指標として明確に位置づけられたといえます。

Q6. 修繕積立金が不足している場合、修繕は延期できる?

修繕積立金が不足しているからといって、必要な修繕を無期限に延期することは推奨できません。

建物の劣化は時間とともに進行し、放置すればより深刻な問題を引き起こすためです。

修繕積立金が不足している場合、管理組合には以下のような対応策があります。

  • 区分所有者から一時金を徴収する
  • 金融機関から借入を行う(マンション管理組合向けのローン商品がある)
  • 修繕積立金の月額を値上げする
  • 工事の優先順位を付け、段階的に実施する
  • 工事内容を見直し、コストダウンを図る

これらの対応策を実施するためには、区分所有者の理解と協力が不可欠です。

総会で十分な説明を行い、資金不足の原因、修繕を延期した場合のリスク、各対応策のメリット・デメリットを明確に示すことが重要です。

また、10年ごとの外壁打診調査など法的義務がある調査・修繕については、資金不足を理由に延期することはできません。調査の結果、危険性が確認されれば、速やかに対応する必要があります。

修繕積立金不足を防ぐためには、長期修繕計画を定期的に見直し、実態に合った積立金額を設定することが重要です。

新築時に設定された積立金額が、現在の修繕費用の相場と合っていないケースも多いため、専門家による見直しを検討することをお勧めします。

Q7. 外壁の打診調査だけ実施すれば大規模修繕は不要?

外壁の打診調査は建築基準法第12条に基づく法的義務ですが、これを実施したからといって大規模修繕が不要になるわけではありません。両者は性質が異なる別のものです。

外壁打診調査は、外壁タイルやモルタルの浮きや剥離の危険性を確認するための「点検・診断」です。

一方、大規模修繕は建物全体の劣化を修復し、性能を回復させるための「工事」です。調査はあくまで現状把握であり、問題が発見されれば修繕が必要になります。

また、大規模修繕で対象となるのは外壁だけではありません。以下のような多様な箇所が含まれます。

修繕箇所主な工事内容劣化の影響
外壁・塗装
・タイル補修
・ひび割れ補修
・雨水浸入
・美観低下
屋上・バルコニー・防水工事・漏水事故
給排水設備・配管更新
・更生工事
・漏水
・水質悪化
鉄部・錆止め塗装・腐食
・強度低下
共用廊下・階段・防水
・塗装
・劣化
・安全性低下

これらの箇所は同時期に劣化が進行することが多く、個別に対応するよりも一括して修繕する方が、足場の設置費用などを抑えられ、効率的です。

外壁打診調査は大規模修繕のきっかけや時期を判断する材料の一つであり、調査だけで修繕が不要になることはないと理解しておきましょう。

まとめ:義務ではないが責任として実施を

大規模修繕そのものは法律で義務付けられていません。しかし、マンションの管理者や所有者には、建物を適切に維持管理する法的責任が複数課されています。

特に以下の3つの義務は、必ず守らなければならないものです。

  • 10年ごとのタイル外壁全面打診調査と報告(建築基準法第12条)
  • 管理組合への加入と共用部分の管理(区分所有法第3条)
  • 適正な管理の推進と施策への協力(マンション管理適正化法第5条)

これらの義務を確実に果たし、居住者の安全を守り、マンションの資産価値を維持しようとすると、結果的に10~15年周期での計画的な大規模修繕が最も合理的な選択となります。

賃貸マンションのオーナーには、民法第606条により明確な修繕義務があります。

分譲マンションの管理組合には直接的な義務はないものの、区分所有者全員の財産を守り、安全で快適な住環境を維持する責務があります。

大規模修繕は決して安価な工事ではありません。しかし、それは将来への投資であり、建物の寿命を延ばし、居住者の安全を守り、資産価値を維持するための必要なコストです。

義務ではないからこそ、管理組合やオーナーの主体的な判断と責任ある行動が求められます。

これから大規模修繕を検討される管理組合の方々、マンションオーナーの皆様には、以下のチェックリストを活用して、適切な準備を進めていただければと思います。

この記事が、皆様の大規模修繕に関する不安を解消し、適切な判断の一助となれば幸いです。