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老朽化マンション問題とは?大規模修繕は可能?悪影響や対策なども解説

国土交通省の調べによると、日本の2022年末時点での分譲マンションストックは、約694.3万戸であることに対し、同時点での築40年以上のマンションは125.7万戸です。

2022年時点での分譲マンションの約18%が築40年以上ですが、10年後の2032年にはその数は約2.1倍にものぼると予測されています。

老朽化マンションの明確な定義はありませんが、一般的には30年から40年を過ぎたマンションのことを指すことが多いようです。

マンションの老朽化には、必要な修繕において住民の高齢化による判断力・資金力の低下など、様々な心配や問題がつきまといます。

この記事では、老朽化マンションの問題の本質や、大規模修繕による対策は可能なのか、また老朽化マンションがもたらす悪影響を紹介します。

老朽化マンション問題とは

出典:国土交通省「築40年以上のマンションストック数の推移」

昨今、老朽化したマンションにおいて、資金不足などの理由から十分な修繕が出来ていない事例が増えているようです。

マンションは経年により、様々な箇所で劣化が進みます。

しかし、老朽化したマンションの住民は建物と同じように高齢化も進み、修繕費も値上げできずに、必要な修繕ができないとなると、安全面・生活に支障をきたす不具合が生じる事態に陥ってしまいます。

このような状態を老朽化マンション問題といい、老朽化マンションが増えることで今後ますます深刻化することも考えられます。

老朽化マンションの定義

老朽化マンションの定義は特に明確なものはなく、ある程度の築年数が経った、老朽化が進んだマンション、と考えると今後の問題により具体性をもって捉えることができます。

一般的には築30年から40年以上のマンションを指すことが多いでしょう。

マンションの耐用年数は最大47年

国税庁によって定められている減価償却資産における鉄筋・鉄骨コンクリートマンションの耐用年数は最大で47年とされています。

だた、これはマンションを資産価値としてみて減価償却していくと、47年でその価値はほぼゼロになる、という試算のもと、定められた年数です。(修繕に掛けた費用は加算されます。)

従って、実際のマンションの耐用年数は47年以上とみられ、建築学におけるマンションの寿命は、正しく適切に修繕を行うことで、マンションを利用できる年数は100年以上ともいわれています。

マンションの老朽化がもたらす悪影響

マンションの老朽化がもたらす悪影響を解説します。

設備の劣化・故障

設備の物理的劣化・故障は考えているよりも早く起こり得ることが多いでしょう。

給排水管の劣化による漏水・外壁のひび割れから水が浸入し、漏水したりなど、建物が老朽化することで問題が発生し、修繕が必要になります。

漏水の原因となる箇所をしっかり補修しておかなければ、漏水は再発し、さらにマンションの老朽化は進むことになるでしょう。

設備の劣化・故障は以下のような事例があります。

  • 屋上・バルコニーに生じるひび割れによる室内への漏水
  • 外壁の浮き・剥がれによる剥落
  • 鉄骨階段・手すり等の発錆による腐食

下記の表によると、築40年を経過したマンションの約4割が漏水・雨漏り、3割以上が給排水管の老朽化による漏水の問題が発生しています。

出典:国土交通省「マンション政策の現状と課題」

健康問題

マンションの老朽化は、住んでいる人の生命・身体に危険を及ぼす問題となることがあります。

内部鉄筋の発錆によって内部から外壁が押し出せれることで起きるコンクリートの破壊(鉄筋爆裂)や、外壁に生じた膨れ・タイル浮きなどからタイルが剥落してしまう危険性があります。

鉄筋爆裂とは、コンクリートのひび割れ等から水分が侵入し、内部の鉄筋が錆びて膨張し、コンクリートを圧迫し、外部のタイル・モルタルなどが押し出される現象です。

タイルが頭上から落ちてきてけがをしてしまうようなマンションにはあまり住みたくないと考えるのが一般的ですね。

しかも、剥落したタイルやモルタルは、マンションの住民だけではなく通りがかりの通行人・車に危害を与えてしまう事も考えられます。

突風や台風などでタイルがはがれ、近くの建物に損害を与えてしまうこともあり得ます。

耐震問題

1981年以前に確認申請を受けたマンションは、旧耐震基準の建物になり、それ以降に制定された「新耐震基準」を満たしていれば震度5強程度の中規模地震では軽微な損傷、震度6強から7に達する地震でも倒壊は免れる耐震性であるといわれています。

したがって、旧耐震基準で建てられたマンションでは、震度6強から7に達する程度の大規模地震についての規定はなく、震度5強程度の中規模地震においても倒壊は免れるが損傷を受ける可能性が高い、というものでした。

2023年現在で、築42年以上を経過したマンションは、老朽化と耐震問題を同時に考える必要があります。

空室増加に伴うマンションの廃墟化

老朽化マンションに住む人の高齢化もさることながら、修繕費用の値上げも希望入居者が減る要因です。

入居者が減ると空室が増え、マンションの廃墟化が心配されます。

マンションの空室率が30%を超えたあたりで管理費・修繕費の徴収が十分にできず、廃棄物はどんどん進むことでしょう。

マンションの廃墟化が始まる前に、対策を講じる必要があります。

資産価値の減少

建物は経年により、その資産価値は減少していくのが当然です。

前述の通り、税金を計算するうえでのマンション(建物)の価値は47年でほぼゼロになります。

マンションの老朽化は、資産価値の減少と比例しますが、メンテナンス次第で上手に資産価値を維持することも可能です。

老朽化マンションの選択肢

老朽化マンションが進んだマンションが取るべき選択肢を紹介します。

  • 大規模修繕工事を行う
  • 建て替えの検討
  • 取り壊して敷地を売却

どの選択肢も老朽化が進んだマンションには少々ハードルが高いように思えます。

一番、現実として考えられるのが、大規模修繕工事を行う、という選択肢ではないでしょうか。

しかし、大規模修繕工事を行うには莫大な費用が掛かります。

その金額が、修繕積立金で賄える額であれば問題はないのですが、不足があるからマンションの老朽化が進んでいる、ともいえる状況なので、資金不足が否めないマンションの管理組合は多くみられます。

資金不足の状態で大規模修繕工事を行うには、金融機関への借入れを検討しなければ話は前に進まないでしょう。

本来、大規模修繕工事を行うには修繕積立金で賄うべきであって、借入れをしてまで行ってしまうと、負担は次世代に転嫁されてしまい、今後の入居者にとってもあまりいい状況ではないのです。

しかし、選択肢があまりにも少ない中、何とかいい方向に事を進めるためにも、借入をして大規模修繕工事を行うことはやむを得ない選択だといえます。

借入をする場合の選択肢

借入をする場合の選択肢として、大きく分けて2つが考えられます。

  • 住宅金融支援機構から借り入れる
  • 民間の金融機関から借り入れる

住宅金融支援機構は、住宅金融市場での安定的な資金供給を支援するための独立行政法人です。

住宅金融支援機構が行っている管理組合対象のローンとして、「マンション共用部リフォーム融資」があります。

この制度は、屋上防水や、外壁塗装、階段や廊下の補修などの大規模修繕の費用を借り入れることができます。

住宅金融支援機構のマンション共用部リフォーム融資では、融資対象の工事の100%の融資が可能です。(もちろん、借入をするための条件や基準があります)。

融資対象の工事は以下の通りです。

  • 耐震改修工事
  • 機械式駐車場解体工事
  • エレベーター取替工事
  • 給排水管取替工事
  • アスベスト対策工事
  • 玄関またはサッシ取替工事
  • 断熱化工事

「マンション共用部リフォーム融資」の条件を満たせない場合、民間の金融機関からの借り入れが視野に入ります。

民間の金融機関は、住宅金融支援機構と比べて手続きが簡単という特徴があります。
住宅金融支援の基準では借入できない場合も、民間の金融機関なら融資が可能な場合もあるようです。

2025年まで建物部分の固定資産税が減額に

2023年、老朽化マンションが急激に増えると見込まれる中、政府はマンションの修繕を促すため、一定の条件で修繕を行った場合に、2025年まで固定資産税を軽減すると発表しました。

マンションの長寿命化に資する大規模修繕工事が行われたマンションに対する固定資産税の減額制度で、工事完了後3カ月以内の申告が必要です。

マンションの老朽化対策

今後、老朽化を迎えるマンションは、どのような対策を行えばいいのでしょうか。

ひとつづつ見ていきましょう。

長期修繕計画・修繕積立金の現状を確認

長期修繕計画は法令や建築技術が5年程度で変更されることが多いため、5年ごとの見直しが適切であるとされています。

長期修繕計画は、10年から30年スパンで計画し、5年ごとの定期的な点検が推奨されています

また、修繕積立金が適切にプールされているのかも把握しましょう。

修繕積立金の値上げを回避するため、コスト削減を行う

修繕積立金はマンションを所有している間、ずっと同じとは限りません。

マンションの老朽化や、資材の高騰など、値上げの懸念要素は多いでしょう。

修繕積立金の積み立て方法は2種類あり、管理組合がどのように行っているかを知ると、より修繕積立金の値上げの必要性、値上げに対する考えが理解できるでしょう。

段階増額積立方式その時点で必要とされる修繕積立金を所有者が負担するという考え
均等積立方式マンションが生涯必要になる修繕積立金をあらかじめ算定し、いつの時点でも負担が均等となるように毎月の修繕積立金を決める

段階積立方式は、当初の金額を低く抑えることはできますが、段階的な増額に住民の合意が得られない場合があり得ます。

したがって、国土交通省は均等積立方式を推奨していますが、均等積立方式を採用したとしても、定期的にチェックし、値上げの必要性を考える事が大切です。

また、管理費に無駄な支出がないか、定期的に確認を行うと、より適切に資金を運用することが可能です。

今後の修繕計画おいてセカンドオピニオンの採用を検討する

修繕計画はじっくり行い、着実に実行に移しましょう。

管理組合だけでは修繕に対する知識、掛かる費用の相場を全体的に理解し、実行に移すのは少し難しいと考えます。

なぜなら、管理組合はマンションの区分所有者によって構成されていて、特段修繕に対するプロではありません。

マンションに入っている管理会社にもよりますが、担当の方の実績の不足も考えられ、あらゆる角度で修繕工事を考えるには1社のみに頼るのは少々不安です。

特に大規模修繕では大きなお金を運用するので、今後の修繕計画にも大きな影響をもたらすことは間違いはないでしょう。

セカンドオピニオンを採用し、適切な価格で適切な箇所に、適切な施工を施せれば、建物の寿命も延長でき、次への修繕計画も立てやすくなるでしょう。

では、セカンドオピニオンをはどのようなところに求めるべきなのか、いくつか挙げてみました。

  • 総合建設会社
  • マンションの改修に特化している建設会社
  • 修繕に強い建築士事務所
  • 第三者の建物管理会社

複数の会社で見積もりを取ることで費用の相場も分かってきたり、何らかの意見を貰えることが期待できます。

1社のみの考えで改修工事を進めるのではなく、複数の意見を取り入れながら修繕計画を立てましょう

いずれ値上げが必要であれば、少しずつ修繕積立金の値上げを検討する

修繕積立金の値上げには、区分所有者の過半数の合意が必要です。

必要な修繕はマンションの寿命を健全に長くし、資産価値の維持にもつながります。

そのためにも、マンションの修繕の必要性、問題の放置の危険性の把握し、区分所有者への認知・共有が必要です。

まとめ

この記事では、マンションの老朽化がもたらす問題、また対策を紹介してきました。

老朽化マンションを考えるうえで、大切なポイントは以下の通りです。

  • 現状、日本のマンションの20%が築40年以上で、今後も増加していく
  • マンションの老朽化と高齢化は比例し、予算確保が難しくなる
  • マンションの老朽化を放置すると、生活や身体に危険が及ぶことも
  • 修繕の予算が足りない場合は借入が可能
  • マンションが老朽化する前に対策すると、おこりうる問題を軽減できる

購入時は考えてもいなかったマンションの老朽化問題は、年々深刻になっています。

皆さんの大切な財産の資産価値を守るためにも、他人事と捉えず、自分事として考えて事前の対策を講じましょう

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