10~15年おきに必要になる大規模修繕工事。
工事にどのくらいの期間が必要か、気になっているかたも多いようです。
そこでこの記事では、大規模修繕工事にかかる期間について、マンションの規模別にご紹介していきます。
大規模修繕を行なう周期や費用などについても解説していきますので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
大規模修繕の必要性
マンションは、建てた直後から徐々に劣化していきます。
そこで必要になるのが、マンションの共用部分を補修したり交換したりする「大規模修繕」です。
大規模修繕を行なうと、以下のようなメリットがマンションに生まれます。
- 外観を綺麗に保てる
- 機能性を維持できる
- 付加価値が高まる
- 安全性が保てる
大規模修繕では外壁の塗り直しはもちろん、劣化部分の補修や、バリアフリー性能の向上など、さまざまなメリットがあります。
また大規模修繕によって外壁の剥がれ等を防ぐことで、マンション住人の安全も守れます。
定期的な大規模修繕は、マンション管理をする上で必須な事柄と言えるでしょう。
大規模修繕の工事にかかる期間
大規模修繕工事が着工してから竣工(完了)するまでには、どのくらいの期間がかかるのでしょうか。
ここでは「規模別」「各工事別」の2つの視点から解説していきます。
規模別
大規模修繕工事にかかる期間は、マンションの規模によって異なります。
小規模マンション
総戸数が50戸未満の小規模マンションでは、約3~4か月の工事期間が必要です。
中規模マンション
総戸数が50~100戸前後の中規模マンションでは、約4~6か月の工事期間が必要です。
大規模マンション
総戸数が100戸以上の、タワーマンションや団地のような大規模マンションでは、約半年~1年の工事期間が必要です。
大規模マンションともなると検討すべき事柄が多いので、計画段階から専門家も交えて話し合いを進めていくのが良いでしょう。
マンション住人など関係者の数も多くなるので、合意形成にも時間がかかる傾向にあります。
各工事別(中規模マンションの場合)
ここでは各工事別に、必要な期間を解説していきます。
今回は50~100戸程度の中規模マンションの例をご紹介していきます。
足場の設置
足場の設置には約15~20日の期間が必要です。
また足場の設置工事を行なう前に仮設トイレや、作業員の詰め所などの設置工事も必要です。
この工事には1週間ほどかかります。
鉄部塗装、下地補修、シーリング
錆びた鉄部の再塗装や、ひび割れ部分の下地補修、サッシなどのシーリング材(ゴム材)の打ち直しには、約2週間~1か月の期間が必要です。
防水工事、外壁塗装
屋上やバルコニーの防水工事や、外壁塗装には約1~3か月の期間が必要です。
すでに塗られている塗装の強度を測定したり、塗装を除去したりする工程が必要になると、工事期間が長めになります。
大規模修繕の流れ
ここでは大規模修繕の流れを、順を追ってご紹介していきます。
事前に大まかな流れを把握しておけば、準備段階で必要以上に迷うことがなくなります。
修繕委員会の結成
大規模修繕を行なうにあたって、まずは管理組合内で「修繕委員会」を結成しましょう。
修繕委員会とは、マンション住人による対策チームのことです。
工事内容を検討し、理事会に提案します。
修繕委員会に、建築関係に詳しい人や大規模修繕の経験者がいると心強いでしょう。
発注形式の選択
発注形式(専門家との契約形式)を選択することも重要です。
発注形式は「責任施工方式」と「設計管理方式」の2つが一般的です。
責任施工方式 | 管理組合と施工会社の2社間で契約する。最初から最後まで、全て施工会社に任せる方式。第三者によるチェックが行なわれないので、手抜き工事が発生したり、工事費用が割高になったりしやすい。 |
設計管理方式 | 発注者と施工会社以外にコンサルタントとも契約する。コンサルタントに設計図の作成や、施工会社の選定などを補助してもらえるが、コンサルタント料が必要。コンサルタント会社と施工会社が裏で「談合」を行ない、工事費用を吊り上げられるリスクがある。 |
管理組合の予算や管理方法などによって、どんな発注形式が適しているかは異なります。
建築診断の実施
専門の調査員が建物の劣化状況などをチェックします。
どのくらいの補修が必要か、補修にどのくらいの費用が必要かなど、さまざまな項目について調査します。
修繕計画の立案
建築診断の内容などを元に、大規模修繕を行なう時期や工事内容などを検討します。
予算などを考えながら、「どの箇所を優先的に修繕するか」といったことを計画していきます。
施工会社の選定
施工会社を選定する際は、5~10社ほどの施工会社で相見積もりを取ります。
インターネットや専門誌などのメディアを利用して施工会社を公募しましょう。
施工会社を選ぶ際は過去の施工実績や経営状態など、さまざまな視点から検討することが必要です。
大規模修繕をした後の点検の際にも施工会社と関わることになります。
施工会社の工事への意気込みなどについても、しっかりとチェックしておきましょう。
総会決議
工事に入る前に総会を開き、組合員の承認を得ることが必要です。
組合員に、施工会社の選定理由や工事内容などをしっかり説明することで、承認が得やすくなります。
説明会の開催
総会で承認が得られたら、マンション住人への説明会を行ないます。
説明会では工事の内容や注意点だけでなく、工事で発生する騒音の影響など、日常生活への影響についても説明する必要があります。
着工~竣工、引き渡し
工事が始まると、マンションの周囲に足場が設置されます。
マンションに作業員が出入りすることになるので、マンション住人がストレスを感じやすくなるでしょう。
掲示板やチラシなどを利用して、マンション住人とのコミュニケーションを怠らないように注意します。
理事会や修繕委員会、施工会社の人達と、工事中でもしっかり打ち合わせを行なうことが大切です。
工事が竣工したら、きちんと施工が行なわれたかを検査します。
問題がなければ引き渡しが行なわれ、大規模修繕の完了です。
大規模修繕にかかる費用は?
大規模修繕にかかる費用は、一戸あたりの金額から計算すると分かりやすいです。
一戸あたりの大規模修繕工事の金額
工事回数 | 平均金額 |
1回目 | 100万円 |
2回目 | 97.9万円 |
3回目 | 80.9万円 |
1㎡あたりの大規模修繕工事の金額
工事回数 | 平均金額 |
1回目 | 13,096円 |
2回目 | 14,635円 |
3回目 | 11,931円 |
(参考:国土交通省「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」平成29年5~7月実施)
例えば1回目の工事で70戸のマンションを大規模修繕する場合、約7,000万円ほどの費用がかかる、と計算できます。
ただしここで提示したのは、あくまでも目安です。
建物の傷み具合や施工会社の相場などにより、実際にはかなり費用が変動します。
一戸あたりの費用が30万円未満で収まるケースも多いです。
ちなみに大規模修繕の費用は、マンション住人から毎月徴収される「修繕積立金」でまかなわれます。
集めた修繕積立金だけでは足りない場合は、マンション住人から臨時で「一時金」を徴収するケースもあります。
大規模修繕を行なう時期は?
記事の冒頭でも触れましたが、大規模修繕は10~15年周期で行なうのが一般的です。
「12年に1度」と言われることもあります。
また大規模修繕は春工事がおすすめです。
真夏や真冬は大規模修繕に適していません。
下地補修や塗装といった湿式工事が行ないにくいのです。
ただし春工事は大規模修繕の件数が多いので、その分、施工会社の都合が付かなかったり、費用が多くなりがちだったりします。
施工会社や設計事務所などに、事前にスケジュールや料金を確認しておくと安心ですね。
マンション売却への影響
マンションの売却を検討中の場合は、売却する時期についても考慮しましょう。
大規模修繕をきっかけに、修繕積立金が増額されるケースがあります。
色々な理由が考えられますが、2000年代になってから工事費が高騰しているのも大きな理由に挙げられます。
2002年から2020年にかけて、建設工事費が20%近くも高騰しているのです。
修繕積立金が増額されると、住人の負担はその分大きくなります。
多くのマンションは「段階増額型」と言って、数年おきに修繕積立金が増額される仕組みになっています。
マンションを売却したいとお考えのかたは、修繕積立金が増額される前に売却するのがおすすめです。
大規模修繕でのトラブルを防ぐ方法
大規模修繕ではさまざまなトラブルが起こりがちなので、ここではトラブルを防ぐ方法をご紹介していきます。
マンション住人とのトラブル
マンション住人との間では、次のようなトラブルが起こることが多いです。
- 説明会で伝えられた期間で工事が終わらない
- 業者が勝手にベランダに入ってきた
- 施工会社の車や荷物が通行を妨害している
- 騒音や異臭が想像以上だった
- 一時金の徴収に納得できない
マンション住人とのトラブルを防ぐには、工事前~工事後まで、常にコミュニケーションを取り続けることが大切です。
掲示板やチラシ、説明会などで、できる限りマンション住人の了解を得られるように努めましょう。
工事期間中も管理組合や施工会社が主導して、月に1度は工事の進捗状況などを伝える報告会を開催することが大切です。
施工会社とのトラブル
施工会社とは、以下のようなトラブルが起きやすいので注意が必要です。
- 質の低い工事
- 工期の大幅な遅れ
- 住人とのもめごと
- 追加料金の請求
こうしたトラブルを避けるには、まずは契約する前に施工会社について調査することが有効です。
過去の施工実績はどうか、管理会社と癒着していないかどうか、といったことを詳細に調べましょう。
工事の途中で施工会社が倒産すると工事が継続できないので、経営状態についてもチェックしておきたいです。
周辺住民とのトラブル
マンションの周辺住民とは、以下のようなトラブルが起こりがちです。
- 騒音問題
- 工事車両の頻繁な出入り
- 足場からの空き巣の侵入
周辺住民とのトラブルを避けるには、マンション住人だけでなく周辺住民へも、大規模修繕について詳しく伝えることが大切です。
工事期間や工事内容について、周辺住民に事前に了解が取れていれば、周辺住民の不安も減り、大規模修繕に付随する問題を回避しやすくなります。
まとめ
大規模修繕を成功させるには、準備や工事に必要な期間をしっかりと把握し、綿密に計画することが重要です。
直前に焦って計画するのではなく、2年ほど前には準備を始めましょう。
なかなかマンション住人の理解が得られない場合もあるので、長めに準備期間を設けるのがおすすめです。
工事期間中でも、定期的に施工会社らとコミュニケーションを取り進捗をチェックすると、思わぬトラブルを避けられますよ。