責任施工方式とは?メリット・デメリットと設計監理方式・管理会社元請方式との違いを解説
2025/09/11
マンションの大規模修繕工事を実施する際、最も重要な意思決定の一つが「発注方式の選択」です。
発注方式には主に「責任施工方式」「設計監理方式」「管理会社元請方式」の3つがあり、それぞれにメリット・デメリットがあります。
選択を誤ると、工事費が数百万円も割高になったり、品質に問題が生じたり、管理組合の負担が過大になったりするリスクがあります。
国土交通省の「平成30年度マンション総合調査」によれば、大規模修繕工事の平均費用は1戸あたり約100万円。50戸のマンションなら5,000万円規模の大きなプロジェクトです。
本記事では、責任施工方式を中心に、3つの発注方式の特徴や違いを詳しく解説します。
マンション管理組合の理事や修繕委員の方が最適な発注方式を選択できるよう、実務的な情報をお届けします。
目次
責任施工方式とは?基本的な仕組みと特徴
責任施工方式とは、マンション大規模修繕工事における発注方式の一つで、調査診断から設計、施工、工事監理まで、すべての工程を1社の施工会社に一任する方式です。
従来の建築業界では、設計と施工を分離する「設計監理方式」が一般的でしたが、中小規模のマンションを中心に、責任施工方式を採用するケースが増えています。
責任施工方式では、以下の流れで工事が進行します。
- 施工会社の選定:管理組合が施工会社を選定
- 建物調査診断:施工会社が建物の劣化状況を調査
- 設計・見積作成:調査結果をもとに修繕設計と見積を作成
- 工事契約:管理組合と施工会社が工事請負契約を締結
- 施工実施:施工会社が責任を持って工事を実施
- 工事監理:施工会社自身が品質管理・工程管理を実施
- 完成・引渡し:工事完了後、管理組合へ引渡し
この方式の最大の特徴は、窓口が施工会社一社に集約されることです。
管理組合は複数の業者と個別に契約する必要がなく、一つの窓口で完結します。
また責任施工方式と他の方式との違いは、設計と施工を同じ会社が担当するため、設計監理方式のように第三者のコンサルタント(設計監理者)を介在させない点です。
そのため、コンサルタント費用が不要になる一方で、第三者のチェック機能がないという特徴があります。
大規模修繕の発注方式(責任施工・設計監理・管理会社元請)比較
マンション大規模修繕工事の発注方式には、主に以下の3つがあります。それぞれの基本的な体制と特徴を理解しましょう。
| 発注方式 | 調査診断 | 設計 | 施工 | 工事監理 | 契約相手 |
|---|---|---|---|---|---|
| 責任施工方式 | 施工会社 | 施工会社 | 施工会社 | 施工会社 | 施工会社のみ |
| 設計監理方式 | コンサルタント | コンサルタント | 施工会社 | コンサルタント | コンサルタント + 施工会社 |
| 管理会社元請方式 | 管理会社 | 管理会社 | 管理会社 (下請) | 管理会社 | 管理会社のみ |
責任施工方式は、施工会社がすべての役割を担当し、窓口を一本化できるシンプルな方式です。
設計監理方式は、第三者のコンサルタント(設計事務所など)が設計と工事監理を担当し、施工会社を競争入札で選定する方式です。設計と施工を分離することで、透明性と品質を確保します。
管理会社元請方式は、日常管理を委託している管理会社が工事全体を取りまとめる方式です。管理会社が元請となり、実際の施工は下請け業者が行うケースが多いです。
国土交通省の「平成30年度マンション総合調査」によると、大規模修繕工事の発注先は以下の通りです。
- 管理会社:28.3%
- 施工会社(責任施工方式):約25%
- 設計監理方式:約20%
- その他:約27%
このデータから、管理会社元請方式が最も多く採用されているものの、責任施工方式や設計監理方式もそれぞれ一定の割合で選択されていることがわかります。
責任施工方式のメリット
責任施工方式には、管理組合の負担軽減やコスト削減などのメリットがあります。
| メリット項目 | 内容 | 効果 |
|---|---|---|
| 業務の簡素化 | 窓口が施工会社一社に集約 | 管理組合の手間が大幅に削減 |
| 工期短縮 | 設計と施工が一体で進行 | スムーズな工事進行が可能 |
| 責任所在の明確化 | すべての工程を一社が担当 | トラブル時の対応が迅速 |
| コンサルタント料不要 | 第三者コンサルタントへの委託が不要 | 工事費総額の5〜10%を削減 |
1.業務の簡素化(窓口一本化)
責任施工方式では、施工会社が窓口となるため、管理組合は一社とのやり取りだけで工事全体を進められます。
設計監理方式では、コンサルタントと施工会社の両方と契約・調整する必要がありますが、責任施工方式ではその手間が省けます。
特に、理事や修繕委員が本業を持つ多忙な方々の場合、この業務簡素化は大きなメリットとなります。
2.工期短縮
責任施工方式では、設計と施工が一体で進められるため、工期を短縮できる可能性があります。
設計監理方式では、まずコンサルタントが設計を完成させ、その後に施工会社を入札で選定するため、準備期間が長くなります。
一方、責任施工方式では、調査診断と設計、施工準備を並行して進められるため、スムーズな工事着手が可能です。
3.責任所在の明確化
すべての工程を一社が担当するため、不具合やトラブルが発生した際の責任所在が明確です。
設計監理方式では、設計ミスなのか施工ミスなのかで責任の所在が曖昧になることがありますが、責任施工方式では施工会社が一括して責任を負うため、迅速な対応が期待できます。
4.コンサルタント料不要
設計監理方式では、コンサルタント(設計監理者)への報酬が工事費総額の5〜10%程度必要となります。
例えば、工事費が5,000万円の場合、コンサルタント料は250万円〜500万円となります。
責任施工方式では、このコンサルタント料が不要となるため、修繕積立金の限られた予算を有効活用できます。
責任施工方式のデメリット・注意点
メリットがある一方で、責任施工方式には注意すべきデメリットも存在します。
| デメリット項目 | 内容 |
|---|---|
| 施工会社選定の難しさ | 専門知識がないと適切な会社を選べない |
| 第三者チェックの欠如 | 設計・施工を同じ会社が担当 |
| 透明性のリスク | 工事内容・費用の妥当性判断が困難 |
| 管理組合の負担増 | 専門知識が求められる |
1.施工会社選定の難しさ
責任施工方式では、施工会社選定が工事成功の鍵となります。しかし、建築の専門知識を持たない管理組合にとって、適切な施工会社を選ぶことは容易ではありません。
実績や技術力、財務状況、アフターサービス体制など、多角的な視点から評価する必要がありますが、これらを正確に判断するには専門知識が必要です。
2.第三者チェックの欠如
責任施工方式では、設計と施工を同じ会社が行うため、第三者による客観的なチェック機能がありません。
設計監理方式では、コンサルタントが第三者の立場で施工品質をチェックしますが、責任施工方式では施工会社が自ら監理するため、過剰な工事や手抜き工事のリスクがあります。
3.透明性のリスク
施工会社が提示する工事内容や見積金額が適切かどうかを、管理組合が独自に判断することは困難です。
相場と比較して割高なのか、本当に必要な工事なのかを見極めるには、専門的な知識や経験が必要です。複数社から見積を取得しても、仕様が統一されていないと正確な比較ができません。
4.管理組合の負担増加
第三者のコンサルタントがいないため、管理組合自身が専門的な判断を求められる場面が増えます。
設計内容の妥当性、工事品質のチェック、変更工事の判断など、本来コンサルタントが担う役割を管理組合が担わなければならず、専門知識のない理事や修繕委員にとって大きな負担となります。
設計監理方式のメリット
設計監理方式は、第三者のコンサルタントが介在することで、透明性と品質を確保できる発注方式です。以下、主な4つのメリットを解説します。
| メリット項目 | 内容 | 効果 |
|---|---|---|
| 第三者の専門的チェック | コンサルタントが設計・施工を監理 | 高い品質と信頼性を確保 |
| 透明性・公平性の確保 | 競争入札による施工会社選定 | 談合やリベートを排除 |
| 適正価格での施工 | 複数社の見積比較 | コストダウンの実現 |
| 品質管理の徹底 | 専門家による工事監理 | 施工不良を防止 |
1.第三者の専門的チェック
設計監理方式では、独立したコンサルタント(設計事務所など)が第三者の立場で設計と工事監理を担当します。
コンサルタントは建築の専門家として、建物調査診断から設計、施工会社の選定支援、工事監理まで一貫してサポートします。
この第三者のチェック機能により、施工会社による恣意的な判断を防ぎ、客観的な視点で工事を進められます。
2.透明性・公平性の確保
コンサルタントが作成した共通の設計図書をもとに、複数の施工会社から見積を取得し、競争入札で施工会社を選定します。
このプロセスにより、施工会社間の競争原理が働き、談合やリベート、不透明な取引を排除できます。
また、同じ条件で比較できるため、管理組合は施工会社の提案内容や価格を公平に評価できます。
3.適正価格での施工
競争入札により複数社を比較することで、工事費を適正価格に抑えられる可能性が高いです。
コンサルタント費用(工事費の5〜10%)がかかりますが、競争入札によるコストダウン効果で、総費用としては責任施工方式より安くなるケースも多くあります。
実際、設計監理方式を採用したマンションでは、当初想定より10〜20%のコスト削減に成功した事例も報告されています。
4.品質管理の徹底
コンサルタントが工事監理者として、施工状況を定期的にチェックします。
設計図書通りに施工されているか、使用材料は適切か、施工品質に問題はないかなど、専門的な視点で監理するため、施工不良や手抜き工事を防ぐことができます。
また、施工会社との利害関係がないため、客観的で厳格なチェックが期待できます。
設計監理方式のデメリット
設計監理方式にも注意すべきデメリットがあります。以下、主な4つのデメリットを解説します。
| デメリット項目 | 内容 |
|---|---|
| コンサルタント費用が必要 | 工事費の5〜10%の費用発生 |
| コンサルタント選定の手間 | 適切なコンサルタントを選ぶ必要 |
| 不適切なコンサルタントのリスク | 能力不足や利益相反の可能性 |
| 工期が長くなる可能性 | 設計完了後に施工会社を選定 |
1.コンサルタント費用が必要
設計監理方式では、コンサルタント(設計監理者)への報酬が工事費総額の5〜10%程度必要となります。
工事費が5,000万円の場合、コンサルタント料は250万円〜500万円です。修繕積立金が潤沢でないマンションにとって、この追加費用は大きな負担となります。
ただし、競争入札によるコストダウン効果で総費用が抑えられるケースもあるため、トータルでの比較が重要です。
2.コンサルタント選定の手間
適切なコンサルタントを選定するには、複数社から提案を受け、実績や専門性、報酬額などを比較検討する必要があります。
コンサルタント選定自体に時間と労力がかかり、また選定基準や評価方法についても管理組合で合意形成が必要です。理事や修繕委員の負担が増える要因となります。
3.不適切なコンサルタントのリスク
コンサルタントの能力や経験が不十分な場合、期待した効果を得られない可能性があります。
また、一部のコンサルタントには、特定の施工会社と癒着し、バックマージン(リベート)を受け取るという不適切な事例も報告されています。
国土交通省も「設計コンサルタントを活用する方式における課題」として、このような問題を指摘しています。
コンサルタント選定時には、実績や評判を十分に確認し、利益相反がないかをチェックすることが重要です。
4.工期が長くなる可能性
設計監理方式では、まずコンサルタントが調査診断と設計を完了させ、その後に施工会社を入札で選定します。
このプロセスは透明性を確保する上で重要ですが、準備期間が長くなる傾向があります。
急ぎで工事を実施したい場合や、劣化が進行している場合には、この工期の長さがデメリットとなることがあります。
管理会社元請方式のメリット
管理会社元請方式は、日常管理を委託している管理会社に工事全体を任せる方式です。以下、主な3つのメリットを解説します。
| メリット項目 | 内容 | 効果 |
|---|---|---|
| 既存の信頼関係を活用 | 日頃から付き合いのある管理会社 | 安心感と信頼性 |
| 管理組合の業務負担軽減 | 管理会社が全体を取りまとめ | 理事・修繕委員の手間最小化 |
| スムーズな調整 | 日常業務との一体運用 | 円滑な工事進行 |
1.既存の信頼関係を活用
管理会社は日常的にマンションの管理業務を担当しているため、建物の状況や住民の要望を熟知しています。
長年の付き合いで信頼関係が構築されている場合、安心して工事を任せられるという心理的メリットがあります。
また、管理会社の担当者が慣れ親しんだ顔であることも、住民にとって安心材料となります。
2.管理組合の業務負担軽減
管理会社元請方式では、管理会社が調査診断から施工会社の手配、工事監理まで一括して対応します。
管理組合は複数の業者選定や契約手続きをする必要がなく、理事や修繕委員の負担を最小限に抑えられます。
特に、理事の高齢化や人手不足に悩むマンションでは、この業務負担軽減は大きなメリットです。
3.スムーズな調整・コミュニケーション
管理会社は日常業務でマンションに出入りしているため、住民との関係性が既にできています。
工事に関する連絡や調整も、日常管理業務と一体で行えるため、コミュニケーションがスムーズです。
また、工事完了後の不具合対応も、管理会社が窓口となって対応してくれるため、管理組合の負担が軽減されます。
管理会社元請方式のデメリット
管理会社元請方式には、コストや透明性の面でデメリットがあります。以下、主な4つのデメリットを解説します。
| デメリット項目 | 内容 |
|---|---|
| コスト高になりやすい | 管理会社の中間マージンが発生 |
| 競争原理が働きにくい | 特命随意契約になりやすい |
| 利益相反のリスク | 管理会社の利益優先の可能性 |
| 透明性の低下 | 工事内容・価格の妥当性が不透明 |
1.コスト高になりやすい
管理会社が元請となる場合、実際の施工は下請け業者が行うケースがほとんどです。
この場合、管理会社の中間マージン(11〜15%程度)が上乗せされるため、直接施工会社と契約する場合と比較して工事費が割高になる傾向があります。
工事費5,000万円の場合、550万円〜750万円が管理会社の利益として上乗せされる計算です。
2.競争原理が働きにくい
「日頃からお世話になっているから」という理由で管理会社へ特命随意契約で発注するケースが多く見られます。
この場合、見積もりを比較される心配がないため、競争原理が働かず、費用が割高になる可能性が高いです。
管理会社も修繕積立金の残高を把握しているため、「支払える金額ぎりぎり」の見積を提示するケースも報告されています。
3.利益相反のリスク
管理会社は、管理受託者としての立場と工事受注者としての立場を兼ねます。
本来、管理会社は管理組合の利益を代表して業務を行うべきですが、工事を受注する立場になると、自社の利益を優先する利益相反が生じる可能性があります。
過剰な工事や不要な工事を提案されるリスクがあります。
4.透明性の低下
管理会社が下請け業者にいくらで発注し、いくら上乗せしているかは、管理組合には見えません。
工事内容の妥当性や価格の適正性を管理組合が独自に判断することは困難です。
また、施工品質のチェックも管理会社が行うため、下請け業者との馴れ合いにより、適切な品質管理が行われないリスクがあります。
最後に3つの発注方式を、費用・透明性・品質管理・業務負担・工期・適合性の観点から総合的に比較します。
| 比較項目 | 責任施工方式 | 設計監理方式 | 管理会社元請方式 |
|---|---|---|---|
| 費用 | 中程度 ※コンサル料不要 | やや高い ※コンサル料5〜10%程度 | 高い ※中間マージン15%前後 |
| 透明性 | 低い ※第三者チェックなし | 高い ※競争入札・第三者監理 | 低い ※価格・内容が不透明 |
| 品質管理 | 普通 ※施工会社の自主管理 | 高い ※専門家による監理 | 普通〜低い ※馴れ合いリスク |
| 業務負担 | 中程度 ※専門知識が必要 | やや高い ※コンサル選定必要 | 低い ※管理会社に一任 |
| 工期 | 短い ※一体で進行 | やや長い ※入札プロセス | 短い ※既存関係で迅速 |
この表から、それぞれの方式に一長一短があることがわかります。
マンションの規模、修繕積立金の状況、管理組合の体制などを総合的に考慮して、最適な方式を選択することが重要です。
責任施工方式が向いているマンション
発注方式の選択は、マンションの規模や状況や管理組合の体制によって変わります。
以下の条件に複数当てはまる場合、責任施工方式が有力な選択肢となります。自マンションの状況と照らし合わせて、判断の参考にしてください。
信頼できる施工会社が既にある
良好な関係を築いている施工会社や近隣のマンションで実績があり評判の良い施工会社など、信頼できる業者が既にある場合は責任施工方式がスムーズです。
その施工会社の技術力、誠実さ、アフターサービスの質を既に確認できているため、第三者のコンサルタントを入れる必要性が低くなります。
ただし、その1社だけに決めるのではなく、他にも2〜3社から提案を受けて比較検討することは依然として重要です。
コスト重視で業務負担を抑えたい
修繕積立金に余裕がなく、できるだけ費用を抑えたいケースや理事・修繕委員が高齢または多忙で業務負担を軽減したいケースは責任施工方式が適しています。
施工会社一社との窓口で完結するため、理事や修繕委員の時間的・精神的負担を大幅に軽減できます。
ただし、「安ければ何でもいい」「手間がかからなければいい」という安易な発想は危険です。
適切な施工会社選定(プロポーザル方式の活用)と最低限のチェック体制(外部専門家の部分的活用)を確保することが前提です。
理事・修繕委員に建築知識のある人がいる
管理組合の中に建築士、建築業界経験者、設備技術者、建築関連企業の勤務者などの専門知識を持つ人がいる場合、自らチェック機能を果たせるため、第三者コンサルタントの必要性が低くなります。
ただし、その専門家の負担が過大にならないよう配慮が必要です。
また、その専門家一人に依存するのではなく、重要な判断については外部の第三者専門家(マンション管理士、建築士など)のセカンドオピニオンを得ることも検討しましょう。
プロポーザル方式で質の高い業者を選定する方法
どの発注方式を選択する場合でも、優良な業者を選定することが大規模修繕工事成功の鍵となります。そこで推奨されるのが「プロポーザル方式」です。
プロポーザル方式とは?
プロポーザル方式とは、価格だけでなく、提案内容や実績・技術力などを総合的に評価して業者を選定する方式です。
従来の「価格競争入札」では最低価格の業者が選ばれますが、プロポーザル方式では価格と品質のバランスを重視します。これにより、単に安いだけでなく、質の高い業者を選定できます。
プロポーザル方式の基本的な流れ
- 公募・応募:広く業者を公募し、応募書類を提出してもらう
- 一次審査:書類審査で実績や技術力を評価
- 二次審査:プレゼンテーション審査で提案内容を評価
- 総合評価:価格・技術・実績などを点数化して総合評価
- 業者決定:最も総合点の高い業者を選定
評価基準の設定方法
プロポーザル方式では、事前に明確な評価基準を設定することが重要です。一般的な評価項目は以下の通りです。
| 評価区分 | 配点目安 | 評価項目 |
|---|---|---|
| 価格評価 | 30〜40点 | ・見積金額の妥当性 ・コストパフォーマンス |
| 技術評価 | 30〜40点 | ・調査診断の手法 ・修繕計画の合理性 ・施工方法の妥当性 ・品質管理体制 |
| 実績評価 | 20〜30点 | ・大規模修繕の実績件数 ・同規模マンションでの実績 ・近隣での実績 |
| 会社評価 | 10〜20点 | ・財務状況 ・アフターサービス体制 ・保証内容 |
これらの評価項目に配点を設定し、総合点で業者を選定します。
プロポーザル方式のメリット・デメリット
プロポーザル方式を採用する際には、そのメリットとデメリットを理解しておくことが重要です。
プロポーザル方式のメリット
- 価格と品質のバランスで選定できる
- 業者の提案力を比較できる
- 談合を防ぎやすい
- 管理組合の納得感が高まる
- 長期的な視点での選定が可能
プロポーザル方式の最大のメリットは、「安かろう悪かろう」のリスクを回避できることです。
価格競争入札では、極端に安い価格を提示した業者が選ばれ、後から追加工事を提案されたり、品質が低かったりするケースがあります。
プロポーザル方式では、価格・技術・実績を総合的に評価するため、質の高い業者を選定でき、結果として満足度の高い工事を実現できます。
また、評価プロセスが透明で公平なため、区分所有者への説明もしやすく、合意形成がスムーズになります。
プロポーザル方式のデメリット
- 選定プロセスに時間がかかる
- 管理組合の負担が増える
- 評価基準の設定が難しい
- 必ずしも最安値にならない
- 評価の客観性確保が課題
プロポーザル方式のデメリットは、主に時間と労力がかかることです。しかし、このデメリットは工夫次第で軽減できます。
例えば、評価基準の設定や技術提案の評価については、外部の専門家(マンション管理士、建築士など)のサポートを受けることで、管理組合の負担を軽減しつつ客観性を確保できます。
また、選定プロセスに時間がかかる点についても、計画的にスケジュールを組むことで対応可能です。
費用面で最安値にならない可能性はありますが、品質やアフターサービスを考慮すれば、長期的には費用対効果が高いと言えます。
責任施工方式に関するよくある質問(FAQ)
大規模修繕工事の発注方式について、多くの管理組合から寄せられる質問をまとめました。
責任施工方式を中心に3つの発注方式の選び方や注意点について、実務的な観点からお答えします。
Q1. 責任施工方式と設計監理方式、どちらが費用が安いですか?
A. 一概にどちらが安いとは言えません。
責任施工方式はコンサルタント料(工事費の5〜10%)が不要なため、その分費用を抑えられます。
一方、設計監理方式は競争入札により工事費自体が下がる可能性があります。
小規模マンション(戸数30戸以下、工事費3,000万円以下)では、コンサルタント料の負担が大きいため、責任施工方式の方が総費用は安くなる傾向があります。
中大規模マンション(戸数50戸以上、工事費5,000万円以上)では、競争入札による削減効果が大きく、設計監理方式の方が総費用を抑えられるケースが多いです。
Q2. 管理会社から「責任施工方式で当社に任せてください」と提案されました。問題ありませんか?
A. 管理会社からの提案を鵜呑みにせず、他の選択肢も比較検討すべきです。
管理会社が元請となる場合、中間マージンが発生し割高になる可能性があります。また、利益相反の問題もあります。
以下の対応を推奨します。
- 他の施工会社からも見積を取得(最低2〜3社)
- 設計監理方式も検討し、コンサルタントの意見も聞く
- 外部の専門家(マンション管理士など)に相談
Q3. 責任施工方式で施工会社を選ぶ際、何社から見積を取るべきですか?
A. 最低でも3社以上から見積を取得することを推奨します。
1社だけでは価格の妥当性が判断できません。
2社では一方が極端に高い/安い場合の判断が困難です。3社以上あれば、相場感を把握できます。
理想的には5社程度から見積を取得し、書類審査で3社に絞り込み、その3社にプレゼンテーションしてもらう流れが良いでしょう。
ただし、見積依頼先が多すぎると、各社の提案内容を精査する負担が大きくなるため、3〜5社が適切です。
Q4. 責任施工方式で手抜き工事をされないか心配です。どうすれば防げますか?
A. 以下の対策を講じることで、手抜き工事のリスクを軽減できます。
①実績豊富な施工会社を選ぶ
過去の実績が豊富で、評判の良い会社であれば、手抜き工事のリスクは低いです。
②契約書で品質基準を明確にする
使用材料や施工方法、品質基準を契約書に明記し、違反時の対応も定めます。
③定期的な現場確認
管理組合として週1回程度は現場を確認し、施工状況をチェックします。
④外部専門家によるスポットチェック
工事の重要な段階(足場解体前など)で、外部の建築士などに品質チェックを依頼します。
⑤施工写真の記録・保管
各工程の施工写真を撮影・保管し、後から検証できるようにします。
Q5. 3つの発注方式のうち、国土交通省が推奨している方式はありますか?
A. 国土交通省は「設計監理方式」を推奨しています。
国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」では、「設計・監理業務と施工を分離発注し、設計監理者が施工者から独立した立場で工事監理を行う設計監理方式が望ましい」と記載されています。
理由は、第三者による客観的なチェック機能があり、透明性・公平性が高いためです。
ただし、マンションの規模や状況によっては、責任施工方式や管理会社元請方式が適している場合もあります。
国の推奨だけでなく、自マンションの実情に合わせて選択することが重要です。
Q6. 責任施工方式で施工会社が倒産した場合、どうなりますか?
A. 工事途中で施工会社が倒産した場合、工事が中断し、大きな損害を被る可能性があります。
対策として、以下の点に注意しましょう。
①施工会社の財務状況を事前確認
選定時に決算書を確認し、財務的に健全な会社を選びます。
②工事完成保証制度の活用
保証会社が工事完成を保証する制度を利用することで、倒産リスクに備えられます。
③前払金を最小限に抑える
支払条件を「出来高払い」とし、工事の進捗に応じて支払うことで、倒産時の損失を最小化します。
④保証保険への加入
施工会社に「住宅瑕疵担保責任保険」や「完成保証保険」への加入を義務付けます。
Q7. 責任施工方式で適切な施工会社を選ぶ自信がありません。どうすればよいですか?
A. 以下の方法で、専門家のサポートを受けることができます。
①マンション管理士への相談
マンション管理士に相談し、施工会社選定の助言を受けます。
②大規模修繕アドバイザーの活用
大規模修繕専門のアドバイザーに、施工会社選定や見積査定を依頼します。費用は設計監理よりも安価です。
③コンサルタントによるセカンドオピニオン
責任施工方式を採用しつつ、コンサルタントに見積内容の査定や施工会社の評価を依頼します。
④プロポーザル方式の採用
価格だけでなく、提案内容や実績を総合評価するプロポーザル方式を採用し、客観的な基準で選定します。
専門知識がなくても、外部の専門家を部分的に活用することで、適切な施工会社選定が可能です。
まとめ:発注方式は慎重に比較検討を
責任施工方式とは、マンション大規模修繕工事における発注方式の一つで、調査診断から設計、施工、工事監理まで、すべての工程を1社の施工会社に一任する方式です。
マンション大規模修繕工事の発注方式には、他にも「設計監理方式」や「管理会社元請方式」といった種類があり、それぞれにメリット・デメリットがあります。
| 発注方式 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| 責任施工方式 | ・業務の簡素化(窓口一本化) ・工期短縮が可能 ・責任所在の明確化 ・コンサルタント料不要 | ・施工会社選定が難しい ・第三者チェックの欠如 ・透明性が低い ・管理組合の専門判断が必要 |
| 設計監理方式 | ・第三者の専門的チェック ・透明性・公平性の確保 ・適正価格での施工 ・品質管理の徹底 | ・コンサルタント費用が必要 ・コンサルタント選定の手間 ・不適切なコンサルタントのリスク ・工期が長くなる可能性 |
| 管理会社元請方式 | ・既存の信頼関係を活用 ・管理組合の業務負担が最小 ・スムーズな調整が可能 | ・コスト高になりやすい ・競争原理が働きにくい ・利益相反のリスク ・透明性の低下 |
大規模修繕工事は、多くの管理組合にとって初めての経験であり、数千万円規模の大きな支出を伴います。
発注方式の選択で迷う場合や自分たちだけで判断することに不安がある場合は、マンション管理士や大規模修繕コンサルタントなど、独立した専門家に相談することをお勧めします。
適切な発注方式を選択し、優良な業者を選定することで、マンションの資産価値を守り、快適な住環境を維持する大規模修繕工事を成功させましょう。