
マンションの大規模修繕で欠かせない「足場」とは?種類や選び方から注意点まで解説
2025/10/21
マンションの大規模修繕では、外壁や屋上防水、鉄部塗装などさまざまな工事が行われます。
その際に欠かせないのが「足場」の設置です。足場は職人の安全を守るだけでなく、工事の品質や進行にも大きく関わる重要な設備です。
しかし、足場の種類や費用、設置中の注意点を詳しく知っている方は多くありません。
この記事では、足場の役割や種類、費用相場、設置中の防犯対策などをプロの視点でわかりやすく解説します。
マンションの管理組合やオーナー、居住者が安心して修繕を進めるための基礎知識として、ぜひ参考にしてください。
目次
大規模修繕における足場の役割と重要性
足場は、大規模修繕工事の中でも最も重要な仮設設備の一つです。
安全確保だけでなく、施工品質の安定や作業効率にも直結します。
ここでは、足場が果たす具体的な役割とその重要性について、わかりやすく解説します。
足場が果たす3つの目的
大規模修繕工事で足場を設置する主な目的は次の3つです。
- 安全性の確保:高所作業時の転落や落下事故を防止し、作業者と居住者双方の安全を守る。
- 作業効率の向上:資材の運搬や移動をスムーズにし、工期短縮とコスト削減につなげる。
- 品質の確保:安定した足元で丁寧な施工を行うことで、塗装ムラや防水不良を防止する。
このように、大規模修繕における足場は工事の安全性・効率性・品質をすべて支える不可欠な存在です。
外壁・防水・塗装工事に足場が必要な理由
大規模修繕で行われる外壁改修や防水工事、鉄部塗装には必ずといってよいほど足場が必要です。
足場を設置する主な工事例
- 外壁塗装工事(塗装の均一化と品質確保)
- 屋上・バルコニー防水工事(高所作業の安全確保)
- シーリング・ひび割れ補修工事(細部施工のための作業性向上)
- 鉄部塗装や配管補修などの共用部改修
特に外壁塗装では、職人が建物全体を均一に塗るためには一定の高さと距離を確保する必要があります。
足場を組むことで、細部までしっかりと施工ができ、仕上がりの品質が向上します。
また、防水工事では、雨漏り箇所の確認や補修を安全かつ確実に行うために足場が欠かせません。
足場の安定性は、工事の精度と建物の耐久性を左右する要素でもあります。
足場設置を怠ると起こるリスクと法的義務
足場を設置せずに高所作業を行うことは、極めて危険です。
転落事故や資材落下による第三者への被害など、多くのリスクが伴います。
建設業法や労働安全衛生法では、一定の高さを超える作業を行う際には足場の設置が義務付けられています。
もし足場を設けずに工事を進めて事故が発生した場合、施工業者や発注者が法的責任を問われる可能性もあります。
つまり、足場は安全を守るための「選択肢」ではなく「必須条件」です。
大規模修繕における足場の設置は、工事成功の第一歩といえるでしょう。
足場の種類と特徴を理解しよう
「足場」といっても、その種類や構造にはさまざまなタイプがあります。
建物の高さや形状、周辺環境によって最適な足場は異なります。
ここでは、大規模修繕でよく使われる代表的な足場の種類と特徴を比較しながら解説します。
枠組足場(ビケ足場・楔式足場)の特徴と主な用途
枠組足場(ビケ足場・楔式足場)は、現在の大規模修繕工事で最も一般的に使用されているタイプです。
鋼製のフレームを組み合わせる構造で、強度と安定性に優れています。
設置・解体が比較的スムーズで、短期間の工事にも向いています。
安全性が高く、住宅や中高層マンションの外壁修繕、防水工事など幅広い現場で採用されています。
また、施工中に揺れが少ないため、作業者のストレス軽減にもつながります。
大規模修繕における足場の中でも、最もバランスの取れた選択肢といえるでしょう。
単管足場の構造と中小規模物件での活用例
単管足場は、鉄パイプ(単管)をクランプで固定して組み上げる足場です。
構造がシンプルなため、狭い場所や形状の複雑な建物でも柔軟に対応できます。
一方で、強度や安定性は枠組足場より劣るため、主に低層マンションや部分補修などの小規模な大規模修繕工事に使われます。
費用が比較的抑えられる点も魅力ですが、設置には熟練の技術が必要です。
安全確保のためには、専門業者による適切な施工が不可欠です。
ゴンドラ足場の特徴と高層マンションでの採用事例
ゴンドラ足場は、タワーマンションや高層ビルの修繕工事に適した方式です。
上部からワイヤーで吊り下げる仕組みで、建物の外壁を上下に移動しながら作業します。
地上にスペースを確保できない都市部や狭小地での大規模修繕にも向いています。
また、足場の設置・撤去にかかる時間が短く、工期短縮にも貢献します。
ただし、風の影響を受けやすいため、天候や安全管理に注意が必要です。
足場費用は高めですが、高層マンションでは効率的な選択となります。
移動式昇降足場の特徴
移動式昇降足場は、作業床を上下に動かせる昇降機構を備えた足場で、外壁補修やサッシ交換など、特定の高さで集中的に作業を行う現場に適しています。
固定式足場と違い、建物全体に足場を組む必要がないため、省スペースで設置でき、作業効率が高いのが特徴です。
操作もシンプルで、安全装置が搭載されているため、狭小地や短期間の工事でも柔軟に対応できます。
また、昇降の高さを自在に調整できるため、作業員が無理な姿勢を取らずに施工でき、品質の安定にもつながります。
コストも比較的抑えられ、部分補修や中規模修繕に最適な足場です。
足場の種類と特徴まとめ
足場の種類 | イメージ | 主な用途・特徴 | 向いている建物 | 費用の目安 |
---|---|---|---|---|
枠組足場(ビケ・楔式) | ![]() | 高強度・安定性が高く、標準的な足場 | 中~高層マンション・ビル | 中価格帯 |
単管足場 | ![]() | 狭小地や複雑形状に対応。強度はやや低い | 低層マンション・部分補修 | 低価格帯 |
ゴンドラ足場 | ![]() | 吊り下げ式で高層建物に最適。設置が早い | タワーマンション・高層ビル | 高価格帯 |
移動式昇降足場 | ![]() | 上下移動式で小規模修繕に便利 | 中層マンション・局所補修 | 中価格帯 |
足場設置にかかる費用と相場
足場工事は大規模修繕の中でも費用割合が大きく、全体コストの約2〜3割を占めることもあります。
建物の規模や形状、足場の種類によって金額は異なりますが、相場を知っておくことで見積もり内容の妥当性を判断しやすくなります。
ここでは、大規模修繕における足場の費用目安と、コストを抑えるためのポイントを解説します。
足場設置費用の目安(1㎡あたりの単価と総費用)
一般的なマンションの大規模修繕では、足場設置費用は1㎡あたり800円〜1,200円が相場です。
建物の規模別足場設置費用の目安表
建物規模・階数 | 延べ床面積の目安 | 足場設置費用相場 | 備考 |
---|---|---|---|
小規模マンション(3階建以下) | 約1,000㎡ | 約80万〜120万円 | 単管足場など低コスト型が中心 |
中規模マンション(4〜6階建) | 約3,000㎡ | 約240万〜360万円 | 枠組足場が一般的で費用効率が良い |
高層マンション(10階以上) | 約5,000㎡〜 | 約500万〜700万円 | ゴンドラ足場を併用するケースも多い |
このように床面積3,000㎡の中規模マンションの場合、総額で240万〜360万円程度が目安となります。
これには資材費、運搬費、組立・解体費が含まれます。
形状が複雑な建物や高層物件の場合は、安全対策や仮設費が追加され、1.5倍以上になることもあります。
建物規模・形状によって費用が変わる理由
足場費用は単純な面積計算だけでは決まりません。次のような条件によって変動します。
- 建物の高さや階数:高層になるほど組立手間と安全対策費が上昇。
- 立地条件:道路に面しているか、隣接建物との距離が狭いかによって設置難易度が変化。
- 外壁形状やバルコニー数:凹凸が多いほど足場量が増加。
- 使用する足場の種類:枠組足場・ゴンドラ・移動式でコストが異なる。
これらを踏まえて複数業者から見積もりを取り、内容を比較することが大切です。
見積もりで注意すべき項目
足場工事の見積書では、「仮設足場費」「養生ネット費」「諸経費」などの項目をよく確認しましょう。特に注意すべきポイントは次の3点です。
- 仮設足場費:足場資材の組立・解体・運搬に関わる基本費用。
- 養生ネット費:塗料や粉塵が外に飛散しないようにするための防護ネット設置費用。
- 諸経費:交通誘導員や安全管理費、資材保険などの間接コスト。
見積書の内訳を明確にしてもらうことで、不明瞭な追加請求を防ぐことができます。
コストを抑えるためのポイントと比較のコツ
- 複数社に相見積もりを取る:金額差だけでなく、工事範囲・安全対策の内容も比較。
- 共通仮設を共有する:外壁塗装や防水など複数工事で同じ足場を利用することで効率化。
- 施工時期を調整する:繁忙期(春・秋)を避けると割安になる場合もある。
- 信頼できる業者を選ぶ:極端に安い見積もりは安全性に不安が残るため要注意。
足場設置から解体までの流れと工期の目安
足場の設置から解体までは、工事全体の進行に合わせて慎重に計画されます。
安全性を保ちながら効率よく作業を進めるためには、各工程の流れを理解しておくことが重要です。
ここでは、大規模修繕における足場の設置手順と工期の目安を紹介します。
工事前準備と安全確認のステップ
足場設置工事を安全かつスムーズに進めるためには、事前準備が非常に重要です。
ここでは、工事開始前に行うべき主要なステップとそれぞれの目的を解説します。
Step1.現地調査
足場設置の第一歩は現地調査です。建物の高さ、形状、立地条件、周囲の障害物などを詳細に確認します。
特に狭小地や高層マンションでは、資材の搬入経路や足場の組立スペースの確保が課題となるため、慎重な調査が必要です。
また、風向きや日照条件なども安全面に影響するため、これらの環境要因も考慮します。
現地調査で得た情報は、その後の設計・施工計画の基礎となります。
Step2.設計・計画書作成
現地調査の結果を踏まえ、安全基準に則った施工計画書を作成します。
設計段階では、作業動線や資材の配置、緊急時の避難経路なども明確化します。
また、労働安全衛生法に基づく安全管理計画や、第三者への影響を最小限に抑えるための対策も盛り込みます。
これにより、作業者が安心して作業できる環境を整え、トラブルや事故の発生を未然に防ぎます。
Step3.住民説明会
工事前には、居住者に向けた説明会を実施することが大切です。
足場設置のスケジュールや作業時間、騒音の発生、ベランダ使用制限など、生活に影響を与える事項を丁寧に説明します。
住民からの質問や要望に真摯に対応することで信頼関係を築き、トラブルを未然に防止できます。
説明資料や掲示物を活用して、誰もが理解できる形で情報を共有することがポイントです。
Step4.近隣対応・掲示
足場設置工事は、建物周辺の交通や騒音にも影響するため、近隣住民への配慮が欠かせません。
工事開始前に挨拶回りを行い、工期や作業内容を説明することで、不要なクレームを防ぐことができます。
また、現場周辺に工事案内の掲示を行い、歩行者や車両への注意喚起を行うことも重要です。
工事中も定期的に情報更新を行い、近隣への安心感を保ちましょう。
足場設置にかかる日数と作業手順
- 一般的な中規模マンション(4〜6階建):3〜5日程度。
- 高層マンション(10階以上):1〜2週間かかることも。
設置手順は、基礎部材の据え付け→柱・梁の組立→作業床設置→安全ネット設置→最終確認、という流れです。
工事完了後の解体・撤去までのスケジュール
工事完了後は、養生ネットや資材の撤去、安全確認を経て足場を解体します。
解体作業も設置と同様に慎重に行われ、平均的には3〜4日程度かかります。
特に注意すべきは、資材落下事故や周囲への粉塵飛散です。管理者は最後まで安全確認を徹底する必要があります。
天候・立地条件による工期の変動要因
雨天・強風などの悪天候は足場工事の大敵です。特にゴンドラ足場では強風により作業中止となるケースもあります。また、交通量の多い立地では作業時間が制限されることもあり、工期が延びる可能性があります。天候リスクを見越して、予備日を含めたスケジュール管理を行うことが大切です。
足場設置中の防犯対策
足場設置中は、外部からベランダや窓へ侵入しやすくなるため、防犯リスクが高まります。
大規模修繕工事では安全対策と同時に、管理組合・居住者・施工会社それぞれが協力して防犯意識を高めることが重要です。
ここでは、大規模修繕における足場で発生しやすい防犯リスクと具体的な対策を紹介します。
管理組合・オーナーができる対策
管理組合やオーナーは、工事全体の安全管理に大きな責任を負っています。
特に足場が設置されている期間は、防犯対策を徹底することで住民の安心感を高められます。
- 足場の出入り口を限定し、夜間は施錠・警備体制を整える。
- 監視カメラの設置や、既存カメラの死角確認を行う。
- 工事関係者以外が出入りしないよう、作業員の名札・制服着用ルールを徹底。
- 夜間照明やセンサーライトを設置して、不審者の侵入を抑止。
こうした取り組みを継続的に実施することで、トラブルや盗難を未然に防ぐことができます。
住民ができる対策
住民一人ひとりの意識も、防犯強化の大きなカギとなります。
特に低層階やベランダ側の住戸では、日常的な防犯意識を高めることが重要です。
- 在宅・不在にかかわらず、窓やベランダの施錠を確実に行う。
- 貴重品や洗濯物を外に出さないよう注意。
- 足場設置側の窓には、補助ロックや防犯フィルムを追加すると安心。
- 不審者を見かけた場合は、管理人や施工会社にすぐ報告。
小さな工夫でも、防犯意識を共有することで建物全体の安全性が高まります。
施工会社ができる対策
施工会社は、現場全体の管理者として防犯体制の整備を行う必要があります。
現場内での安全確保や外部侵入防止の仕組みを整えることが求められます。
- 夜間・休日の資材管理と巡回を徹底。
- 足場に「立入禁止」「関係者以外立入禁止」などの標識掲示を行う。
- 作業員の入退場管理台帳を設け、関係者以外の入場を防止。
- 防犯カメラ映像を管理組合と共有し、異常時に迅速対応できる体制を整備。
防犯面で信頼できる施工会社を選ぶことで、工事中も安心して生活できます。
大規模修繕の足場に関するよくある質問(FAQ)
ここでは、大規模修繕工事における足場設置でよく寄せられる質問に回答します。
実際の管理組合やオーナー、居住者から多い疑問を整理し、安心して修繕を進めるための参考にしてください。
Q1. 足場の設置にはどのくらいの期間がかかりますか?
A.建物の規模によりますが、中規模マンション(4〜6階建)では約3〜5日が目安です。
高層マンションでは1〜2週間かかることもあります。安全確認や天候によって前後するため、スケジュールには余裕をもたせましょう。
Q2. 足場設置中は洗濯物を干しても大丈夫?
A.足場に防護ネットが張られるため、塗料や粉塵が付着する恐れがあります。
工事中は屋外干しを避け、室内干しを推奨します。管理組合からの案内を事前に確認して対応しましょう。
Q3. 足場設置中の防犯は大丈夫?
A.足場を利用した侵入事件を防ぐため、夜間の照明・監視カメラ設置・出入口の施錠管理が行われます。
居住者も窓の施錠や防犯フィルム貼付など、個人での防犯対策を心がけると安心です。
Q4. 足場があると騒音や振動はどのくらいありますか?
A.組立・解体時には金属音や振動が発生します。通常は午前8時〜午後5時の作業が多く、休日作業は控えられることが一般的です。
事前に工事スケジュールを確認し、在宅時間帯を調整するとストレスを軽減できます。
Q5. 足場設置にかかる費用は補助金の対象になりますか?
A.一部の自治体では、耐震・省エネ改修に伴う足場設置が補助対象になる場合があります。
補助金制度は地域や年度によって異なるため、事前に自治体窓口または施工会社に確認しましょう。
まとめ
大規模修繕における足場は、安全性・作業効率・施工品質を左右する最も重要な基盤です。
足場の設置には相応の費用と工期が必要ですが、正しい知識を持つことで不要なコストを避け、安心して修繕を進められます。
また、防犯や騒音など生活面への影響を考慮し、住民・管理組合・施工会社が協力して安全管理を徹底することが大切です。
信頼できる業者選びと明確な情報共有を行うことで、トラブルを防ぎ、品質の高い修繕を実現できるでしょう。