建物の長寿命化と快適な居住空間の維持には、適切な防水工事・改修工事が不可欠です。これらの工事は単に雨漏りを防ぐだけでなく、資産価値の保全にも直結します。
防水工事には、ウレタン防水やアスファルト防水など様々な工法があり、それぞれに適した下地処理が必要です。特に重要なのが「仮防水」と呼ばれる工程です。仮防水材は、本格的な防水層を施工する前に一時的に使用される材料で、工事中の雨水侵入を防ぎます。
下地調整も防水改修の成否を左右する重要な要素です。ポリマーセメントなどの防水下地調整材を使用し、適切な下地処理を行うことで、塗膜防水の耐久性が大幅に向上します。
本記事では、仮防水の役割や施工の流れ、さらには各種防水工法に適したアスファルト防水下地などの下地調整の方法について詳しく解説します。
目次
仮防水とは
仮防水とは、改修工事の際に既存の防水層の全部または一部を撤去する必要がある場合に、一時的に防水工事を行うことを指します。
しかし、工事現場において厳密に定義された用語ではありません。
「仮」といっても、実際に防水工事を行うまでの間、漏水を防止できるだけの性能が求められます。
天候が安定している晴天時に竣工する工事であれば仮防水は必要ないといえるでしょう。
しかし、マンションの改修工事の場合、防水不十分による漏水を防がなければならず、仮防水は必須の措置です。
従来は、仮防水の人件費や材料費が工事価格に影響するため、防水性能を持たない下地調整材や、防水性能が期待できる安価で簡易な材料が使用されてきました。
近年の気象状況を考えると、集中豪雨など局地的な豪雨のリスクも考慮する必要があるでしょう。
防水材メーカーには、専用の仮設防水材を販売しているところもあれば、仮設防水材としても使用できる汎用品を販売している防水材メーカーも複数あります。
仮防水の必要性
防水層の改修工事において、仮防水は欠かせない工程です。
防水層の改修工事には、既存の防水層をすべて撤去して新しい防水層を形成する撤去工法と、既存の防水層を撤去せずにその上から新しい防水層を被せるかぶせ工法の2種類があります。
撤去工法で防水層を形成する場合、既存防水層を撤去したあとの下地は露出した状態になります。
次の工程を行うまでの間に、雨や雪などが降ると下地は水分を含み、施工不良の原因になります。
加えて、防水層がない下地は雨漏りを引き起こしやすいです。
雨漏りは室内を浸水させるだけではなく、建物の躯体を腐食させ、耐久性・耐震性を低下させます。
建物を守りつつ、改修工事をスムーズに進めるためにも、仮防水は必要な工程の一つです。
仮防水材に求められる性能
仮防水材には、主に3つの性能が求められます。
どのような性能が必要なのか、それぞれ解説します。
防水性
防水機能のある仮設防水材が必須です。
実際の工事現場では、工事予算の問題から安価な材料や下地調整材を使用するケースもあります。
しかし、工期中の漏水リスクを考慮して防水効果の低い順に材料を選定しなければなりません。
仮防水をするにあたって、防水工事が完了するまでの期間を把握しておくことが大切です。
例えば、既存の防水層を撤去した当日に新たな防水層を塗布する工程の検討をするケースがあります。
付着生
仮防水材は、既存防水層撤去後のコンクリート下地と新規防水層の間に挟まれるため、両者の密着性が重要です。
両者の接着が不十分では、界面が形成され、新しい防水層が剥離する原因となるためです。
コンクリート下地の場合は、アスファルト系塗膜シートの残存プライマーとの相性、既存下地やひび割れへの仮防水材の吸い込みと乾燥に注意する必要があります。
新防水層では、アスファルト防水工事をする際の下地の耐熱性、シルバートップ・ウレタンゴム塗膜・フッ素系トップコート・シート系との付着性などです。
防水用接着材などにも注意が必要です。
また、セメントを含むの仮防水材を長期間放置すると、セメントからエフロレッセンスが滲み出し、新しい防水層との接着に支障をきたすことがあります。
そのため、仮防水の期間が長く続く場合は、トップコートを塗布するなどの追加対策が必要です。
施工性
セメント系ポリマー セメント系下地調整材を所定の割合で混練し、十分な乾燥時間をとって含水率を下げるとともに、天候に注意する必要があります。
近年、練り混ぜなどを必要としないプレミックスタイプの仮防水材も多いです。
セメント系のような可使時間の制約がなく、5時間程度で仮防水性を発現します。
仮防水性能の早期発現、本防水工事までの乾燥時間の短縮など、仮防水材の用途を考えると理想的な材料だといえるでしょう。
仮防水が不要な防水工事
仮防水をせずに、防水工事を進められる方法もあります。
ここでは、仮防水不要な防水工事と、それぞれどのような工事なのかを確認しておきましょう。
ウレタン防水通気緩衝工法
通気性と緩衝性を併せ持つシートのうえに、ウレタン防水層を塗布する半粘着・断熱複合塗膜防水工法です。
通気性のある緩衝シートにより、下地に含まれている水分で防水層の膨れを予防、下地の動きを緩和します。
下地がコンクリート打ちっぱなしなど、水分の多い場所に適しているでしょう。
塩ビシート防水機械的固定工法
塩ビシート防水機械的固定工法とは、ベースに取り付けた鋼板のフィルムを溶かしてシートを接着する方法です。
「絶縁工法」や「通気工法」と呼ばれることもあり、防水シートと下地の間に断熱シートを挟むことで通気性を確保し、湿気を逃がします。
下地の影響を受けにくく、防水層が膨れにくいことがメリットです。
FRP防水
FRPとは、液状の不飽和ポリエステル樹脂に不織布やガラスマットなど素材を練り込んだものです。
FRP防水工事では、下地に塗布・硬化させて補強防水被覆層を形成します。
軽量ですが硬化するとプラスチックのように硬く丈夫になり、耐水性、耐候性、耐食性が高いことが特徴です。
また、継ぎ目がほとんどなく、防水層がしっかりしており、仕様によっては重歩行場所にも使用できます。
アスファルト防水
アスファルト防水は、合成繊維不織布シートに液状に溶かしたアスファルトを塗布したルーフィングシート(水滴の侵入を防ぐシート)を、2層以上に仕上げることで防水機能を強化する積層工法です。
アスファルト防水は、撤去工法とかぶせ工法があります。
撤去工法は、新築時の状態に戻してから、新たに防水層を形成する撤去工法です。
既存の防水層を撤去すべきと考える場合は、撤去工法を選択する必要があります。
かぶせ工法とは、既存防水層を剥離・除去することなく、その上に新たな防水層を被せることで防水層を構築する工法を指します。
塗り重ね工法とも呼び、既存防水層の不具合部分のみを撤去し、下地をきちんと整え、その上に新しい防水層を重ねます。
かぶせ工法を行う際の注意点
注意点は、既存の防水層の材質と新しい防水層の材質を検討しなければならない点です。
実際に防水層を施工する際には、既存防水層との相性を十分に考慮し、新たな防水層や防水工法を選定しましょう。
仮防水不要の防水工事を選択する際の注意点
マンションの増加に伴い、築30~40年の建物も増えています。
大規模修繕の1回目、2回目は防水層の重ね塗りも検討できるでしょう。
しかし、大規模修繕が3回目以上となると、将来的には完全撤去も含め、防水層のリセットのタイミングを意識しなければなりません。
防水を完全に撤去する必要がある場合は、仮防水が重要な役割を果たします。
近年の長寿命化に伴い、耐久性の高い防水材も出てきているため、改修の都度、撤去方法やかぶせ工法を含めた防水工事や施工方法を検討しましょう。
防水工事でよくある質問
Q
防水工事の種類にはどんなものがありますか?
A
主な防水工事の種類には、ウレタン防水、シート防水、アスファルト防水、FRP防水などがあります。それぞれの工法にはメリットとデメリットがあり、適した場所や耐用年数も異なります。
Q
防水工事の費用はどのくらいかかりますか?
A
工法や使用する材料、建物の状態によって異なりますが、一般的には1㎡あたり4,000円〜7,000円程度が相場です。
Q
工事の期間はどのくらいかかりますか?
A
工法や天候、建物の規模によりますが、通常は数日〜1週間程度で完了することが多いです。
Q
工事中の生活にどんな影響がありますか?
A
騒音や臭気が発生することがありますが、できるだけ負担を軽減するよう配慮しております。また、バルコニーや屋上の使用が一時的に制限されることがあります。
Q
防水工事のタイミングはいつが良いですか?
A
一般的には10年〜15年ごとに定期的なメンテナンスが推奨されています。また、ひび割れや雨漏りが発生した場合は早急に工事を行うことが重要です。
防水工事・改修工事で屋根や建物を守ろう
防水工事の際には、仮防水で漏水事故を防ぎながら作業を行います。
また、防水工事にはいくつかの種類があり、FRP防水やウレタン防水は塗膜防水で、凹凸のある屋上でも施工しやすい方法です。
シート防水は平坦な広い屋上に適しており、施工時の嫌な臭いも発生しません。
また、アスファルト防水は耐久性・防水性に優れており、信頼性の高い防水工事です。
屋上の形状や周辺環境を考慮し、最適な屋上防水工事を行いましょう。