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大規模修繕工事の発注方式とは?責任施工方式と設計監理方式の違いも解説

マンションの大規模修繕工事は、建物の寿命を延ばし、資産価値を維持・向上させるために非常に重要な取り組みです。
適切な時期に、適切な方法で実施することが、快適な居住環境を長く保つための鍵となります。
大規模修繕工事を進めるにあたっては、数多くの検討事項がありますが、その中でも「どのような施工方式で工事を発注するか」という点は、工事の進め方・品質・費用・管理組合の負担などに大きな影響を与えるため、初期段階で慎重に決定する必要があります。

この記事では、マンション大規模修繕工事における代表的な発注方式である責任施工方式(設計施工一括方式)・設計監理方式(設計・工事監理分離方式)を中心に、近年注目されているコストオン方式・監修方式・プロポーザル方式、そしてマネジメント方式(CM方式・RM方式)まで、それぞれの特徴やメリット・デメリットを詳しく解説します。
さらに、ご自身のマンション管理組合にとって最適な施工方式を選ぶための重要なポイントについてもご紹介します。

大規模修繕工事における発注方式の種類

マンションの大規模修繕工事の発注方式は、主に「誰にどこまでの業務を依頼するか」によって分類されます。
代表的な方式としては、以下のものが挙げられます。

  • 責任施工方式(設計施工一括方式)
  • 設計監理方式(設計・工事監理分離方式)
  • コストオン方式
  • 監修方式
  • プロポーザル方式
  • マネジメント方式(CM方式・RM方式)

近年までは「責任施工方式」と「設計監理方式」の2つが日本のマンション大規模修繕工事において主流でしたが、アメリカで採用されているCM(コンストラクション・マネジメント)方式やRM(リノベーション・マネジメント)方式といった方式も、その透明性や専門性から注目を集め、採用するマンションが増えつつあります。

どの発注方式を選択するかは、マンションの規模・築年数・管理組合の体制・予算、そして重視するポイント(コスト・品質・管理組合の負担など)によって最適なものが異なります。
それぞれの方式の特徴をしっかりと理解し、ご自身のマンションに合った手法を選ぶことが、大規模修繕工事を成功させるための重要な第一歩となるでしょう。

責任施工方式(設計施工一括方式)

責任施工方式は、大規模修繕工事の企画・設計から施工、そして工事のチェック(監理)までの一連の業務を、一つの施工会社に一任して発注する方式です。
工事会社、あるいは管理会社に委託するケースもあります。

責任施工方式の特徴

この方式では、管理組合は選定した施工会社と直接契約を結び、工事に関するさまざまな取り決めや打ち合わせも、基本的にその一社との間で行います。
施工会社は建物の劣化診断に基づき、修繕工事の仕様を作成して設計を行い、実際の工事を実施し、そしてその工事が適切に行われているかのチェックまで行います。

過去に大規模修繕工事を経験しており、ある程度の手順を理解している管理組合や、自分たちの希望を直接伝え、積極的に工事に関わっていきたいと考えている管理組合にとって、責任施工方式は比較的やりやすい選択肢となるでしょう。

責任施工方式のメリット

責任施工方式には、以下のようなメリットがあります。

窓口の一本化と管理組合の負担軽減

すべての業務を一つの会社に任せるため、連絡や打ち合わせの窓口が一本化され、管理組合の手続きや調整の負担が軽減されます。
後から不具合やトラブルが生じた場合でも、責任の所在が明らかになりやすいという点もメリットです。
また窓口が一本化されることで、管理組合の事務作業や会議の回数を減らすことが期待できます。

施工者の技術やノウハウを活かした合理的で効率的な設計が可能

設計段階から施工を見据えた計画が可能になることで、施工者の技術やノウハウを活かした合理的で効率的な設計が期待できます。
マンションごとの特性に合わせた設計や、施工者の技術を最大限に活かした工事が実現しやすいと言えるでしょう。

コンサルタント費用が不要

設計監理方式で発生するコンサルタント費用が不要なため、初期費用を抑えたい場合に適しています。
修繕積立金の予算が限られている場合などには、費用面でのメリットは大きいでしょう。

責任施工方式のデメリット

一方で、責任施工方式には以下のようなデメリットも存在します。

第三者のチェック機能が働きにくい

すべてを同一会社に委託するため、見積もりや工事内容に対する第三者の客観的なチェックが働きにくい側面があります。
工事の品質がすべて施工会社に委ねられることになります。

見積もりや工事内容が不透明になる可能性

第三者のチェックがないため、提示された見積金額の妥当性や施工が適切に行われているか、手抜き工事はされていないかといった工事内容について、管理組合が専門的な知識なしに判断するのは難しい場合があります。

施工会社の選定における管理組合の負担増

施工実績や提案力などを管理組合自身で判断する必要があるため、専門知識がない場合の負担が大きくなります。
数社から見積もりを取り、費用だけでなく品質管理体制まで見極める必要があります。
また、着工後の検査なども管理組合が行う必要があり、設計監理方式と比較して業務負担が増える傾向にあります。

信頼できる施工会社の選定が重要

責任施工方式を選択する場合、最も重要なのは信頼できる施工会社を選定することです。
見積金額だけでなく、過去の修繕実績・技術力・提案力・財務状況・アフターフォロー体制などを慎重に確認し、管理組合の要望をしっかりと理解したうえで、誠実に対応してくれる会社を選びましょう。

施工会社を選ぶ際には、複数の会社から相見積もりを取り、それぞれの提案内容を比較検討することが基本です。
その際、価格だけでなく、これまでの修繕実績や元請としての施工経験、工事に対する思いや姿勢なども確認することが大切です。
また必要に応じて、信頼のおける第三者(例えば、マンション管理士や一級建築士などの専門家)に見積もりや施工状況のチェックを依頼することも有効な手段です。

設計監理方式(設計・工事監理分離方式)

設計監理方式は、設計(仕様書作成)と工事監理を、施工会社とは別のコンサルタント会社(設計事務所やマンション管理コンサルタントなど)に委託し、施工は別の施工会社が行う方式です。

設計監理方式の特徴

この方式では、まず管理組合がコンサルタント会社と契約し、建物の劣化診断や修繕計画の作成・工事の設計・施工会社の選定支援、そして工事期間中の品質管理(工事監理)などを依頼します。
コンサルタント会社は、管理組合の立場に立って、専門的な知識や経験に基づき、これらの業務を客観的に行います。
その後、コンサルタント会社の作成した設計に基づいて、複数の施工会社から見積もりを取り、コンサルタント会社の助言を得ながら、管理組合が施工会社を選定し、契約を結びます。
工事期間中は、コンサルタント会社が設計図書通りに工事が行われているか、品質管理や工程管理などを専門的な視点でチェックします。

設計監理方式は、もともと「高額で不透明なマンション管理会社元請方式」に対抗することを目的の一つとして、設計事務所が発展させてきた経緯があります。
第三者が介在することで、工事の品質や価格に客観性が期待できるという考え方に基づいているのが最大の特徴です。

設計監理方式のメリット

設計監理方式には、以下のようなメリットがあります。

工事品質や価格の客観性が高い

第三者であるコンサルタントが設計・監理を行うため、工事品質や費用について客観的な視点が入りやすく、透明性が高まります。
見積もりの精査などもコンサルタントが行うため、適正な価格での契約が期待できるでしょう。

手抜き工事や品質低下の抑制が期待できる

コンサルタントが工事の進捗状況や品質を専門的な視点でチェックするため、手抜き工事や品質低下を抑制する効果が期待できます。
施工中から完成まで、第三者の目で工事の品質が管理されるため、管理組合としても安心感が高まるでしょう。

公正・公平な施工会社選定

コンサルタントが作成した共通仕様書に基づいて各社から見積もりを提出してもらうため、見積内容の比較がしやすく、公正・公平に施工会社を選定できます。
判断が難しい工事内容や費用内訳についても、専門家のアドバイスを受けられるでしょう。

管理組合の負担軽減

建物診断から設計・仕様書の作成、業者選定・施工管理まで、プロのコンサルタントが管理組合をサポートしてくれるため、管理組合側の負担が軽減できます。
特に、専門知識や経験が少ない管理組合にとっては、心強い味方となるでしょう。

合意形成のサポート

大規模マンションや意見がまとまりにくいマンションの場合、第三者であるコンサルタントが専門的な視点からアドバイスを行うことで、管理組合内の合意形成を促す効果が期待できます。

設計監理方式のデメリット

設計監理方式にも、以下のようなデメリットがあります。

コンサルタント費用の発生

施工費用とは別に、コンサルタントに設計・監理業務の委託費用が発生します。
修繕積立金の予算が限られている場合は、大きな負担となる可能性もあるでしょう。

悪質なコンサルタントによる談合やバックマージンのリスク

近年では、一部の悪質なコンサルタントが施工会社と癒着し、工事費を不正に吊り上げる談合やバックマージンの問題も取り沙汰されており、2017年には国土交通省が注意喚起する事態となりました。
一定の設計仕様書に基づいて金額だけで比較するという設計監理方式の仕組みそのものが、容易に談合できる状況を生んでしまっているという指摘もあります。

責任の所在が曖昧になりやすい

設計と施工が別々の会社となるため、工事の不具合やトラブル発生時に、どちらに責任があるのかが曖昧になることがあります。

コンサルタント選定の必要性

信頼できるコンサルタント会社を選定する必要があり、その選定にも時間と労力がかかる場合があります。
実績だけでなく、対応の速さやコミュニケーション能力なども重要なポイントとなります。
また、コンサルタント会社にすべてを丸投げするのではなく、管理組合も主体的に関与することが重要です。

信頼できるコンサルタントと施工会社の選定が必要

設計監理方式を成功させるためには、信頼できるコンサルタント会社と施工会社を選定することが最も重要です。
コンサルタントを選ぶ際には、過去の実績・専門性・提案力・倫理観などを慎重に見極め、管理組合の立場に立って親身に相談に乗ってくれる会社を選びましょう。
また、施工会社を選ぶ際にも、コンサルタントのアドバイスを参考にしながら、実績や技術力などを総合的に判断することが大切です。

近年では、コンサルタントの談合問題も指摘されているため、複数のコンサルタント会社から話を聞き、比較検討することが不可欠です。
また、コンサルタント会社にすべてを任せるのではなく、管理組合自身も積極的に情報収集を行い、工事の進捗状況などを把握できるよう努めましょう。

その他の施工方式

責任施工方式・設計監理方式以外にも、マンション大規模修繕で採用されることのある発注方式があります。

コストオン方式

コストオン方式は、管理組合が施工会社を選定したうえで、その施工会社の工事費に元請監理費を上乗せして、管理会社と請負契約を結ぶ方式です。
管理組合は管理会社と請負契約を結び、管理会社は選定された施工業者と下請け工事契約をそれぞれ結びます。

メリット

管理組合と施工会社との間で工事費を決めるため、工事費の透明性が高く、管理会社による談合やリベートを防ぐ効果が期待できます。
管理会社による責任施工方式のメリットを活かしつつ、透明性を高めた手法と言えます。
工事完了後のアフターフォローについても、一定程度の安心感が得られるでしょう。

デメリット

業者選定のノウハウが乏しい管理組合では、適切な施工会社を選ぶためにコンサルタント会社への依頼が必要になる場合があります。
また、工事費用に管理会社の手数料が上乗せされるため、そのぶんの費用も考慮に入れる必要があります。

監修方式

監修方式は責任施工方式をベースに、第三者のコンサルタント会社(アドバイザー)が管理組合の視点から施工会社の工事や品質をチェックする方式です。
設計と監理は行いませんが、仕様策定サポート・施工会社選定サポート、仕様・見積もりのチェックや施工品質の巡回チェックなど、必要と思われる部分において専門家のサポートを受けることができます。

メリット

設計監理方式と比較して費用を抑えながら、専門家による施工状況のチェックを受けられるため、一定の安心感を得られます。
責任施工方式のデメリットである、第三者によるチェック機能の弱さを補えるでしょう。

デメリット

設計や監理は施工会社が行うため、設計段階での第三者の意見は入りません。

プロポーザル方式

プロポーザル方式は、複数の施工会社から工事内容や仕様に関する提案を受け、その提案内容を比較検討して最も適した施工会社を選定する方式です。
事前に詳細な仕様書を作成するのではなく、管理組合の要望書に基づき、施工会社がそれぞれの技術力やノウハウを活かした提案を行います。

メリット

価格競争だけでなく、各社の技術力や企画力、マンションの状況に合わせた独自の提案を比較できるため、より最適な工事方法を選べる可能性があります。
従来の見積もり合わせでは難しい技術的な比較が可能になり、工事品質の向上に繋がる可能性があります。
管理組合が主体的に施工会社を選ぶことで、工事への満足度も高まり、管理会社への依存から脱却するきっかけにもなり得ます。

デメリット

提案内容が多岐にわたるため、見積内容の比較や技術的な判断が難しく、専門家(コンストラクション・マネージャーなど)によるサポートが必要になる場合があります。
理事会や修繕委員会の負担も大きくなる傾向もあり、見積もりを出すのに手間がかかることで、施工会社によっては参加をためらう場合もあるでしょう。

マネジメント方式(CM方式・RM方式)

マネジメント方式は、専門のマネージャー(CM:コンストラクションマネージャー、RM:リノベーションマネージャー)が、発注者である管理組合の立場を代行または補助して各種業務を行う方式です。

CM方式

CMR(コンストラクション・マネージャー)が、技術的な管理を中心に、設計の検討・工事発注方式の検討・工程管理・品質管理・法令遵守などの支援を行います。
発注者は専門家による技術的な助言・指導を受けられ、工事品質の確保が期待できます。
一方で、マンション側と施工業者の間にCMRが介在するため、打ち合わせや協議に時間がかかるというデメリットがあります。

RM方式

RMr(リノベーション・マネージャー)が、工事に関する全ての費用や進捗状況などをマンション側に開示することを求め、透明性の高い工事を目指します。
大規模修繕全体の「見える化」が実現できることにより、工事費用や発注プロセスの透明化が図れ、費用削減や品質確保に繋がります。
デメリットとしては、全体の工事費の見通しが立てづらく、承認事項が多くなるため、マンション側と施工業者の負担が増える可能性があります。

施工方式を選ぶ際の重要なポイント

ご自身のマンションにとって最適な施工方式を選ぶためには、以下のポイントを慎重に検討する必要があります。

  • 管理組合の状況やニーズの明確化…管理組合の予算・人員・専門知識の有無、そして何を最も重視するか(コスト・品質・管理組合の手間など)を明確にすることが重要
  • 費用対効果の検討…単に費用を抑えるだけでなく、長期的な視点で工事の品質や建物の維持に繋がり、費用対効果の高い施工方式を選ぶことが重要
  • 情報収集と専門家への相談の重要性…各施工方式のメリット・デメリットを十分に理解したうえで、必要に応じて中立的な専門家(マンション管理士・建築士など)に相談し、客観的なアドバイスを受けることが望ましい
  • 安易なコストダウン志向の危険性…コストダウンばかりを重視すると、必要な修繕がおろそかになり、建物の寿命を縮めたり、将来的に更なる費用が発生する可能性がある
  • 施工会社やコンサルタントの考え方が管理組合に合っているか…施工会社やコンサルタントの提案内容や実績・人柄・コミュニケーション能力などが、管理組合の意向や考え方に合っているかを確認することも重要
  • 施工品質チェック機能の向上…どの施工方式を選ぶにしても、管理組合自身によるチェック体制や、第三者による検査などを検討し、施工品質を確保するための仕組みを設けることが大切

まとめ

この記事では、マンション大規模修繕におけるさまざまな施工方式の特徴をはじめ、メリット・デメリット、そして選び方のポイントについて詳しく解説しました。

最適な施工方式の選択は、大規模修繕工事の成否を左右する重要な要素です。
各方式の特徴を改めて比較検討し、ご自身のマンションの状況やニーズに最も適した方式を選択することが、安全で安心な大規模修繕工事の実現、そしてマンションの資産価値の維持・向上に繋がります。

初めての大規模修繕で不安を感じる場合は、積極的に専門家の意見を聞きながら、慎重に検討を進めましょう。
大規模修繕工事を成功させるためには、管理組合全体が協力し、それぞれの役割をしっかりと果たすことが不可欠です。
この記事が、皆様のマンションの大規模修繕工事における施工方式の選択の一助となれば幸いです。

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