建物管理とは?賃貸管理との違いから費用・業務内容までわかりやすく解説

2025/11/04

マンションやアパート、ビルを所有する方にとって、建物管理は資産価値を守るための生命線です。

適切な管理を怠ると、建物の劣化が進み、入居者離れや資産価値の下落を招く可能性があります。

この記事では、建物管理の基礎知識から具体的な業務内容、費用相場、資産価値を維持するコツまで、オーナーが知っておくべき情報を網羅的に解説します。

オーナーにとっては収益性と資産価値の維持、管理組合にとっては住民の安全と快適性の確保、入居者にとっては安心して暮らせる環境の実現につながる情報をお届けします。

建物管理とは?基礎知識を徹底解説

建物管理は、マンションやビルなどの不動産を長期的に維持し、その価値を保つための包括的な業務です。

法的義務の遵守から将来を見据えた修繕計画まで、多岐にわたる専門的な知識と経験が求められます。

建物管理の定義と目的

建物管理とは、建物の維持管理に関わるすべての業務を指します。

具体的には、建物本体のメンテナンス、設備の点検、共用部分の清掃、長期修繕計画の策定など、建物を安全で快適な状態に保つための総合的な管理活動です。

主な目的は、以下の3つです。

  • 安全性の確保
  • 快適性の維持
  • 資産価値の維持・向上

法律で定められた点検を確実に実施し事故やトラブルを未然に防ぎ、清掃や設備の適切な管理により、入居者が心地よく暮らせる環境を提供します。

そして計画的なメンテナンスと修繕により、建物の劣化を最小限に抑え、不動産としての価値を長期的に保つためにも欠かせません。

分譲マンションでは区分所有者が支払う管理費を財源として管理組合が実施し、賃貸物件ではオーナーが費用を負担して自ら管理するか、管理会社に委託します。

なぜ建物管理が重要なのか?

建築基準法、消防法、水道法、電気事業法などにより、エレベーター点検、消防設備点検、水質検査などが義務化されており、違反すると罰則の対象となります。

適切な管理が資産価値に与える影響は極めて大きく、適切に管理されているマンションとそうでないマンションでは、築年数が同じでも市場価格に大きな差が生じると言われています。

定期的なメンテナンスと計画的な修繕により、建物の寿命を延ばし、資産価値の下落を抑制できます。

また、入居者満足度との関係も見逃せません。

共用部が清潔で設備が正常に機能している建物は、入居者の満足度が高く、長期入居につながります。

建物管理が必要な建物の種類

建物管理は、さまざまなタイプの不動産で必要とされます。

分譲マンションでは管理組合が主体となり、共用部分の維持管理、大規模修繕の計画と実施、管理費・修繕積立金の管理などを行います。

賃貸マンション・アパートではオーナーが責任を負い、家賃収入を財源として管理会社に委託するか自主管理します。

オフィスビルではテナント企業が快適に業務を行えるよう、高度な設備管理と24時間対応の体制が必要です。

商業ビルでは店舗テナントや来店客の安全確保、集客に影響する外観や共用部の美観維持が重要となります。

建物管理と関連用語の違いを整理

不動産管理の分野では、似たような用語が多く使われるため、混同しやすいのが実情です。

ここでは、これらの用語の違いを明確にし、正確な理解を促します。

建物管理と賃貸管理の違い

建物管理と賃貸管理は、不動産管理の両輪として機能しますが、対象範囲と業務内容が大きく異なります。

建物管理は建物そのものの維持管理に焦点を当て、賃貸管理は入居者との関係管理に重点を置きます。

項目建物管理賃貸管理
主な業務建物・設備の維持管理入居者対応・契約管理
対象範囲建物全体・共用部各部屋・入居者
具体例設備点検、清掃、修繕計画入居者募集、家賃管理、退去対応
費用相場総収入の5%程度家賃の3〜5%程度

建物管理の具体的な業務には、エレベーターや給排水設備の点検、共用廊下やエントランスの清掃、外壁や屋上の補修、長期修繕計画の策定などが含まれます。

一方、賃貸管理では、入居者募集、賃貸借契約の締結、家賃の集金代行、クレーム対応、退去時の立会いなどを行います。

BM(ビルマネジメント)とPM(プロパティマネジメント)の違い

不動産業界では、英語の略語としてBMとPMという用語が頻繁に使われます。

項目BM(Building Management)PM(Property Management)
日本語訳建物管理不動産管理(資産管理)
管理対象建物本体・設備・共用部などのハード面不動産資産全体(建物+契約・収益など)
主な業務内容設備点検、清掃、修繕、保守、警備賃貸運営、契約管理、入居者対応、家賃管理、資産運用
目的建物の安全性・快適性を維持不動産の収益性・価値を最大化
日本での一般的な使われ方建物の維持管理を行う管理会社業務賃貸管理・資産運用を含む包括的な管理業務

不動産業界での使い分けとしては、BMは建物の技術的管理、PMは経営的管理という色分けができます。

大規模なビルやマンションでは、BM会社とPM会社が別々に存在し、それぞれの専門性を活かして協力することもあります。

設備管理と施設管理の違い

建物の維持管理に関わる業務は「設備管理」と「施設管理」に大別されます。

どちらも建物を安全かつ快適に運営するうえで欠かせませんが、目的と範囲が異なります。

項目設備管理施設管理(ファシリティマネジメント)
定義建物内の設備機器の保守・点検に特化した業務建物全体を総合的に運営・管理する業務
管理対象空調・給排水・電気・エレベーター・消防設備など設備管理に加え、清掃・警備・受付・契約・予算管理など
主な業務内容設備の運転管理、点検、保守、修繕建物運営全体の統括、コスト・環境・安全性の最適化
必要なスキル・資格技術系資格(電気主任技術者、建築物環境衛生管理技術者など)管理全般の知識、マネジメントスキル、調整力
目的建物設備の安全・安定稼働を確保施設全体を効率的・快適に運営し、価値を最大化

効率的で快適な施設運営を実現するには、設備と運営の両面から管理体制を整えることが重要です。

建物管理の主な業務内容【4つの柱】

建物管理は、大きく4つの主要業務に分類されます。

それぞれが建物の健全性を保つために不可欠であり、どれか一つでも欠けると建物全体の機能や価値に悪影響を及ぼします。

建物のメンテナンス

建物本体のメンテナンスは、構造物としての安全性と機能性を維持するための基本業務です。

外壁のひび割れや塗装の剥がれ、タイルの浮きなどを早期に発見し、補修することで、雨水の浸入を防ぎ、内部構造の劣化を防止します。

屋上の防水層も定期的に点検し、劣化が進む前に補修することが重要です。

小修繕は日常的に発生する軽微な不具合への対応で、電球交換、手すりの補修などが該当します。

大規模修繕は12年程度の周期で実施される建物全体の大掛かりな工事で、外壁全体の塗装や補修、屋上防水工事、給排水管の更新などが含まれます。

設備の点検業務

建物内の各種設備は、入居者の生活や業務に直結するため、常に正常な状態を保つ必要があります。

設備点検は、法律で義務付けられた法定点検と、安全性や快適性向上のための任意点検に分類されます。

点検種類対象設備実施頻度根拠法令
法定点検エレベーター年1回建築基準法
法定点検消防設備年2回消防法
法定点検簡易専用水道年1回水道法
法定点検受水槽清掃年1回水道法
任意点検機械式駐車場月1回〜
任意点検自動ドア年4回〜
任意点検給排水設備年1回〜

法定点検は法律で義務化されており、実施しないと罰則の対象となります。

建築基準法ではエレベーターの定期検査、消防法では消防設備の点検が年2回、水道法では受水槽の容量が10立方メートルを超える場合の水質検査と清掃が義務付けられています。

任意点検は法律上の義務ではありませんが、安全性向上のために自主的に実施すべき点検です。

実施頻度や内容は物件の状況により調整可能で、コストと必要性のバランスを考慮して決定します。

清掃業務

清掃業務は、建物の美観を保ち、入居者が快適に生活するために欠かせない業務です。

清掃の質は入居者満足度に直結するため、適切な頻度と方法で実施する必要があります。

清掃種類頻度内容担当者コスト
日常清掃週1〜2回掃き掃除、拭き掃除、ゴミ回収管理人・簡易清掃
定期清掃月1〜4回高圧洗浄、ワックスがけ専門業者
特別清掃年1〜2回高所ガラス、側溝、浄化槽専門業者

日常清掃は共用廊下やエントランスの掃き掃除、手すりやポストの拭き掃除、ゴミ置き場の整理整頓などを行います。

定期清掃は専門機材を使った本格的な清掃で、高圧洗浄、床のワックスがけ、ガラス清掃などが含まれます。

特別清掃は高所のガラス清掃、側溝や排水溝の清掃、浄化槽の清掃など、通常では手が届かない箇所を対象とします。

長期修繕計画の作成と管理

長期修繕計画は、建物の将来を見据えた戦略的な管理ツールです。

30〜40年先を見据えて、大規模修繕工事や主要設備の更新時期、必要な費用を明確にした計画書です。

この計画に基づいて修繕積立金を算出し、計画的に資金を積み立てます。

大規模修繕の周期は一般的に12年程度です。新築から約12年後に1回目の大規模修繕、その後も12年ごとに実施するのが標準的なサイクルです。

修繕積立金は、長期修繕計画で見積もられた総費用を、計画期間と戸数で割って算出します。

計画は5年程度ごとに建物診断を実施し、実際の劣化状況に合わせて修正することが重要です。

建物管理にかかる費用と相場

建物管理を委託する際に最も気になるのが費用です。

適正な費用感を理解することで、過剰な支出や必要なサービスの不足を防ぐことができます。

建物管理費用の相場と内訳

建物管理費用は一般的に、BM費用(ビルマネジメント費用)または設備管理費と呼ばれ、相場は総収入の5%程度が目安です。

ただし、物件の規模、築年数、委託する業務範囲によって大きく変動します。

戸数が多い大規模マンションほど、1戸あたりの管理費は割安になる傾向があります。

これは、管理人の人件費や設備点検費用を多くの戸数で分担できるためです。

一部委託では最低限の業務のみを委託し、全部委託では管理人の配置、24時間対応、修繕の手配、住民対応など包括的なサービスが含まれます。

費用相場の具体例

物件タイプ戸数/規模年間BM費用目安内訳
小規模アパート6〜10戸30〜60万円基本清掃・法定点検
中規模マンション20〜50戸150〜300万円管理人常駐・設備点検
大規模マンション100戸以上500万円〜フルサービス
商業ビル延床1,300㎡250〜500万円24時間対応含む

小規模アパートでは管理人は非常駐で、週1〜2回の巡回清掃と年1回の法定点検が基本です。

中規模マンションでは管理人が週3〜5回程度常駐し、日常清掃、定期清掃、法定点検に加えて住民対応も含まれます。

大規模マンションでは管理人が毎日常駐し、24時間対応の緊急連絡体制、フロントサービスなどフルサービスが提供されます。

コストを抑えるポイント

建物管理費用を抑えつつ、必要な管理の質を維持するためのポイントがあります。

  • 一括発注による割引:清掃、設備点検、修繕工事などを同一業者にまとめて発注
  • 適正な清掃頻度の設定:物件の立地や入居者層に応じて過剰な清掃を見直し
  • 予防保全による修繕費削減:定期点検を確実に実施し大規模な故障を防ぐ
  • 複数社の見積もり比較:3社以上から見積もりを取りサービス内容と価格を比較
  • 不要なサービスの削減:利用されていない付帯サービスを見直し

これらの施策により、年間で10〜20%程度のコスト削減が可能です。ただし、法定点検や構造に関わる重要な点検は絶対に削減対象にしてはいけません。

費用をかけるべきポイント

適切な投資により、長期的なコスト削減と資産価値の維持が実現します。

  • 法定点検は絶対に削減しない:義務であり事故防止にも直結
  • 予防保全は長期的にコスト削減:定期点検と早期修繕により大規模な故障を防ぐ
  • 入居者満足度に直結する清掃:共用部の清潔さは入居率に直接影響
  • 資産価値維持のための計画的修繕:適切な時期に適切な修繕を実施

短期的なコスト削減に目を奪われず、長期的な視点で適切な投資判断を行うことが、成功する建物管理の鍵となります。

建物管理で資産価値を維持・向上させるコツ

建物管理の最終目的は、資産価値を長期的に維持・向上させることです。

適切な管理により、築年数による価値の下落を最小限に抑え、入居者満足度を高め、安定した収益を確保できます。

予防保全の考え方

予防保全とは、設備や建物の故障や劣化が顕在化する前に、計画的に点検・メンテナンスを実施する管理手法です。

事後保全は故障してから対応するため、初期コストは低いですが、突発的な故障による入居者への影響が大きく、緊急対応のため修繕費用が高額になります。

予防保全は定期的な点検と計画的なメンテナンスにより、長期的には修繕費用を削減でき、設備の寿命を延ばし、突発的なトラブルを防ぎます。

入居者満足度を高める建物管理

入居者満足度の高い建物は、長期入居率が高く、空室リスクが低く、口コミによる新規入居者の獲得にもつながります。

エントランス、共用廊下、エレベーターホール、ゴミ置き場などが常に清潔に保たれていることで、入居者は快適さと安心感を得られます。

設備の故障や不具合が発生した際、迅速に対応することで、入居者の不満を最小限に抑えられます。

宅配ボックスの設置、オートロックの導入、インターネット設備の充実など、入居者のニーズに応じた投資により、競合物件との差別化が図れます。

資産価値を維持するための投資判断

「どこにいくら投資するか」という判断が資産価値の維持・向上を左右します。

LED照明への切り替え、省エネ型エレベーターへの更新、高効率給湯器の導入などは、初期投資は必要ですが、ランニングコストの削減と環境性能の向上により物件の競争力を高めます。

段差の解消、手すりの設置などのバリアフリー化は、入居者層の拡大と資産価値の維持に貢献します。

管理組合との連携(分譲マンション)

分譲マンションでは、管理組合と管理会社の連携が建物管理の質を左右します。

管理会社は定期的に理事会に出席し、管理業務の報告、修繕の提案、予算の執行状況などを説明します。

年1回の定期総会では、前年度の事業報告と決算、新年度の事業計画と予算、大規模修繕の実施計画などが報告・承認されます。

30〜40年先を見据えた長期修繕計画を共有し、段階的に実現していくための戦略を立てることが重要です。

建物管理に関するよくある質問Q&A

建物管理に関しては、基本的な情報から実際の管理業務に至るまでさまざまな不安や疑問をもつかたが多いようです。

ここでは、建物管理に関するよくある質問にわかりやすく回答しておりますので、ぜひご覧ください。

Q1.建物管理は自分でもできる?

A.小規模物件であれば自主管理も可能ですが、専門知識と時間が必要です。

6〜10戸程度の小規模アパートで、オーナーが物件の近隣に住んでおり時間に余裕がある場合は、日常清掃や簡単な修繕などを自分で行うことができます。

ただし、法定点検は専門業者に依頼する必要があり、怠ると法令違反となります。中規模以上の物件や遠方に住んでいる場合、本業が多忙な場合は、管理会社への委託を推奨します。

Q2.管理会社を変更することは可能?

A.はい、可能です。賃貸物件の場合、オーナーの判断で管理会社を変更できます。契約期間と解約条件を確認し、通常は3ヶ月前予告などの規定があります。

分譲マンションの場合、管理組合の総会決議により変更可能ですが、区分所有者の過半数の賛成が必要です。変更する際は、複数の管理会社から見積もりを取り、サービス内容と費用を比較検討し、引継ぎ期間を十分に確保することが重要です。

Q3.法定点検を怠るとどうなる?

A.法定点検を怠ると、法的な罰則だけでなく、重大な事故のリスクも高まります。

なかでも深刻なのは、点検不備による事故が発生した場合で、オーナーや管理組合は損害賠償責任を負う可能性があります。

法定点検は、法的義務であると同時に、入居者の安全を守るための最低限の責任です。

Q4: 大規模修繕はいつ実施すべき?

A: 一般的には、新築から12年程度が1回目の大規模修繕の目安とされ、その後も12年ごとに実施するのが標準的なサイクルです。

ただし、建物の立地条件、使用されている材料、管理状況により最適な時期は異なります。

築10年頃に建物診断を実施し、専門家に劣化状況を調査してもらうことが推奨されます。診断結果に基づいて、修繕の優先順位と時期を決定します。

Q5.管理費と修繕積立金の違いは?

A.管理費は日常的な管理業務に使われる費用で、管理会社への委託費、清掃費、設備の保守点検費、管理人の人件費などに充当されます。毎月発生する経常的な支出をカバーするものです。

一方、修繕積立金は、将来の大規模修繕や予想外の大規模な修繕に備えて積み立てる費用です。外壁塗装、屋上防水、給排水管の更新など、数百万円から数千万円規模の工事に使用されます。

Q6.小規模物件でも管理会社は必要?

A.必須ではありませんが、推奨されます。

6〜10戸程度の小規模アパートでは、コスト面から自主管理を選択するオーナーも多くいます。

自主管理のメリットは管理費の削減、直接入居者とコミュニケーションが取れる点ですが、時間と手間がかかり、専門知識が必要というデメリットもあります。

最低限、法定点検だけは専門業者に委託し、日常清掃や簡単な修繕は自分で行うという部分委託も選択肢の一つです。

適切な建物管理で資産価値を守ろう|まとめ

建物管理は、不動産資産の価値を長期的に維持し、安定した収益を確保するための基盤です。

適切な管理により、入居者満足度が向上し、空室率が低下し、修繕費用を抑制できます。

建物管理における、重要なポイントを振り返りましょう。

  • 建物管理の4つの柱は設備点検・清掃・メンテナンス・修繕計画
  • BM費用の相場は総収入の5%程度を目安に物件規模で調整
  • 法定点検は法的義務であり安全確保のため省略は絶対不可
  • 予防保全の考え方が長期的なコスト削減と資産価値維持の鍵
  • 入居者満足度を高める管理が空室率低下と収益安定に直結

建物管理は、単なるコストではなく、資産価値を守るための投資です。

短期的なコスト削減に目を奪われず、長期的な視点で計画的な管理を実施することが、成功する不動産経営の鍵となります。

法定点検の確実な実施、予防保全による早期対応、入居者満足度を重視した管理により、築年数が経過しても高い資産価値を維持できる建物を実現しましょう。

新東亜工業公式サイトへ