屋上やベランダの防水改修というと、防水塗料や防水シートを貼る作業を想像する方が多いのではないでしょうか。
しかし、防水塗料や防水シート以外にも重要な工程はたくさんあり、そのひとつが改修用ドレン(皿)の設置です。
そこで今回は、改修用ドレンとは何かや、種類、施工方法まで詳しく解説します。
目次
防水工事の見積もりに必ず入っている「改修用ドレン」とは?
改修用ドレンとは、雨水などを排水するための装置で、防水工事の際に排水口に取り付ける部材を指します。
床スラブや壁の勾配が最も低い位置に穴を開け、そこに差し込むものです。
このため、交換するとなると躯体を傷つけて既存のドレンを撤去しなければならず、大掛かりな工事となり、さまざまなリスクが高まります。
実際、国土交通省が作成した「公共建築物改修工事標準仕様書」によれば、既設排水管を撤去する際には、以下のようにしなければならないとされています。
「地上の既設保護層を残し、補修ドレンを設置しない場合は、ルーフドレンの端部から500mm程度まで、保護コンクリート等の既設保護層を長方形状に撤去」
参考:公共建築改修工事標準仕様書(建築工事編)2020年版
既存保護層を撤去すると、雨漏りのリスクが高まります。
このリスクをなくすために生まれたのが「改修用ドレン」です。
防水改修時に、既存のドレンに内径の小さいドレンを挿入することで、ドレン周辺を解体・撤去することなく、排水能力を更新することができます。
改修用ドレンの種類
改修用ドレンと一口に言っても、形状や大きさ、材質にはいくつかの種類があり、防水工事会社は現場に合った材質を選ぶ必要があります。
形状の種類
改修用ドレンには、縦型と横型の2種類があります。
縦型ドレン
排水効率が良く、ドレン周辺に問題が起こりにくいと言われています。
また、縦型ドレンは横型ドレンに比べ、排水を25%以上効率よく流すことが可能です。
さらに、ドレンや防水層が剥がれても水が逆流しない限り漏水することはありません。
ただし、床に設置すると目皿(ストレーナー)が邪魔になる場合があります。
横型ドレン
横型ドレンは、壁に穴をあけて排水するため、縦型ドレンと比較して活用可能な床面積が広くなります。
ただし、縦型ドレンに比べて排水効率が極端に悪い点がデメリットです。
既存のドレンがどちらのタイプかによって、縦型と横型を使い分ける必要があります。
サイズの種類
改修用ドレンは既設排水管に差し込んで設置するため、既設排水管より内径が小さいものを選ばなければなりません。
既設ドレンは屋根の面積などに応じて選定され、面積が広い場合は太いドレン、狭い場合は細いドレンが使用されます。
日本空調衛生工学会が作成した「給排水衛生設備基準(SHASE-S 206)」によると、既設ドレンは50~200φが推奨されています。
改修用ドレンの種類も、これに対応したサイズです。
材質の種類
改修用ドレンは主に鉛製、銅製、塩化ビニール製に分類されます。
それぞれ特徴が異なり、優劣はないため、現場の状況に応じて最適なものを選ぶことがポイントです。
ここでは、素材の種類別の特徴を簡単に紹介します。
鉛製ドレン
鉛は銅と同様に軟らかい金属で変形が可能なため、改修用の排水管に使用されます。
しかし、異種金属(既設排水管)の材質との相性によっては腐食する場合があります。
銅製ドレン
既存の形状に合わせて変形させることができるため、改修用ドレンに使われます。
鉛ドレンに比べ、異種金属間で発生する接触腐食の影響を受けにくく、酸性雨にも強いです。
塩化ビニールドレン
塩化ビニールシート専用のドレンで、塩化ビニールシートと融着して取り付けます。
改修用ドレン周りから漏水する原因
改修用ドレン周りから漏水している場合、接合部やパイプの亀裂が原因になっている可能性が高いです。
ここでは、改修用ドレンから漏水している際の主な原因を紹介します。
接合部の不具合
ドレンと表面防水材(塗膜防水)の接合部は、温度変化や直射日光による伸縮、地震で建物が振動する力により、徐々に劣化します。
また、日中の紫外線や冬場の凍結乾燥により弾力性が失われ、接合部の不良により漏水が発生することがあります。
パイプの亀裂
横型ドレンで多い漏水の原因は、パイプの亀裂です。
外壁の内側を通るパイプは、エルボと呼ばれる曲がり部を通過し、外壁の外側にある縦パイプに接続されています。
しかし、強風や地震の揺れで縦パイプと横パイプの動きが異なるため外壁によって動きが制限されます。
結果、横パイプに力が加わり、亀裂が入り、雨漏り・漏水につながるケースも多いです。
改修用ドレンを修理しないリスク
改修用ドレンには、落ち葉や大きなゴミが入らないように目皿(ストレーナー)というカバーがついています。
しかし、ストレーナーがゴミや落ち葉で詰まってしまうと、雨水の逃げ場がなくなってしまいます。
改修用ドレンは、排水不良が続くと排水管や継ぎ手が錆びて劣化し、水漏れにつながることもあるでしょう。
もちろん、屋上やベランダに水があることが雨漏りのリスクになります。
防水加工が施されていても、プールのように長時間水に浸けることは想定されていないのです。
長時間水に浸けておくと、防水層が膨張して破損の原因になります。
また、コケや藻、カビが繁殖すると、再びストレーナーを塞いでしまい、水が排出されないという悪循環に陥ります。
結果、コケや藻、カビは下地の劣化を加速させるため、定期的な防水工事が必要です。
改修用ドレンの設置方法
ビルやマンションに多い鋳鉄製ドレンは、経年劣化で錆びます。
そのため、防水改修工事の際には、劣化したドレンの上に補修ドレンを設置し、排水能力をカバーします。
ここでは、具体的な工事の手順を見ていきましょう。
既存ドレンの形状・サイズの確認
防水工事の前には必ず現地調査を実施し、既存ドレンの内径を確認します。
内径に応じて適切なサイズの補修用ドレンを選定する必要があるためです。
撤去作業
まず、板状部品やカバーキャップ、周りの防水層を取り除き、防水層の上に土留めコンクリートを施工してある場合は、コンクリートを撤去します。
段差部の表面処理
周囲の防水層を撤去する際、段差(凹凸)が大きい場合は、適宜モルタルで補修して平滑にします。
改修用ドレンの設置・施工
改修用ドレンを既存ドレンに差し込みます。
銅製や鉛製の場合は、下地の形状に合わせてハンマーで叩いて変形させると、隙間なくきっちりはまります。
防水工事
改修用ドレンを下地に接着した後、上から防水層を塗布します。
最後に、ドレンキャップを被せて完成です。
ドレンキャップとは、落ち葉などの大きなゴミが雨樋に流れ込むのを防ぐために、改修用ドレンにかぶせる部品です。
板バネ(滑り止め)を改修用ドレンに差し込んで固定します。
防水工事が完了したら、最後にドレンキャップをかぶせて完了です。
防水層からの雨漏りは、ドレン周りのトラブルが原因であることが多いので、改修用ドレンの設置は防水補修の重要なポイントです。
適切に設置するだけではなく、ドレン周りの防水が弱い部分をきちんと補修する必要があります。
改修用ドレンは防水工事の重要な部品
ドレンは、屋上に降った雨水が集中する場所です。
そのため、適切なメンテナンスを行わないと、いくら防水層が正常でも雨漏りにつながります。
改修用ドレンのような小さな部分でも定期的に点検し、必要に応じた処置を行いましょう。