マンションの足場工事とは?費用相場から種類・役割・空き巣対策まで徹底解説
2025/11/06
マンションの大規模修繕工事を控え、「足場工事にどれくらい費用がかかるのか」「工事期間中の生活はどうなるのか」と不安を感じていませんか。
足場工事は工事費全体の約2割を占める重要な工程でありながら、その詳細については意外と知られていないのが現状です。
実は、足場工事の種類や費用相場を正しく理解することで、適切な業者選定や予算計画が可能になります。
また、工事期間中の防犯対策や騒音への備えを事前に知っておけば、居住者の不安を大きく軽減できるのです。
この記事では、足場工事の基礎知識から費用相場、防犯対策まで、実務経験に基づいた実践的な情報をお届けします。
適切な知識を身につけることで、自信を持って大規模修繕工事に臨めるようになるでしょう。
この記事で分かること
- マンション足場工事の基本的な役割と必要性
- 足場の種類とそれぞれの特徴・適用範囲
- 費用相場と具体的な計算方法
- 費用を抑えるための実践的な方法
- 施工の流れと各工程のポイント
- 高さ制限と高層マンションでの対応方法
- 工事期間中の防犯対策と注意点
- 信頼できる業者の選び方
目次
マンションの足場工事とは?

マンションの足場工事とは、建物の外壁や屋根などの修繕・塗装作業を安全かつ効率的に行うために、仮設構造物を設置する工事のことです。
大規模修繕工事では建物全体を覆う大規模な足場が一般的で、「仮設工事」とも呼ばれています。
仮説足場工事は、高所作業における作業員の安全確保と作業効率の向上に欠かせない工程です。
安定した足場により移動や作業がスムーズになり、飛散防止ネットなどで周辺環境への影響も抑えられます。
また、高所での作業精度が高まることで、補修や塗装の品質向上にも直結します。
国土交通省の「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」によると、足場工事を含む仮設工事の費用は工事金額全体の約19.2%を占めています。
これは決して小さな割合ではありませんが、工事の安全性と品質を担保するために必要不可欠な投資といえるでしょう。
マンション足場工事の種類と特徴
マンションの大規模修繕工事では、建物の規模や構造、立地条件に応じて最適な足場を選択する必要があります。
ここでは、実際の現場で使用される主な足場の種類とそれぞれの特徴について詳しく解説します。
枠組足場(わくぐみあしば)
枠組足場は、マンション大規模修繕工事で最もポピュラーに使用される足場です。鋼製の建枠(たてわく)と布(ぬの)を組み合わせて構成され、高い強度と安定性を誇ります。
部材が規格化されているため、作業員の技術レベルによる品質のばらつきが少なく、安定した施工が可能になります。
設置可能な高さは、一般的に10階建て(高さ約30m)までとされています。建枠などの部材に補強を行った場合でも、安全面を考慮すると15階建て(高さ約45m)が限界です。
費用面では、1㎡あたり900~1,500円程度が相場となっており、マンションの大規模修繕では標準的な選択肢として広く採用されています。
くさび緊結式足場(ビケ足場)
くさび緊結式足場は、通称「ビケ足場」とも呼ばれ、鋼管を支柱として一定間隔に組み立て、手すりや斜材を支柱の緊結部にくさびで固定するタイプの足場です。
最大の特徴は、ハンマー1本で組み立てや解体が可能という施工性の高さです。これにより工期の短縮が図れ、人件費の削減にもつながります。
また、複雑な形状の建物にも柔軟に対応できるため、変形敷地や入り組んだ構造のマンションでも設置が可能です。
費用相場は1㎡あたり700~1,200円程度で、枠組足場よりもやや低価格で設置できる場合が多くなっています。
ゴンドラ足場
ゴンドラ足場は、2~3人が乗れるサイズのゴンドラを建物の上部からつり下げる形で設置する足場です。各階が同一平面のマンションに特に向いています。
この足場の大きな利点は、工事が必要な箇所にだけ設置できる点です。仮設足場を搬入できないなど敷地の利用に制限がある場合に活躍します。
また、施工箇所に合わせて移動させるため、マンション全体を養生シートで囲む必要がなく、室内からの視界が遮られる期間を最小限に抑えられます。
ただし、作業できる範囲が限定されるため、全面的な大規模修繕には向きません。部分的な修繕や点検作業に適した足場といえます。
移動式昇降足場
移動式昇降足場は、工事が必要な箇所の外壁にレールを固定して作業ステージを設ける足場です。高さ最大200mまで設置できるため、高層・超高層建物の外部足場として使用されます。
専用の動力線を敷設する必要がありますが、ゴンドラ足場と同様に施工箇所に合わせて移動させることができます。タワーマンションなどの超高層物件では、この移動式昇降足場が主流となっています。
高層階でも安全に作業できる反面、設置には高度な技術と専門知識が必要です。
また、足場の乗り込み口となるステージや作業していない間の足場置き場として、どうしても低層階に負担が生じる点は考慮が必要です。
単管足場
単管足場は、単管パイプと呼ばれる円筒状の部材を組み合わせて作られる足場です。設置や解体が比較的簡単で、細かな調整がしやすいことが特徴です。
主に中小規模の工事や補修作業で使用され、狭い場所や変形した敷地でも設置可能です。
費用相場は1㎡あたり700~1,000円程度と比較的リーズナブルですが、大規模な工事には不向きとされています。
マンションの大規模修繕では、メインの足場として使用されることは少なく、部分的な補修や他の足場と組み合わせて使用されるケースが一般的です。
マンション足場工事の費用相場
足場工事の費用は、マンションの規模や構造、使用する足場の種類によって大きく変動します。
ここでは、実際の現場データに基づいた費用相場と、具体的な計算方法について解説します。
足場工事の平米単価
2025年現在、マンションの足場工事における平米単価の相場は、1㎡あたり700~1,500円が一般的な目安となっています。
ただし、この単価は足場の種類や地域、建物の条件によって変動します。
足場の種類別に見た単価相場は以下の通りです。
| 足場の種類 | 単価相場(1㎡あたり) | 特徴 |
|---|---|---|
| くさび緊結式足場(ビケ足場) | 700~1,200円 | コストパフォーマンスに優れる |
| 単管足場 | 700~1,000円 | 小規模工事向け |
| 枠組足場 | 900~1,500円 | 最もポピュラーで安定性が高い |
| 吊り足場・ゴンドラ | 3,500円~ | 特殊な条件下で使用 |
これらの単価に加えて、飛散防止ネットや養生シートの費用が別途必要になります。
養生シートの単価は1㎡あたり150~200円が目安です。また、都市部の高層マンションでは、搬入経路の制約や交通規制などの影響で、1㎡あたり2,000円を超えることもあります。
また、東京や大阪などの大都市圏では相場の上限に近い価格になりやすく、地方都市では比較的安価に抑えられる傾向があります。
これは人件費や資材の運搬コストの違いが反映されているためです。
足場費用の計算方法
足場工事の費用を具体的に算出するには、まず「足場架面積(あしばかけめんせき)」を計算する必要があります。
足場架面積とは、足場を設置する面積のことで、以下の計算式で求められます。
足場架面積 = (マンションの外周 + 4m)× 高さ
外周に4mを加算するのは、足場が通常、壁面から約60cm離れた位置に設置され、両端に余裕を持たせるためです。
そして、この足場架面積に平米単価を掛けることで、おおよその足場費用が算出できます。
足場費用 = 足場架面積 × 平米単価
具体例で見てみましょう。外周100m、高さ20mのマンションで、平米単価1,000円の枠組足場を設置する場合です。
- 足場架面積:(100m + 4m)× 20m = 2,080㎡
- 足場費用:2,080㎡ × 1,000円 = 2,080,000円
ただし、これはあくまで基本的な足場設置費用であり、実際には養生シート代、搬入搬出費、諸経費などが加算されます。
最終的な見積もり金額は、この金額から1.2~1.3倍程度になることを想定しておくとよいでしょう。
1戸あたりの足場費用目安
国土交通省の「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」によると、大規模修繕費用の1戸あたり相場は75~125万円の割合が最も多くなっています。
仮設工事の割合が工事全体の約19.2%であることから、1戸あたりの足場費用は14~24万円程度が目安となります。
40戸のマンションであれば、全体で約560~960万円の仮設工事費用がかかる計算です。
ただし、これはあくまで平均的な数値です。マンションの築年数や修繕内容、建物の形状や立地条件によって、実際の費用は大きく変動します。
特に以下のような条件では、費用が高くなる傾向があります。
- 高層マンション(15階以上)で特殊な足場が必要な場合
- 敷地が狭く、資材搬入に制約がある場合
- 海沿いや幹線道路沿いなど、特別な養生が必要な立地
- 建物の形状が複雑で、標準的な足場では対応できない場合
これらの条件に該当する場合は、早めに専門業者に相談し、詳細な見積もりを取得することが重要です。想定外の費用増加を避けるためにも、計画段階での綿密な調査と見積もりが欠かせません。
マンション足場工事の費用を抑える3つの方法
足場工事は大規模修繕における大きな費用項目ですが、工夫次第でコストを削減することが可能です。
ただし、安全性や品質を犠牲にしてはいけません。ここでは、安全性を確保しながら合理的に費用を抑える方法をご紹介します。
方法1.無足場工法の検討
無足場工法とは、従来の足場を設置せずに工事や塗装を行う方法のことです。代表的なものとして、ロープアクセス工法やゴンドラ工法があります。
足場の組み立てや解体が不要なため、工期の短縮と大幅なコスト削減が期待できます。足場を設置する場合と比較して、費用を30~50%程度削減できるケースもあります。
ただし、無足場工法にはいくつかの制約があります。
- 作業できる範囲が限定されるため、全面的な大規模修繕には向かない
- 部分的な補修や点検、高圧洗浄などの作業に適している
- 建物の構造上、ロープを固定できる場所が必要
- 作業員の高度な技術と専門資格が必要
- 天候の影響を受けやすく、作業可能日が限られる
無足場工法の採用を検討する際は、まず専門業者に現地調査を依頼し、自分のマンションで実施可能かどうかを確認することが重要です。
方法2.修繕工事をまとめて実施する
マンションの大規模修繕では、外壁塗装、防水工事、シーリング工事、タイル補修など、多岐にわたる工事が必要になります。
これらの工事を個別に実施すると、そのたびに足場を組み立てて解体する必要があり、足場費用が重複してしまいます。
工事をまとめて実施することで、足場の設置回数を減らし、数百万円単位のコスト削減が可能になります。
例えば、40戸のマンションで足場費用が600万円かかる場合、工事を2回に分けて実施すると1,200万円かかりますが、1回にまとめれば600万円で済みます。
まとめて実施するメリットは費用面だけではありません。
- 工事期間全体が短縮され、居住者の負担が軽減される
- 工事の進捗管理が容易になる
- 各工事間の連携がスムーズになり、品質が向上する
- 長期修繕計画との整合性が取りやすくなる
長期修繕計画を策定する際は、できるだけ関連する工事を同時期にまとめるよう計画を立てることをお勧めします。
方法3.複数社の相見積もり
1社だけの見積もりでは、その金額が適正かどうか判断することが困難です。最低でも3社以上から相見積もりを取得し、比較検討することが重要です。
相見積もりを取得する際のポイントは以下の通りです。
- 同じ条件で見積もりを依頼する(足場の種類、施工範囲、工期など)
- 見積書の内訳を詳細に確認する(単価、数量、諸経費など)
- 安すぎる見積もりには注意する(安全対策が不十分な可能性)
- 価格だけでなく、施工実績や対応の質も評価する
ただし、注意すべき点もあります。塗装や修繕の付帯工事として「足場工事費無料」をうたう業者が存在しますが、これには疑問符がつきます。
マンションの足場を設置するには、人件費、部材のリース料、運搬費など、相当の費用がかかります。足場費用が無料であれば、その分が他の工事費用に上乗せされている可能性が高いのです。
相見積もりを取得した際は、総額だけでなく、各項目の単価や数量も詳細に比較しましょう。
マンション足場工事の流れ|組み方と施工手順
足場工事がどのような流れで進むのかを事前に理解しておくことで、工事期間中の不安を軽減できます。
Step1.近隣・住民への通知
施工前には、必ず近隣の方やマンションの住人に足場工事を行うことを通知します。この事前通知は、トラブルを未然に防ぐために極めて重要なプロセスです。
通知内容には以下の情報を含めることが一般的です。
- 工事期間(開始日と終了予定日)
- 作業時間帯(通常は平日8時~18時など)
- 騒音や振動が発生する可能性
- 日当たりや風通しが一時的に悪くなること
- 緊急連絡先(施工会社と管理組合の連絡先)
住民説明会を開催し、工事の必要性や具体的な内容を丁寧に説明することで、居住者の理解と協力を得やすくなります。
Step2.足場の設置工事
実際の足場組み立て工事が始まります。まず、地盤の状態を確認し、必要に応じて敷板や敷角を設置して地面を整地します。
不安定な地盤の上に足場を組むと、倒壊のリスクがあるため、この基礎工事は非常に重要です。
その後、建物の形状に合わせて足場を組み立てていきます。
枠組足場の場合、まずベース部分を設置し、次に1層目、2層目と順番に組み上げていきます。各層の設置が完了するたびに、安全確認を行います。
この工程では、騒音と振動が最も大きく発生します。
※電車や地下鉄の車内に近い大きさ(約76デシベル程度)の音が発生する
Step3.養生シート設置
足場の組み立てが完了したら、次に養生シートを設置します。養生シートは、塗料や粉塵が周囲に飛散するのを防ぐための重要な設備です。
また、工具や部材の落下を防ぐとともに、強風時に足場が揺れるのを抑制する効果もあります。
※養生シートで建物が覆われると、日当たりや風通しが悪くなり、室内からの眺望も遮られます。
Step4.メイン工事の実施
外壁塗装、タイル補修、防水工事、シーリング工事など、計画された工事を順次実施していきます。
この期間は、マンションの規模や工事内容によって異なりますが、数週間から数ヶ月に及ぶこともあります。
※30~50戸程度の中規模マンションであれば、2~3ヶ月程度が一般的です。
Step5.足場の解体・撤去
すべての工事が完了し、最終検査に合格したら、足場の解体・撤去作業に入ります。
解体作業は、組み立て時と同様に騒音が発生しますが、期間は組み立て時の約3分の1程度で済みます。
※この工程でも、部材同士がぶつかる音やアンカーを取り外す際の音が発生します。
Step6.最終チェック
足場の完全撤去後、最終的な確認作業を行います。
このステップでは、以下の点を重点的にチェックします。
- 足場の部材によって建物に傷がついていないか
- アンカーを打ち込んだ箇所が適切に補修されているか
- 周辺に部品やゴミが飛散していないか
- 敷地内の清掃が行き届いているか
- 植栽や共用部分に損傷がないか
問題が見つかった場合は、施工会社に速やかに補修や清掃を依頼します。
この最終チェックを丁寧に行うことで、工事完了後のトラブルを防ぐことができます。
マンションの足場工事にかかる期間目安
足場工事にかかる期間は、マンションの規模によって大きく異なります。
一般的な戸建住宅であれば数時間で設置可能ですが、マンションの場合は1週間以上の工期が必要になるケースが一般的です。
マンション規模別の足場工事期間の目安は以下の通りです。
| マンション規模 | 足場組み立て期間 | 足場解体期間 |
|---|---|---|
| 30~50戸(5~7階建て) | 10日~2週間 | 3~5日 |
| 100戸前後(10階建て程度) | 2~3週間 | 1週間前後 |
| 200戸以上(大規模) | 3~4週間 | 10日~2週間 |
これらはあくまで目安であり、建物の形状や敷地条件、使用する足場の種類によって変動します。
複雑な形状の建物や、敷地が狭く資材の搬入に制約がある場合は、さらに時間がかかることもあります。
工事スケジュールを立てる際は、足場の設置・解体期間だけでなく、メインの修繕工事の期間も含めた全体工程を把握することが重要です。
大規模修繕工事全体では、通常2~6ヶ月程度の期間が必要になると考えておくとよいでしょう。
マンションの足場工事は何階まで設置できる?高さ制限は?
マンションの高さによって、使用できる足場の種類に制限があります。
これは労働安全衛生規則で定められた基準に基づいており、作業員の安全を確保するための重要なルールです。
ここでは、足場の高さ制限と、高層マンションでの対応方法について解説します。
枠組足場の高さ制限は45m(14~15階建て)まで
最も一般的な枠組足場には、高さ45m以下という明確な制限があります。
これは基底部(地盤面)から最上階の建枠の上端までの高さを指します。建物の階数に換算すると、おおよそ14~15階建てまでが目安となります。
制限がある理由は主に2つあります。
- 構造的な安全性 ▶ 高くなればなるほど風圧による揺れや自重による負荷が増大する
- 作業員の安全確保 ▶ 作業員の安全を最優先に考えた上で設定された数値
一般的に、枠組足場が設置できるのは10階建て(高さ約30m)までとされています。建枠などの部材に補強を行った場合でも、安全面を考慮すると15階建て(高さ約45m)が限界です。
補強を行えば技術的にはさらに高い足場を組むことも可能ですが、安全性の観点から推奨されません。
他の足場の種類についても、高さ制限が定められています。
- 単管足場:31m以下
- 低層工事用簡易枠組足場:5.7m以下
- ブラケット一側足場:15m以下
これらの制限は法令で定められているため、違反すると罰則の対象となります。信頼できる施工会社であれば、必ずこれらの基準を遵守した提案をしてくれます。
15階以上のマンションはどうする?
45mを超える建物では、通常の枠組足場は使用できないため、特殊な工法を採用する必要があります。
高層マンションで主に使用される工法は以下の通りです。
| 工法名 | 対応可能な高さ | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|
| ゴンドラ足場 | 高さ制限なし | ・建物全体を覆う必要がない ・移動が可能 ・超高層にも対応可能 | ・広い面積の同時施工には不向き ・天候の影響を受けやすい ・安全管理とオペレーション技術が必要 |
| 移動式昇降足場 | 最大約200m | ・超高層にも対応しやすい ・効率が高く作業が進めやすい ・安全性が高い | ・レールや動力線など事前準備が必要 ・専門技術が必要 ・導入コストが比較的高い |
| ブランコ足場 (ロープアクセス) | 作業範囲は限定的 | ・大幅にコスト削減できる ・狭い箇所でも施工しやすい ・短工期で対応可能 | ・作業範囲が限定される ・高度な技術や資格が必要 ・品質確保に注意が必要 |
タワーマンションなどの超高層物件では、地上から最上階まで足場を組み上げるのは現実的ではありません。
通常20階以上、場合によっては40階を超える高さの建物では、移動式昇降足場やゴンドラ足場を組み合わせて使用するケースが一般的です。
高層マンションの大規模修繕では、足場工事の費用が総工事費の30~50%を占めることもあります。
これは特殊な工法や専門技術が必要なためです。15階以上のマンションで大規模修繕を計画する際は、早めに専門業者に相談し、最適な工法と費用について検討することをお勧めします。
マンション足場工事中の注意点
足場工事期間中は、通常とは異なる環境での生活が続きます。事前に注意点を理解しておくことで、ストレスを軽減し、安全に過ごすことができます。
ここでは、居住者の皆様に知っておいていただきたい重要なポイントを解説します。
騒音と振動への備え
足場の組み立てや解体作業では、金属音や振動が発生します。
特に、足場を壁に固定する際には、ドリルで下穴を開け、ハンマーでアンカーを打ち込むため、約76デシベル程度の騒音が発生します。これは電車や地下鉄の車内に近い大きさです。
騒音への対策としては、以下のような心構えが有効です。
- 工事スケジュールを事前に確認し、騒音が発生する日時を把握する
- 大きな音がする時間帯は外出する、または音楽を聴くなどして気を紛らわす
- 「工事のために必要な音」と理解し、割り切る
- 小さなお子様や高齢者がいる場合は、事前に心の準備をしておく
作業時間帯は、通常、平日の8時~18時の間に限定されます。
早朝や夜間、日曜祝日の作業は原則として行われませんので、その時間帯は静かに過ごせます。
どうしても騒音が気になる場合は、管理組合や施工会社に相談することも可能です。
プライバシーの確保
足場が設置されると、作業員が窓の近くを通ることになります。
特にバルコニー側では、作業員が足場の上を移動したり、作業したりするため、室内が見えてしまう可能性があります。
プライバシーを守るための対策は以下の通りです。
- 日中でもカーテンやブラインドを閉める
- 薄手のレースカーテンだけでは不十分なので、厚手のカーテンも併用する
- 特に着替えや入浴の際は注意する
- バルコニー側の部屋では、足場設置期間中は使用を控える
養生シートで建物が覆われると、外部からの視線は遮られますが、完全に見えなくなるわけではありません。工事期間中は常にカーテンを閉めておくことをお勧めします。
また、ベランダに洗濯物を干すことは、作業の妨げになったり、塗料などで汚れたりする可能性があるため、基本的に避けるべきです。室内干しや浴室乾燥機の使用を検討しましょう。
ベランダの片付け
ベランダにプランターやゴミ箱、ウッドデッキなどがあると、工事の妨げになったり、汚損してしまったりする可能性があります。
施工会社からの案内に従って、適切に片付けや移動を行う必要があります。
- 植木やプランターを所定の位置に移動する(施工会社が指定した場所)
- 網戸を外して室内で保管する
- ベランダに置いている私物を室内に移動する
- 自転車やタイヤなどの大きな物も移動が必要
一方、エアコンの室外機や物干し竿はそのままで問題ありません。
これらは施工会社が適切に養生してくれます。ただし、工事期間中はエアコンの使用に一時的な制限が生じる場合があるため、事前に確認しておくことをお勧めします。
安全確保・防犯(空き巣)対策
足場設置期間中は、空き巣被害のリスクが高まります。これは、足場を利用すれば簡単に上層階のベランダや窓にアクセスできるためです。
警察庁のデータによると、大規模修繕工事中のマンションでの侵入窃盗事件は、通常時と比較して増加する傾向にあります。
- 足場があるため、上層階のベランダにも容易にアクセスできる
- 飛散防止シートで覆われているため、外部から犯行が見えにくい
- 上層階の居住者は防犯意識が低く、窓を施錠していないケースが多い
居住者ができる防犯対策は以下の通りです。
- 全階で施錠を徹底する
- 補助錠や防犯フィルムの設置
- カーテンやブラインドを閉める
- センサーライトの活用
管理組合や施工会社が行うべき防犯対策としては、防犯カメラの設置が挙げられます。
足場周辺や侵入経路となりうる場所に監視カメラを設置し、継続的に録画・監視を行うことで、犯罪の抑止効果が高まります。
足場は工事に不可欠なものですが、同時に防犯上の弱点にもなります。
居住者全員が防犯意識を高く持ち、管理組合と施工会社が協力して対策を講じることが、被害を防ぐ鍵となります。
足場工事業者の選び方
適切な業者を選定することで、安全で円滑な工事の実現につながります。
ここでは、信頼できる業者を見極めるためのポイントを解説します。
経験と実績を確認する
足場工事には高度な技術と豊富な経験が求められます。
特にマンションの大規模修繕では、建物の構造を理解し、居住者の生活に配慮した施工計画を立てる能力が必要です。
業者の経験と実績を確認する際は、以下の点に注目しましょう。
- 同規模のマンションでの施工事例があるか
- 自分のマンションと近い構造(階数、形状など)の実績があるか
- 施工実績の年数(長年の実績がある業者は信頼性が高い)
- ホームページや資料に具体的な施工事例が掲載されているか
- 写真だけでなく、工事内容や工夫した点なども説明されているか
実績を確認する際は、単に「施工実績○○件」という数字だけでなく、どのような工事を行ったのかという内容を重視してください。
自分のマンションと似た条件での実績があれば、その業者は適切な提案ができる可能性が高いといえます。
損害賠償保険への加入状況
足場工事は高所作業を伴うため、万が一の事故に備えた保険への加入は必須です。
信頼できる業者であれば、必ず適切な損害賠償保険に加入しています。
確認すべき保険には以下のようなものがあります。
- 請負業者賠償責任保険(工事中の事故で第三者に損害を与えた場合)
- 生産物賠償責任保険(完成後に欠陥が見つかった場合)
- 労災保険(作業員が怪我をした場合)
見積もりを依頼する際は、保険証券のコピーを提出してもらうことをお勧めします。
口頭で「加入しています」と言われるだけでなく、実際に保険に加入していることを書面で確認することが重要です。
打ち合わせ時の対応
業者の質を見極める上で、打ち合わせ時の対応は非常に重要な判断材料となります。
技術力があっても、コミュニケーション能力が低い業者では、工事期間中にトラブルが発生する可能性が高まります。
打ち合わせ時にチェックすべきポイントは以下の通りです。
- 質問に対して丁寧かつ分かりやすく説明してくれるか
- 専門用語を使う際は、必ず補足説明をしてくれるか
- こちらの不安や懸念に真摯に耳を傾けてくれるか
- メリットだけでなく、デメリットやリスクも正直に説明してくれるか
- 見積もりの内訳を詳しく説明してくれるか
- 工事スケジュールや騒音対策について具体的な提案があるか
特に重要なのは、デメリットやリスクについても率直に説明してくれるかという点です。
「うちに任せれば何の問題もありません」という業者よりも、「このような点には注意が必要です」と誠実に説明してくれる業者の方が信頼できます。
複数の業者と打ち合わせを行い、対応の質を比較することで、最も信頼できる業者を見極めることができます。価格だけでなく、総合的な判断で業者を選定しましょう。
マンションの足場工事に関するよくある質問【FAQ】
マンションの足場工事について、管理組合の方々からよく寄せられる質問とその回答をまとめました。疑問や不安の解消にお役立てください。
Q. 足場工事だけを別の業者に依頼することはできますか?
はい、可能です。実際に、大規模修繕工事の元請け業者とは別に、足場工事を専門業者に直接発注するケースもあります。この方法を「分離発注」と呼びます。
分離発注のメリットは、中間マージンを削減できるため、コストを抑えられる可能性があることです。また、足場専門業者は技術力が高く、品質の高い足場を提供してくれることが期待できます。
ただし、デメリットもあります。元請け業者と足場業者の間で責任の所在が曖昧になったり、工程管理が複雑になったりする可能性があります。
分離発注を検討する場合は、元請け業者とも十分に相談し、工程管理や責任分担について明確に取り決めておくことが重要です。
Q. 足場設置中にエアコンは使用できますか?
基本的には使用できますが、一部制限がかかる場合があります。
特に、室外機周辺の外壁塗装や修繕を行う際は、数日間エアコンが使用できなくなる可能性があります。
夏場や冬場の工事では、この点が居住者の大きな不便となるため、事前に施工会社から詳細なスケジュールを確認しておくことが重要です。
その期間は扇風機や暖房器具などの代替手段を準備しておくとよいでしょう。
どうしてもエアコンの使用が必要な場合は、工事スケジュールの調整を依頼することも可能です。
Q. 足場の組み立て中や解体中に外出してはいけませんか?
いいえ、外出しても問題ありません。足場の組み立てや解体作業は、居住者が在宅している必要はなく、通常通り外出していただいて構いません。
ただし、ベランダの片付けや室内からの作業が必要な場合は、事前に施工会社から連絡があります。その際は在宅していただく必要があるため、スケジュールを調整してください。
Q. 足場から落下物があった場合の責任は誰にありますか?
足場から工具や部材が落下して損害が発生した場合、基本的には施工会社が責任を負います。これは施工会社が加入している請負業者賠償責任保険でカバーされるべき事故です。
万が一、落下物による被害(車の破損、怪我など)が発生した場合は、速やかに施工会社と管理組合に連絡してください。
被害状況を写真に記録し、警察や保険会社への連絡が必要な場合は、指示に従って対応します。
信頼できる施工会社であれば、適切な保険に加入しているため、正当な補償を受けることができます。
これが、業者選定の際に保険加入状況を確認することが重要な理由です。
Q. 足場の設置期間中にマンションの資産価値は下がりますか?
いいえ、足場の設置自体がマンションの資産価値を下げることはありません。むしろ、適切な大規模修繕工事を実施することで、建物の状態が改善され、資産価値の維持や向上につながります。
足場が設置されている期間は一時的に外観が見えなくなりますが、これは必要な工事のための一時的な措置です。
工事完了後は、外壁が美しくなり、建物全体の印象も大きく改善されます。
定期的に大規模修繕を実施し、建物を良好な状態に保つことは、資産価値を維持するために不可欠です。足場工事は、そのための重要なステップといえます。
まとめ
マンションの足場工事は、大規模修繕工事を安全かつ効率的に進めるために欠かせない重要な工程です。
費用は工事全体の約2割を占めますが、作業員の安全確保、作業効率の向上、建物や周辺環境の保護、工事品質の確保という重要な役割を果たしています。
- 枠組足場・くさび緊結式足場・ゴンドラ足場などの種類がある
- 費用相場は1㎡あたり約700~1,500円(マンション全体では数百万円規模)
- 枠組足場の使用は高さ45m(14~15階程度)までが目安
- 工事中は騒音や振動が発生するため、事前に認識しておくとストレスを抑えられる
- 足場設置中は空き巣リスクが上昇するため、全戸で施錠・防犯対策が重要
- 無足場工法の活用や複数社の相見積もりで、費用を抑えられる場合がある
- 業者選びは実績・保険加入・説明の丁寧さを総合的に確認することが大切
足場工事について正しい知識を持つことで、適切な業者選定や予算計画が可能になります。
また、工事期間中の注意点を理解しておくことで、居住者の不安を軽減し、円滑な工事の実現につながります。
不明な点や不安なことがあれば、遠慮せずに専門家や施工会社に相談しましょう。
複数の業者から提案を受け、納得のいく説明を受けた上で、最適な選択をすることが成功への近道です。皆様のマンションが、安全で快適な住環境として長く愛され続けることを願っています。