工事内容や価格の公平性を保つために、大規模修繕工事で利用される「公募」や「ヒアリング」。
しかし公募や相見積もりのやり方を間違うと、さまざまなトラブルが起こる可能性があります。
そこで今回の記事では、大規模修繕工事のための、公募やヒアリングのやり方について見ていきます。
公募での落とし穴についても解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
大規模修繕の現状|需要増加
国土交通省が発表する「分譲マンションストック戸数(令和3年6月21日更新)」というデータを見ると、国内で新しくマンションを建てる件数が減ってきていることが分かります。
これとは反対に、マンションのストック戸数(マンションの空き部屋の数)は増えてきていることが分かります。
これは少子高齢化による人口減少などが原因です。
また同じく国土交通省が発表する「築後30、40、50年超の分譲マンション戸数(令和3年6月21日更新)」という資料によると、築後30~50年超の分譲マンションの数は年々増加傾向にあります。
つまりマンションを新しく建てるよりも、修繕して維持していこうという傾向が見られるということ。
今後さらに大規模修繕をする件数が増えていくことが予想できるでしょう。
大規模修繕工事公募の方法
大規模修繕工事の施工業者を選ぶ方法はさまざまありますが、最も公平性の高い方法が公募と言われています。
ここでは公募の方法について、順を追って解説していきます。
公募方法の決定
公募は「マンションの業界紙」「設計コンサルタント会社のHP」などへの、大規模修繕情報の掲載によって行われます。
場合によっては、マンション住人の知り合いから施工業者を募集することもあります。
公募要項の作成
どんな公募方法をするかが決まったら、次は「公募要項」を作成します。
公募要項には次のような内容を記載します。
- 工事の概要
- 参加資格
- 公募期間
- 提出書類
- 公募提出先
公募の開始~書類審査
公募要項が作成できたら、いよいよ公募を開始します。
公募で複数の候補が見つかったら、次は書類審査に移ります。
書類審査により施工業者を数社に絞りましょう。
書類審査では以下のようなポイントをチェックします。
- 過去の実績
- 施工能力
- 経営状態
また「大手ゼネコン」「管理会社」「専門業者」といったように、施工業者の候補は幅広くバランス良く選ぶことも大切です。
施工業者を絞る際は、コンサルタントなど専門家のアドバイスを受けるのも良いでしょう。
ただし、あくまでも理事会や修繕委員会が中心となって話しを進めるのが前提です。
公募の落とし穴
公募をする際は、以下のことに注意しながら行いましょう。
マンション内で公募するのはNG
管理組合によっては、マンション住人の知り合いの施工業者から公募する場合があります。
しかしこの方法はおすすめできません。
「施工業者を紹介した住人がバックマージンを受け取っているのではないか」と不信感を抱く組合員が出てくる可能性があるからです。
大規模修繕工事においては、新聞やインターネットなどを使い、広く施工業者を公募しましょう。
広く公募を行うと色々な施工業者が集まってくるので、公平な競争が実現できます。
その分だけ工事費が安くなりやすいです。
ただし工事費だけでなく、アフターサービスや過去の施工実績などについても、十分に比較検討する必要があります。
管理会社が談合をしている可能性もあり
管理会社が紹介した業者同士の相見積もりはNGです。
管理会社に全てを任せてしまうと、管理会社が裏で談合を行なっている場合でも気づきにくくなってしまいます。
管理会社が初めから落札業者や価格をこっそり決めておき、落札業者以外の施工業者は管理会社が提示した価格を邪魔しないような見積書を作成します。
そして管理会社が落札業者から謝礼としてバックマージンを受け取るのです。
工事費用も落札業者の言い値になるので、マンション側は必要以上の費用を支払わなくてはいけません。
管理会社が選んだ業者ではなく、マンション側が選んだ複数の施工業者同士を比較検討することが大切です。
コンサルタントがいるからと言って安心はできない
マンションの大規模修繕では、コンサルタント会社が設計や診断、監理を行う「設計管理方式」が主流となっています。
しかし主流だからと言って、安易にコンサルタントに丸投げしてはいけません。
多くの場合、コンサルタントは1社の施工会社にしか工事を依頼しません。
コンサルタント会社が自分たちに都合の良い施工業者を選び、先ほどの管理会社の例のように「談合」を行う場合があるのです。
こうした事例は1990年代から増え始め、2000年代になると全国に急激に広まりました。
業界の悪習慣とも言えるでしょう。
談合があるとコンサルタント会社と施工業者は金儲けができますが、マンション側は必要以上に高い価格設定で大規模修繕を行わなければなりません。
しかもコンサルタントに依頼すると、大規模マンションになると最低でも数百万円のコンサル費用も発生します。
透明性を維持しながら施工業者を選ぶには、ある程度は管理組合も介入する必要があります。
管理組合が主導して複数の施工業者から見積もりを取ることで、修繕積立金が有効に使えるようになるでしょう。
管理組合内に問題がある場合も
管理会社やコンサルタント会社だけでなく、マンションの管理組合内に問題がある場合もあります。
マンションの管理組合内に施工業者やコンサルタント会社のスパイが入り込み、管理組合の理事など、重要な役職に就くケースがあるのです。
そしてそのスパイが、工事をさせたい施工業者以外の業者の悪口を広め、思い通りに大規模修繕工事を進めようと画策します。
上記のような事態が起こってしまうとマンション住人の不満も溜まり、最悪の場合マンションから引っ越してしまうこともあるのだとか。
こうしたケースも起こりえることを頭の片隅に置いておき、組合員同士が注意深くコミュニケーションを取っていくことが重要です。
公募以外の大規模修繕工事業者の選定方法
大規模修繕工事では、公募以外で施工業者を選ぶ方法もあります。
- 特命随意契約
- 競争入札
特命随意契約
特命随意契約とは、管理組合が信頼できる1社を指名して、見積もりを出してもらう方法です。
前回の大規模修繕工事を行なった施工業者や、管理会社を指名するのが一般的です。
信頼できる会社なら、特命随意契約でも問題ありません。
前回の大規模修繕工事と同じ施工業者を選んで、「前回の反省点を今回に生かす」ということも可能です。
丁寧なアフターフォローも期待できるでしょう。
ただし特命随意契約では施工業者同士の競争原理が働かないため、工事価格が割高になる傾向に。
管理会社による下請け会社との談合が行われているケースもあるので、第三者に工事内容や価格をチェックしてもらうと安心です。
競争入札
すでに作成してある工事仕様書を元にして、「いかに安く工事してもらえるか」を施工業者に競わせる方法です。
コストダウンにはつながりますが、施工のクオリティについてほとんど提案されないのが難点です。
競争入札でも談合が起こりやすいので要注意です。
また工事仕様書の作成は、設計事務所や管理会社に作成を依頼することになるので、その分の費用もかかります。
施工業者を決める際に行うヒアリングとは
ここでは施工業者を決める際に行われる「ヒアリング」について解説していきます。
ヒアリングとは、施工業者にプレゼンテーションをしてもらったり質問をしたりして、施工業者選定のための情報を得ることを言います。
ヒアリング前の準備
ヒアリングを行う際は、以下の準備を行なっておきましょう。
管理組合から出席者を決める
管理組合の理事長や修繕委員、設計コンサルタントなど、管理組合側から出席者を決めます。
担当者の出席を求める
施工業者には、「現場代理人予定者」「営業担当者」「見積もり担当者」「最終金額決定者」といったメンバーを集めてもらうように依頼します。
プレゼン資料を作ってもらう
施工業者に「施工実績」「工事の品質」「安全対策」「アフターサービス」「防犯管理」などについて書かれたプレゼン資料を作ってもらうようにすると、ヒアリングがスムーズに進みやすいです。
ヒアリングに必要な時間は?
一般的にヒアリングでは、1社あたり60分ほどの時間が必要です。
合計で2~3社ほどヒアリングを行うのが一般的です。
場合によっては60分以上ヒアリングに時間がかかる場合もあります。
しかしマンションの理事会がまだまだ経験が浅い場合は、逆にヒアリングの時間を短くして、情報量をコンパクトにまとめる工夫も必要でしょう。
ヒアリングでチェックする項目は?
ヒアリングでは施工業者の、以下のような項目をチェックすることになります。
- 工事の概要
- 業者の強み
- 知識の豊富さ
- 話しに矛盾はないか
- 誠実さ
- 価格
業者の経営状態などはヒアリングを行う以前にチェックしておき、基本条件を満たしている業者のみをピックアップしておくと、スムーズにヒアリングを行なえます。
ヒアリングを行う場所は?
ヒアリングはマンションのエントランスや、近所の公民館などで行われるのが一般的です。
できればマンション住人みんなが参加できるような形式で行うのがおすすめです。
大規模修繕の発注方式の種類
大規模修繕を進めるうえで、発注方式についても知っておかなくてはなりません。
発注方式について知っていると、適切な施工業者を選びやすくなります。
大規模修繕では、以下の3つの方式が一般的です。
- 管理会社主導方式
- 責任施工方式
- 設計監理方式
管理会社主導方式
大規模修繕の計画から実施までを、管理会社が主体となって行う方式です。
管理会社が選ぶ1社が工事をするので、万が一施工ミスがあった場合でも責任の所在が明確になります。
ほとんどの工程を管理会社が担当するので、管理組合の負担が少ないのもメリットです。
ただし管理会社主導方式は施工業者同士の競争原理が働かないため、工事費用が高くなりがちです。
また第三者によるチェックもないので、施工業者がオーバースペック工事を行なったり、施工品質が低下したりする可能性もあるでしょう。
責任施工方式
施工業者が建築診断~施工までを全て一括で行う方式です。
公募や競争入札、特命随意契約などで施工業者を選びます。
責任の所在が分かりやすく、1社との打ち合わせだけで済むので、管理組合の手間が少なくなります。
ただし管理会社主導方式と同じく第三者のチェック機能がないので、無駄な工事が増えたりする恐れがあります。
責任施工方式では、信頼できる業者に発注することが重要です。
設計監理方式
設計や工事監理をコンサルタント会社や設計事務所に依頼し、工事は施工業者に依頼する方式です。
2つに分けて発注するため手間やコストがかかりますが、施工内容を第三者がチェックできるため、コンサルタント会社と施工業者の談合も防ぎやすいでしょう。
設計監理方式は、現代では最もポピュラーな方法となっています。
まとめ
公募を可能な限り幅広く行うことが、大規模修繕工事の透明性を保つために重要です。
また多くの施工業者から相見積もりを取ることも大切ですね。
管理会社やコンサルタント会社の言われるがままに施工業者選んではいけません。
マンションの組合員の方々が計画段階から積極的に関わることで、適正価格での大規模修繕が可能となるのです。