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大規模修繕工事に伴う建物の躯体の補修・修繕工事の内容を解説

マンションの大規模修繕では、欠損や劣化している部分を補修・修繕しますが、躯体も修繕の対象です。

躯体とは、建物の構造を支える土台、柱、壁、梁などのことで、大規模修繕では、外壁コンクリートの補修・改修が躯体工事に相当します。

また、構造体工事を含む大規模修繕工事を行う場合、管理会社に任せきりにすると、気づかないうちに工事費用が高額になることもあるため注意が必要です。

そこで、建物の躯体とは何かや、大規模修繕工事で行う補修について解説します。

建物の躯体とは

建物は、主に躯体と外装・内装に分けられます。

建物の躯体とは、人や物の重さ、地震などの災害に耐えられるように建物を支える骨組みのことです。

「スケルトン」とも呼ばれ、主に基礎(基礎杭)、梁、床、屋根、柱、壁などを指します。

また、内外装の仕上げや設備以外の部分が、躯体を構成します。

建物の構造を支える骨組みを指す

建築基準法では、大規模修繕を次のように定義しています。

十四 大規模の修繕 建築物の主要構造部の一種以上について行う過半の修繕をいう。

十五 大規模の模様替 建築物の主要構造部の一種以上について行う過半の模様替をいう。

出典:建築基準法「第一章 総則」

定義における主要構造部とは、建築基準法によれば壁、柱、床、梁、屋根または階段をいいます。

例えば、柱が20本ある建物であれば、11本以上の過半数(半分以上)を修繕・リフォームすることが「大規模修繕・リフォーム」です。

つまり、建物の躯体とは「建物の構造を支える骨組み」のことだと理解できるでしょう。

建物の躯体構造

建物の躯体とは、大きく分けて

  • 木造(W造)
  • 鉄筋コンクリート造(RC造)
  • 鉄骨造(S造)

の3種類があります。

日本で建設される建物のほとんどは、3種類のいずれかの骨組み構造です。

躯体構造に木材を使った建物のことを、木造建築といいます。

木造建築は日本で古くからたくさん建築されていて、令和2年に新しく建築された低層の一般住宅においても、8割以上が木造建築物です。

木材には調湿効果があるため、木造建築物は通気性に優れており、日本の梅雨の時期でも比較的快適に過ごせることが特徴です。

木造建築全体のメリットには、以下のようなものが挙げられます。

  • 建築コストが他の工法よりも安い
  • デザインや設計の自由度が高い
  • 通気性に優れていて、日本の気候に最適
  • 実は耐火性が高い

木造建築で使用する木材が軽量であることから、基礎工事にかかる期間や費用、人件費などが少なく済むため、鉄筋コンクリート造の建物に比べると約4割も建築コストをカットすることができます。

木造建築では建築時の間取りの自由度が高く理想の家が作れるほか、リフォームの際にも壁の移動など大規模な間取りの変更が可能な場合も多いです。

日本の梅雨は湿気がたまりやすいので、「通気性に優れている」という特徴を持つ木造建築は、日本で快適に過ごすために最適です。

また、夏は建物に熱がこもりにくく、冬は木材の中の水分が空気中に少しずつ放出されて乾燥を防いでくれます。

木材建築は火災に弱いというイメージを持っている方が多いのですが、実は耐火性能が高いです。

木は鉄と比べて熱伝導率が低いため、建築に使用されるような太い木材の芯まで燃えて建物が倒壊するまでにはかなりの時間がかかります。

その間に救助活動を待ったり、延焼防止の時間を確保したりすることができるでしょう。

「木造だから鉄筋・鉄骨造よりも火事に弱い」というイメージがありますが、むしろ鉄骨・鉄筋造の建物は高温にさらされると強度を失うため、木造よりも早い段階で建物は倒壊することも少なくありません。

反対に、木造建築のデメリットには以下のようなものがあります。

  • 耐用年数が短い
  • シロアリなどの害虫に弱い

木造建築は、他の構造と比べると耐用年数が短いです。

国税庁発表の減価償却資産の耐用年数によると、木造建築の耐用年数はおよそ22年で、鉄筋コンクリート造・鉄骨鉄筋コンクリート造の47年と比べると半分以下となってしまいます。

ただ、木造建築は木材という天然素材を使用しているため、素材そのものの品質や強度にも多少の個体差があり、建物の耐用年数にも影響が出る場合があるので注意が必要です。

木造建築で被害の多いシロアリは、木を主食としています。

そのほかにも気を食べる虫の被害を受ける可能性が高く、被害が進行すると建物の耐久性が失われていってしまうでしょう。

木造建築における害虫被被害を予防するためには、定期的な床下点検や薬剤の使用が必要です。

鉄筋コンクリート造(RC造)の建築物は、躯体構造に鉄筋とコンクリートを使用しています。

躯体構造や基礎部分において鉄筋を組み立てて形状を作り、鉄筋の周りにコンクリートを流し込んで組み立ていきます。

鉄筋コンクリート造(RC造)は、マンションやビルなどの建物で多く採用されている骨組み構造です。

鉄筋コンクリート造(RC造)は、耐久性・耐火性・耐震性に優れていることが特徴です。

引張力に強く圧縮力に弱い鉄筋と、引張力に弱く圧縮力に強いコンクリートを組み合わせて使用するため、それぞれのデメリットを補い合うことができます。

鉄筋コンクリート造(RC造)のメリットには、以下のようなものがあります。

  • 耐火性が高い
  • 防音性が高い
  • 耐震性が高い

鉄筋コンクリート造(RC造)で使用される鉄筋とコンクリート自体は、燃えることがありません。

しかし鉄筋は熱に弱く、火事が発生して熱のダメージを受けると強度が著しく低下してしまいます。

一方でコンクリートは熱に強く、鉄筋を覆っているコンクリートが鉄筋を火や熱によるダメージから守ってくれるため、耐火性が高いのです。

鉄筋コンクリート造(RC造)では、コンクリートを流し込むことで隙間ができない造りになっているため、防音性が高いこともメリットになります。

密度の高いコンクリートの効果で遮音性が特に優れているため、マンションのような集合住宅であっても周囲の生活音が気になりにくいです。

鉄筋コンクリート造(RC造)は引張力に強い鉄筋と圧縮力に強いコンクリートの両方の特徴を併せ持っているため、地震が発生した際も高い耐震性を発揮します。

引っ張る力に強い鉄筋が地震の横揺れに、圧縮に強いコンクリートが地震の縦揺れに対して耐性を持つため、双方のメリットをいかすことで建物の総合的な耐震性を高めることにつながるのです。

一方で、鉄筋コンクリート造(RC造)には以下のようなデメリットがあります。

  • 夏は暑く冬は寒い場合が多い
  • 結露やカビの発生
  • コストが高い

鉄筋コンクリート造(RC造)に使用されているコンクリートは、温まりにくく冷めにくいという特徴を持っています。

夏の時期は熱がこもってしまい夜間まで室温が低下しないため暑く、冬の時期は建物全体が温まりにくいため寒いと感じることが多いようです。

またこの特徴により、夏は冷房が、冬は暖房がそれぞれ効きにくいということも、デメリットとして挙げられます。

気密性が高いコンクリートは防音性に優れているというメリットがありますが、一方で湿気が抜けにくいため結露やカビが発生しやすいことがデメリットになるでしょう。

鉄筋コンクリート造(RC造)では、コンクリートを流し込んだあとの養生の期間が必要となるため、工事期間が長いことが特徴です。

それに伴って人件費や設備にかかる費用などの経費がかかってくるため、建築コストが高くなってしまいます。

鉄骨造(S造)の建築物は、躯体構造に鉄製や鋼性の材料を使用しています。

この材料の厚みによって2種類に分類され、材料の厚みが6㎜以上の場合は「重量鉄骨造」、6㎜未満の場合は「軽量鉄骨造」と呼ばれます。

3階建て以上の建物には重量鉄骨造、一般的な注文住宅には軽量鉄骨造が採用される場合が多いです。

重量鉄骨造は柱や梁の強度が高く少ない本数でも建設できるため、その分間取りやデザインの自由度が高いことが特徴です。

軽量鉄骨造は、重量鉄骨造に比べて工期が短くコストも抑えられることが特徴で、同じ鉄骨造(S造)でもそれぞれの良さを持っています。

鉄骨造(S造)には、以下のようなメリットがあります。

  • 品質が安定している
  • 耐震性・耐久性に優れている

天然素材で材料の品質に個体差がある木材と違って、鉄骨造(S造)に使用する工場で生産された材料は品質が安定しています。

また、組み立ての際も熟練の腕を必要とせず、安定した完成度を保てることも大きなメリットのひとつです。

重量鉄骨造はかなり耐久性が高く、大きな地震にも耐える耐震性も持っています。

また重量鉄骨造は、耐火被覆という処理を行えば火災保険の保険料を抑えられるほどの高い耐火性があります。

軽量鉄骨造は、重量鉄骨造に比べて工期が短く、材料の大量生産も可能であるため、建設コストが削減できるでしょう。

軽量鉄骨造であっても十分な耐久性があり、材料が軽量なので耐震性も高いです。

しかし重量鉄骨造とは違い、軽量鉄骨造の薄い鉄骨は熱に弱いため耐火性はそれほど高くありません。

火災の際は熱によるダメージを受けて強度が弱まり、建物倒壊のリスクがあるといわれているため注意が必要です。

一方で、鉄骨造(S造)には以下のようなデメリットもあります。

  • 結露が発生しやすい
  • 夏は暑く冬は寒い
  • 重量鉄骨造はコストがかかる
  • 軽量鉄骨造は耐火性に不安がある

気密性が高い構造の鉄骨造(S造)は、湿度をコントロールできないため内部に湿気が溜まり、結露が発生しやすいです。

結露を放置すると鉄骨が錆びてしまうため、防錆処理が必須です。

木材が持つ通気性やコンクリートが持つ断熱性を持たない鉄骨造(S造)では、外気温の影響を強く受けます。

夏は暑く冬は寒いと感じる方が多く、冷暖房効率もあまり良くありません。

重量鉄骨造においては、重さがあるため強固で安定した地盤が必要です。

基礎工事や地盤改良に高額なコストがかかる場合があり、そしてそもそも大量生産できない材料がそれぞれ高価であるため、建築コストが高くなるでしょう。

軽量鉄骨造においては、先ほども紹介したように薄い鉄骨は熱に弱いため、耐火性に不安が残ります。

火事の際に建物が倒壊してしまうリスクを防ぐため、耐火被覆の処理を行うことが一般的です。

マンション大規模修繕における躯体補修の作業範囲と内容

マンション大規模修繕では、建物の劣化部分や欠損部分の補修・修繕を行いますが、建物の躯体も工事範囲に含まれます。

マンションをはじめとした建物は、年数の経過とともに雨風、紫外線などの影響で欠損や劣化します。

そのため、一般的なマンションでは、長期修繕計画を策定し、およそ12年ごとに大規模修繕工事が行われることが一般的です。

一般的な大規模修繕の工事範囲は、次のとおりです。

工事箇所工事内容
外壁下地補修工事
タイル補修
張替工事
塗装工事
屋上防水工事
共用廊下/階段/バルコニー防水工事
塗装工事
長尺シート工事
鉄部サビ、塗装剥がれ部塗装工事
設備機器電気設備や給排水設備の交換・補修工事

上記の範囲のなかで、マンションの大規模修繕となると、躯体に関する工事は 「下地補修」に該当します。

躯体補修工事とは

躯体補修工事とは、躯体や下地の劣化や破損に対して補修を行う、下地補修工事の一種です。

躯体補修工事では、コンクリート内部の鉄筋に発生する、サビやひび割れなどの劣化の補修を行います。

建物の安全性と耐久性を維持するためには、躯体補修工事の実施が非常に重要です。

躯体補修工事が必要となる主な劣化症状には、以下のようなものがあります。

  • ヘアークラック
  • 構造クラック
  • コンクリート爆裂

ヘアークラックとは、幅0.2㎜以下のひび割れのことです。

ヘアークラックであれば表面のみのひび割れで建物に大きな影響はありませんが、放置すると劣化が進んで大きく深いクラックになってしまう場合があります。

ヘアークラックよりも大きいひび割れは、構造クラックと呼ばれる劣化症状です。

構造クラックは、クラック部分からの雨水の侵入やそれによる内部鉄骨のサビなど、建物全体への悪影響が心配されます。

コンクリート爆裂とは、コンクリート内部の鉄筋が錆びて膨張し、コンクリートを押し出している状態のことで、早急に補修が必要な劣化症状です。

躯体補修工事の流れ

躯体補修工事は、調査→マーキング→補修という流れで行われます。

まずは躯体や下地の調査を行い、劣化している部分を探していきます。

慎重に調査を行って、すべての劣化部分を探すことが重要です。

調査の中で劣化している部分が発見されれば、マーカーやテープなどの目印を用いてマーキングしておきます。

マーキングをもとにして補修を進めていき、すべての劣化箇所の補修が終われば躯体補修工事は完了となります。

事前調査の段階でマーキングをしておくことで、補修作業をスムーズに進めることができるでしょう。

躯体に起きる劣化と修繕方法

建物は、経年変化や様々な外的要因によって劣化します。

例えば、どのような不具合やトラブルが考えられるのでしょうか。

建物の躯体が劣化しているときや、そのほか補修・修繕が必要な症状を紹介します。

コンクリート外壁のひび割れ

コンクリート外壁の劣化としてひび割れなどの症状があります。

建物に隙間がある状態であり、放っておくと雨漏りなどの危険につながります。

また、ひび割れ放置しておくと内部構造にも影響を及ぼすため、大規模修繕の時期だけではなく、ひび割れを発見したら都度補修・修繕することが大切です。

ひび割れは大きさによって大別され、それぞれ呼び方があります。

  • 幅0.2mm以下の軽微なひび割れ:ヘアークラック
  • 幅0.3mm以上、深さ5mm以上のひび割れ:構造クラック

ヘアークラックの場合はセメント材を充填して補修します。

構造クラックの場合はUカットシーリングと呼ばれる工法でひび割れ部分を直していきます。

構造クラックはコンクリート外壁がかなり劣化していることを示す症状です。構造クラックを発見した際は、できるだけ早く修繕工事を行いましょう。

欠損・爆裂

コンクリートの劣化が深刻化すると、欠損が生じます。

欠損の原因は内部鉄筋の腐食や凍害などさまざまで、原因を見極めた適切な補修を行うことが重要です。

コンクリートの爆裂とは、上記のようなクラックから雨水が侵入し、コンクリート内部の鉄筋が錆びて膨張し、コンクリートを押し出している状態のことをいいます。

放置すると鉄筋が露出したりコンクリート片が落下したりと、大きな劣化や事故につながる可能性のある危険な症状で、早急な補修が必要です。

コンクリート爆裂の補修は、以下のような流れで行われます。

  1. コンクリート内部から出ている赤い錆汁や鉄筋の露出などを目印に、爆裂部分の打診調査を行う
  2. 修繕する部分のコンクリートをハンマーなどを使って落とし、鉄筋を露出させる
  3. 鉄筋を露出させた部分のサビを落としながら、丁寧に清掃する
  4. 清掃した鉄筋部分に錆止め塗料を塗布し、防錆処理を施す
  5. 欠損部にエポキシ樹脂モルタルを充填し、埋める
  6. 下地調整を行い塗装処理を施す

外壁モルタル・タイルの浮き

タイルは、コンクリートの下地にモルタル(砂、セメント、水を混ぜて作る建材)で貼り付けることが一般的です。

しかし、時間の経過とともに乾燥や地震などの振動で剥がれやすくなります。

タイルの「浮き」の状態を放置しておくと、剥がれや落下につながり、雨水が浸透することで建物の躯体に影響を及ぼすでしょう。

また、躯体まで影響を及ぼさなくても、カビの発生、美観を損ねるなどの問題になるため、早めに対処する必要があります。

タイルの浮きは「アンカーピンニング注入工法」という工法を用いて修繕します。

タイルが浮いている部分にドリルで穴を開け、エポキシ樹脂を注入し、ステンレス製のアンカーピン(ステンレスピン)で固定して、最後にモルタルで穴を埋める方法です。

タイルのひび割れ・欠損

乾燥や地震などの振動、あるいはタイルの浮きを放置すると、ひび割れ・剥がれ・落下が発生します。

ひび割れたり、欠けたりしたタイルは貼り替えるのがおすすめです。

ただ、小さな傷・欠損はパテなどで補修できる場合があります。

まとめ

建物の躯体とは、建物の構造を支える骨組みのことで、建物において非常に重要な部分です。

  • 建物の躯体構造は大きく分けて「木造」「鉄筋コンクリート造」「鉄骨造」の3種類
  • 躯体補修工事は下地補修工事の一種で、躯体や下地の劣化の補修を行う
  • 躯体の劣化を放置すると、建物全体の耐久性が低下してしまう

建物の躯体構造の3種類は、それぞれが異なるメリット・デメリットを持っています。

それぞれの特徴を理解した上で、最適な躯体構造を選びましょう。

また、躯体の劣化は建物全体に影響を与えるため、躯体補修工事は必須です。

とくに今回紹介した危険な劣化症状を見つけたら、放置せずに補修工事を行ってくださいね。

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