マンションの大規模修繕工事とはマンション管理において維持に欠かせないものであり、1回目2回目と回数を重ねるたびに、前回の経験を活かしつつ、新たな課題に対応する必要があります。成功させるには、管理組合が中心となって適切な計画立案と実行が求められます。外壁や設備の劣化状況を正確に把握し、長期的視点に立った修繕内容の決定、そして居住者との合意形成など、管理組合が取り組むべき内容は多岐にわたります。そこで本記事では、マンション大規模修繕工事を成功に導くための重要なポイントや管理組合がやるべき具体的な内容などについて詳しく解説します。
目次
大規模修繕について解説
大規模修繕とは、マンションやビルなどの集合住宅において、外壁のひび割れや塗装の剥がれ、屋上の防水工事や設備の劣化など、建物全体の劣化を防ぎ、修繕するために行われます。建物全体の劣化を防ぎ、長期的な安全性と快適性を維持するために行われる大規模な修繕工事です。通常、10年から20年ごとに計画され、外観の美観を保つだけでなく、建物の構造や設備の性能を向上させることを目的としています。
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マンション大規模修繕工事のトラブル事例
マンションの大規模修繕工事を成功させるためには、どのような点でトラブルが起こりやすいのかを理解することも重要です。
最初に、マンション大規模修繕工事で起こるトラブル事例を5つ紹介します。
マンション大規模修繕を先延ばしにした
マンションの状況によるものの、大規模修繕工事を先延ばしにすると、将来の工事費が高くなる可能性があります。
マンションのメンテナンスが行われていないと、居住者の不満も募り、結果として空室率が上がることにもつながるでしょう。
適切な工事をマンション大規模修繕でしなかった
メーカーや業者に勧められた工事をすべて実施すると、過剰な費用を支払うことになります。
しかし、過剰な工事の実施よりも、必要な工事を実施しないことの方がトラブルになりやすいでしょう。
工事をしなかったために劣化が進行し、劣化修繕のために多額の費用がかかります。
マンション大規模修繕の積立費が足りない
修繕積立金の額が低すぎると、大規模修繕工事に必要な費用が足りなくなります。
本来は、長期修繕計画を参考に適正金額を決めなければなりません。
しかし、なかには「修繕積立金は管理費の10%」という目安で設定しているところがあります。
具体的な根拠がないため、修繕積立費が足りず、スムーズに工事の計画が立てられないというトラブルが起こるのです。
マンション大規模修繕中に居住者からクレーム
大規模修繕工事中は、臭いや騒音、煙が原因のクレームが発生することが多いです。
また、養生ネットや足場により日当たりが悪い、洗濯物を干せないなど、生活が不便になることで苦情が出ることもあります。
さらに、マンションの居住者だけではなく、周辺の住人からもクレームを受けることがあるでしょう。
例えば、水道が止まる、工事車両の一時駐車、振動や騒音など、周辺住民の生活に影響を及ぼすケースがあります。
悪質な業者にマンション大規模修繕を依頼した
悪徳業者や、悪意はないものの技術力が低い業者も存在します。
悪質な業者に大規模修繕工事を依頼すると、スケジュール通りに進まない、工事のミスなどが起こることがあるため注意が必要です。
マンション大規模修繕を成功させる8つのポイント
マンションの資産価値を下げないためには、計画的な大規模修繕が重要です。
ここからは、大規模修繕のポイントを紹介します。
マンション大規模修繕ポイント|タイミングを見極める
マンションの大規模修繕工事を成功させるためには、工事のタイミングを見極めることがポイントです。
大規模修繕工事のひとつである外壁塗装の工事周期の目安は10年、屋上防水やバルコニー床防水工事の周期は12年といわれています。
なお、新築から10年後に外壁塗装だけを行い、2年後に防水工事を行うのは非効率的です。
現場での人件費や材料の保管、業者の駐車場の確保など、工事ごとに基本的なコストが発生するため、別々に発注すると費用は高くなります。
そのため、多くのマンションでは12年かけて一気に工事を行うケースが多いです。
もちろん、あくまで目安であり、各マンションの工事対象エリアの劣化状況を見ながら、実施時期を前倒ししたり後ろ倒ししたりする必要があります。
例えば、塩害が予想される海辺に近い地域と、通常の雨量や日照がある地域では、建物の経年劣化の程度に大きな差が出る傾向があります。
12年周期を基本に、状況に応じて工期を早める、遅らせるなどの判断や対応をしましょう。
マンション大規模修繕ポイント|修繕・改良・改修を適切に使い分ける
大規模修繕には、修繕、改良、改修と3つの考え方があります。
修繕とは、劣化した建物やその部分の性能・機能を実用上問題のない状態に回復させるための工事です。
劣化した部分や設備を補修・交換することで、主に物理的な劣化に対応します。
改良とは、建物各部の性能・機能を向上させることです。
マンションを構成する部材・設備を新しいものに交換する、新たな性能・機能を付加するなどであり、物理的・社会的な劣化に対応します。
改修とは、修繕や改良を的確に行い、建物の性能を向上させる変更工事のことです。
大規模修繕では、都度改良の割合を増やしていくことが資産価値の維持につなげるポイントになります。
マンション大規模修繕ポイント|大規模修繕工事に向けた長期修繕計画を立てる
大規模修繕は10~20年に1度の頻度で必要となるため、当初から長期的な修繕計画を立てることが重要です。
機能劣化や社会的劣化は事前に予測できないため、詳細なスケジュールは時期が来てから検討することになるでしょう。
しかし、大まかな時期と予算はあらかじめ決めておきます。
計画と合わせて、毎月修繕積立金を集めることで、修繕費が足りないという事態を防ぎ、適切な大規模修繕を実施できるでしょう。
なお、着工から完成までの期間は、マンションの規模によって異なります。
一般的には、50戸程度のマンションで3~4ヶ月、100戸程度のマンションで6~8ヶ月です。
なお、大規模修繕工事の場合は、計画から着工まで通常1年~1年半かかります。
マンション大規模修繕ポイント|居住者への情報共有と周知
大規模修繕工事は共用部分の工事が多いため、居住者の理解を得ることが不可欠です。
そのため、建物の劣化状況を居住者に明確に伝え、工事を進めるスケジュールなどの情報を共有しましょう。
また、修繕工事を検討する際には、工事業者の選定や修繕計画の策定など、様々な調整を行う修繕委員会を設置することもあります。
マンション大規模修繕ポイント|住民の合意形成が重要
大規模修繕工事に協力してもらうためには、各区分所有者に工事の必要性や工事の内容を十分に説明し、理解してもらう必要があります。
建物や設備の劣化状況を調査・診断し、マンションのどこでどの程度傷んでいるのか、補修するとすればどのようにすればよいのかの説明とすることが重要です。
また、居住者から見た瑕疵の状況や、修繕したい箇所、修繕に対する意見などを聞くアンケートを実施するのもよいでしょう。
さらに、大規模修繕の必要性を理解してもらうためには、専門委員会や理事会で現在検討している内容を広報することが重要です。
例えば、大規模修繕の内容を説明する調査結果発表会や説明会を開催し、様々な意見を聞きます。
質問に答え、盛り込むべき内容があれば原案を修正し、できるだけ多くの区分所有者に周知するなどです。
施工者の公正な選定とプロセスの徹底した説明も、合意形成の重要な柱だといえるでしょう。
マンション大規模修繕ポイント|資金調達がマンション大規模修繕では不可欠
大規模修繕工事は、資金不足で頓挫するケースが多いです。
大規模修繕工事の概算費用は、長期修繕計画のなかで試算しています。
修繕積立金の残額が概算費用に達しない場合は、工事を延期せざるをえず、延期できないほど損傷が激しい場合は、借り入れや一時金の回収を検討することになるでしょう。
しかし、厳しい経済情勢では、多額の一時金を回収しても新たな債権を生むだけです。
また、ローン返済期間中は、次の大規模修繕のために資金を貯蓄できません。
苦境に立たされる前に、今後の大規模修繕の予想工事費と現在の積立金を確認しましょう。
値上げが避けられないようであれば、積立金額の変更も考える必要があります。
いずれにしても、専門委員会は修繕積立金の残額を把握し、支出の範囲内で現実的な工事計画を立てることがポイントです。
マンション大規模修繕ポイント|マンション管理会社との関係を大規模修繕に向けて明確にする
管理組合としては、日常的な管理を依頼している管理会社を大規模修繕工事においてどのように位置づけるのか、計画の初期段階で明確にしましょう。
専門委員会内で意見交換を行い、理事会で協議・集約し、管理会社と打合せを行い、管理会社の意向を聞いたうえで方針を決めるのがベストです。
具体的には、管理会社の立場としては以下のようなものが挙げられます。
- 建設業者として見積りに参加
- 設計監理者として見積りに参加
- 専門委員会や理事会の事務局を務める
日頃の管理業務を通じてマンションを熟知し、社内に建設部門を持ち、建設業許可を持っている会社であれば、工事見積りに参加してくれる可能性があります。
管理会社1社のみの見積もりでは、合意形成が難しくなるため、「複数社参加のなかの1社」という位置づけで見積もりを行うことが重要です。
また、工事ではなく、一級建築士事務所として設計・工事監理(調査・診断を含む場合が多い)を行う場合もあります。
工事積算と同様に複数の設計監理会社から1社を選ぶか、これまでの信頼関係から特約を結ぶかは管理組合が判断します。
さらに、大規模修繕工事の計画・実施にあたっては、通常の日常管理に加え、膨大な事務作業が必要です。
委員や理事だけでは対応しきれないケースも多く、会議の準備や準備の経験豊富な管理会社に支援を求めるケースもあります。
ただし、この業務は単なる年間管理委託ではないため、依頼する場合は業務について管理会社と新たに契約を結ばなければなりません。
マンション大規模修繕ポイント|信頼できるパートナー選びも重要に
大規模修繕工事を成功させるためには、パートナー選びが重要です。
そのため、大規模修繕を検討する際は、予算や工事内容に見合った業者を選びましょう。
- 設計コンサルタントに委託する
- 管理会社に委託する
- 施工業者に依頼する
設計コンサルタントの場合、設計部門と施工部門が分かれているため、それぞれの立場から意見を聞きやすい反面、コストが高くなる傾向があります。
管理会社は建物の状態を把握しているので一見安心ですが、任せきりにするのは危険です。
見積書や工事内容に疑問点がないかよく確認し、他社からも見積もりを取って比較することもポイントです。
また、大規模修繕工事の施工業者と一口いっても、施工方法やアフターフォローには大きな違いがあります。
大規模修繕を得意とし、実績のある業者を選ぶと安心です。
マンション大規模修繕の注意ポイント
マンション大規模修繕では、工事の際に注意すべきポイントもあります。
各工事で注意したいポイントを簡単に確認しておきましょう。
マンション大規模修繕の基礎となる足場工事
マンション大規模修繕では、足場工事から開始されます。
足場工事では、道路占用許可所を取らなければならない点に注意しましょう。
多くのマンション大規模修繕工事では、道路に足場をかけます。
そのため、警察署や役所に申請し、使用量を支払わなければなりません。
建物の耐久性を維持するマンション大規模修繕の屋上防水工事
屋上防水の場合、建物の構造・下地の状態・防水工事のメリットやデメリットを把握して、防水工事の種類を選ぶのがポイントです。
屋上に施工する防水工事には、
- ウレタン防水
- シート防水
- アスファルト防水
- FRP防水
があります。
屋上にはウレタン防水またはシート防水による施工がおすすめですが、建物の構造・下地の状態との相性の問題で施工できない場合があります。
また、屋上の用途によっても向き不向きがあります。
防水工事の種類を決める際は、プロの業者に相談して決めるようにしましょう。
外観を左右するマンション大規模修繕の外壁塗装
外壁塗装では、窓枠にシーリング工事をすることがポイントです。
シーリング材が切れ、窓枠から雨漏りするケースは珍しくないため、必ず窓枠のシーリング工事をしましょう。
場合によっては、窓枠近くの壁が崩壊していることがあります。
壁が壊れている場合、外壁塗装の前に現状回復をしなければならない点に注意が必要です。
マンション大規模修繕で周囲の安全を確保するタイル修繕
タイルが劣化している場合、タイルを剥がして貼り直します。
タイル修繕を実施しないと、タイルが剥がれて落下し、通行人に当たると大怪我をする可能性が高いです。
また、タイル目地は徐々に劣化するため、大規模修繕で工事をしなければ雨漏りにつながります。
雨漏りをするとタイル修繕以外にも様々な工事が必要になり、費用がかかるほか建物も劣化するため注意が必要です。
爆裂部処理をマンション大規模修繕で補強する場合
コンクリートが爆裂の原因は、壁に雨水が浸透するほか、前回の大規模修繕工事が不適切だった可能性があります。
外壁の落下を防ぐため、一部外壁を剥がさなければなりません。
爆裂部の処理は1回で行えるものではなく、数回に分けて乾燥させながら行われます。
爆裂部の状況によっては、スケジュール調整も必要になるでしょう。
腐食を抑えるマンション大規模修繕での鉄部修繕工事
鉄部は、様々な部品のなかでも耐久性が高いとはいえない点に注意が必要です。
鉄は雨水で酸化し、サビが発生します。
サビを放置すると、外階段が抜け落ちる、手摺が折れるなどの事故につながるため大変危険です。
鉄部の修繕では、サビを落とし、サビ止めの塗装を実施します。塗装では色を付ける中塗りと、耐久性を高めて綺麗に仕上げる上塗りを行うことが一般的です。
マンション管理組合でよくあるトラブル事例
マンション管理組合では、多くの居住者が関与するため、運営や生活に関するトラブルが発生しやすい傾向があります。以下では、よく見られるトラブル事例を2つの観点から詳しく解説します。
1. 管理費や修繕積立金の滞納問題
管理費や修繕積立金の滞納は、マンション運営における大きな課題の一つです。滞納が発生すると、計画していた修繕工事や日常の管理業務に支障をきたす可能性があります。また、滞納者への対応は慎重を要し、督促や法的措置に進む場合もあるため、他の住民との関係が悪化する原因にもなり得ます。この問題を防ぐには、滞納者への早期対応や、負担の透明性を高めるための管理組合の運営体制強化が重要です。
2. 意見の対立と意思決定の遅れ
管理方針や修繕計画、費用負担を巡る住民間の意見対立は、意思決定の遅れや停滞につながる大きな要因です。特に、大規模修繕工事などの高額な支出を伴う議題では、合意形成に時間がかかることがあります。このような場合、管理規約の見直しや、第三者を交えた議論の進行が解決の糸口となることがあります。意見の相違を乗り越えるためには、透明性の高い議論と住民間のコミュニケーションが不可欠です。
これらのトラブルは、マンション管理の運営に大きな影響を与えるため、適切な予防策と早期の対応が求められます。管理規約の整備や定期的な話し合いを通じて、円滑な運営を目指しましょう。
大規模修繕工事でよくある質問
Q
大規模修繕工事の期間はどのくらいかかりますか?
A
大規模修繕工事の規模や建物の状態によりますが、およそ3ヶ月〜4ヶ月程度かかることが多いです。
Q
工事中の生活にどんな影響がありますか?
A
足場の設置やメッシュシートで覆うため、室内が少し暗くなることがあります。また、塗装や防水作業時には洗濯物が干せないなどの制限があります。
Q
バルコニーやベランダの利用はどうなりますか?
A
バルコニーやベランダの壁面塗装や床面の防水作業時には、使用が制限されることがあります。
Q
工事期間中、エアコンは使えますか?
A
基本的には通常通り使用できますが、場合によっては一時的に使用が制限されることもあります。
Q
大規模修繕での工事の騒音や臭気はどうなりますか?
A
塗装の臭気やドリルの騒音、粉塵などが発生することがありますが、できるだけ負担を軽減するよう配慮しております。
Q
大規模修繕工事に対する費用が不足する場合はどうすればよいでしょうか?
A
できるだけ早い時期に長期修繕計画に基づき積立金を見直し、資金不足にならないようにするのが最善です。実際に資金が足りないことが判明した場合には、時期をずらしたり、工事の範囲を見直したり、一時金の徴収や借入の可能性を探ったりと、様々な方法で計画を調整できます。ご予算に応じて資産価値を損なわないベストなプランをご提案いたします。
Q
修繕工事の前に現地調査が必要なのはなぜですか。どういうことを行うのですか?
A
築年数、周囲の環境や場所によって劣化の度合いは異なりますので、各部の劣化状況を把握し、適切な修繕方法を見極めるためには現地調査が欠かせません。外壁タイルの浮きやコンクリートの中性化、鉄部の錆など、部位ごとに幅広くチェックします。
Q
大規模修繕工事の費用相場は一般的にいくらですか?
A
大規模修繕工事の費用について一般的な相場としては、1戸あたり約100万円前後が目安です。マンション全体の規模が大きい場合には、修繕費用が1億円を超えることもあります。また、マンションの劣化が激しい場合や、質の高い塗装を希望する場合には、さらに費用が高くなることがあります。
大規模修繕工事成功のポイントをひとつずつクリアしよう
マンションの大規模修繕を行う場合、適切な人数で管理委員会を構成し、公平に選定すること、予算に合った発注方法を選択することが重要です。
また、施工実績のある業者を選ぶことが成功のポイントだといえます。
マンションの建て替えには数十年かかり、その間に何度も修繕が必要です。
長期的なケアを考えてくれる信頼できる業者に依頼し、マンションを長く安全に保ちましょう。