
大規模修繕における躯体補修とは?
2025/07/24
大規模修繕を検討する際、見落とされがちな要素のひとつが「躯体(くたい)」です。
外壁の塗装や屋上の防水ばかりが注目される一方で、建物の基礎構造である躯体に関しては、十分な理解や注意が払われていないケースも少なくありません。
躯体の劣化や損傷を放置すると、建物全体の構造に深刻な影響を及ぼし、安全性が著しく損なわれる可能性があります。
目に見えにくい部分であるがゆえに異変に気づきにくく、気づいたときにはすでに深刻な状態に至っていることもあります。
本記事では、そうしたリスクを未然に防ぐためにも、大規模修繕における躯体補修の重要性を解説します。
劣化症状の具体的なパターン・補修に用いられる工法の種類・費用相場まで、これから修繕を計画する方にもわかりやすく解説します。
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目次
大規模修繕における「躯体」とは?
「躯体」とは、大規模修繕で重要となる建物の骨組み部分を指します。
具体的には、柱や梁・床スラブ・耐力壁・基礎など、建物の荷重を支え外部の力を地盤に伝える構造体のことです。
躯体の状態が建物の安全性や耐久性に直結するため、劣化や損傷の有無を正確に把握し、適切な補修や補強を行うことが大規模修繕では欠かせません。
躯体の主な役割と構成要素
「躯体」とは、建物を支える構造体であり、建物の荷重や外部からの力を受け止め、それを地盤に伝える役割を持ちます。
主に鉄筋コンクリート造(RC造)や鉄骨造(S造)で構成されることが多く、柱・梁・床スラブ・耐力壁・基礎などがその主な構成要素となります。
これらの部材が相互に連携し、建物の安定性や強度を確保しています。
たとえば、柱や梁が荷重を支えるのに対し、スラブは水平荷重を分散させ、壁や耐震要素が地震の揺れに抵抗します。
これらが一体となって機能することで、建物は外的な力に対して高い耐久性を発揮するのです。
なお、木造建築においても「構造体」は存在しますが、この記事では特に大規模修繕の対象となる中高層のRC造・S造を中心に解説します。
躯体の重要性
躯体は、いわば建物の骨格であり、人間で言えば骨や背骨に相当します。
この構造が健康でしっかりしていれば、多少の外部からの衝撃や経年劣化にも耐えられる強度を維持できます。
反対に、どれだけ外装や内装が美しく施されていても、躯体に劣化や損傷があれば、その建物全体の寿命や安全性は大きく損なわれることになります。
また躯体の状態は、建物の維持管理コストや資産価値にも直結します。
たとえば、中性化が進んでいるコンクリートや腐食が広がった鉄筋が放置されていれば、数年後には大規模な改修が必要となり、結果として修繕費用も高額になります。
したがって、定期的な診断やモニタリングにより、躯体の状態を正しく把握し、必要に応じた予防的措置を講じることが重要です。
なぜ大規模修繕で躯体補修が重要なのか?
大規模修繕において、躯体補修は建物の安全性を守るうえで欠かせない重要な作業です。
ここでは、躯体補修がなぜ必要なのか、その具体的な役割と効果について詳しく紹介します。
表面の補修だけでは危険な理由
外壁の塗装や目地シーリングの打ち替えなど、いわゆる「表層部」の補修は、美観維持や雨水浸入の抑制には効果があります。
しかし、それだけでは建物の深部、すなわち躯体に生じている構造的なダメージや経年劣化に対処することはできません。
とくにコンクリート構造では、内部で鉄筋が腐食し始めていても、外からはまったくわからないことが多く、視認できるようになった時点ではすでに深刻な状態にあるケースも少なくありません。
このような「隠れた劣化」は、外部からの定期的な点検や非破壊検査を通じてしか発見できません。
仮に見た目がきれいでも、内部の鉄筋が腐食していれば、建物の荷重を支える力が失われ、地震や強風などの自然災害時に倒壊のリスクが高まります。
したがって、大規模修繕では見た目の美しさだけでなく、構造体である躯体の健全性にも目を向ける必要があります。
躯体の劣化が進行すると起こる問題
躯体の劣化は、初期段階ではわずかなクラックや変色として現れることがありますが、そのまま放置するとさまざまな問題に発展します。
まずひび割れや剥離が拡大すると、そこから雨水が浸入し、内部の鉄筋を腐食させたり、建物内部の仕上げ材を劣化させたりします。
これにより、居住空間の快適性が損なわれるだけでなく、建物の構造耐力そのものが低下するのです。
また、鉄筋の腐食が進行すると、膨張によってコンクリートを内側から押し割る「爆裂現象」が発生します。
これにより、構造部材の断面が減少し、荷重を支える能力が著しく低下します。
さらに、建物の一部が剥落することで通行人や車両に危害を及ぼす可能性もあり、法的責任を問われる事態にもなりかねません。
最悪の場合、地震などの際に倒壊のリスクが高まり、人的被害につながる恐れもあります。
大規模修繕における躯体の劣化サイン
建物の安全性を支える躯体は、長年の使用や環境の影響により徐々に劣化していきます。
大規模修繕で見逃してはならない躯体の劣化サインは、以下の通りです。
ひび割れ(ヘアークラック~構造クラック)
建物の外壁や柱、梁などに現れるひび割れには、さまざまな種類があります。
なかでも髪の毛のように細い「ヘアークラック」は一見無害に思われがちですが、雨水の浸入経路になることがあり、注意が必要です。
ひび割れの幅が0.3mmを超えるような場合は「構造クラック」と呼ばれ、建物の構造的な不具合を示唆している可能性が高くなります。
こうしたひび割れを放置してしまうと、鉄筋腐食やコンクリートの中性化が進行し、さらに劣化が広がる要因となります。
早期発見・早期対応が肝心であり、専門業者による詳細な調査を行ったうえで、適切な補修方法(エポキシ樹脂注入など)を選定することが重要です。
コンクリートの剥離・爆裂(中性化・鉄筋腐食)
コンクリートの剥離や爆裂は、鉄筋が腐食して膨張することによって引き起こされます。
鉄筋は本来、アルカリ性のコンクリートによって保護されていますが、経年劣化や外部環境(炭酸ガス、塩害など)によりコンクリートが中性化し、その保護機能が失われることで錆が発生します。
鉄筋が錆びると体積が膨張し、その圧力で周囲のコンクリートを割ってしまうのです。
このような状態が進行すると、建物の構造耐力が大きく低下するだけでなく、コンクリート片の落下事故などの危険性も高まります。
見た目の異変に気づいたら、放置せずに速やかに専門業者に調査を依頼することが求められます。
鉄筋の露出・サビ汁
鉄筋がコンクリート表面から露出し、赤茶色のサビ汁(鉄さびの滲出液)が確認できる場合、すでに内部の腐食がかなり進んでいるサインです。
鉄筋が腐食すると断面が減少し、荷重を支える能力が低下するため、躯体全体の耐久性にも深刻な影響を及ぼします。
サビ汁は、雨のたびにコンクリート内部へ水分が浸入している証拠でもあり、長期的に放置すれば鉄筋腐食が加速度的に進行します。
このような症状が見られた際は、表面的な補修ではなく、内部の状態を把握した上で根本的な補修を行うことが大切です。
コンクリートの浮き・空洞化
コンクリートの浮きや空洞化は、構造体と仕上げ材との間に剥離が発生し、付着力が失われている状態です。
これにより、軽く叩いたときに「ポコポコ」といった空洞音がすることがあります。
浮きや空洞は、施工時の不具合や経年による接着劣化が原因で発生し、進行すると大規模な剥落につながる危険性があります。
目視では確認しづらいため、打音検査や赤外線サーモグラフィー・電磁誘導法などの非破壊検査を用いて診断を行うのが一般的です。
適切なタイミングでの検査と補修により、将来的な事故やコスト増加を防ぐことが可能になります。
大規模修繕で実施される躯体補修工法の種類と特徴
大規模修繕の現場では、劣化の進行度や発生箇所に応じてさまざまな躯体補修工法が用いられます。
それぞれの工法には、適した用途や耐久性、施工コスト、工期などに違いがあります。
ここでは主要な補修工法について、その特徴と適用シーンを詳しく解説します。
エポキシ樹脂注入工法(ひび割れ補修)
エポキシ樹脂注入工法は、躯体に発生した微細なひび割れ(クラック)に対し、専用の樹脂を低圧または高圧で注入し、内部から補強・防水する工法です。
主に幅0.3mm以上の構造クラックに用いられ、内部の空隙を埋めることで構造強度を回復させると同時に、水分の浸入も防ぎます。
この工法はコンクリートの強度に影響を与えずに補修できる利点があり、部分的な劣化に対しても効果的です。
一方で、注入精度が求められるため、経験豊富な施工業者による対応が必須です。
断面修復工法(爆裂・剥離対応)
コンクリートの剥離や爆裂が発生した部分に対して、劣化部分を除去し、新たに補修材(ポリマーセメントモルタルなど)を充填する工法です。
鉄筋が腐食している場合は、あわせて防錆処理も施します。
断面修復工法は、構造部材の断面欠損を回復することが主な目的であり、構造安全性の確保に直結する重要な工法です。
施工後には被覆材や仕上げを施すことで、補修痕の保護と美観回復も可能です。
表面被覆工法(劣化抑制)
外気にさらされるコンクリート表面に専用の被覆材(防水性塗料・中性化抑制材など)を塗布し、外部からの水分・炭酸ガス・塩分の侵入を防ぐ工法です。
主に予防的な対策として用いられ、クラックの進行や中性化の抑制に効果を発揮します。
建物の表面に劣化の兆候が見られるが構造に大きなダメージがない場合、この表面被覆工法は低コストで高い保護効果を得られる有効な選択肢となります。
断面増厚工法(強度回復)
建物の一部に構造的な弱点がある、あるいは耐震性を補強する必要がある場合に、構造体に新たな補強材を巻き付けたり、補強コンクリートを打設して厚みを増す工法です。
鉄筋の追加やFRP・炭素繊維などの先進補強材と組み合わせて使用されるケースもあります。
この工法は、耐震改修や大規模改修の際に多く採用され、躯体そのものの強度を根本的に高める目的で行われます。
大規模修繕における躯体補修の費用相場
躯体補修は工法や劣化の範囲によって費用に大きな差が生じます。
ここでは主な工法ごとの単価と、一般的な補修にかかる費用感を整理します。
工法別の費用相場(概算)
補修工法 | 単価目安(税別) | 主な適用条件 |
---|---|---|
エポキシ樹脂注入 | 約3,000〜6,000円/m | 幅0.3mm以上のひび割れ補修 |
断面修復工法 | 約20,000〜40,000円/㎡ | 剥離・爆裂・鉄筋露出などの補修 |
表面被覆工法 | 約2,500〜5,000円/㎡ | 予防措置・軽微な劣化防止 |
断面増厚工法 | 約30,000〜60,000円/㎡ | 構造補強、耐震対策 |
鉄筋防錆処理 | 約1,500〜3,000円/m | 初期段階の鉄筋腐食、併用工法として有効 |
※実際の費用は現地の状況や施工範囲、建物規模によって大きく変動します。
施工全体の費用例
たとえば、延べ床面積1,000㎡規模の中規模マンションで、外壁面や共用廊下の躯体補修を伴う大規模修繕を行う場合、補修対象範囲が約300㎡だったとすると、躯体補修部分だけで600〜1,200万円前後の予算が想定されます(他の塗装・防水等は別途)。
また、補修工法は複数を併用することが一般的であり、単一工法だけで完結するケースは多くありません。
そのため、見積もり段階で工法ごとの内訳をしっかり確認し、無駄な費用が発生していないかを精査することが重要です。
実録!新東亜工業の施工事例|8階建てマンションの大規模修繕工事
築17年の8階建てマンションにおける、管理組合主導による大規模修繕工事の一部始終をご紹介します。
「予算オーバーを避けたい」「融資は極力使いたくない」といった現実的な課題を抱える中で、新東亜工業がどのように提案し、信頼を築きながら工事を完遂したのか──。
理事会への説明から近隣対応、完成後のフォローまで、実際のやり取りを交えてリアルにお伝えします。
大規模修繕・防水工事・外壁塗装のご依頼やご相談は、メール・お電話からお受け致しております。

ご相談内容
築17年が経過し、管理組合では以前から大規模修繕の検討がされていましたが、資材高騰などにより予算が合わず延期されていた背景があります。「融資は避けたい」「必要な部分に絞って実施したい」といった要望の中、数社に見積り依頼をされていた中で弊社にご相談をいただきました。
担当者:お問い合わせありがとうございます。ご予算に合わせて施工範囲を調整することも可能です。弊社は子会社で材料問屋を持っているため、同じ工事でも他社様より価格を抑えるご提案が可能です。
お客様:なるべく費用を抑えたいので、ぜひ現地調査をお願いします。図面などもご用意します。
担当者:ありがとうございます。図面と、屋上に鍵があるようであればご用意をお願いします。
工事の概要|工事金額と期間


項目 | 内容 |
---|---|
建物種別 | 分譲マンション(8階建て) |
所在地 | 東京都内(詳細非公開) |
工事内容 | 大規模修繕工事(外壁補修・塗装・防水・シーリング・長尺シート他) |
工法 | 足場設置のうえ全面修繕/ウレタン塗膜防水(密着工法)他 |
その他特記事項 | 理事会へのプレゼンあり、工事中の騒音・近隣対策対応あり |
工事金額:2,430万円 期間:約2カ月間
現地調査で判明した劣化症状
現地調査では、屋上の防水層や外壁のシーリング、タイル目地などに劣化が見られました。既存のアスファルトシート防水はまだ機能していたものの、再施工のタイミングとしては適切であり、ウレタン塗膜防水による上塗りを推奨しました。また、タイルの一部には硬化不良が確認され、慎重な撤去作業が必要な状態でした。
担当者:屋上はアスファルトシート防水ですね。状態は悪くないので、ウレタン塗膜防水の密着工法が適しています。
お客様:それでお願いします。あとベランダは見た目を良くしたいので、長尺シートも検討したいです。
担当者:シートは費用が倍近くかかるので、ウレタンの方が予算には優しいですね。
お客様:でも可能ならシートにしたいので、そちらで見積りお願いします。
施工中のやり取りと配慮
工事期間中は、騒音や近隣への影響を最小限に抑える配慮を行いました。作業工程や騒音の案内は掲示板やホワイトボードで事前に周知し、近隣住民や管理人との連携も徹底。足場設置やメッシュシートの風対策も含め、安全対策も万全に対応しました。また、アスベスト調査も事前に実施し、含有なしを確認済みです。
お客様:日曜に音がしたって苦情が来たのですが…。
担当者:調べたところ、隣の工事のものでした。担当者に周知のお願いはしておきました。
お客様:ありがとうございます。トラブルにならなくてよかったです。
引き渡し時のご感想
工事完了後、お客様からは「タイルもまったく違和感がない」「すごく綺麗になった」と高い評価をいただきました。タイルの保管方法や施工写真・保証書を含めた竣工図書の提出も行い、今後のメンテナンスにも役立てていただける内容でお渡ししました。
お客様:どこを張り替えたかわからないくらい自然ですね。
担当者:窯焼きで色を合わせたので、かなり近く再現できています。必要があればいつでもご連絡ください。
お客様:ありがとうございます。次は廊下の床や照明をまとめて検討したいと思います。
今回の工事では、以下のような成果が得られました。
- ご予算に合わせた柔軟な工事範囲調整
- 自社施工・材料問屋からの直接仕入れでコストダウンを実現
- 理事会での丁寧なプレゼンと近隣配慮で信頼を構築
- 施工中の進捗報告や打ち合わせで透明性を確保
- 外観と防水性が向上し、物件価値の維持につながった
新東亜工業では、お客様の状況に合わせた提案と対応を徹底しております。大規模修繕に関するご相談は、お気軽にお問い合わせください。
大規模修繕の躯体補修における業者の選び方
大規模修繕の成否は、信頼できる施工業者を選べるかどうかに大きく左右されます。
特に躯体補修は建物の安全性に関わるため、専門性が高く実績ある業者の選定が不可欠です。
躯体補修の実績と資格の有無を確認
過去に同規模の建物で躯体補修を行った実績があるか、またコンクリート診断士や一級建築施工管理技士などの有資格者が在籍しているかを確認しましょう。
業者の公式サイトや工事履歴、写真などもチェックポイントです。
現場調査・報告書の質を比較する
点検・診断の丁寧さは、補修範囲の正確さに直結します。
複数業者からの見積もりを取る際には、調査報告書の内容を比較し、根拠ある提案を行っているかを見極めることが大切です。
保証内容とアフター対応も要チェック
補修工事の完了後に不具合が発生した場合、保証の有無や対応スピードが施工の信頼性を測る指標になります。
保証期間や補償範囲について事前に確認しておきましょう。
大規模修繕の躯体補修に関するよくある質問(FAQ)
重要な工事だからこそ、実施するにあたってさまざまな不安がつきまとうものです。
ここでは、大規模修繕の躯体補修に関するよくある質問をまとめましたので、不安解消の材料として活用してみてください。
Q1.躯体補修は外壁塗装と同時に行うべき?
A.はい、基本的には外壁塗装などの表面施工と同時に行うのが理想です。
外装を一新する前に内部の躯体の劣化を補修しておけば、耐久性の面でも無駄な再施工のリスクを減らせます。
Q2.鉄筋が見えているが補修しないとどうなる?
A.鉄筋が露出している状態を放置すると、錆が進行してコンクリートが爆裂を起こし、断面欠損につながります。
強度低下や落下の危険もあるため、早急な補修が必要です。
Q3.躯体補修の保証期間はどのくらい?
A.一般的には3〜10年が目安ですが、工法や業者によって異なります。
注入工法は比較的短め、断面修復や増厚工法は長めの保証がつく傾向があります。
大規模修繕での躯体補修は早めの対応と信頼できる業者選びが重要|まとめ
建物の根幹を成す躯体は、経年とともに確実に劣化が進行します。
ひび割れや爆裂といった症状は放置すれば安全性の低下や資産価値の損失を招きかねません。
外装だけにとどまらず、構造体内部にも目を向けたメンテナンスこそが、長寿命化と将来の修繕コスト圧縮につながります。
大規模修繕を行う際は、外壁塗装や防水に加えて、必ず躯体の点検と必要な補修を視野に入れることが重要です。
信頼できる専門業者による診断と適切な工法選定を行い、安心・安全な建物環境を次世代へつなぎましょう。