マンションの大規模修繕工事は、区分所有者の共有財産を守るために不可欠な取り組みです。この重要な工事を効率的かつ効果的に進めるためには、標準仕様書の活用が鍵となります。管理組合が限られたリソースで適切に工事を実施するには、この文書が重要な指針となるのです。
標準仕様書は、マンションの大規模修繕工事における設計書の基礎となる文書です。これには、工事の範囲・使用する材料・施工方法などが詳細に記載されています。適切な書き方で作成された標準仕様書があれば、工事の品質確保や予算管理がスムーズになります。
本記事では、マンションの大規模修繕工事における標準仕様書の重要性について解説します。
目次
マンション大規模修繕工事の標準仕様書とは
標準仕様書とは、工事の標準的な仕様を示すものであり、原則として標準仕様書に基づいて設計・施工が行われます。
標準仕様書を定めることにより、建築物の品質・性能を確保し、設計図書の作成や工事の効率化が可能です。
なお、標準仕様書は共通仕様書といわれることもあります。
マンション大規模修繕工事での標準仕様書の使用方法
実際の現場では、標準仕様書はどのように使われているのでしょうか。
工事では、国土交通省が「公共建築工事標準仕様書」を公表しています。
各行政機関やゼネコンなどが「公共建築工事標準仕様書」をベースに独自の標準仕様書を作成しているケースが多いです。
民間では、日本建築学会が制定した「建築工事標準仕様書」(JASS)があり、「公共建築工事標準仕様書」とともに、仕様書に基づいて多くの工事が行われています。
「公共建築工事標準仕様書」に記載されているものは中グレードであり、デベロッパーはいくつかの建築グレードごとに標準仕様を定めています。
標準仕様書だけでは個々の物件に対応できないため、標準仕様書以外の仕様を盛り込んだ特別仕様書も使用することが一般的です。
ゼネコン、デベロッパーは、公共建築工事標準仕様書や建設工事標準仕様書をベースに、特別仕様書を作成します。
工事図書の優先順位
標準仕様書は、特別仕様書、図面などの設計図、現場指示書、質疑応答書などからなる設計図書に含まれる重要な書類です。
しかし、設計図書に誤りがあった場合、どの書類が正しいのか理解していなければ工事を円滑に進められません。
そのため、設計図書の優先順位は特記仕様書等で決められています。
設計図書の優先順位は、次の通りです。
①質問回答書
②現場説明書
③特記仕様書
④設計図
⑤標準仕様書
質問回答書には、見積り期間中にそれぞれの業者から受けた質問への回答を記載したものです。
すべての業者へ、同一の回答書を配布します。
現場説明書は、入札手順やスケジュール、工事の内容を業者へ説明するための書類です。
特記仕様書とは、標準仕様書に記載されている内容ではなく、大規模修繕工事の特記すべき内容を記載した書類です。
標準仕様書に記載された内容と同じ箇所は、標準仕様書記載の内容を消して特記仕様書の記載内容が優先されます。
さらに、標準仕様書には記載されていない内容や参考メーカー、取付方法、下地や施工方法、図面に記載できない仕様も記載します。
マンション大規模修繕工事で標準仕様書に記載する内容
標準仕様書で使用される「公共建築工事標準仕様書」の事項を記載します。
公共建築工事標準仕様書の目次
1章 各章共通事項
2章 仮設工事
3章 土工事
4章 地業工事
5章 鉄筋工事
6章 コンクリート工事
7章 鉄骨工事
8章 コンクリートブロック、ALCパネル及び押出成形セメント板工事
9章 防水工事
10章 石工事
11章 タイル工事
12章 木工事
13章 屋根及びとい工事
14章 金属工事
15章 左官工事
16章 建具工事
17章 カーテンウォール工事
18章 塗装工事
19章 内装工事
20章 ユニット及びその他の工事
21章 排水工事
22章 舗装工事
23章 植栽及び屋上緑化工事
引用:https://www.mlit.go.jp/common/001472794.pdf
マンションをはじめ、建物に関わる必要情報がすべて記載されていることが分かります。
なお、公共建築工事標準仕様書には機械設備工事編、建築工事編、電気設備工事編があり、それぞれの公共建築改修工事標準仕様書も公開されています。
マンション大規模修繕工事の準備段階と修繕設計の基本手順
マンションの大規模修繕では、円滑に進めるための手順を踏むことが重要です。
しかし、どのように進めればよいのかわからない方も多いのではないでしょうか。
ここでは、大規模修繕工事の主な流れについて紹介します。
マンション大規模修繕工事の準備と修繕設計手順|マンション内で委員会を設置
大規模修繕工事の準備は、早ければ2年前、遅くとも1年前から始まります。
まず、大規模修繕を計画通りに実施するための体制づくりとして、マンション内に「修繕委員会」を設置しましょう。
修繕委員会とは、大規模修繕を実施するためのマンション住民で構成される専門委員会です。
修繕委員会の委員数に決まりはありませんが、公平性を確保するため、幅広い年齢層から概ね5~10名が選ばれます。
マンション大規模修繕工事の準備と修繕設計手順|建物診断・居住者アンケートの実施
大規模修繕工事着工の約3~4カ月前に、建物診断と居住者へのアンケートを行います。
建物診断とは、マンション各部の劣化・損傷・不具合等を確認し、現状を把握するために行う調査・診断のことです。
主に打診調査を含む目視調査と完成図面、修繕歴などの書類を作成します。
建物診断と合わせて、マンション居住者が日常生活で感じている住戸や共用部の問題点をアンケートで調査します。
居住者アンケートは、問題点を発見するための有効な情報源です。
また、大規模修繕工事に対する居住者の意識を高めるためにも活用できます。
マンション大規模修繕工事の準備と修繕設計手順|補修内容・工法・施工方法の策定
修繕設計は、建物診断や住民アンケートの結果をもとに、修繕項目や範囲、工法を策定します。
大規模修繕工事の工法、材料を検討する段階です。
検討の際、耐用年数や単価を考慮し、完成後のメンテナンス負担ができるだけ少ない材料を検討する必要があります。
マンション大規模修繕工事の準備と修繕設計手順|概算工事予算を計算
大規模修繕工事の内容、工法、材料が決まったら、概算工事予算の算出を依頼します。
一般的なマンション大規模修繕の業務範囲は、以下のとおりです。
外壁:下地補修工事、タイル補修・張替工事、塗装工事
屋上:防水改修工事
共用廊下・階段:バルコニー 床防水改修工事
鉄部:錆び部、塗装剥がれ部塗装工事
設備:電気、給排水、ガス
概算工事予算は、基本的に建物診断の結果である劣化状況や数、居住者アンケートによる要望も含めて計算します。
修繕内容別で工事の数量を割り出し、単価を加算することで概算工事予算を算出しますが、コスト削減案も検討しなければなりません。
各工事の工法や使用材料を見直すことで、コストダウンを図ります。
検討の際、長期修繕計画の資金計画、修繕積立金のチェックも忘れずに行いましょう。
マンション大規模修繕工事の準備と修繕設計手順|標準仕様書の作成
概算工事予算を算出し、大規模修繕の図面・標準仕様書を作成します。
図面・仕様書の作成は専門業者に委託しますが、基本的に次のような図面、標準仕様書を作成します。
- 平面図
- 立面図
- 標準仕様書
- 特殊仕様書
- 仕上げ表
また、耐震補強やバリューアップ工事を行う場合は、そのための図面も作成します。
図面自体の良し悪しはマンション側(修繕委員会等)では判断が難しいですが、少なくとも必要な設計図書は揃えておきましょう。
マンション大規模修繕工事の準備と修繕設計手順|見積り手順書の作成
見積り手順書は、工事業者に見積りを依頼する際の公平性を確保するためのものであり、主に以下のような項目があります。
- 工事名
- 施工場所
- 工事概要
- 見積書の提出先と提出部数
- 作業スケジュール、施工体制の書類
- 質疑応答期限
- 契約形態
- 支払い条件
- 共通特記事項
マンション修繕委員会は、作成した見積手順書の工事概要、支払い条件をよく確認しましょう。
マンション大規模修繕工事の準備と修繕設計手順|工事業者の選定
すべての準備が完了したら、大規模修繕を依頼する工事業者を選定します。
マンション大規模修繕の施工業者は、大きく分けて3つのタイプから選ぶことが可能です
- ゼネコン(総合建設会社)
- マンション大規模修繕専門会社
- 工事部門を持つ管理会社
マンション大規模修繕工事の施工会社選定の際には、最初に見積理をする業者を絞り込みます。
このプロセスが十分に議論されていないと、予算不足などの問題が発生する可能性があるため注意が必要です。
大規模修繕工事でよくある質問
Q
大規模修繕工事の期間はどのくらいかかりますか?
A
大規模修繕工事の規模や建物の状態によりますが、およそ3ヶ月〜4ヶ月程度かかることが多いです。
Q
工事中の生活にどんな影響がありますか?
A
足場の設置やメッシュシートで覆うため、室内が少し暗くなることがあります。また、塗装や防水作業時には洗濯物が干せないなどの制限があります。
Q
バルコニーやベランダの利用はどうなりますか?
A
バルコニーやベランダの壁面塗装や床面の防水作業時には、使用が制限されることがあります。
Q
工事期間中、エアコンは使えますか?
A
基本的には通常通り使用できますが、場合によっては一時的に使用が制限されることもあります。
Q
大規模修繕での工事の騒音や臭気はどうなりますか?
A
塗装の臭気やドリルの騒音、粉塵などが発生することがありますが、できるだけ負担を軽減するよう配慮しております。
Q
大規模修繕工事に対する費用が不足する場合はどうすればよいでしょうか?
A
できるだけ早い時期に長期修繕計画に基づき積立金を見直し、資金不足にならないようにするのが最善です。実際に資金が足りないことが判明した場合には、時期をずらしたり、工事の範囲を見直したり、一時金の徴収や借入の可能性を探ったりと、様々な方法で計画を調整できます。ご予算に応じて資産価値を損なわないベストなプランをご提案いたします。
Q
修繕工事の前に現地調査が必要なのはなぜですか。どういうことを行うのですか?
A
築年数、周囲の環境や場所によって劣化の度合いは異なりますので、各部の劣化状況を把握し、適切な修繕方法を見極めるためには現地調査が欠かせません。外壁タイルの浮きやコンクリートの中性化、鉄部の錆など、部位ごとに幅広くチェックします。
Q
大規模修繕工事の費用相場は一般的にいくらですか?
A
大規模修繕工事の費用について一般的な相場としては、1戸あたり約100万円前後が目安です。マンション全体の規模が大きい場合には、修繕費用が1億円を超えることもあります。また、マンションの劣化が激しい場合や、質の高い塗装を希望する場合には、さらに費用が高くなることがあります。
標準仕様書を把握し、手順通りにマンション大規模修繕工事を進めよう
マンションの大規模修繕工事を行う際には、入念な準備が必要です。
標準仕様書は記載事項が決まっており、ほかにも図面や特殊仕様書などの書類を作成しなければなりません。
日常生活で頻繁に目にすることはない書類ですが、大規模修繕工事を行うにあたって、記載内容や優先順位を理解することが大切です。
大規模修繕工事は資金がかかる大きなイベントのため、トラブルが起こらないように準備を進めましょう。