仮防水とは?目的・必要性・本防水との違いをわかりやすく紹介

2025/07/24

建築物の防水工事で見過ごされがちな「仮防水」は、本格的な防水施工前に雨水侵入を防ぐ簡易処置です。暫定的な印象ですが、工事全体の品質や安全性に関わる重要な工程です。

工期が長引く場合や梅雨・台風シーズンでは、仮防水の有無が劣化リスクを左右。材料費・人件費高騰で漏水後の費用増もあり、未然防止としての導入が推奨されています。

この記事では、仮防水の基本や必要性・使用材料や工法・施工タイミングなどをわかりやすく解説します。建物オーナーや施工・設計担当者が適切に判断できるよう、実務目線でお届けします。

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目次

仮防水とは何か?本防水との違いと役割

仮防水は、防水工事の本防水施工前に、建物内部への水の侵入を一時的に抑える処置です。
建築現場では工期、天候、工程の順序、他業種との兼ね合いなどの理由で、本防水をすぐに施工できないことが多くあります。
そうした状況でも、雨水や湿気で下地が劣化するのを防ぐために仮防水が施されます。

仮防水は「一時的な防水処置」ですが、工事全体の品質を支える重要な工程です。
特に近年は短工期・コスト削減が求められ、効率的な仮防水の計画と実施が全体の成功を左右するカギになることも少なくありません。
ここでは定義や目的、本防水との違いについて詳しく解説します。

仮防水の定義と施工目的

仮防水とは、屋上・バルコニー・外壁などの防水対象箇所において、工事中や工程の間で下地が露出するタイミングに水の浸入を一時的に防ぐための処置です。
以下のような目的を持って行われます。

  • 施工途中における雨天時の下地・構造体の保護:たとえ短期間でも、下地が濡れると乾燥に時間がかかり、その後の工程に遅れや品質低下をもたらします。
  • 工程間のインターバル中に発生する雨漏り防止:養生期間、他工種との調整などで数日〜1週間空く場合でも、仮防水を行えば安心です。
  • 工事遅延や不測の気象変化に対応する柔軟性の確保:突発的なゲリラ豪雨や天候不良にも対応できるため、工程管理がスムーズになります。

このように、仮防水は「時間的なすき間」「予測不能なリスク」への対策として重要な役割を果たします。
仮防水の質が本防水の成功にも直結することを理解しておくことが大切です。

本防水との違い(使用材料・耐久性・施工期間)

仮防水と本防水では、使用目的や性能に大きな違いがあります。以下の表に主な相違点を示します。

比較項目仮防水本防水
目的一時的な防水長期的な防水保護
使用材料テープ、簡易シート、仮用塗膜材ウレタン、シート防水、アスファルトなど
耐久性数日〜数週間10〜20年程度
施工期間数時間〜1日程度数日〜数週間

仮防水は工事の合間に柔軟に取り入れることが可能な施工で、急な天候変化などにも対応しやすいのが特徴です。
一方、本防水は長期的な建物保護を目的としており、計画的かつ確実な工程管理が求められます。
両者を正しく理解し、適切に使い分けることが建築品質を左右します。

仮防水が求められる理由

仮防水が必要とされる背景には、現場ごとの多様なリスクと管理上の配慮があります。
とくに以下のような理由が挙げられます。

  • 長期化する工期の中間工程で雨に降られるリスクが高い:大型案件では、1工程に1週間以上かかることもあり、途中での降雨は避けられません。
  • 防水層施工前の下地が吸水しやすい素材である(モルタル・ALCなど):これらの素材は水分を吸収しやすく、濡れると乾燥に時間がかかるため、工程遅延や不良の要因になります。
  • 雨水が構造体に浸入すると劣化・剥離・腐食の原因になる:内部にまで水分が到達すると、柱・梁・鉄筋などへの悪影響も懸念され、最悪の場合、構造性能そのものが損なわれるリスクもあります。
  • マンションやオフィスビルなど稼働中の建物では漏水が業務・居住に影響:改修工事中の仮防水が不十分だと、営業中の店舗や入居者からのクレームにつながる可能性が高まります。

このように、仮防水は施工側だけでなく、建物のオーナーや使用者にも大きな影響を及ぼす要素であり、「しておいた方が良い」ではなく「しておかなければならない」重要工程といえるのです。

仮防水が必要になるタイミングとは?

仮防水はすべての建築現場において必要というわけではありませんが、施工環境・工法・立地条件・工期・建物の使用状況など、さまざまな要素を総合的に判断して仮防水の有無を決定する必要があります。
特に防水層を設けるまでのタイムラグが発生する工事や、外部環境からの影響を受けやすい状況では、仮防水の重要性は一層高まります。

以下のような条件に該当する場合は、仮防水の実施が強く推奨されます。

長期間の工期が見込まれる現場

高層ビル、複合施設、公共施設などの大規模建築物においては、屋上やバルコニーの防水工事が複数の工程にまたがるため、工期が数週間から数ヶ月に及ぶことが珍しくありません。
そのような場合、天候による工程の中断リスクが非常に高く、結果として構造体が長期間無防備な状態にさらされてしまいます。
仮防水を適切に施すことで、下地の保護と工程の安定化が図れ、工事全体の品質管理に寄与します。

雨季や梅雨時期における工事対策

6〜7月の梅雨時期や、台風の多い9〜10月は、予測できない降雨が頻繁に発生します。
このような時期に外装や屋上の防水工事を行う場合、下地材が雨水を吸収しやすい素材であると、乾燥に長時間を要し、工程の遅延や施工不良の原因になります。
仮防水は、短期間の降雨から建物を守る「時間稼ぎ」の役割を担うと同時に、天候に左右されにくい柔軟な工程管理を実現します。

また、近年のゲリラ豪雨や異常気象への備えとしても、仮防水の重要性は増しています。
工事の完了を待たずして発生する突発的な雨に備えるには、仮防水を組み込んだ柔軟な施工体制が求められます。

下地が露出する期間がある工法(シーリング撤去後)

シーリングの打ち替え工事や外壁改修工事においては、既存のシーリング材を撤去してから新しい材料を打設するまでの間、目地部分や構造躯体が雨水にさらされやすくなります。
1日以上のタイムラグがある場合は特に、雨が降れば断熱材や内部下地まで水分が入り込み、乾燥不良やカビの発生・接着不良といった施工上の問題が起こりやすくなります。

こうしたリスクを未然に防ぐためには、仮防水テープの貼付やシート仮設など、手間を惜しまない応急的処置が有効です。
近年では専用の仮防水材も市販されており、現場の特性に応じて適切な工法を選定することが重要です。

仮防水の工法と使用される材料

仮防水に使用される材料や工法は、簡便で迅速に施工可能なこと、また比較的安価であることが重視されます。
耐久性よりも遮水性や一時的な防護性、そして現場での使い勝手の良さが求められるため、状況に応じた選定が必要です。

テープ・フィルムによる簡易防水

最もポピュラーで手軽な仮防水の手法が、防水テープやポリエチレンフィルムなどを用いた簡易的な処置です。
ひび割れ・目地部・取り合い部などのポイント的な防水に適しており、短時間で施工が可能なため、応急処置や短期工事には特に有効です。
ただし、耐候性には限界があり、高温多湿や直射日光が当たる環境では短期間で劣化する可能性があるため、定期的な点検と補修が必要です。

ウレタン・シート系の仮防水材

やや広範囲の面に対して仮防水が必要な場合には、速乾性のあるウレタン塗膜材や仮設用の塩ビシートなどが用いられます。
これらの材料は下地に直接塗布または貼付けることができ、施工後すぐに遮水効果を発揮することが可能です。
仮設的ではありますが、天候の影響が懸念される数日間〜数週間にわたって信頼性の高い防水性を維持できるのが特徴です。

応急対応と計画的施工の違い

仮防水には、事前に工程として計画的に組み込まれるケースと、突発的な雨や予期せぬトラブルに対応する応急処置のケースがあります。
前者は施工手順の一部として実施されるため、品質と安全性が確保されやすい一方、後者は時間や人手が限られる中での作業となるため、施工精度が低下する可能性もあります。
したがって、理想的には着工前から仮防水の有無・方法・使用材料を決定し、工程表に反映させておくことが望ましいです。

仮防水を行わないリスクとは?

仮防水を省略した場合、外見では分かりづらいものの、建物の内部構造や仕上げ材に対して深刻な影響を及ぼす恐れがあります。
以下は、仮防水を行わなかったことによって起こり得る代表的なトラブルやリスクです。

下地材の吸水・劣化リスク

モルタル・ALCパネル・木下地などの多くの建材は、吸水性が高く、乾燥に時間がかかる性質を持ちます。
雨水を吸い込んだ状態で本防水を施工すると、内部に水分が閉じ込められ、時間の経過とともに層間剥離・膨れ・ひび割れなどの不具合を誘発する可能性があります。
特にウレタン防水やシート貼り防水などでは密着不良の原因となり、工事のやり直しが発生するケースも少なくありません。

雨水侵入による内装損傷・漏水事故

建築中や改修工事中に仮防水を省略したことで、室内にまで雨水が浸入し、天井材や壁材が濡れてしまうトラブルはよく見られます。
これにより内装の仕上げが損傷したり、カビや異臭の発生・断熱性能の低下といった二次的な問題が生じることがあります。
居住者・テナントへの影響が大きくなると、賠償責任問題にもつながりかねません。

工事全体の品質・安全性の低下

仮防水を施さないことによって施工中の下地が常に湿った状態になっていると、他の工程にも悪影響を及ぼします。
たとえば、塗装や接着作業の仕上がりが悪くなる・強度が出ない・乾燥が不十分な状態での材料施工が強行されるなど、品質の低下に直結します。
また、現場作業員の安全確保にも支障を来すため、労働災害のリスクも無視できません。

実録!新東亜工業の施工事例|3階建てマンションの屋上防水工事

築38年の3階建てRC造マンションにて、屋上の防水工事をご依頼いただいた事例をご紹介します。
「屋上の防水塗装が剥がれてきて不安…」「ベランダや排水溝も気になる箇所がある」
そんな不安を抱えたお客様からメールにてお問い合わせをいただき、現地調査・見積・契約・施工・引き渡しまでを実際のやり取りと共にご紹介します。
途中で工法の変更が発生した点も含め、リアルな工事の流れがわかる内容です。

大規模修繕・防水工事・外壁塗装のご依頼やご相談は、メール・お電話からお受け致しております。

ご相談内容

お問い合わせはメールで始まりました。屋上やベランダの防水劣化、排水溝の錆、駐輪場のライン引きについてもご相談がありました。
お客様はメールでのやりとりを希望されており、現地調査と見積が無料であることを案内することで安心感を提供できました。

お客様:屋上やベランダの防水塗装が剥がれているようなので見積をお願いします。
通路の排水溝の金属蓋の交換もお願いしたいです。

担当者:現地調査・御見積は無料で行っておりますのでご安心ください。

お客様:12月12日 14時でお願いできますか? ついでに天窓と屋根の調査もお願いします。

工事の概要|工事金額と期間

屋上防水工事 施工前

屋上防水工事 施工後


建物種別 3階建てマンション(RC造)
所在地 東京都(詳細非公開)
工事内容 屋上・塔屋・庇の防水工事、排水溝蓋交換、駐輪場ライン引き
工法 通気緩衝工法(当初は密着工法予定)
その他特記事項 天窓・廊下清掃・駐輪場区画調整含む

工事金額:100万円

工期:5日間

 

現地調査で判明した劣化症状

屋上の防水層は部分的に切れ・膨れが見られ、塔屋屋根はより劣化が進んでいました。
一方でベランダや廊下の防水はまだ機能していると判断され、不要な工事は避ける形でご提案しました。

担当者:塔屋屋根の防水層は屋上よりも状態が悪く、以前の工事からかなり年数が経っていると思われます。

お客様:そうなんですね。やはり雨漏りしてからじゃ遅いので、防水お願いします。

担当者:防水層が生きている場所については、今回は工事しなくても大丈夫です。

施工中のやり取りと配慮

洗浄後の確認で、旧防水層の膨れが多数見つかり、急遽「通気緩衝工法」への変更を提案。
工法変更による追加費用やメリットを丁寧に説明し、納得を得て施工を進行。
室外機や物干し台の取り扱い、駐輪場ライン引きのスケジュールも調整されました。

担当者:古い防水層の膨れがあり、通気緩衝工法への変更をおすすめします。

お客様:金額によりますが、効果があるならお願いしたいです。

担当者:費用追加で対応可能です。支払いは完工時で結構です。

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引き渡し時のご感想

駐輪場のライン引きを含めた全工程が完了。お客様には仕上がりをご確認いただき、満足のご感想をいただきました。
今後のトラブル時対応についても案内し、信頼関係を築いてお引き渡しとなりました。

担当者:駐輪場のライン引きも終わり、全ての工事が完了しました。

お客様:ありがとうございます。線がとてもきれいで満足です。

担当者:今後なにかあればいつでもご連絡ください。

本工事では、お客様のご要望を丁寧にヒアリングし、メール主体のやり取りにも柔軟に対応しました。
現地調査により劣化の状態を正確に把握し、必要な工事だけをご提案。
施工中には想定外の劣化が発見されましたが、最適な工法へ変更し、お客様の納得を得て対応。
お引き渡し後もフォロー体制を伝えることで、長期的な信頼関係を築くことができました。

仮防水は義務なのか?施工の判断基準と法的位置付け

仮防水は建築基準法や建設業法などで明確に義務付けられているわけではありません。
しかし、施工計画や設計仕様書の中に組み込まれることが多く、建築士や監理者の判断によって実施が求められる場合があります。
特に公共施設や大型マンションなどでは、品質管理の一環として仮防水の実施が事実上の“標準”となっているケースもあります。

また、国土交通省が定める「建築工事標準仕様書」などでも、工程間における一時的な防水措置の重要性が記載されており、施工不良による瑕疵を回避するためにも、仮防水の導入が推奨されています。

結論としては、「義務ではないが、現場管理の質を問われるうえで必要な措置」であると認識しておくことが重要です。

参考元:国土交通省「公共建築改修工事標準仕様書(建築工事編)」

仮防水についてよくある誤解と注意点

仮防水に関しては、施主や現場担当者の間でもいくつかの誤解が生じやすいポイントがあります。
以下では代表的な例を紹介します。

「仮防水はコストが無駄」という誤解

仮防水にかかる費用は、1現場あたり数千円〜数万円程度であることが多く、全体工費の中ではごくわずかな割合です。
しかし、これを省いたことで雨漏りが発生し、内装工事のやり直しや補修工事が発生すれば、数十万円〜百万円単位の損失となる場合もあります。

費用対効果を考えると、仮防水は「安価で大きなリスクを回避できる保険」として、非常に優れた投資と言えるでしょう。

「施工が簡単だから誰でもできる」という誤解

確かに仮防水は簡易な工法が多く、専門資格がなくても施工可能です。
しかし、下地の状態・気温や湿度・雨天の有無などによって、材料の選定や施工方法には細かな注意点が伴います。
誤った施工をすれば、逆に水がたまりやすくなるなど逆効果になる可能性もあるため、経験と知識を持った職人による施工が理想です。

「雨漏りしてから対応すれば良い」という考え方の危険性

雨漏りは表面化した時点で既に内部まで浸水していることが多く、乾燥処理や除去作業に時間とコストがかかります。
仮防水を行うことで、こうした緊急対応のリスクを未然に防げるため「事後対応」ではなく「事前予防」が基本です。

仮防水に関するよくある質問(FAQ)

ここでは、仮防水に関するよくある質問を集めました。
仮防水への理解を深めるための知識として、ぜひ参考にしてみてください。

Q1. 仮防水はすべての建築物に必要ですか?

A. 必須ではありませんが、屋上や外壁など雨水が直接かかる場所での防水工事では、高い確率で仮防水が必要とされます。工期や天候条件、建物の用途に応じて判断されます。

Q2. 仮防水の施工費用はどれくらいですか?

A. 使用する材料や施工範囲によりますが、数千円〜数万円程度が相場です。特別な工法を除き、本防水の10分の1以下の費用で済むことがほとんどです。

Q3. 仮防水はどれくらいの期間持ちますか?

A. 使用する材料によって異なりますが、一般的には数日〜数週間程度の耐久性です。長期間の仮設には適していないため、早期の本防水施工が求められます。

Q4. DIYで仮防水を行うことは可能ですか?

A. 小規模であれば可能ですが、下地の状態や材料の特性を理解していないと逆効果になることもあります。基本的には専門業者に依頼するのが安全です。

仮防水の有無が工事の成功を左右する|まとめ

仮防水は本防水とは異なり、法的な義務ではありませんが、工事品質の安定・施工リスクの回避・コスト削減といった点で非常に重要な役割を担っています。
とくに梅雨や台風の多い時期、工期が長期化する大型案件では、その有無が工事全体の成否を左右する要素にもなり得ます。

軽視されがちな仮防水ですが、建物を守るための第一の防壁として位置付け、計画段階からしっかりと取り入れることが、後悔しない工事への近道です。
施主・設計者・施工者それぞれが仮防水の意義を正しく理解し、現場ごとに最適な判断ができるようにしておきましょう。