鉄骨造建物の陸屋根は、その構造特性から防水性能が重要です。しかし、適切な改修や防水工事を行わないと、雨漏りなどの深刻な問題を引き起こす可能性があります。鉄筋コンクリート(RC)造とは異なる特性を持つ鉄骨造の屋根には、独自の注意点があります。そこで本記事では、鉄骨造建物の陸屋根改修および防水工事において避けるべき事項を詳しく解説します。コンクリートの状態、シート防水やアスファルト防水などの種類別の注意点、そして屋上防水における重要なポイントを踏まえながら、リフォームや改修工事の際に陥りがちな問題を掲載しています。また、工事にかかる費用や適切な施工方法についても触れ、建物所有者や管理者が安全で効果的な屋根改修を行うための指針を提供します。
目次
屋上防水に関わる鉄骨(S)造とは?
鉄骨造は、建築の構造において主要な骨組みに鋼鉄(鉄)を使用する建築工法の一つです。この工法では、建物の柱や梁、フレームなどの主要な構造部分に鉄製の骨組みが用いられますあります。
鉄骨造の主な特徴は以下の通りです。
構造材として鉄が使用されている
鉄骨造では、鋼鉄(鉄)を柱や梁などの骨組みの主要な構造材料として使用します。
鋼鉄は高い強度、耐久性、および柔軟性を備えており、これによって建物に必要な強度を確保しつつ、複雑な形状や大規模な建物の建築が可能です。
鉄筋やコンクリートは不使用
通常の鉄筋コンクリート構造とは異なり、鉄骨造では鉄筋やコンクリートは必要ありません。
鉄筋やコンクリートを使用しない分建物が比較的軽量となり、建築プロセスが速やかに進みます。
柔軟性と耐震性
鉄骨は柔軟で粘り強い性質を持ち、地震などの外部の力に対して柔軟に対応することが可能です。
そのため、耐震性が高いとされています。
大規模な建物や特殊な用途に適している
鉄骨造はその強度と柔軟性からくる利点を生かして、超高層建築物や大規模商業施設、体育館などの大空間を持つ建築物に採用されていることが一般的です。
総じて、鉄骨造はその強靭な性質と柔軟性により、様々な建築物において安全かつ効果的に使用されています。
鉄骨造と鉄筋コンクリート造の違い|屋上防水の耐水性に関与
鉄骨造と鉄筋コンクリート造の違いについて、以下の表にまとめました。
鉄骨(S)造 | 鉄筋コンクリート(RC)造 | |
材料・構造 | 梁や柱などが鉄骨でできている木造住宅の枠組み部分が木材ではなく鉄骨でできているイメージ | 鉄筋を組んだ枠組みの中に、コンクリートを流し込んで造る |
接合部 | ピン接合されていて柔軟性がある地震に強い壁などはひび割れが起こりやすい | 鋼接合されており、柔軟性はない地震でヒビが発生する場合がある |
特性 | 木造建築と同様に、鉄骨もしなるため地震に強い | 引っ張る力が強く圧縮性に弱いコンクリートと、その真逆の性質を持つ鉄筋を使用しているため、非常に強い |
鉄骨造と鉄筋コンクリートは、見た目は似ていますが異なる構造を持っており、特に耐水性において大きく異なります。
建物の内部が見えにくくても防水や塗装が行われることがあるので、それぞれの問題や対処法は違います。
鉄骨造と鉄筋コンクリート造のどちらも屋根の構造は平らな陸屋根であり、水はけが悪いため防水材に頼らざるを得ません。
鉄骨造の種類|軽量鉄骨造・重量鉄骨造
鉄骨造は、使用される鋼材の厚みによって軽量鉄骨造と重量鉄骨造に分類されます。
建物の規模や用途に応じて、適切な構造が選択されます。
軽量鉄骨造 | 重量鉄骨造 | |
部材の厚み | 6mm未満 | 6mm以上 |
構造形式 | ブレース構造(柱と梁を斜めのブレースで構造体で補強) | ラーメン構造(柱と梁を剛接合した枠組みで支える) |
特徴 | ・プレハブ工法を採用 ・重量鉄骨よりも安い ・耐用年数が長い | ・軽量鉄骨より強度が高い ・開口部を広く取りたい場合に適している |
軽量鉄骨造
軽量鉄骨造の建物は、木造に比べて耐震性に優れ、鉄骨は腐食しにくく劣化や風化に対する耐久性も高いため、長期間住み続けられます。
また、工場で部材を生産するプレハブ工法で建てられるため、品質が安定しており、工期も短く済みます。
重量鉄骨造
重量鉄骨造は、3階建て以上のビルや集合住宅で一般的に使用されます。
耐震性や耐久性に優れ、大きな空間を作ることが可能です。
ただし、建築コストは高く、地盤工事や基礎工事に費用がかかる可能性があります。
鉄骨造建物の陸屋根に屋上防水改修工事を行う際の注意点
鉄骨造の陸屋根に防水工事を行う際の注意点は以下の通りです。
鉄骨陸屋根の状態・用途に合わせて防水工法を選択する
鉄筋コンクリート造や鉄骨構造の建物では、防水工事と定期的なメンテナンスが必要です。
雨漏りは建物の構造に深く関わるため、現状だけでなく過去の防水工事や状態を考慮し、総合的な判断が必要です。
改修工事が影響を与えている場合は、防水工事だけでは対応できないこともあります。
専門業者に相談し、総合的な対応をしてもらいましょう。
屋上防水工事を行っても鉄骨を使った建物は雨漏りが解決できないこともある
鉄筋コンクリートの建物における雨漏り原因は、防水層の劣化以外にも塔屋や窓周りの劣化、勾配の不良、パラペット部の劣化、排水溝の詰まり、設備配管の不具合などが考えられます。
防水工事だけでは解決しない場合もあるため、しっかり雨漏り調査を行い、原因を特定してから工事計画を立てることが重要です。
鉄骨造建物の屋上防水工事
鉄骨造建物は、地震の揺れを軽減するために建物の重さを軽くする必要があり、新築時の防水工事は露出型が一般的です。
露出防水は、防水面が露出して見える状態の防水工法であり、保護防水とは防水層をコンクリートやモルタルで保護する工法です。
マンション屋上など人や物の出入りが少ない場合には露出防水が一般的で、アスファルト防水・シート防水・塗膜防水などが使用されます。
露出防水のメリットは、防水層が直接確認できるため破損箇所の発見が容易です。
ただし、保護されていないため破損の危険性が高く、下地の水分が膨張による破損の原因となることがあります。
鉄骨造建物の屋上防水改修工事の種類
鉄骨造建物の屋上防水改修工事には、以下のような種類があります。
- ウレタン塗膜防水
- シート防水
- アスファルト防水
各防水工事の特徴や、メリット・デメリットについて解説していきます。
鉄骨造の屋上防水工事の種類1.ウレタン塗膜防水
費用相場 | 3,000~7,500円/㎡ |
工法 | 通気緩衝工法/密着工法 |
工期 | 1日〜5日程度 |
耐用年数 | 10〜12年程度 |
ウレタン防水は、液体状のウレタン樹脂を塗ることで防水層を作る工法です。
ウレタン樹脂は柔軟で耐摩耗性に優れた素材であり、耐久性が向上しています。
施工は比較的簡単で、臭いや騒音も少なく、マンション屋上やベランダなど様々な場所に適しています。
ウレタン防水のメリットとしては、高い伸縮性、継ぎ目のなさ、軽量性、施工の柔軟性、コストパフォーマンスの良さがあります。
一方、施工難易度の高さや紫外線への弱さ、乾燥時間の長さ、衝撃に弱い点がデメリットとして挙げられます。
また、定期的なトップコートの塗り替えや再塗装が必要です。
鉄骨造の屋上防水工事の種類2.シート防水
費用相場 | 4,000~7,000円/㎡ |
工法 | 密着工法/機械固定工法 |
工期 | 2日〜4日程度 |
耐用年数 | 10〜15年程度 |
シート防水は、塩化ビニール製やゴム製のシートを既存の防水層の上から貼る防水工法です。
現在の防水工事では、塩ビシートによる工法が主流となっています。
主なメリットとしては耐久性が高く、価格が手頃で広範囲を一度に施工できる点があります。
しかし、施工難易度が高く、つなぎ目の接着や凹凸のある場所への施工には注意が必要です。
鉄骨造の屋上防水工事の種類3.アスファルト防水
費用相場 | 5,000円~8,000円/㎡ |
工法 | トーチ工法/冷工法 |
工期 | 3週間程度 |
耐用年数 | 15〜25年程度 |
アスファルト防水は、新築時に多く使われている工法です。
アスファルト工法のほとんどは押さえ工法が採用されています。
押さえ工法は、表面に保護コンクリートを打ち、アスファルトルーフィングやアスファルトコンパウンドを貼り合わせて防水層を作る工法です。
アスファルト防水の歴史は古く、第二次大戦後の1950年代から採用されているため信頼性が高いのも特徴の一つと言えるでしょう。
また、施工後の不具合が出にくく、15~20年程度長持ちします。
ただし、メンテナンス時には下地処理を行う必要があります。
防水工事後に鉄骨造建物の陸屋根や屋上から雨漏りが起こる原因
鉄骨造建物の陸屋根から雨漏りが起こる原因は、以下のようなものが考えられます。
- コンクリートのひび割れ
- コーキングの劣化
- 防水層の剥がれ・破れ・浮き
- 排水口のつまり・水溜り
- 勾配不良
屋上で以上のような劣化症状が見られたら、すぐに業者に相談して適切な対処をしてもらいましょう。
コンクリートのひび割れ
コンクリート屋根からの雨漏りの原因は、主にひび割れです。
ひび割れは乾燥収縮や気温変化、コンクリート中性化、施工不良などが要因となります。
築年数が古い場合にはひび割れのリスクが高まるため、定期的な点検と補修が必要です。
コーキングの劣化
コンクリート屋根の防水工事では、コーキングが使用されます。
コーキングは隙間を埋め、機密性や防水性を高める役割を果たしますが、劣化しやすい部分でもあります。
劣化したコーキングは収縮やひび割れが生じ、本来の機能を果たせなくなります。
雨漏りを事前に防ぐためには、定期的なチェックとコーキングの打ち直しが必要です。
防水層の剥がれ・破れ・浮き
コンクリート屋根の防水層は10年以上経つと劣化が目立ち始め、破れや剥がれ、浮きなどが生じます。
劣化した箇所の補修には専門的な知識や技術が必要であるため、専門業者に相談することが重要です。
排水口のつまり・水溜り
コンクリート屋根では排水が非常に重要です。
排水溝はゴミや落ち葉で詰まりやすいため、定期的な清掃が必要です。排水が滞ると防水層の劣化が進み、雨水が建物内部に侵入します。
勾配不良
コンクリート屋根において、水溜りができる原因は排水溝の詰まりだけでなく、勾配不良も挙げられます。
勾配の設計や施工に問題があると、排水が妨げられ水溜りができ、雨漏りの原因となります。
築年数が浅い場合や防水工事後に水溜りが生じる場合は、勾配不良の可能性が高いです。
鉄骨造の屋上防水工事の防水層を長持ちさせるコツ
防水層を長く持たせるためには、以下のようなコツがあります。
トップコートの塗り替え
防水層の寿命を延ばすためには、定期的にトップコートを塗り替えることが重要です。
防水層に剥がれがなくても色あせがある場合は、塗り替えを検討しましょう。
通常は5〜6年ごとに塗り替えますが、10年ごとでも良い製品や遮熱効果のある製品もあります。
施工業者と相談しながら、好みに合った選択をしましょう。
排水溝(ドレン)周りの掃除
屋上の排水溝は落ち葉やゴミで詰まり、水たまりや防水層のダメージの原因になります。
月に1度の掃除が目安であり、ルーフドレンの蓋を外して内部も掃除しましょう。
排水溝周りを定期的に点検し、2〜3週間に1回くらいは落ち葉やゴミを除去すると詰まることなく防水層も長く保たれるでしょう。
部分補修
防水シートの部分的な剥がれや破れには補修工事が可能です。
- シートの剥がれ:わずかな剥がれなら熱溶着で補修
- シートの膨れ:脱気筒を設置してメンテナンス
- ヒビ割れ:パッチ処理で補修
これらの方法を使って、防水シートの補修を行うことができます。
定期的な点検
定期点検は専門業者に依頼しましょう。
素人が点検すると、劣化部分を見落とす可能性があります。
業者に依頼する場合は、アフターサービスに定期点検が含まれているか確認することも大切です。
防水工事でよくある質問
Q
防水工事の種類にはどんなものがありますか?
A
主な防水工事の種類には、ウレタン防水、シート防水、アスファルト防水、FRP防水などがあります。それぞれの工法にはメリットとデメリットがあり、適した場所や耐用年数も異なります。
Q
防水工事の費用はどのくらいかかりますか?
A
工法や使用する材料、建物の状態によって異なりますが、一般的には1㎡あたり4,000円〜7,000円程度が相場です。
Q
工事の期間はどのくらいかかりますか?
A
工法や天候、建物の規模によりますが、通常は数日〜1週間程度で完了することが多いです。
Q
工事中の生活にどんな影響がありますか?
A
騒音や臭気が発生することがありますが、できるだけ負担を軽減するよう配慮しております。また、バルコニーや屋上の使用が一時的に制限されることがあります。
Q
防水工事のタイミングはいつが良いですか?
A
一般的には10年〜15年ごとに定期的なメンテナンスが推奨されています。また、ひび割れや雨漏りが発生した場合は早急に工事を行うことが重要です。
鉄骨の屋上防水工事まとめ
ここまで、鉄筋造の陸屋根でやってはいけない防水工事について解説してきました。
この記事の要点は以下の通りです。
- 鉄骨(S)造について
鉄骨造は、建築の構造において主要な骨組みに鋼鉄を使用する建築工法です。
鉄骨造の特徴には高い強度、耐久性、柔軟性があり、複雑な形状や大規模な建物の建築に適しています。
- 鉄骨造の適用と特性
鉄骨造は大規模な建物や特殊な用途に向いており、耐震性が高いのが特徴です。
鉄骨造と鉄筋コンクリート造の違いには材料・構造、接合部、特性などがあります。
- 鉄骨造の種類
軽量鉄骨造と重量鉄骨造に分類され、それぞれの特徴があり、建物の規模や用途に応じて選択されます。
- 鉄骨造建物の陸屋根と防水工事
陸屋根は平らで水はけが心配、防水工事が必要です。
鉄骨造建物の陸屋根にはウレタン塗膜防水、シート防水、アスファルト防水などの改修工事があります。
- 鉄骨造建物の陸屋根から雨漏りが起こる原因
コンクリートのひび割れ、コーキングの劣化、防水層の滞留・浮き・排水口の中間・水溜り、勾配不良などが原因として挙げられます。
- 防水層を長持ちさせるコツ
トップコートの塗り替え、排水溝周辺の掃除、部分補修、定期的な点検が必要です。
以上のポイントをふまえて、適切な防水工事を行いましょう。