東京を中心とした関東地域をはじめ、都市部ではマンションを購入する方が増えています。
ワンルームマンションを投資用に購入した方やオフィスビルのオーナーさん、マンションにお住まいの方の中には、「大規模修繕」という言葉を聞いたことがあるという方も多いのではないでしょうか。
大規模修繕は、建物を安全に保ち、資産価値を維持するためにとても大切な修繕工事です。マンションやビルに関わらず、病院や工場などRC造りの建物は、老朽化を防ぐために大規模修繕は必要不可欠です。
一方で小規模修繕と呼ばれる工事があります。
これは日常生活の中で見つかる小さな損傷や不具合に対して行われる修繕です。大規模修繕が12〜15年に一度実施されるのに対して、小規模修繕は必要に応じて行われる工事でかかるお金も全く違います。
今回はこの小規模修繕について解説したいと思います。
目次
小規模修繕とは
小規模修繕とは、建物の一部に生じた損傷や劣化を補修する比較的小さな工事のことです。外壁のひび割れ補修や塗装の塗り直し、雨樋の清掃、ベランダ防水改修など、建物全体の大規模な改修ではなく、日常的な管理や点検の結果、部分的な修理が必要な場合に行われます。
小規模修繕の目的は、建物の状態を良好に保ち、資産価値を維持することにあります。軽微な修繕を定期的に行うことで、劣化の進行を抑え、入居者の安全性や快適性を高めるとともに、将来的な大規模修繕工事のコストを抑える効果も期待できます。
マンションやアパートなどの集合住宅では、管理組合やオーナーが定期的に小規模修繕を計画・実施し、トラブルの予防と建物の長寿命化を図ることが推奨されます。
築30年以上のマンションの小規模修繕は注意
築30年以上のマンションの小規模修繕は、劣化の進行状況に応じた適切な計画と実施が求められます。これらの注意点を考慮しながら、修繕工事を行うことで、建物の安全性・快適性を維持し、入居者に安心して住み続けてもらうことが可能になります。
小規模修繕工事と大規模修繕工事の違い
小規模修繕ときくと、大規模修繕よりは小さい工事だということは想像できます。
それぞれ具体的にどのような工事なのでしょうか。工事内容を紹介します。
小規模修繕の工事内容
大規模修繕で行わない修繕工事や、大規模修繕まで待てないような緊急度の高い修繕、設備修理などを小規模修繕工事と呼びます。
- 雨漏りや水漏れに伴う修繕
- 階段・ベランダ等の鉄部の塗装
- カーポートや塀などを含む外構工事
- 共有スペースの電球交換
- 共有スペースの壁やドア、階段などで発生した軽微な修繕工事
- 消防設備の故障修理
- 台風や突風、大雨などの自然災害が原因となる破損部分の修理
- 異常がないかを確認する定期点検
などが例としてあげられます。
小規模修繕に明確な基準はなく、大規模修繕にあたらない修繕は全て小規模修繕にあたると考えていただくことも可能です。
基本的には、日常生活に不具合がでないよう行うものです。
鉄部の塗装については、5年に一度程度塗り替えることが望ましいとされてるため、次の大規模修繕までの間に、小規模修繕としても行うことが多いようです。
建築から20年、30年、50年と年月を経ることに、どうしても老朽化がすすんでしまうので、細かな修繕はそれにともなって増える傾向があります。
小規模修繕を行う時期
大規模修繕が12年〜15年に一度行われる一方で、小規模修繕と呼ばれる工事は必要に応じてその都度行うものがほとんどです。
小規模修繕を大規模修繕とあわせて行い、費用を安く抑えたいと考える方もいるかもしれません。
しかし大規模修繕まで何年もある場合には、そのまま放置することで破損が広がり、大規模修繕の価格が予定より高くなってしまうこともあります。
また火災報知器や電気設備等の故障は生活に直結しているため、すぐに対応しなければなりません。
大規模修繕と小規模修繕は切り離して考えることが大切です。
足場が必要な外壁工事等は大規模修繕で行うのが理想的ですが、単独で行える工事であれば不具合が見つかったタイミングで小規模修繕を行うこともできます。
工事の緊急性や必要度をランキングづけし、次の大規模修繕まで待っても問題ない工事なのかをよく検討しましょう。
こまめな修繕は結果として、建物の寿命が伸び次の大規模修繕の費用が安くなる傾向もあるので、長期的な視点での検討が大切です。
大規模修繕の工事内容
大規模修繕は建物の躯体となるコンクリートが劣化しないように行われる大規模な工事です。
具体的な工事内容としては、
- 外壁のクラックや破損の修繕
- 外壁塗装
- 屋根の葺き替え
- 屋上やベランダ、ルーフバルコニーの防水工事
- 階段や手すり、階段などの鉄部の塗装
- タイル補修
- シーリング工事
などがあげられます。
大規模修繕は、建物劣化診断と長期修繕計画を基に、計画的に行われる工事です。
外装が綺麗になるだけでなく、建物の機能回復が期待され、資産価値の維持が可能となります。
場合によっては建物全体のグレードアップを目的として、改修工事を同時に行うことも珍しくありません。
分譲マンションの場合には区分所有者が負担することとなります。
標準的な費用目安としては1戸当たり平均100万円前後が相場といわれていますが、同じマンションでも占有面積によって負担金額が変わってきます。
修繕積立金は坪単価で決められていて、不足する場合には積立金が更新され値上がりする場合もあります。
大規模修繕を行う時期
一般的には建築から10年経ったあたりから検討が始められ、12年〜15年ではじめての大規模修繕が行われることが多いようです。
業者を募集し、それぞれの実例や施工事例を検討しながら、慎重に業者を選定することからはじまり、施工開始まで数年かかることも珍しくありません。
どういった仕様にするのか、どのグレードの資材を使用するかなどもあらためて検討します。
時期について決められたルールはなく、使われている資材の耐用年数や劣化状況によって実施時期は変わってきます。
2回目以降も前回の工事から12〜15年程度経ったタイミングで行うことが多くなりますが、あわせて改修工事も行うことがあります。
マンション以外のオフィスビルや商業ビルの場合には、リニューアルすることで集客力をあげるといった効果もあります。
マンション小規模修繕の3回目の費用が高くなる理由
マンション小規模修繕の3回目の費用が高くなる理由には、いくつかの要因があります。以下で詳しく解説します。
経年劣化の蓄積
1回目や2回目の修繕に比べ、3回目の小規模修繕では経年劣化が進行していることが多いです。建物の内部や外部の劣化が深刻化するため、修繕範囲が広がり、工事内容も複雑化することがあります。このように劣化が蓄積された状態では、補修や交換作業の増加が必要となり、結果として費用が高くなります。
材料や工法の見直し
3回目の小規模修繕では、従来の材料や工法だけでなく、耐久性を高めるための新しい材料やより効果的な工法を取り入れることがあります。これにより、材料費や工事費用が増加します。特に、劣化が進んだ箇所に対しては、より高品質な材料を使用する必要があるため、コストが上昇する傾向があります。
長期的な修繕計画の見直し
3回目の修繕では、長期的な視点から修繕計画を見直すことが一般的です。例えば、将来の大規模修繕に向けた予防的な対策や、設備の更新を見据えた追加工事が行われる場合があります。これらの対策は、建物の耐用年数を延ばすための重要な取り組みですが、費用が高くなる要因の一つです。
マンションの小規模修繕を行う前の建物診断・調査について
マンションの小規模修繕を行う前に、建物診断・調査は重要です。以下に、建物診断・調査を行うべき理由やその重要性について解説します。
劣化状況を正確に把握するため
マンションの小規模修繕では、建物の劣化状況を正確に把握することが重要です。建物診断・調査を行うことで、外壁のひび割れや防水層の劣化、鉄部の錆びなど、目視ではわかりにくい箇所の状態も確認できます。この診断により、修繕が必要な箇所や優先度の高い工事を把握し、効率的な修繕計画を立てることが可能になります。
適切な修繕プランの立案に役立つ
建物診断・調査の結果をもとに、最適な修繕プランを立てることができます。例えば、緊急性の高い修繕が必要な箇所を優先し、費用や工期を考慮しながら効果的な修繕計画を策定することが可能です。また、劣化の進行状況に応じて、防水工事や外壁補修、鉄部の塗装などの具体的な工法や使用材料も適切に選定できます。
大規模な修繕を防ぐため
小規模修繕は、建物の状態を維持し、大規模な修繕を防ぐために行うものです。しかし、適切な建物診断・調査がなされていないと、劣化が進行し、結果的に大規模な修繕が必要になるリスクがあります。定期的な診断・調査を通じて、劣化を早期に発見・対処することで、修繕費用の抑制や建物の寿命延長につながります。
小規模修繕と大規模修繕の修繕費用について
小規模修繕や大規模修繕にかかる費用の違いについて解説します。
大規模修繕の費用について
分譲マンションの大規模修繕費用は、修繕積立金として積み立てられている場合がほとんどです。大規模修繕の場合には数千万円から数億円と大きな金額がかかります。
アパートやマンションなどを1棟で所有している場合や、ビルを所有している場合は、修繕費を計画的に準備しておくことが大切です。
またそういった場合の大規模修繕費用は、工事内容によっては減価償却が認められているものもあるため、会計時にはよく確認するようにしましょう。
小規模修繕の費用について
小規模修繕の費用は、分譲マンションであれば管理費から捻出されることが多いようですが、金額によっては修繕積立金が充てられることもあるようです。
補修や改修がメインなのでマンション1棟だと50万〜150万前後が費用相場になります。
大掛かりな工事になる前にしっかり小規模修繕を行うことで将来的な費用の負担を減らすようにしましょう。
小規模修繕工事での戸当たり単価について
小規模修繕工事の戸当たり単価は、工事内容や施工箇所によって異なりますが、おおよその目安として1戸あたり数千円から数万円程度となるケースが一般的です。たとえば、外壁の簡易補修や共用部分のペンキ塗り替え、給排水設備の点検や交換など、修繕範囲が限定される場合、戸当たりのコストは抑えられます。
また、規模の小さい工事を複数戸まとめて実施することで、単価を割安にできる場合もあります。
小規模修繕を計画的に行うことで、定期的なメンテナンスと予算管理がしやすくなり、長期的な建物の維持費用を抑えられるというメリットもあります。
オーナーや管理組合が工事の費用対効果を高めるためにも、戸当たり単価を把握し、適切なタイミングで修繕を実施することが重要です。
小規模修繕でも見積もりをしっかり取ろう
不具合が見つかったタイミングで小規模修繕を行うのが理想ですが、費用面を考えればその都度行っていては費用が賄えないこともあります。
基本的な流れとしては、複数の業者に調査調査を依頼し、見積もりを提示してもらいます。
その上で見積書の内容が適正かを精査し、どこに頼むかを決定します。工事単価などの値段だけでなく、評判や施工実績・事例もよく確認し、慎重に業者を選定しましょう。
専門知識を有していたり、迅速に対応してくれたりすることもあるので、問い合わせてみるといいでしょう。
とはいえ、小さな傷をいちいち直していては、きりがないというのも事実です。
スムーズに修繕をすすめるポイントとしては、「生活に不具合がでているのか」「景観が著しく損なわれていないか」などといった基準を設けて、施工業者とよく相談の上決めるようにしましょう。
大規模修繕工事でよくある質問
Q
大規模修繕工事の期間はどのくらいかかりますか?
A
大規模修繕工事の規模や建物の状態によりますが、およそ3ヶ月〜4ヶ月程度かかることが多いです。
Q
工事中の生活にどんな影響がありますか?
A
足場の設置やメッシュシートで覆うため、室内が少し暗くなることがあります。また、塗装や防水作業時には洗濯物が干せないなどの制限があります。
Q
バルコニーやベランダの利用はどうなりますか?
A
バルコニーやベランダの壁面塗装や床面の防水作業時には、使用が制限されることがあります。
Q
工事期間中、エアコンは使えますか?
A
基本的には通常通り使用できますが、場合によっては一時的に使用が制限されることもあります。
Q
大規模修繕での工事の騒音や臭気はどうなりますか?
A
塗装の臭気やドリルの騒音、粉塵などが発生することがありますが、できるだけ負担を軽減するよう配慮しております。
Q
大規模修繕工事に対する費用が不足する場合はどうすればよいでしょうか?
A
できるだけ早い時期に長期修繕計画に基づき積立金を見直し、資金不足にならないようにするのが最善です。実際に資金が足りないことが判明した場合には、時期をずらしたり、工事の範囲を見直したり、一時金の徴収や借入の可能性を探ったりと、様々な方法で計画を調整できます。ご予算に応じて資産価値を損なわないベストなプランをご提案いたします。
Q
修繕工事の前に現地調査が必要なのはなぜですか。どういうことを行うのですか?
A
築年数、周囲の環境や場所によって劣化の度合いは異なりますので、各部の劣化状況を把握し、適切な修繕方法を見極めるためには現地調査が欠かせません。外壁タイルの浮きやコンクリートの中性化、鉄部の錆など、部位ごとに幅広くチェックします。
Q
大規模修繕工事の費用相場は一般的にいくらですか?
A
大規模修繕工事の費用について一般的な相場としては、1戸あたり約100万円前後が目安です。マンション全体の規模が大きい場合には、修繕費用が1億円を超えることもあります。また、マンションの劣化が激しい場合や、質の高い塗装を希望する場合には、さらに費用が高くなることがあります。
まとめ
大規模修繕に対して、あまり聞きなれない小規模修繕について解説しました。
- 小規模修繕は不具合がでたタイミングで行う
- 小規模修繕の工事内容は、設備交換・鉄部塗装・共有スペースの電球交換・水漏れや雨漏りへの対応など多岐にわたる
- 小規模修繕の費用は、主に管理費が充てられることが多い
- いつ小規模修繕を行うは、緊急度を踏まえて検討し決定される
- 大規模修繕も小規模修繕も占有部分に対して行われるものではない
小規模修繕は日常的に検討が必要です。
快適な住環境を維持するために大切な工事ですが、小さな傷まで全てを完全に修繕していては予算がいくらあってもきりがないというのも事実です。
「景観が著しい場合は、管理組合で検討する」「機能に問題がある場合のみ行う」などどこまで修繕するかは、事前に管理組合内でマニュアルや基準を定めておき、必要な場合にはその都度見積りをとってすすめていくことになります。