瑕疵担保責任(契約不適合責任)の期間は2年?宅建業者・個人売主で異なるルールを解説
2025/11/25
不動産取引においてよく耳にする「瑕疵担保責任(現在は契約不適合責任)」。中でも「期間は2年」と言われることが多く、この数字がひとり歩きしている印象もあります。
しかし、実際には売主が個人か宅建業者か、新築か中古かなどによって大きく異なる点があり、誤解したまま契約を進めるとトラブルに発展するリスクがあります。
この記事では、「瑕疵担保責任」という言葉の正確な意味や、現行の民法でどう扱われているか、そして「2年」とされる期間がどのようなケースに該当するのかを詳しく解説します。
買主・売主の双方が正しい理解を持つことで、不要なトラブルを未然に防ぐことができます。
目次
瑕疵担保責任(契約不適合責任)とは?民法改正で変わった“売主の責任”
契約不適合責任は、2020年4月の民法改正により、従来の「瑕疵担保責任」から名称と内容が変更された新しい概念です。これにより、売主が不具合を把握していなかった場合でも、契約の内容と一致しない事実があれば責任を問われることがあります。
もともと瑕疵担保責任とは「隠れた欠陥」がある場合に限って売主が責任を負う仕組みでしたが、改正民法では「契約内容に適合していない状態」全般に責任が生じるようになりました。
つまり、契約書に記された内容と異なる場合や、説明された条件と違っていた場合も対象となります。これには建物の性能・構造に関するものだけでなく、設備の不具合や権利関係の不整合なども含まれます。
この改正によって、売主にとっての責任範囲は広がった一方で、買主の保護が強化されたのが特徴です。売買契約が成立した後でも、「契約通りでない」という理由で損害賠償や契約解除を求められるリスクが高まったといえるでしょう。
瑕疵担保責任(契約不適合責任)に該当する主なケース
- 雨漏り・シロアリ被害・傾きなどの構造的欠陥
- 配管の老朽化による水漏れや詰まり
- 土地に埋設物が残っていた(廃材・古井戸など)
- 契約時に説明されなかった越境や境界問題
- 登記簿上の面積と実測面積の大きな差異
こうした「不適合」が発覚した場合、買主は契約の解除、代金減額、損害賠償などを請求する権利があります。特に住宅購入は人生の中でも高額な取引となるため、こうした問題は大きな損失につながる可能性があります。
瑕疵担保責任(契約不適合責任)の“2年”ルールとは?適用範囲を正しく理解しよう
「瑕疵担保責任は2年間」という表現は不動産実務でも頻出ですが、これは正確には“宅建業者が売主となる場合に限り適用されるルール”です。法律によって責任期間の定め方が異なるため、それぞれの根拠を理解しておくことが重要です。
民法|基本は「1年以内の通知」が原則
民法では、買主が契約不適合に気づいた場合、「引き渡しから1年以内に通知すれば請求可能」と規定されています。この1年という期間は「除斥期間」と呼ばれ、原則として延長されることはありません。ただし、売主側が故意に不具合を隠していた場合には、不法行為に基づく損害賠償請求が可能なケースもあります。
また、実務ではこの1年という期間では不十分であるという声も多く、買主側の要望により「2年」「3年」といった特約を契約書に定めることも珍しくありません。逆に売主側の意向により期間を短縮することも可能ですが、買主の納得を得る必要があります。
宅建業法|業者売主の場合は「最低2年の責任」が義務
宅建業法では、宅建業者が売主となる不動産取引において、契約不適合責任の期間は「物件の引き渡しから2年以上」でなければならないと明記されています。この規定は、宅建業者が一般消費者に対して販売を行う場合にのみ適用され、業者間取引や個人間取引には該当しません。
この「2年」という期間は、設備や構造部分などにおいて不具合が表面化するまでに一定の時間を要することから定められており、宅建業者にとっては最低限の責任期間となります。
| 売主の区分 | 契約不適合責任の期間 |
|---|---|
| 宅建業者(法人・事業者) | 最低2年間(短縮不可) |
| 個人(一般売主) | 合意により任意設定(免責も可能) |
つまり、「2年ルール」は宅建業者向けの最低保証期間を意味しており、すべての売主に当てはまるものではありません。あくまで法律で義務化されているのは宅建業者のみであり、その他の売主は契約上の取り決めに基づいて柔軟に対応することができます。
売主の立場別|瑕疵担保責任(契約不適合責任)の違いを具体的に解説
瑕疵担保責任(契約不適合責任)に関する規定は、売主の立場や属性(宅建業者か個人か)によって大きく変わります。
取引の性質や背景によって適用される法律、責任の重さ、義務の有無が異なるため、売主ごとの法的責任の違いを理解することは、不動産売買のリスクを抑えるうえで極めて重要です。
ここでは、宅建業者・個人・任意売却という3つの売主形態に分けて、それぞれの瑕疵担保責任(契約不適合責任)の違いと注意点を詳しく解説します。
宅建業者が売主の場合|「2年以上」が法律で義務付けられる
宅地建物取引業者(いわゆる不動産会社など)が売主となる場合、瑕疵担保責任(契約不適合責任)については「宅建業法」により厳格なルールが定められています。特に重要なのは、買主が個人である場合に限って「引き渡しから2年間以上」責任を負うことが法律上の義務になっている点です。消費者保護を目的としており、法律で明確に最低責任期間が定められています。
この2年という期間は、住宅の構造や設備などに潜む不具合が時間経過によって発覚するケースも多いため、妥当な保護期間として設定されています。注意点としては、契約書で責任期間を短縮して1年などと記載していても、これは無効とみなされ、法定の2年が優先される点です。
さらに、宅建業の免許を持っていない法人や個人事業者が売主となる場合には、この規定は適用されません。業者間取引や投資用不動産の売買などでは、別のルールが適用される可能性もあります。
- 法律根拠:宅地建物取引業法第40条
- 買主が個人の場合に限り適用される消費者保護規定
- 期間の短縮は不可(契約特約で1年と記載しても無効)
個人が売主の場合|合意により免責・短縮が可能
個人間での不動産売買では、瑕疵担保責任(契約不適合責任)の期間や内容について、民法をベースにしながらも、当事者間の合意によって柔軟に設定することが可能です。中古物件が主です。宅建業法のような「2年ルール」の縛りはないため、売主・買主が合意すれば、次のような形で責任の限定が可能となります。
- 引き渡し後3ヶ月以内の不具合のみ対応(短期保証型)
- 引き渡し後の責任は負わない(完全免責型)
- 建物部分は3ヶ月間対応、土地の瑕疵は免責(部分免責型)
- 責任は負うが、補修対応のみに限定(範囲制限型)
ただし、買主の立場ではこうした特約に対して慎重になる傾向があり、インスペクション(住宅診断)結果の提示や価格の譲歩など、安心材料の提示が求められることが多いです。
また、免責特約を設定していたとしても、売主が事前に不具合を知っていたにも関わらず、それを説明しなかった場合には、「不法行為責任」や「詐欺的売買」として瑕疵担保責任(契約不適合責任)が発生する可能性もあります。情報開示と透明性が大切です。
任意売却の場合|原則として責任は免除されるが注意も必要
任意売却とは、住宅ローンなどの支払いが困難になった所有者が、金融機関の合意を得て物件を市場で売却する手続きのことを指します。このような事情のある売主に、瑕疵担保責任(契約不適合責任)を問うのは現実的ではないため、原則として任意売却では売主の責任は免除されることが一般的です。
ただし、「責任を免除される=何をしてもよい」というわけではありません。たとえば売主が知っていた欠陥を故意に隠して売却した場合、免責特約があっても無効とされ、損害賠償や契約解除につながる可能性があります。したがって、任意売却であっても物件状況の説明責任や、簡易的なインスペクション(住宅診断)を通じた可視化は重要です。
また、任意売却は通常の売買よりも価格が低く設定されるため、買主は価格メリットを享受する代わりにリスクを理解する必要があります。信頼できる不動産会社の仲介を通じて、契約内容の確認とリスク整理を行うことが望まれます。
新築住宅は“2年”ではなく“10年”?品確法と瑕疵担保履行法の理解
「瑕疵担保責任(契約不適合責任)の期間は2年」という表現は主に中古住宅に関して使われますが、新築住宅には別の法的保護があります。それが、「品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)」と「住宅瑕疵担保履行法」の2つです。
これらは、住宅の品質と安全性を守るために制定された法律であり、構造上の主要部分などについては、最低10年間の瑕疵担保責任(契約不適合責任)を売主が負うことが義務付けられています。
品確法とは?|基本構造部分の10年保証を義務化
品確法では、新築住宅の「基本構造部分」(基礎、柱、梁、屋根など)について、10年間の保証責任が課せられます。この規定は売主が個人か法人かを問いません。たとえ売主が小規模な工務店や個人であっても、10年間の責任を免除することはできません。
この法律により、消費者が安心して新築住宅を購入できるようになり、住宅の品質基準向上にもつながっています。もちろん、契約書上で10年未満の責任期間を設定しても無効となります。
住宅瑕疵担保履行法|保険または供託で支払い能力を担保
新築住宅を販売する売主には、単に10年保証をするだけではなく、その責任を実際に履行できる資金的裏付けも求められます。これを制度化したのが「住宅瑕疵担保履行法」です。
売主は、住宅瑕疵担保責任を履行するために、以下のいずれかの措置を取らなければなりません。
- 瑕疵担保責任保険(専門の保証会社との契約)
- 法務局への供託金預託(現金を預ける形)
これにより、仮に売主が倒産しても、保険金や供託金によって修復費用が補填され、買主の不利益を最小限に抑えることができます。買主から見れば、非常に安心できる制度といえるでしょう。
| 法律名 | 内容 | 対象 |
|---|---|---|
| 品確法 | 基本構造部分の10年保証を義務化 | 新築住宅全般 |
| 瑕疵担保履行法 | 修復費用の資金的担保を義務化(保険 or 供託) | 売主(事業者) |
瑕疵担保責任(契約不適合責任)のトラブルを回避するためのチェックポイント
瑕疵担保責任(契約不適合責任)の期間や責任範囲を巡るトラブルは、契約書の不備や双方の認識のズレによって生じるケースがほとんどです。
そのため、売主・買主の双方が契約前にしっかりと確認・合意し、必要に応じて書面で明文化しておくことが、トラブル回避の第一歩となります。
売主側のチェックポイント
- 責任期間を契約書に正確に記載しているか
- 特約の内容が買主に正しく説明されているか
- 瑕疵の認識がある場合は事前に開示しているか
- インスペクション(住宅診断)を事前実施し、物件状態を把握しているか
また、売主がプロ(宅建業者)である場合、説明義務違反が損害賠償請求の根拠になることもあります。特約で責任を限定する場合も、口頭説明のみではなく書面に残すことが大切です。
買主側のチェックポイント
- 契約書や重要事項説明書の責任期間を確認しているか
- インスペクション(住宅診断)を活用して物件状況を把握しているか
- 購入前の質問や疑問点を明確に解消しているか
- 不適合が発覚した際に速やかに通知する準備があるか
さらに、瑕疵担保責任(契約不適合責任)は「通知期限」が設けられており、引渡しから一定期間を超えてしまうと請求が認められないことがあります。トラブルの芽は早めに対処することが鉄則です。
瑕疵担保責任(契約不適合責任)に関するよくある質問(FAQ)
瑕疵担保責任(契約不適合責任)の期間や内容について、現場ではさまざまな疑問が持たれています。
ここでは、実務上よくある質問に対し、宅建業法・民法・関連制度を踏まえた明確な回答を用意しました。
Q1. 個人売主でも瑕疵担保責任(契約不適合責任)は「2年」必要?
いいえ、個人売主には「2年」という法律上の義務はありません。宅建業者にのみ適用される宅建業法の規定であり、個人間の売買では民法に基づいて任意に期間を設定できます。
ただし、買主との信頼関係を築く意味でも、一定期間(例:3ヶ月~6ヶ月程度)の責任を設けるケースが多く見られます。
Q2. 免責特約を付けたら、すべての責任を回避できる?
原則として可能ですが、例外があります。売主が「不具合の存在を知っていたにもかかわらず告げなかった」場合は、たとえ免責特約があっても無効になる可能性があります。
これは不法行為責任や信義則違反として扱われ、損害賠償の対象となることもあるため注意が必要です。
Q3. 瑕疵担保責任(契約不適合責任)の請求期限はいつまで?
民法上は「引き渡しから1年以内に通知」が原則です。つまり、買主が不具合に気づいた時点で速やかに売主に通知する必要があります。
ただし、宅建業者が売主の場合には「2年以上」の責任期間が保証されているため、その間は請求が可能です。特約によりこの期間を延長することも可能です。
Q4. マンションの場合、共有部分に問題があったら誰が責任を負う?
マンションの共有部分(廊下・エントランス・屋上など)の不具合は、通常管理組合が対応します。
瑕疵担保責任(契約不適合責任)は基本的に専有部分(室内空間)に限定されるため、売主が責任を負う範囲は原則として室内に限られます。ただし、共有部分に問題があることを売主が知っていた場合には説明義務が生じます。
Q5. 新築住宅で10年保証の対象になる“基本構造部分”とは?
品確法により10年保証の対象となる「基本構造部分」は、主に以下の部位が該当します。
- 基礎
- 柱・梁など主要な構造材
- 屋根・屋根下地
- 外壁(構造耐力上主要な部分)
これらに瑕疵があった場合、売主は10年間責任を負うことになり、保証保険や供託制度によって修復費用がカバーされます。
瑕疵担保責任(契約不適合責任)の期間が「2年」の意味|まとめ
不動産売買における「瑕疵担保責任(契約不適合責任)」の期間が2年というルールは、宅建業者が売主の場合に限って法律で義務付けられている最低期間であり、すべての取引に一律で適用されるものではありません。実務では誤解が多いため、正確な理解が重要です。
主なポイントは以下のとおりです。
- 「2年」は宅建業者にのみ適用される最低責任期間
- 個人売主は責任の有無や期間を買主との合意で自由に設定可能
- 民法では「1年以内の通知」で請求できる原則がある
- 新築住宅は「品確法」により基本構造部分は10年間の保証義務あり
- 契約不適合責任の内容と期間は契約書に明確に記載することが重要
このように、売主の立場・物件の種類・適用される法律によって責任の範囲や期間は大きく異なります。とくに個人間取引では契約内容の明文化がトラブル防止の決め手となります。
「2年」という数字だけにとらわれず、状況に応じた適切な設定と確認が求められます。