マンションのドアクローザーは共用部?専有部?修繕費用の負担者と交換時期をわかりやすく紹介
2025/11/06
マンションの玄関扉に取り付けられているドアクローザーが故障した際、「修理費用は誰が負担するのか?」という疑問を持つ方は少なくありません。
共用部分なのだから管理組合が支払うべきなのか、それとも各住戸の所有者が負担すべきなのか——この判断を誤ると、思わぬトラブルや金銭的な負担が発生する可能性があります。
ドアクローザーは「共用部分」に分類されながらも、「専用使用権のある共用部」という特殊な位置づけになっています。
そのため、日常的な修繕費用は原則として各住戸の所有者が負担することになりますが、大規模修繕時には管理組合が費用を負担するケースもあります。
本記事では、ドアクローザーの法的な位置づけから、修繕・交換にかかる具体的な費用相場、交換時期の見極め方、さらには賃貸住宅での負担区分まで、マンション居住者が知っておくべき情報を網羅的に解説します。
目次
ドアクローザーの基礎知識
マンションの玄関扉にとってドアクローザーは、安全と快適な住環境を守る重要な設備です。
日常的に何気なく使用している装置ですが、その役割や法的な位置づけを正しく理解することで、修繕時の混乱やトラブルを未然に防ぐことができます。
ドアクローザーが果たす役割とは
ドアクローザーは玄関扉の上部に設置された金属製の機器で、バネと油圧機構を組み合わせた精密な装置です。
内部には油圧シリンダーが組み込まれており、扉の重量に合わせて閉鎖速度を調整する仕組みになっています。
この装置があることで、扉が勢いよく閉まって指を挟んだり、小さな子どもやお年寄りがケガをしたりするリスクを大幅に軽減できます。
さらに騒音防止の効果も大きく、共用廊下での生活音トラブルを防ぎます。
火災時には延焼を遅らせる防火機能、不審者の侵入を防ぐ防犯効果も備えており、マンション全体の安全性向上に貢献しています。
マンションの玄関扉に必須とされる背景
マンションのような集合住宅では、ドアクローザーの設置が事実上必須となっています。
共用廊下は多くの居住者が利用する空間であり、扉が急に閉まることで通行中の住民がケガをする危険性があります。
建築基準法では防火扉への設置が義務付けられており、多くのマンションではこの基準に従って玄関扉にも取り付けられています。
また、扉が激しく閉まる音は上下左右の住戸に響き渡り、騒音トラブルの原因になりやすいため、居住者間の良好な関係を保つためにもドアクローザーの適切な機能維持が求められます。
管理組合としても、建物全体の資産価値と住環境の質を守るために、この装置の重要性を認識しておく必要があります。
ドアクローザーは共用部に分類される
玄関扉の各部品がどこに帰属するかは、修繕責任と費用負担を決める上で非常に重要です。
国土交通省が示すマンション標準管理規約では、明確な区分基準が定められており、ドアクローザーは共用部分として扱われます。
標準管理規約が示す玄関扉の区分基準
国土交通省のマンション標準管理規約第7条では、玄関扉について「錠および内部塗装部分を専有部分とする」と明記されています。
つまり、鍵のシリンダー部分と室内側の塗装面のみが住戸所有者の専有部分となり、それ以外のすべての構成要素は共用部分に該当します。
ドアクローザー、蝶番、ドアノブ、チェーン、のぞき窓などは、すべて共用部分として管理されます。
この区分は、建物の構造上の一体性や防火・防犯機能を維持するために設定されており、勝手に取り外したり交換したりすることは原則として認められません。
参考元:国土交通省「マンション標準管理規約」
専有エリアと共用エリアの線引き
マンションの専有部分と共用部分の線引きは、区分所有法と管理規約によって定められています。
主な設備の区分は、以下のとおりです。
| 設備・部位 | 専有部分 | 共用部分 |
|---|---|---|
| 玄関扉 | 錠・室内側塗装 | 扉本体・ドアクローザー・蝶番・取っ手・チェーン |
| 窓 | なし | サッシ・ガラス全体 |
| 床・壁・天井 | 仕上げ材 | 躯体部分 |
| バルコニー | なし | 全体(専用使用権あり) |
この区分方法は、建物の外観や構造に関わる部分を管理組合が一元的に管理し、内装など個人の生活空間に直接関わる部分は所有者の裁量に委ねるという考え方に基づいています。
「専用使用権のある共用部」という考え方
ドアクローザーは法律上「専用使用権のある共用部分」という特殊なカテゴリーに分類されます。
これは、所有権は管理組合にあるものの、特定の住戸の居住者だけが利用する設備を指します。
バルコニーや専用庭と同じ扱いです。完全な専有部分とは異なり、勝手に撤去したり大幅な改造をしたりすることはできませんが、日常的な管理や通常の使用に伴う修繕については、その住戸の所有者が責任を負います。
この考え方により、建物全体の統一性を保ちながら、各住戸の実情に応じた柔軟な維持管理が可能になっています。
ドアクローザーの修繕コストは原則として各戸のオーナーが支払う
ドアクローザーが共用部分であっても、修繕費用は必ずしも管理組合が負担するわけではありません。
専用使用権の考え方により、通常の維持管理費用は各住戸の所有者が負担するのが原則です。
専用使用権における管理義務の考え方
専用使用権のある共用部分については、その設備を利用する者が保守点検の責任を持つというのが基本原則です。
マンション標準管理規約第21条では、「専用使用部分の通常の使用に伴う管理については、専用使用権を有する者がその責任と負担において行う」と規定されています。
ドアクローザーは特定の住戸だけが使用する設備であり、その劣化は主にその住戸の開閉頻度や使い方に起因します。
したがって、日常的なメンテナンスや経年劣化による交換は、住戸所有者の義務と言えます。
参考元:国土交通省「マンション標準管理規約」
修繕・取替えにかかる実際の金額
ドアクローザーの修繕・交換にかかる費用は、依頼方法によって大きく異なります。
以下に具体的な費用の内訳を示します。
| 区分 | 費用・内容 | 詳細 |
|---|---|---|
| 専門業者へ依頼する場合 | 総額:15,000円〜35,000円程度 | – 本体価格:10,000円〜20,000円- 施工料金:10,000円〜15,000円- 出張費用:0〜8,000円(業者により異なる) |
| 自力でDIY交換する場合 | 総額:10,000円〜27,500円程度(本体価格のみ) | – 作業時間:30分〜1時間程度- 工具代や安全対策費は別途必要になる場合あり |
価格が変動する主な要因としては、扉の重量(重い扉ほど高性能なクローザーが必要)、製造メーカー(国内大手メーカーは高品質だが高価)、作業難易度(高所設置や特殊な扉の場合は追加料金)、緊急対応の有無(土日祝日や夜間は割増料金)などが挙げられます。
管理組合側が支出を担うケース
ドアクローザー交換費用が管理組合の修繕積立金から支出されるのは、大規模修繕工事の一環として全戸で一斉に更新する場合などが典型です。
築15年以上のマンションでは、長期修繕計画に玄関扉まわりの設備更新が含まれていることも多く、経年劣化への対応として共用部分の維持管理費から拠出するのが妥当とされます。
また、製造上の欠陥や施工不良、構造的な問題が原因の不具合も、個人の使用状況とは無関係に建物全体の責任とみなされ、管理組合負担となるケースがあります。
賃貸契約の場合の負担区分
賃貸マンションでは、ドアクローザーの修理費は故障の原因によって負担者が異なります。
経年劣化や自然損耗による場合は、オーナー(貸主)の修繕責任です。
一方、入居者の不注意や乱暴な扱いによる破損は、借主が修理費を負担します。
扉を強く開けたり、物をぶつけたりして壊した場合などが該当します。
判断に迷うときは、賃貸借契約書の「修繕費用の負担区分」や、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を確認しましょう。多くの契約はこれに準拠しており、客観的な判断の参考になります。
ドアクローザー不具合の前兆と取替え推奨時期
ドアクローザーの故障は突然起こるように見えますが、実際には前兆となる症状が現れます。
早期発見により、大きなトラブルを未然に防ぐためにも、ドアクローザー不具合の前兆や取替え推奨時期について理解しておきましょう。
異常を示す代表的な症状
ドアクローザーの不具合を示す症状として、以下のようなサインがあります。
- 扉が勢いよく閉じる:油圧機構の劣化により、速度調整機能が失われている状態
- 油分の漏出:本体やアーム接続部から油が滲み出ている場合、内部シールの破損の可能性
- 開閉動作の異常:扉が途中で止まったり、開けにくくなったりする症状
- 異音の発生:ギーギーという金属音や、シューシューという空気漏れ
- アームの歪み:外部からの衝撃により、連結アームが曲がっている状態
これらの症状が一つでも見られた場合、ドアクローザーの寿命が近づいているか、すでに故障している可能性が高いと考えられます。
特に油漏れが発生した場合は、修理による復旧は困難であり、交換が必要になります。
取替えを検討すべきタイミング
ドアクローザーの寿命は、使用環境や開閉頻度によって大きく異なりますが、一般的な目安は10〜20年程度とされています。
そのため平均的な家庭での使用であれば、10年から15年程度は問題なく機能します。開閉頻度が多い住戸(大家族や在宅ワークなど)では、10年前後で交換時期を迎えることが多くなります。
逆に使用頻度が少ない住戸でも設置から10年以上が経過している場合は、予防的な点検を行い、不具合の兆候がないか確認することをお勧めします。
製造メーカーや製品のグレードによっても耐久性は異なり、高品質な製品ほど長寿命です。定期的なメンテナンス(年1回程度のネジの増し締めや可動部の清掃)を行うことで、寿命を延ばすことができます。
緊急時の対応と調整テクニック
ドアクローザーに軽い不具合が起きた場合は、本体側面にある2本の速度調整ネジで一時的に対応できます。
時計回りで閉まる速度を遅く、反時計回りで速く調整可能です。ただし、調整範囲には限界があり、回しても改善しない・油漏れがある場合は内部故障の可能性があります。
素人判断で過度に回すと内部部品を損傷し、逆に悪化することもあります。調整後にすぐ元に戻る、ドアが勢いよく閉まるなどの症状がある場合は、内部の劣化が進行しているサインです。
その際は無理に触らず、早めに専門業者へ相談することが安全です。
グレーゾーンは管理規約で明文化し紛争を回避
マンション管理において、修繕責任の所在が不明確な「グレーゾーン」は、住民間や管理組合とのトラブルの温床となります。
トラブルを防ぐためにも、明確なルール設定が重要です。
紛争が発生しやすい典型例
ドアクローザーに関する紛争は、主に修繕代金の請求先を巡って発生します。
典型的なケースとしては、管理組合が「共用部分だから個人負担」と主張し、住民側は「共用部分なのだから管理組合が負担すべき」と反論する構図です。特に高額な全面交換が必要になった際に対立が深刻化します。
また、賃貸住戸では、オーナーと借主の間で責任のなすり合いになることもあります。過去の判例では、管理規約に明確な定めがない場合、裁判所は標準管理規約を参考に判断する傾向にあります。
しかし訴訟に至るまでには時間と費用がかかるため、事前に規約で明確化しておくことが賢明です。
管理規約に記載すべき重要事項
トラブルを未然に防ぐために、管理規約には以下の項目を明記する必要があります。
- 共用部分・専有部分・専用使用部分の具体的な定義と範囲
- 玄関扉の各パーツ(ドアクローザー、蝶番、取っ手等)の帰属先
- 各箇所の修繕義務者の特定(日常修繕・大規模修繕の区別)
- 金銭負担の明確な規定(個人負担の範囲と管理組合負担の範囲)
- 大規模修繕工事時の一斉交換に関する取り決め
- 緊急時の対応フローと費用の仮払い方法
- 賃貸住戸における所有者と借主の責任区分
これらの事項を詳細に規定することで、いざというときの混乱を最小限に抑えることができます。
特に金額の基準(例:「3万円以下は個人負担」など)を明示すると、さらに明確になります。
管理規約を改定する際の流れ
管理規約の改定には、区分所有法に基づく厳格な手続きが必要です。
まず理事会で改定案を作成し、その内容を全区分所有者に事前に通知します。その後、総会を開催し、区分所有者および議決権の各4分の3以上の賛成を得る必要があります。
総会では改定の趣旨や具体的な影響について十分な説明を行い、質疑応答の時間を設けることが重要です。
可決後は速やかに全区分所有者に改定後の規約を配布し、周知徹底を図ります。
専門的な内容を含むため、マンション管理士や弁護士など法律専門家のアドバイスを受けながら進めることをお勧めします。
ドアクローザーに関するよくある質問【FAQ】
ここでは、ドアクローザーに関するよくある質問を紹介します。
共用部分なのかわかりにくい設備だからこそ寄せられる質問に丁寧に回答しておりますので、ぜひご覧ください。
Q1. 賃貸住宅でドアクローザーが故障したら誰が直す?
賃貸住宅では、故障の原因によって修理費の負担者が異なります。経年劣化や自然損耗による故障はオーナー(貸主)の負担です。
一方、入居者の過失や乱暴な扱いによる破損は借主が修理費を負担します。判断が難しい場合は、まず管理会社や大家に連絡し、状況を確認してもらいましょう。契約書の修繕負担区分や、国交省のガイドラインも参考になります。
Q2. 管理組合に修理依頼できる状況はある?
日常的な修理は個人負担ですが、大規模修繕の一環で全戸交換が行われる場合や、施工不良・構造的な問題による故障は管理組合の負担となることがあります。
また、台風や地震など自然災害での損傷も共用部分の修繕として扱われる場合があります。まずは管理会社または理事会に相談し、状況を説明して判断を仰ぐのが適切です。
Q3. 所有者の判断で勝手に交換しても問題ない?
ドアクローザーは共用部分にあたるため、原則として管理組合の承認なしに交換はできません。同型機種での交換なら許可不要な場合もありますが、異なるメーカーや形状の製品に変更する際は必ず事前に相談が必要です。
無断交換は外観や防火性能を損ねるおそれがあり、後に原状回復を求められる可能性もあります。
Q4. ドアクローザーを取り外すことは可能?
原則として取り外しは認められません。ドアクローザーは防火・防音・安全確保に必要な装置で、防火扉には建築基準法上、自動閉鎖装置の設置が義務付けられています。
勝手に外すと法令違反や事故のリスクがあり、管理組合から原状回復を求められることもあります。やむを得ない場合でも、総会での承認が必要です。
Q5. 隣戸のドアクローザーから騒音が出ている時は?
隣戸から異音がする場合は、直接苦情を言わず、まず管理会社や管理組合に相談するのが安全です。ドアクローザーの異音は油漏れや調整不足が原因のことが多く、専門業者の点検で改善できます。
管理会社経由で修理を促してもらいましょう。騒音が続く場合は、理事会に議題として取り上げてもらうことも可能です。
ドアクローザーが共用部部かどうかが規約で確認を|まとめ
マンションのドアクローザーは共用部分でありながら専用使用権が伴う特殊な設備であり、修繕責任の理解が快適な住環境を守る鍵となります。
以下に、本記事で紹介した重要なポイントをまとめました。
- ドアクローザーは共用部分だが日常修繕は各住戸の所有者が負担する
- 修繕費用の相場は専門業者依頼で15,000円〜35,000円程度
- 寿命は一般的に10〜20年で油漏れや異音が交換サインとなる
- 大規模修繕時の一斉交換は管理組合の修繕積立金から支出される
- 管理規約の明文化がトラブル防止の最も確実な方法である
ドアクローザーに関するトラブルの多くは、管理規約の不明確さや認識の相違から生じます。
自分のマンションの管理規約を今一度確認し、不明瞭な点があれば理事会で議題として取り上げることをお勧めします。
賃貸住宅にお住まいの方は、賃貸借契約書の修繕負担条項も併せて確認しておきましょう。
適切な知識と準備が、安心で快適なマンションライフの基盤となります。