マンション建て替え時の立ち退きはどう対応する?費用相場や手続きの流れなどを詳しく解説

2025/10/20

老朽化が進むマンションでは、「建て替え」か「修繕」かという判断を迫られる時期がやってきます。

中でも問題となるのが、建て替え時に生じる「立ち退き」や「費用負担」の問題です。

分譲と賃貸では対応が異なり、住民間での合意形成も簡単ではありません。

本記事では、マンションの建て替えと立ち退きの関係を中心に、建て替えが進まない理由、費用、耐用年数、実際の流れ、住民対応のポイントをプロ目線で詳しく解説します。

この記事で分かること

  • 老朽化マンションの建て替え判断と進まない理由
  • 立ち退き時の補償・費用・対応の違い
  • 建て替えの流れ・費用負担・決議後の行動までの全体像

目次

建て替えが進む「古いマンション」の現状

老朽化マンションが増加するなか、全国的に「建て替え」が現実的な課題となっています。

特に1980年代以前に建設されたマンションは、耐震基準の改正以前に建てられており、地震リスクや配管の老朽化などの問題を抱えています。

ここでは、古いマンションがどのような経緯で建て替えに至るのか、その背景を解説します。

老朽化による建て替えニーズの高まり

築40年以上経過したマンションの多くで、コンクリートや配管、外壁防水などの劣化が進んでいます。

特に築50年を超える建物では、耐震性の低下や雨漏り、給排水トラブルなどが頻発し、住民の安全・快適な生活を脅かしています。

こうした状況から、管理組合が「大規模修繕では対応しきれない」と判断し、建て替えの検討を始めるケースが増えています。

東京都心部を中心に、建て替えを選択するマンションが年々増加傾向にあります。

建て替えを検討する老朽化マンションの特徴

築年数主な劣化症状リスク対応の目安
30〜39年外壁のひび割れ、配管のサビ美観低下・軽度な漏水大規模修繕で対応可能
40〜49年屋上防水の劣化、給排水管トラブル雨漏り・断水リスク修繕か建て替えを検討
50年以上構造体の劣化、耐震性低下倒壊・住環境悪化建て替えを推奨

このように、築年数が進むほど修繕では対応しきれないリスクが高まります。

特に50年以上経過している場合は、立ち退きや仮住まいの手配を含めた建て替えの検討が現実的な選択となるケースが増えています。

実際に建て替えが行われた事例とその背景

国土交通省の「マンションを巡る現状と最近のマンション政策等の動向」によると、全国でこれまでに200件以上のマンション建て替え事例が確認されています。

成功している事例の多くは、建物の老朽化に加え、「敷地の有効活用」や「容積率の緩和」を活かして再建築したケースです。

特に都内では、既存建物よりも高層化することで戸数を増やし、建て替え費用を分担する仕組みが整いつつあります。

一方で、地方では土地価格が低く再建コストを回収できないため、建て替えが進みにくいという地域差も見られます。

老朽化マンションが抱える問題と立ち退きが発生する理由

建て替えが必要とされる背景には、老朽化による物理的な問題だけでなく、資金や住民合意に関する課題もあります。

ここでは、マンションの建て替えを阻む現実的な問題と、なぜ「立ち退き」という選択が発生するのかを詳しく見ていきましょう。

耐震・防水・配管など設備面の老朽化

老朽化マンションでは、建物全体の耐震性が低下しているだけでなく、給排水管のサビや漏水、屋上防水の劣化などが深刻です。

こうした問題を放置すれば、資産価値の低下や居住リスクの増大につながります。

特に築年数が40年以上の場合、修繕よりも建て替えのほうが長期的にコストを抑えられるケースもあります。

修繕費の高騰と積立金不足

マンション建て替えの議論が起きる最大の要因の一つが、修繕積立金の不足です。

外壁補修や防水工事などの費用が年々上昇しており、積立金だけでは必要な修繕がまかなえない事例が増えています。

結果として、建物の劣化が加速し、「もう修繕では追いつかない」という判断に至ることも珍しくありません。

居住者の高齢化による意思決定の遅れ

老朽化マンションでは住民の高齢化も進んでおり、合意形成の難しさが顕著です。

建て替えには膨大な手続きと時間がかかるため、「自分の代では完成しない」という理由で反対する人も少なくありません。

結果として、話し合いが長期化し、建て替えそのものが進まない状況に陥ることがあります。

立ち退きが必要になるケースとは

建て替えを行う場合、解体工事のために一時的な立ち退きが必要です。

分譲マンションでは、住民が仮住まいを探して再入居するケースが一般的ですが、賃貸の場合は立ち退き料が発生することもあります。

また、建て替え後に再入居できるかどうかは契約条件によって異なるため、早めに確認しておくことが重要です。

立ち退きがスムーズに進むかどうかが、建て替え全体の進行を左右します。

マンションの建て替えが進まない理由・問題点

マンションの建て替えは理想的な再生策に見えますが、実際にはなかなか進まないケースが多くあります。

その背景には、住民同士の意見の対立や費用負担、法律的な制約など、複数の要因が絡み合っています。こ

こでは、建て替えが進まない主な理由と問題点を詳しく解説します。

住民の反対が多く合意形成が難しい

建て替えの最大の壁は、住民全体の「合意形成」です。

マンション建て替えを実行するには、区分所有法に基づき「5分の4以上の賛成」が必要となります。

この高いハードルが、計画の進行を妨げる大きな要因となっています。

特に高齢化が進んだマンションでは、建て替えに賛成する層と慎重派の意見が対立しやすく、話し合いが長期化する傾向があります。

また、「仮住まいが大変」「資金負担が重い」といった個人事情も、反対の理由として挙げられます。

決議までの流れが複雑で時間がかかる

建て替えを決議するまでには、複数のステップを経る必要があります。

管理組合での調査、専門家による診断、建て替え推進委員会の設立、説明会の開催、そして正式な総会での議決など、プロセスは非常に長期にわたります。

一般的に、調査から建て替え決議に至るまでには5〜10年かかることも珍しくありません。

この間に居住者が入れ替わると、再度説明や合意取り直しが必要になるため、さらに時間を要します。

既存不適格マンションの存在と法的制約

古いマンションの中には、現在の建築基準法に適合していない「既存不適格マンション」が数多く存在します。

こうした物件は、再建築の際に現在の基準を満たす必要があるため、同じ規模・高さで建て直せないケースがあります。

たとえば、容積率や斜線制限の変更によって、再建後の戸数が減少することもあり、費用負担の増加や再入居を断念する住民が出ることもあります。

このように法的な制約が、建て替えの実現を難しくしているのです。

建て替えができない場合の選択肢とリスク

すべてのマンションが建て替えできるわけではありません。

合意が得られない、採算が取れないなどの理由で建て替えが困難な場合、他の選択肢を検討する必要があります。

建て替えできない場合の代替策(修繕・売却・賃貸化)

建て替えが難しい場合は、大規模修繕やリノベーションで延命を図る方法もあります。

特に外壁塗装や防水改修、配管更新などを行うことで、資産価値を一定程度保つことが可能です。

また、所有者が高齢であれば、住戸を賃貸化して維持費を軽減する選択も考えられます。

将来的な立ち退きリスクを回避するための準備

建物の老朽化が進行すると、行政から「危険建物」として指導を受ける可能性もあります。

そうなる前に、耐震診断や修繕計画を定期的に見直し、早めにリスクを把握することが大切です。

住民同士で防災意識を共有し、いざというときに備えた協議体制を整えておきましょう。

建物の寿命はいつ頃?耐用年数を正しく理解しよう

マンションの建て替えを検討する際に重要なのが、「建物の寿命」と「耐用年数」の正しい理解です。

法律上の基準と実際の使用年数には違いがあり、誤解されやすい部分でもあります。

ここでは、法定耐用年数と物理的耐用年数の違いを整理し、実際に建て替えられたマンションの傾向を紹介します。

法定耐用年数と物理的耐用年数の比較表

種別年数の目安定義特徴
法定耐用年数約47年(RC造)税務上の償却基準築年数の判断指標として使用
物理的耐用年数約60〜80年実際に居住可能な期間修繕状況により変動が大きい

法定耐用年数とは|税法上の基準から見る建物の寿命

法定耐用年数とは、国税庁が定める「減価償却資産の耐用年数」を指し、鉄筋コンクリート造(RC造)のマンションの場合は47年とされています。

これはあくまで税務上の基準であり、47年を過ぎたからといって建物が使えなくなるわけではありません。

しかし、この期間を過ぎると修繕費用が増大し、資産価値の下落も進むため、建て替えを検討するひとつの目安となります。

物理的耐用年数とは|実際に住める期間の目安

物理的耐用年数は、建物が物理的に使用できる期間を意味します。鉄筋コンクリート造のマンションでは、おおむね60〜80年程度といわれています。

ただし、適切な修繕やメンテナンスを行っているかどうかで大きく差が出ます。

外壁補修や防水工事を定期的に実施していれば、築70年以上でも良好な状態を保つことは可能です。

逆に、長年放置すれば50年未満でも劣化が進行し、建て替えを余儀なくされるケースもあります。

建て替えが行われたマンションの築年数と傾向

実際に建て替えが行われたマンションの多くは、築40〜60年の間で決断されています。

特に首都圏では、築45年前後で建て替えの議論が本格化する傾向があります。

理由として、耐震基準の変更(1981年)以前の建物が多く、地震リスクの高さが背景にあります。

耐用年数の限界が近づくと、修繕コストが跳ね上がり、結果的に建て替えのほうが合理的という判断がされるのです。

建て替えや立ち退きのタイミングを見極めるには、築年数だけでなく、建物診断の結果や修繕履歴を確認することが欠かせません。

マンション建て替えの流れと立ち退きまでのステップ

マンションの建て替えは、計画から竣工まで長い時間と複雑な手続きを要します。

特に立ち退きを伴う場合は、住民一人ひとりの理解と協力が欠かせません。

ここでは、建て替えがどのような流れで進むのか、各段階のポイントを解説します。

Step1.準備段階|管理組合での意向調査と検討開始

まず、建て替えの検討は管理組合内での「建物診断」や「意向調査」から始まります。

外壁・防水・耐震の状況を専門家に調査してもらい、その結果をもとに建て替えか修繕かを議論します。

この段階では、立ち退きや費用の具体的な話よりも、現状把握と方向性の共有が目的です。

初期段階での情報開示がスムーズな合意形成につながります。

Step2.検討段階|説明会開催と合意形成の手続き

次に、建て替え推進委員会が中心となり、住民向けの説明会を開催します。

耐用年数や費用負担、立ち退きの有無など、住民が最も気になる点を明確にすることが大切です。

ここで合意を得るためには、建て替え後の再入居条件や仮住まい支援など、現実的なプランを提示することが求められます。

意見の対立を避けるためにも、専門家を交えた中立的な説明が効果的です。

Step3.計画段階|建替組合の設立から権利変換計画の認可まで

合意が得られたら、管理組合を母体に「建替組合」を設立します。

ここで権利変換計画(旧住戸の所有権を新しい建物の権利に置き換える計画)を策定し、行政の認可を受ける必要があります。

この手続きには法的な専門知識が求められるため、弁護士や不動産コンサルタントのサポートが欠かせません。

権利変換計画が認可されると、正式に建て替え事業がスタートします。

Step4.実施段階|解体・仮住まい・新築工事と立ち退き対応

実施段階では、まず既存建物を解体するため、全住民の立ち退きが必要になります。

分譲マンションでは仮住まい先を各自で確保し、工事期間中は約2〜3年の一時退去が一般的です。

賃貸マンションでは、立ち退き料の支払いと契約終了をもって退去が進められます。

新築工事が完了した後、再入居希望者は新たな権利に基づいて戻ることになります。

立ち退き計画を明確にし、全員が安心して移行できる体制づくりが重要です。

建て替えにかかる費用と住民の負担

建て替えは莫大な費用を伴う事業です。総工費のほか、仮住まい費用や登記費用なども発生します。

ここでは、主な費用項目と負担の目安を整理します。

建て替えで必要となる主な費用項目

建て替え費用には、設計・解体・建築・仮住まいなど複数の項目が含まれます。

以下の表は、一般的な分譲マンションを想定した費用構成の例です。

費用項目内容負担の考え方
設計・監理費建築設計・工事監理の費用建替組合で分担
解体費既存建物の取り壊し費用管理組合費または住民負担
建築費新しい建物の建設費専有面積に応じて按分
仮住まい費一時退去に伴う居住費各住民の自己負担
登記・税金権利変換・不動産登記費用個人負担

住民1人あたりの自己負担額の目安

建て替え費用は、マンションの規模や構造、再建後の仕様によって異なりますが、一般的に1戸あたり1,000万円〜3,000万円前後といわれています。

これに加えて、仮住まい費用や引っ越し代などが発生します。

再建後のマンションが高層化する場合は、戸数増加分の販売益によって費用が軽減されるケースもあります。

修繕積立金は建て替えに使えるのか

多くの管理組合では「修繕積立金」を将来の修繕に充てていますが、原則として建て替え費用には流用できません。

ただし、総会での決議を経て合意が得られれば、準備金として一部を建て替え関連費に充当できる場合もあります。

法律上の制約があるため、専門家の意見を確認することが重要です。

費用負担を軽減できるケースと条件

建て替え費用の負担を抑える方法として、「容積率の緩和」や「補助金制度」の活用があります。

東京都などでは、耐震性向上やバリアフリー化を目的とした建替促進補助制度が設けられています。

また、再建後のマンションで新たに販売する住戸を設け、その売却益を充当する方法も一般的です。

行政支援と民間資金を組み合わせることで、住民負担を大幅に減らすことが可能になります。

建て替え決議後に住民が取るべき行動

建て替えが正式に決議された後は、住民がそれぞれの立場で具体的な行動を取る必要があります。

賛成・反対・賃貸入居者など、立場によって取るべき対応が異なります。

賛成した場合の進め方と注意点

賛成した住民は、建替組合の一員として積極的に会議や説明会に参加し、進捗を把握することが大切です。

特に仮住まい期間中の生活設計や、再入居時の費用負担を早めに見積もっておくと安心です。

また、建設会社やデベロッパーとの契約条件を十分に確認し、不利な条件にならないよう注意が必要です。

反対する場合に気をつけたい交渉ポイント

反対意見を持つ住民も、建て替えに関する情報収集を怠ってはいけません。

無条件に拒否するのではなく、立ち退き条件や代替案を明確にして話し合うことが大切です。

法的には、建て替え決議が成立した場合でも、権利変換計画の段階で個別の交渉が可能です。

納得のいく条件を得るためにも、専門家を通じて冷静に対応しましょう。

賃貸マンション入居者が立ち退きを求められた際の対応

賃貸マンションの入居者が立ち退きを求められた場合、まずは「立ち退き料」や退去時期についてオーナーと話し合うことが必要です。

立ち退き料の支払い条件や仮住まい期間中の補償を明確にしておくことで、トラブルを防ぐことができます。

合意内容は口頭ではなく、必ず書面で交わしておきましょう。

住み替え・売却を検討する際のベストタイミング

建て替えが長期化する場合や、再入居を希望しない場合は、早めに住み替えや売却を検討するのも選択肢です。

建て替え計画が公表された直後は市場価値が不安定になりやすいため、専門家の助言を受けて売却時期を見極めましょう。

仮住まい中に新居を購入する場合は、住宅ローンの重複を避けるためにも、資金計画を慎重に立てることが大切です。

マンション建て替えと立ち退きに関するよくある質問(FAQ)

ここでは、マンション建て替えと立ち退きに関するよくある質問について紹介します。

多くの方が気になる内容を集めましたで、ぜひご覧ください。

Q1.建て替え時の立ち退き料は必ず支払われますか?

立ち退き料は、賃貸マンションの入居者に対して支払われるケースが多いですが、分譲マンションの所有者には原則として支払われません。賃貸の場合は、家賃6〜10か月分が目安です。

Q2.分譲マンションで立ち退きに反対したらどうなりますか?

建て替え決議が法定要件を満たして成立した場合、反対者も従う必要があります。ただし、権利変換計画の段階で個別交渉が可能です。条件に納得がいかない場合は、専門家を交えて協議しましょう。

Q3.立ち退きが決まった後の仮住まい費用は誰が負担しますか?

分譲の場合は各所有者の自己負担、賃貸の場合はオーナーが負担するケースが一般的です。契約内容を必ず確認しておくことが大切です。

Q4.建て替えが決まったら修繕積立金はどうなりますか?

建て替え決議後の積立金は、新築後の管理計画に応じて再設定されるのが一般的です。余剰分は工事費用に充当される場合もあります。

Q5.建て替えが進まない場合、どんなリスクがありますか?

老朽化が進行し、建物が安全基準を満たさなくなると、倒壊リスクや行政指導の可能性が高まります。結果的に、立ち退きを余儀なくされるケースもあるため、早期の検討が重要です。

まとめ|建て替え・立ち退きに直面したときの考え方

老朽化したマンションでは、建て替えや立ち退きは避けて通れない課題です。

特に立ち退きを伴う場合は、費用負担・合意形成・仮住まいの確保など、課題が複雑に絡み合います。まずは現状を正確に把握し、専門家や行政機関と連携しながら最適な選択をすることが大切です。

耐用年数や修繕履歴を確認し、将来の住環境を見据えた判断を行うことで、安心・安全な暮らしを実現できます。