マンションの大規模修繕とは?費用相場から工事内容や見積もり比較と成功のポイントまで解説

2025/07/24

マンションの大規模修繕工事は、建物の資産価値を守り、安全で快適な住環境を維持するために欠かせない取り組みです。外壁や屋上の防水、共用部の修繕などは時間とともに劣化が進み、放置すれば雨漏りや構造上の問題、居住者の生活に直結するトラブルへと発展します。

また、修繕工事には数千万円から数億円規模の費用がかかるため、管理組合やオーナーにとって大きな意思決定となります。さらに工事中は騒音や粉塵により居住者が体調不良を訴えるケースもあるなど、生活面への影響も無視できません。

本記事では、マンション大規模修繕工事基本、補修内容、費用や補助金、業者選定のポイント、管理組合や住民の役割、そして賃貸物件における修繕対応まで、幅広く解説します。実際に工事を検討する際の参考にしてください。

目次

マンションの大規模修繕工事の基本

ここでは、大規模修繕工事の基本的な考え方や実施時期の目安、さらに小規模な修理費との違いを整理します。基礎を押さえることで、計画の立て方や費用負担のルールが理解しやすくなります。

これらを理解しておくことで、将来の修繕積立金の不足や住民間のトラブルを未然に防ぎ、より円滑に修繕工事を進めることが可能になります。

大規模修繕の実施時期の目安(築12〜15年周期)

一般的には、築12〜15年を目安に1回目の大規模修繕を実施するのが望ましいとされています。国土交通省の「長期修繕計画作成ガイドライン」においても、この周期を基準に計画を立てることが推奨されています。

以降も15〜20年ごとに周期的に行うケースが多く、長期修繕計画として管理組合で合意形成を図ります。定期的な点検によって劣化の程度を把握し、必要に応じて前倒しで工事を行うこともあります。

参考元:国土交通省「長期修繕計画作成ガイドライン

マンション修理費との違い(小規模修繕との区別)

マンションの「修理費」というと住戸内の設備修理などを思い浮かべる方も多いですが、大規模修繕工事は建物全体や共用部分を対象とする点で異なります。

例えば、給湯器交換や壁紙張り替えは各住戸の修理費で対応する一方、外壁補修や防水工事は管理組合の積立金から支出されるのが一般的です。この区別を理解することは、費用負担のルールを明確にするうえで重要です。

マンション大規模修繕工事の目的

大規模修繕工事は単なる補修作業ではなく、長期的にマンションの価値や快適性を守るための重要な取り組みです。

ここではその具体的な目的を整理し、より深く掘り下げていきます。

資産価値の維持

マンションは時間の経過とともに必ず劣化していきますが、計画的に大規模修繕を行うことで資産価値を維持することが可能です。適切な修繕が行われているマンションは、売却や賃貸の際にも高く評価されるだけでなく、金融機関からの評価や融資条件にも良い影響を与えることがあります。

さらに、資産価値が維持されることで長期的に修繕積立金の不足を避けやすくなり、管理組合の安定運営にもつながります。

安全確保

外壁の剥落や階段の腐食などは、居住者や通行人に危険を及ぼす可能性があります。定期的な修繕でこうしたリスクを防ぐことは、安全な暮らしを守るうえで欠かせません。

また、耐震補強や手すりの強化、防滑処理などを併せて行うことで、地震や事故への備えとしての効果も高まります。安全性の向上は住民の安心感を育み、マンション全体の信頼性を向上させます。

美観回復

外観の美しさはマンションの印象を大きく左右します。外壁塗装や共用部の補修によって美観を回復することで、住みやすさだけでなく、将来的な入居希望者にとっての魅力向上にもつながります。

美観が整ったマンションは地域全体の景観にも良い影響を及ぼし、近隣物件との差別化を図る上でも有利に働きます。また、住民の満足度や愛着心を高める効果もあり、結果的に長期的な居住意欲やコミュニティの安定にも寄与します。

マンションの大規模修繕工事で行われる主な補修内容

大規模修繕工事では、外壁や屋上だけでなく、居住者の安全や生活の利便性に直結する部位が重点的に補修されます。

代表的な工事項目には、以下のようなものが挙げられます。

補修項目主な劣化症状補修方法効果・目的
コンクリートひび割れ鉄筋腐食・爆裂エポキシ樹脂注入、モルタル充填強度維持・落下防止
外階段錆・踏み板劣化防錆塗装、部材交換、滑り止め処理安全性確保・事故防止
外壁塗装・シーリングひび割れ、チョーキング、シーリング剥離塗装更新、シーリング打ち替え防水性回復・美観改善
屋上・バルコニー防水防水層劣化・漏水ウレタン・シート・アスファルト防水雨漏り防止・建物寿命延長

それぞれの、目的や内容について詳しくみていきましょう。

コンクリートのひび割れ補修(爆裂・鉄筋腐食対策)

コンクリートのひび割れは、雨水が浸入することで内部の鉄筋を錆びさせ、最終的には爆裂と呼ばれる剥離現象を引き起こします。これは落下事故の危険もあるため、早期の補修が不可欠です。

エポキシ樹脂注入やモルタル充填といった補修工法で劣化を抑え、建物の強度と安全性を確保します。さらに、ひび割れの幅や深さに応じて適切な工法を選定しなければ、コンクリートのひび割れの補修効果が長続きしない可能性があります。そのため専門的な診断を踏まえて工事を進めることが重要です。

外階段修繕と安全性の確保

外階段の修繕は、日常の利用に支障が出ないよう維持するためにも重要です。常に風雨や紫外線にさらされ、錆や劣化が進みやすい箇所である外階段の腐食が進めば、踏み板の破損や滑落事故につながりかねません。そのため、防錆塗装や部材交換、滑り止め処理といった修繕が必要です。

加えて、階段照明の改善や手すりの補強といった付帯工事を行うことで、より安全な動線を確保できます。高齢者や子どもが利用する環境においては、これらの小さな工夫が大きな安心感につながります。

外壁塗装やシーリング工事

外壁は建物の顔であり、同時に防水性を担保する役割を持っています。経年劣化によるひび割れやチョーキング現象、シーリング材の硬化や剥離は雨漏りの大きな原因です。適切な塗装とシーリング打ち替えによって防水性を取り戻し、美観も改善されます。

さらに、遮熱塗料や高耐久塗料を選択することで省エネ効果や長期的なコスト削減も期待できます。外壁の色合いを変えることで建物の印象を刷新し、入居希望者や購入希望者に好印象を与える効果もあります。

屋上やバルコニーの防水工事

屋上やバルコニーは最も雨水の影響を受ける箇所であり、防水層の劣化は漏水や構造体の腐食を招きます。ウレタン防水、シート防水、アスファルト防水などの工法が選択され、建物の寿命を延ばすために定期的な更新が行われます。

防水工事では施工後の保証期間も重要で、一般的に5〜10年程度の保証が付与されます。定期点検と再施工を計画的に行うことで、雨漏りリスクを大幅に低減し、安心して住み続けられる環境を維持できます。

賃貸マンションの大規模修繕工事

賃貸マンションにおける大規模修繕は、オーナーの資産管理と入居者の生活環境維持の両面で重要です。

ここでは費用負担の仕組みや入居者への影響、経営上の判断ポイントについて解説します。

賃貸物件での費用の仕組み

大規模修繕を賃貸物件で行う際の費用の仕組みは、以下のようになっていることがほどんどです・

  • 修繕費用の原則:オーナーが負担するのが基本
  • 共用部分の扱い:共益費が活用される場合あり、契約内容で異なる
  • 積立金:長期的な積立の有無でオーナー負担の重さが変動

オーナーは建物の維持管理を怠ると資産価値の低下につながるため、計画的な資金管理が不可欠です。積立不足を放置すると工事の延期や品質低下のリスクが高まるため、専門家と連携しながら安定した不動産経営を目指しましょう。

退去や空室リスクとオーナーの判断ポイント

工事の長期化や対応不足は入居者の不満につながり、退去や空室リスクを高めます。オーナーは工事の必要性と経営上の影響を慎重に判断し、信頼できる業者を選定することが重要です。

さらに、修繕後の物件価値向上や賃料設定の見直しによって長期的な収益改善が見込める点も考慮する必要があります。短期的なコスト負担にとらわれず、将来の資産価値維持・向上の観点から修繕を前向きに捉えることが、安定経営への近道となります。

大規模修繕工事が生活に与える影響とマンション住民ができる対策

工事は建物にとってプラスである一方で、居住者の生活に様々な影響を与えることも事実です。事前に理解し備えることで、不便やストレスを軽減することができます。

工事中の生活制限や不便さを想定し、準備を整えるめにもどのような影響があるのか理解しておくことが重要です。

大規模修繕工事が生活に与える影響:騒音・振動によるストレス

足場の組み立てや外壁のハツリ作業、防水層の撤去など、大規模修繕では大きな騒音や振動が発生します。在宅勤務や小さな子ども、高齢者がいる家庭では特に負担が大きくなるため、工程スケジュールを把握して生活リズムを調整することが大切です。

また、耳栓やノイズキャンセリング機器を活用したり、騒音が激しい時間帯に外出や買い物を予定するなど、現実的な対応策を考えておくと精神的負担を和らげることができます。

大規模修繕工事が生活に与える影響:ベランダ使用制限や洗濯物への影響

足場や養生シートが設置されると、ベランダが長期間使用できなくなります。洗濯物が外に干せない、窓を開けられないといった制限が生じるため、事前に室内干しの準備をするなど生活の工夫が必要です。

さらに、工事中は室内に湿気がこもりやすいため、除湿機やサーキュレーターを利用することで快適性を保つことができます。集合住宅の場合は隣戸同士の生活音が増えることもあるため、近隣とのコミュニケーションも重要です。

大規模修繕工事が生活に与える影響:粉塵や臭気による体調不良リスク

外壁補修や塗装、防水工事では粉塵やシンナー臭が発生することがあります。アレルギー体質や呼吸器に不安を持つ居住者が、マンションの大規模修繕による体調不良を訴えるケースも少なくありません。

工事会社による養生や換気対策に加え、住民自身も空気清浄機の利用などで対策を取ることが推奨されます。加えて、工事時間中は窓をできるだけ開閉せず、必要に応じてマスクを着用するなどのセルフケアも効果的です。こうした小さな配慮の積み重ねが体調維持につながります。

マンション住民ができる対策:工事説明会を踏まえた準備

工事前に実施される説明会は、生活への影響を把握し、疑問や不安を解消できる大切な場です。工事期間や制限事項を正しく理解し、生活スケジュールを調整することでストレスを最小限に抑えることができます。

説明会で配布される資料や掲示物は必ず確認し、不明点はその場で質問しておくと安心です。さらに、管理組合や工事業者との連絡体制を整えておけば、予期せぬ問題が発生した際にも迅速に対応できます。

マンション大規模修繕工事における管理組合と住民の役割

工事を成功させるには、管理組合と住民それぞれの役割を理解し、協力体制を築くことが不可欠です。

ここではマンション大規模修繕における管理組合の意思決定や修繕委員会の機能、透明性確保の重要性について解説します。

大規模修繕とマンション管理組合の関係(総会決議・合意形成)

大規模修繕工事は管理組合の総会決議を経て実施されます。合意形成を円滑に行うためには、計画段階からの情報共有と住民説明会が重要です。住民が安心して協力できる体制を整えることで工事の進行もスムーズになります。

さらに、総会での決議事項や議案書の内容を事前に分かりやすく配布し、専門家の意見を交えた説明を行うことで、住民の理解度が高まり合意形成がより確実になります。長期的な修繕計画や資金計画についても逐次公開することが望ましく、住民が自らの負担やメリットを把握できる環境を整えることが、トラブルを未然に防ぐ大きなポイントです。

修繕委員会の設置と役割

修繕委員会は工事の専門性を補完する組織として設置されます。工事内容や業者選定の検討、住民への情報発信などを担い、管理組合と専門家の橋渡し役となります。

透明性を高めるうえで欠かせない存在です。加えて、委員会が主体的にアンケートを実施したり、定期的に活動報告をすることで住民の意見を集約でき、より公正で実効性のある修繕計画が実現できます。

情報公開と透明性の確保

工事費用や業者選定過程を明確に開示することで、住民の信頼を得ることができます。議事録や見積書を公開することで不信感を防ぎ、合意形成を促進します。

さらに、オンライン掲示板や定期的なニュースレターなどを活用し、誰でも確認できる仕組みを整えると、情報の偏りや誤解を防ぐ効果があります。透明性が高まれば、住民が積極的に工事に参加する意識も芽生え、結果として工事の質や満足度の向上につながります。

マンション大規模修繕工事の費用相場

大規模修繕工事において最も関心が高いのが費用です。修繕内容や規模によって金額は大きく変動しますが、目安を知ることで資金計画を立てやすくなります。

ここでは、戸数別の費用相場を整理します。

戸数別の費用相場

マンション規模費用相場の目安特徴・ポイント
小規模マンション(30戸未満)約5,000万〜8,000万円規模が小さい分、足場費用や共用部分の範囲は限定されるが、1戸あたりの負担感は相対的に大きくなる傾向あり
中規模マンション(30〜100戸)約8,000万〜2億円戸数が増えることで共用部分の工事項目も増えるが、1戸あたりの負担は分散されやすく、資金計画に柔軟性あり
大規模マンション(100戸以上)2億円〜数億円工事項目が多岐にわたり工期も長期化しやすいが、1戸あたりの負担は比較的軽減される。外壁材や防水工法の選択で費用差大きい

これらはあくまで目安であり、外壁材や防水工法、地域の施工単価に加えて、設計監理方式を採用するか責任施工方式を選ぶかといった契約形態によっても変動します。

また、近年は物価上昇や人件費高騰の影響で費用が増加傾向にあるため、最新の相場を把握しておくことが重要です。

専有部分と共用部分での大規模修繕費用負担の違い

大規模修繕工事では、費用負担の範囲を正確に理解することが重要です。住民の混乱やトラブルを防ぐため、専有部分と共用部分の区別を明確にしましょう。

特に区分所有法や管理規約で定められているルールを確認しておくことが、無用な争いを避けるための第一歩となります。

専有部分と共用部分の比較表

区分主な範囲費用負担者留意点
専有部分各住戸の内部(壁紙、フローリング、キッチン、浴室、給湯器、エアコンなど)各居住者設備トラブルは原則として所有者が修繕。戸境壁や窓枠など境界部分は規約の解釈が重要。
共用部分外壁、屋上、防水層、エレベーター、バルコニーの防水層など管理組合(修繕積立金や工事資金)総会での承認や住民合意が必要。バルコニーや玄関扉などは専有・共用が混在するため過去事例や管理規約を参照。

専有部分と共用部分の区別を理解することは、費用負担を巡るトラブルを防ぎ、円滑な修繕計画の実現に直結します。管理規約や法的枠組みを踏まえた判断が重要です。

マンションの大規模修繕で活用できる補助金【2025年】

大規模修繕工事の費用負担を軽減する手段として、国や自治体が設ける補助金・助成金の制度があります。

ここでは、マンション大規模修繕で活用できる補助金制度を紹介し、申請の際に意識すべきポイントを整理します。

耐震改修助成

耐震性を高める工事に対して費用の一部を助成。特に築年数が古いマンションでは利用価値が高い制度です。

対象となる工事範囲や申請条件は自治体ごとに異なるため、事前に確認する必要があります。補助割合や上限額も異なるため、最新情報を調べて活用することが大切です。

参考元:国土交通省「建築物耐震対策

省エネ改修補助

断熱材導入や省エネ設備更新に対して補助。光熱費削減につながるため、長期的なコストダウン効果も期待できます。

さらに、省エネ改修は環境への配慮という社会的価値もあり、マンション全体の評価を高める効果もあります。省エネラベルや認証制度と組み合わせて利用すれば、より高い効果が得られます。

参考元:国土交通省「住宅リフォームの支援制度

各自治体独自の制度

外壁改修や防水工事に補助を設けるケースもあり、自治体によっては高齢者世帯や子育て世帯に優遇措置がある場合もあります。

自治体によっては補助対象を拡大し、耐震や省エネと組み合わせて包括的に支援しているところもあります。条件が細かく設定されていることも多いため、必ず事前に自治体の公式情報を確認することが重要です。

活用には事前申請や工事内容の条件があるため、早めに確認しておくことが重要です。加えて、補助金は予算枠が限られていることが多いため、募集開始後すぐに申請できるよう準備しておくと安心です。

修繕積立金の役割と資金不足時の対応

大規模修繕工事は修繕積立金を原資に行われます。しかし、積立金が不足するケースも少なくありません。

その場合の対応策を整理しておきましょう。積立金の仕組みや運用方法を理解しておくことで、将来の資金不足リスクを早めに察知し、事前に対応することが可能となります。

修繕積立金の役割

  • 計画的に積み立てて工事費用に充当
  • 将来の資産価値維持のための財源
  • 修繕計画の実現性を高め、安定した建物管理を可能にする

修繕積立金は、マンションの長期修繕計画に基づいて算出されるため、住民全体が継続的に拠出することで安定した資金源となります。

適切な額を積み立てていないと、工事が先送りされ建物劣化が進むリスクが高まります。

資金不足時の対応

修繕積立金が不足した場合、管理組合は複数の選択肢を検討する必要があります。それぞれの方法にはメリットとデメリットがあるため、状況に応じた柔軟な判断が欠かせません。

一時金の徴収

住民から追加で資金を徴収する方法です。突発的な出費となるため合意形成が重要であり、特に高齢世帯や単身世帯では負担感が大きくなる点に注意が必要です。

公平性を保つために、徴収方法や金額を明確にすることが不可欠です。

借入

金融機関から融資を受け、長期的に返済する方法です。短期的には工事資金を確保できますが、金利負担が発生するため返済計画を住民全員で共有することが求められます。

借入により将来の積立金拠出額を調整できる場合もあり、資金計画の柔軟性が高まります。

工事項目の優先順位見直しと段階的な実施

資金が限られている場合、緊急性の高い工事項目から優先的に修繕を行い、その他は段階的に実施する方法です。

安全性や防水性に直結する部分を先に対応し、美観や付加価値に関わる部分は後回しにすることで資金を効率的に活用できます。

修繕積立金の積立額の見直し

長期的な資金不足を防ぐために、修繕積立金の毎月の積立額を引き上げる方法です。管理規約改正を伴う場合が多く、住民の理解と同意が必要になります。

将来の安心につながる反面、短期的には家計の負担増となる点を考慮する必要があります。

適切な資金計画を立てることは、大規模修繕工事を円滑に進めるための大前提です。さらに、資金計画を定期的に見直すことで、経済環境の変化や建物の状態に応じた柔軟な対応が可能になります。

マンション大規模修繕業者の選定基準とチェックリスト

マンション大規模修繕の業者選定が、工事の成功を左右する大きな要素となるといっても過言ではありません。業者によって技術力や実績、対応力が大きく異なるため、慎重な比較と検討を行う必要があります。

単に費用だけで判断するのではなく、施工中の対応やコミュニケーションの質も重要な判断基準となります。ここでは、選定時に押さえるべき基準と、チェックリストを紹介します。

実績と専門性の確認

過去の施工実績やマンション修繕に特化した経験があるかを確認することが重要です。同規模や同条件の工事経験が豊富な業者は、トラブル対応や工期管理に強みを発揮します。

さらに、公共工事や大手デベロッパー案件などの実績がある業者は、管理体制や施工品質の高さも期待できます。見学可能な施工現場を案内してくれるかどうかも信頼性を測るポイントです。

資格・許可の有無

建設業許可や一級建築士、建築施工管理技士などの資格を持つスタッフが在籍しているかも信頼性の判断材料になります。資格は技術力だけでなく、法令遵守の姿勢を示すものでもあります。

また、労働安全衛生法に基づく安全管理体制を整えているかも確認しておくと安心です。資格や許可を定期的に更新し、最新の法規制に適合しているかどうかもチェックしましょう。

アフターサービスと保証

工事完了後の保証期間やアフターサービスの内容を必ず確認しましょう。保証が明確で、定期点検を行ってくれる業者は安心感があります。

さらに、緊急時の対応スピードや連絡体制、保証対象の範囲がどこまで及ぶのかといった細かな点も事前に把握しておくことが重要です。保証書の有無や内容をしっかり確認し、将来のトラブルを未然に防ぐ仕組みを整えている業者を選ぶと安心です。

業者選定チェックリスト

業者を選ぶ際は、複数の観点から評価することが求められます。以下のチェックリストを参考に、候補業者を比較検討しましょう。

チェック項目確認ポイント
実績同規模・同条件の修繕工事の経験があるか
資格建設業許可、一級建築士、施工管理技士などの資格保有者がいるか
提案力劣化状況に応じた適切な工法提案ができるか
保証工事完了後の保証期間やアフターサービスが明確か
コスト内訳が透明で、相見積もりで比較可能か

マンション大規模修繕における見積もりの取り方と比較の仕方

マンション大規模修繕の見積もりは単なる金額比較ではなく、工事範囲や内容を正しく理解するための重要な資料です。複数業者から見積もりを取り、丁寧に比較することが失敗を防ぐ鍵となります。

ここでは、見積もりの取り方と比較の仕方を紹介しますので、業者の対応姿勢や説明のわかりやすさを確認するための知識として参考にしてみたください。

見積もりの内訳を確認

人件費、材料費、仮設費用などが明確に区分されているかを確認しましょう。不透明な内訳は後の追加請求につながる恐れがあります。

さらに、管理費や諸経費がどのように算出されているか、共通仮設費や直接工事費の割合が適正かどうかも確認が必要です。具体的に単価表や数量根拠を提示してくれる業者であれば、より透明性の高い判断が可能になります。

相見積もりの活用

最低でも2〜3社から見積もりを取り比較検討することが推奨されます。同じ条件で依頼することで、業者ごとの費用感や施工方針の違いを把握できます。

条件を統一しないと比較が難しくなるため、依頼内容を詳細に記載した仕様書を作成することが望ましいです。相見積もりを通じて、金額だけでなく提案内容や対応スピードも比較すると効果的です。

契約方式の違いを理解

設計監理方式と責任施工方式の違いを理解し、どちらが自分たちの管理組合に適しているかを判断することが大切です。それぞれにメリット・デメリットがあるため、専門家の助言を受けるのも有効です。

設計監理方式は第三者のチェックが入り透明性が高まる一方、責任施工方式は業者が一貫して行うため工期短縮やコスト削減につながる場合があります。どちらを選ぶにしても、組合の意向や建物の状況に合わせて慎重に検討することが不可欠です。

マンション大規模修繕工事の流れ

大規模修繕工事は、複数の段階を経て進められます。
一般的な流れは、以下の通りです。

  1. 劣化診断
  2. 長期修繕計画
  3. 合意形成と資金調達
  4. 設計・業者選定
  5. 工事実施〜完了検査

それぞれの工程を、詳しくみていきましょう。

劣化診断

建物の現状を把握するための劣化診断が最初のステップです。専門家が外壁や設備を調査し、修繕の必要度を評価します。

ひび割れや防水層の劣化、配管の損傷など細部まで点検し、写真やデータとして記録することで後の計画に活用できます。早期に劣化を発見できれば、修繕費の増大を防ぎ、建物寿命を延ばす効果も期待できます。

長期修繕計画

診断結果を踏まえ、長期的な修繕計画を策定します。費用と工事項目を整理し、将来的な資金不足を防ぐための指針となります。

さらに、計画には実施時期や優先順位も盛り込み、短期的な小規模修繕と長期的な大規模修繕のバランスを取ることが重要です。管理組合は住民にわかりやすく説明し、理解を得ることで資金計画の合意形成を進めやすくなります。

合意形成と資金調達

管理組合の総会で工事計画を承認し、修繕積立金や補助金、一時金徴収など資金調達の方法を決定します。必要に応じて金融機関からの借入を検討することもあります。

資金調達の透明性を確保するため、複数案を提示して住民の意見を反映させると合意形成が円滑になります。

設計・業者選定

設計図をもとに入札や見積もりを行い、信頼できる業者を選定します。透明性を保ちながら選考することがトラブル防止につながります。

さらに、施工管理体制や安全管理、保証内容を事前に確認し、複数の業者を比較することで納得性の高い選定が可能となります。専門家を交えて検討することもリスク回避に有効です。

工事実施〜完了検査

工事が開始されたら進捗を管理し、完了後は検査を実施して品質を確認します。必要に応じて保証やアフターサービスを利用し、長期的な安心につなげます。

また、工事中は住民への周知や苦情対応も重要で、透明な情報発信が信頼につながります。完了検査では第三者によるチェックを取り入れると、客観性が増し品質確保が一層強化されます。

施工事例|8階建てマンションの大規模修繕工事

築17年の8階建てマンションにおける、管理組合主導による大規模修繕工事の一部始終をご紹介します。
「予算オーバーを避けたい」「融資は極力使いたくない」といった現実的な課題を抱える中で、新東亜工業がどのように提案し、信頼を築きながら工事を完遂したのか──。
理事会への説明から近隣対応、完成後のフォローまで、実際のやり取りを交えてリアルにお伝えします。

大規模修繕・防水工事・外壁塗装のご依頼やご相談は、メール・お電話からお受け致しております。

ご相談内容

築17年が経過し、管理組合では以前から大規模修繕の検討がされていましたが、資材高騰などにより予算が合わず延期されていた背景があります。「融資は避けたい」「必要な部分に絞って実施したい」といった要望の中、数社に見積り依頼をされていた中で弊社にご相談をいただきました。

担当者:お問い合わせありがとうございます。ご予算に合わせて施工範囲を調整することも可能です。弊社は子会社で材料問屋を持っているため、同じ工事でも他社様より価格を抑えるご提案が可能です。
お客様:なるべく費用を抑えたいので、ぜひ現地調査をお願いします。図面などもご用意します。
担当者:ありがとうございます。図面と、屋上に鍵があるようであればご用意をお願いします。

工事の概要|工事金額と期間

大規模修繕 施工前

大規模修繕 施工後

項目 内容
建物種別 分譲マンション(8階建て)
所在地 東京都内(詳細非公開)
工事内容 大規模修繕工事(外壁補修・塗装・防水・シーリング・長尺シート他)
工法 足場設置のうえ全面修繕/ウレタン塗膜防水(密着工法)他
その他特記事項 理事会へのプレゼンあり、工事中の騒音・近隣対策対応あり

工事金額:2,430万円 期間:約2カ月間

現地調査で判明した劣化症状

現地調査では、屋上の防水層や外壁のシーリング、タイル目地などに劣化が見られました。既存のアスファルトシート防水はまだ機能していたものの、再施工のタイミングとしては適切であり、ウレタン塗膜防水による上塗りを推奨しました。また、タイルの一部には硬化不良が確認され、慎重な撤去作業が必要な状態でした。

担当者:屋上はアスファルトシート防水ですね。状態は悪くないので、ウレタン塗膜防水の密着工法が適しています。
お客様:それでお願いします。あとベランダは見た目を良くしたいので、長尺シートも検討したいです。
担当者:シートは費用が倍近くかかるので、ウレタンの方が予算には優しいですね。
お客様:でも可能ならシートにしたいので、そちらで見積りお願いします。

施工中のやり取りと配慮

工事期間中は、騒音や近隣への影響を最小限に抑える配慮を行いました。作業工程や騒音の案内は掲示板やホワイトボードで事前に周知し、近隣住民や管理人との連携も徹底。足場設置やメッシュシートの風対策も含め、安全対策も万全に対応しました。また、アスベスト調査も事前に実施し、含有なしを確認済みです。

お客様:日曜に音がしたって苦情が来たのですが…。
担当者:調べたところ、隣の工事のものでした。担当者に周知のお願いはしておきました。
お客様:ありがとうございます。トラブルにならなくてよかったです。

引き渡し時のご感想

工事完了後、お客様からは「タイルもまったく違和感がない」「すごく綺麗になった」と高い評価をいただきました。タイルの保管方法や施工写真・保証書を含めた竣工図書の提出も行い、今後のメンテナンスにも役立てていただける内容でお渡ししました。

お客様:どこを張り替えたかわからないくらい自然ですね。
担当者:窯焼きで色を合わせたので、かなり近く再現できています。必要があればいつでもご連絡ください。
お客様:ありがとうございます。次は廊下の床や照明をまとめて検討したいと思います。

今回の工事では、以下のような成果が得られました。

  • ご予算に合わせた柔軟な工事範囲調整
  • 自社施工・材料問屋からの直接仕入れでコストダウンを実現
  • 理事会での丁寧なプレゼンと近隣配慮で信頼を構築
  • 施工中の進捗報告や打ち合わせで透明性を確保
  • 外観と防水性が向上し、物件価値の維持につながった

新東亜工業では、お客様の状況に合わせた提案と対応を徹底しております。

大規模修繕に関するご相談は、お気軽にお問い合わせください。

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マンション大規模工事に関するよくある質問

マンションの大規模修繕工事では、費用や工事内容、生活への影響など多くの疑問が寄せられます。

ここではよくある質問を取り上げ、管理組合や居住者が理解を深められるように解説します。

Q1. 大規模修繕は必ず12〜15年で行う必要がありますか?

A.一般的な目安は12〜15年ですが、建物の劣化状況や地域環境によって前後する場合があります。国土交通省のガイドラインを参考にしつつ、定期点検で必要性を判断することが大切です。

さらに、マンションごとの設計仕様や使用されている建材の違いによっても耐用年数には差が生じます。修繕を遅らせると費用が膨らむリスクがある一方、早めに実施すれば余計な劣化を防ぎ長期的なコスト削減につながります。

Q2. 工事中は必ずベランダが使えなくなりますか?

A.ベランダは足場設置や防水工事のため一定期間使用制限がかかります。ただし工事の進行状況や方法によっては短期間で済む場合もあります。説明会で具体的なスケジュールを確認しましょう。

さらに、洗濯物の取り扱いや避難経路の確保にも影響することがあるため、代替手段を事前に考えておくと安心です。換気や採光にも制限が出る可能性があるため、室内干し用具や除湿機の準備など生活面の工夫も有効です。

Q3. 修繕積立金が不足している場合はどうすればよいですか?

A.一時金の徴収、金融機関からの借入、工事項目の優先順位見直しなどの方法があります。長期的には積立額の見直しも検討し、将来の不足を防ぐことが重要です。

さらに、専門家に資金計画を相談したり、補助金制度を併用することで不足分を補える可能性もあります。組合員全体での合意形成が欠かせないため、説明会で透明性の高い情報共有を行いましょう。

Q4. 大規模修繕で体調不良になることはありますか?

A.粉塵や塗料の臭気で体調を崩すケースもあります。工事業者による養生や換気対策が取られますが、アレルギー体質や呼吸器に不安がある方は空気清浄機やマスクなどでセルフケアを行うと安心です。

体調に不安がある場合は、管理組合を通じて工事会社に配慮を依頼することも可能です。敏感な方は作業が集中する時間帯に外出するなど、生活リズムを調整する工夫も役立ちます。

Q5. 業者選びで特に重視すべきポイントは何ですか?

A.施工実績、資格、保証内容、そしてコミュニケーション力が大切です。見積もりの透明性も重要で、相見積もりを活用して比較することをおすすめします。

さらに、施工現場を実際に見学させてもらえるか、担当者の説明が明確で誠実かどうかも判断基準になります。アフターサービスや緊急時対応の体制を確認することで、長期的な安心につながります。

Q6. 賃貸マンションでも大規模修繕は必要ですか?

A.賃貸マンションも建物の資産価値と安全性を保つため大規模修繕は必要です。オーナーや管理会社が主体となって計画し、入居者の生活環境維持にも直結します。

修繕が行き届いている物件は、入居者の満足度や定住率の向上にもつながり、長期的には空室率の低下や賃料維持といった経営面でのメリットも期待できます。

マンションの大規模修繕で資産価値を守る|まとめ

マンションの大規模修繕工事は、資産価値を守り、住民の安全で快適な生活を維持するために欠かせない取り組みです。築年数に応じた適切なタイミングでの実施や、外壁・防水・設備など多岐にわたる補修内容を理解することが、成功の第一歩となります。

大規模修繕は一度きりではなく、マンションのライフサイクルに応じて繰り返し行われます。長期的な視点での資金計画と情報共有を通じて、建物の寿命を延ばし、次世代へ価値ある住環境を引き継ぐことができるでしょう。