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マンション大規模修繕にコンサルタントは必要?役割と選び方|不適切コンサルトの問題と注意点

マンションの大規模修繕は、およそ10年~15年に1度行われます。

管理組合にとって重要な工事ですが、大規模修繕を成功させるための役割を果たすのがコンサルタントです。

今回は、大規模修繕関連業務をコンサルタントに委託したい管理組合のために、コンサルタントの役割とコンサルタントの選び方について解説します。

マンション大規模修繕のコンサルタントとは

大規模修繕工事のコンサルタントは、工事の場所や時期などのアドバイスや、施工業者選定の際の各種サポートを行う会社です。

大規模修繕コンサルタントには、大きく分けて3つのタイプがあるため、それぞれを詳しく見ていきましょう。

大規模修繕専門会社

大規模修繕工事に特化したコンサルティング会社です。

建設業界で勤務していた方がコンサルタントとしてスタートするケースと、現場補修工事を行ってきた企業が子会社としてコンサルティング業務を行うケースなどさまざまです。

場合によっては、マンション管理士や建築士などに専門知識を借りることもあります。

マンション管理会社

管理会社は、マンション管理を専門に行う会社です。

そのため、日常のマンション管理業務に加え、大規模修繕のコンサルティング業務も行っています。

さらに、管理会社のなかには、社内外に建設部門やコンサルティング部門を持つところもあります。

マンション管理のノウハウがあるため、マンションの特性を最も理解しているといえるでしょう。

一級建築士事務所

一級建築士の資格がある方が、大規模修繕に対応できるコンサルタントとして独立することもあります。

また、新築物件を設計した建築士がコンサルタントになるケースもあります。

なお、大規模修繕コンサルタントとしてアドバイスを行ううえで建築士の資格は必要ありません。

マンション大規模修繕コンサルタントの役割

修繕コンサルタントの役割は、大きく4つに分けられます。

各工程において、専門的な知識と経験を活かした提案と実行を担当します。

  • 建物診断
  • 施工業者選定支援
  • 工事計画と内容の確認
  • 長期修繕計画の作成とアフターケア

ここでは、各工程でコンサルタントがどのような役割を果たすのか、詳細を解説します。

建物診断(劣化診断)

建物の劣化状況を確認し、そもそも大規模修繕工事が必要かどうかを判断します。

大規模修繕工事の計画を立てる際には、建物全体の調査を行い、「いつ、どこを修繕すればいいのか」「どこが劣化しているのか」などを把握しなければなりません。

調査結果をもとに、大規模修繕工事の内容を検討していきます。

施工会社の選定

見積りや施工業者の技術、実績などをもとに、施工業者を選びます。

しかし、施工業者を選定する際には、責任施工方式、設計監理方式などがあります。

また、一般の方が専門用語や工事の仕様、工事費用の目安などを判断することは難しいでしょう。

コンサルタントは、管理組合が最適な施工業者を選定するためのアドバイスを行います。

設計と工事内容の確認

大規模修繕工事の「設計業務」や「工事監理業務」もコンサルタントの仕事です。

大規模修繕工事では、工事の内容や仕様などの「設計」と、設計通りに工事が行われているかをチェックする「工事監理」を行います。

工事中の確認作業は、知識がない方には困難なため、管理組合だけではなくコンサルタントも工事をチェックすることで安心感を得られます。

長期修繕計画作成とアフターケア

マンションの大規模修繕を計画する際には、長期修繕計画が重要です。

長期修繕計画とは、約10~30年を対象とした長期修繕計画のことで、マンション管理組合が主体となって作成します。

経年劣化や不具合をいつまでにどれだけ修繕するかを定めたものです。

基本的な考え方は、「快適な住環境を確保し、資産価値を維持するための修繕」と「建物や設備の性能を向上させるための改修」を計画することで、マンションでは長期修繕計画が欠かせません。

コンサルタントは長期修繕計画の内容が正しいかをチェックし、計画に基づき大規模修繕工事を進めるサポートをします。

大規模修繕でコンサルタントを導入するメリット

大規模修繕工事は入居者のお金を使用して行われます。

そのため、入居者にとってメリットがある修繕でなければなりません。

しかし、多くの入居者が納得する形で修繕を進めることは、管理組合に所属する一般の方には容易ではないでしょう。

そこで、外部の大規模修繕コンサルタントを導入する主なメリットを紹介します。

管理組合や修繕委員会のストレスや負担を軽減

大規模修繕工事は、管理組合や修繕委員会が施工業者を選定、見積もり依頼、見積もり比較、工事の管理などをしなければなりません。

施工業者の選定では、「どの会社に見積もりを依頼すべきか」など、一般の方には難しい判断が多いです。

見積書の書き方が異なるため比較しにくく、適正価格はいくらなのかを確認するのにも時間がかかります。

しかし、大規模修繕コンサルタントに依頼すれば、知識と経験を基に、プロの視点から適切なアドバイスを受けることが可能です。

見積もりの比較や入居者への説明もスムーズに進み、ストレスや負担が大幅に軽減されます。

トラブルを未然に防げる

大規模修繕工事では、次のような問題が発生する可能性があります。

  • 工事中の騒音・臭い・ほこり
  • 外壁・バルコニー工事中のプライバシー侵害や盗難
  • 修繕費用の不足
  • 一時金の徴収
  • 管理会社・業者による詐欺
  • 住民意見の集約が困難
  • 施工不良

大規模修繕のコンサルタントに依頼をすれば、トラブルを事前に回避することができます。

業者の選定から住民への事前説明まで、ノウハウに基づいた適切なアドバイスを受けられるためです。

プロのアドバイスがもらえる

多額の費用を伴う大規模修繕工事には、長期的な計画が必要です。

実際、将来の大規模修繕費用を現在の積立金で賄えない管理組合も多いでしょう。

また、大規模修繕工事を行う管理組合や大規模修繕工事委員会は一般住民で構成されており、他の入居者への対応や管理会社との話し合いは多大な負担となります。

しかし、大規模修繕コンサルタントに依頼すれば、お金のこと、工事に関する技術的なこと、コミュニケーションなど、専門的な立場からサポートを受けられることがメリットです。

マンション大規模修繕工事のコンサルタントの選び方

マンション大規模修繕のコンサルタントのなかには、悪徳業者も存在します。

適切なサポートを受けるためにも、コンサルタント選びは慎重に行わなければなりません。

ここでは、マンション大規模修繕のコンサルタントを選ぶ際のチェックポイントを紹介します。

管理組合の考えに合う

マンション管理組合がどのようにマンションを維持管理していきたいのか、考え方や方針をコンサルタントと共有することが重要です。

例えば、「建物の機能が維持できる限り」と考えるのか、「常にベストの状態を維持したい」と考えるのかなどです。

建物の維持管理に関する管理組合の方針を把握し、大規模修繕で実現できるコンサルタントに依頼しましょう。

コンサルタントには、独自の方針を提案する方もいれば、管理組合の考えをベースに提案するタイプもいます。

さらに、施工業者の選定方法や、工事のメリット・デメリットなど、不明点を明確に説明してくれるかどうかも重要なポイントです。

コンサルティング実績が豊富

大規模修繕工事の経験がどのくらいあるのかも確認しておいたほうがよいでしょう。

注意点は、「トータルで何件の実績があるか」といった件数のチェックだけではなく、工事を依頼するマンションと同じようなマンション、似たようなケースの実績もチェックすることです。

例えば、高層マンション、外断熱マンションなど、マンションタイプによって適切な工事は異なるため、実績の詳細を確認する必要があります。

管理組合運営の知識がある

大規模修繕工事のコンサルタントは、工事の知識のほか、管理組合の運営に関する知識も必要です。

建築の知識があっても、管理組合の運営経験がなく、ルールをしっかり理解していなければ、組合運営を考えたときに問題に直面します。

建築の専門家、管理組合の専門家、それぞれの専門家が連携し、それぞれの専門分野を担当することが大切です。

大規模修繕の延長も視野に入れてくれるか

コンサルタントに劣化診断を依頼する場合、「大規模修繕工事の実施を前提とした劣化診断になっていないかどうか」がポイントです。

「工事実施時期の適切な判断とアドバイス」をするのではなく、長期修繕計画に沿った「工事の実施のサポート」になる可能性が高いため注意しましょう。

劣化診断の結果、工事を延期するという方法が最適な場合もあります。

しかし、コンサルタントが工事延期が可能であることを伝えないケースも少なくありません。

築10年以上経過したマンションは、物理的に劣化するのは当然です。

大規模修繕ではなく部分的な修繕でもよいのか、大規模修繕が必要な理由について詳細な報告をしてくれるコンサルタントに依頼しましょう。

公平で中立かどうか

大規模修繕工事のコンサルティングは、主に設計事務所、マンション管理士事務所、建物検査会社などが行っています。

マンションや大規模修繕工事自体に利害関係がある場合は、公正中立を保つことが難しくなるでしょう。

例えば、設計監理方式では、設計者と監理者を兼務する場合があります。

設計者が工事を受注した施工業者からキックバックを受け取るケースもあり、施工状況を客観的かつ厳密に指摘することはできない可能性が高いです。

また、劣化診断の結果、大規模修繕工事を行う必要がないと判断されても、業務を受注するために工事を推奨するコンサルタントもいます。

本来、コンサルタントは管理組合の立場で大規模修繕工事をサポートすべき立場ですが、利益相反の関係で管理組合にとってベストな提案をしないケースもあります。

大規模修繕コンサルタントの費用相場

大規模修繕工事のコンサルタント料金の平均は、1戸あたり約2~3万円、もしくは工事費全体の5~10%程度が相場です。

例えば、50戸程度のマンションの大規模修繕工事であればの場合、コンサルタント料は約100万円から150万円となります。

もしくは、2,000万円程度の大規模修繕工事であれば、平均的なコンサルタント料は100万円から200万円程度です。

ただし、コンサルタント料は、コンサルタントが大規模修繕工事にどの程度関与したのか、工期はどのくらいかかったのかなどで費用は変動する可能性があるため、あくまで目安であることを理解しておきましょう。

不適切なコンサルタントとは

2017年に国土交通省が「設計コンサルタントを活用したマンション大規模修繕工事の発注等の相談窓口の周知について」を公表しました。

通知内容は、大規模修繕工事の設計監理制度における「コンサルタントと施工業者の癒着やマージンに関する警告」です。

「不適切コンサルタント問題」とも呼ばれ、国土交通省の通達では以下の3つの事例が紹介されています。

  • コンサルタントが施工業者の社員だった
  • 候補業者のうち1社の見積額を低く設定させた
  • 高額な費用や過大な工事項目で発注を促した

コンサルタントに業務を委託しているにもかかわらず、実際に調査・診断・設計等を行った者が、コンサルタントではなく、施工業者の社員だったという事例があります。

また、コンサルタントが施工業者候補5社のうち特定の1社の見積価格を低く操作し、その1社を施工業者に仮決定する事案です。

さらに、自社にバックマージンを支払う施工業者に受注させるために、不適切な操作を行い、相対的に高い工事費や過大な工事項目・仕様で発注を誘導したケースです。

なお、一級建築士事務所やマンション管理士事務所のなかには、施工業者の選定支援と施工チェックのみを行う事務所もあり、本当に必要な部分だけに支援依頼を絞り込むことで不正が起こりにくくなっています。

まとめ

マンション大規模修繕のコンサルタントについて解説しました。

まとめると、

  • コンサルタントに依頼すると管理組合の負担が減る
  • 建物診断からアフターケアまで依頼できる
  • 不適切コンサルタント問題に注意

マンション大規模修繕全体をコンサルタントに依頼せず、建物診断(劣化診断)や工事実施の必要性などの相談をする方法も有効です。

効率的に大規模修繕を進めるためには信頼できる施工業者を見つけることが理想ですが、管理組合の負担が大きいと感じる場合にはコンサルタントの活用を検討しましょう。

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