大規模修繕でする防水工事を知りたい人
マンション大規模修繕・中規模修繕・小規模修繕の防水工事の内容は?
大規模修繕の防水工事でかかる費用はいくら?
マンション大規模修繕・中規模修繕・小規模修繕では屋上防水工事は必須項目?
マンションの耐久性向上を考えるうえで、防水性能は極めて重要な要素です。床・ベランダ防水や厨房、店舗、飲食店などの水回りの防水機能が低下すると、コンクリートや居住空間に雨水が浸入し、ひび割れを起こして日常生活に支障をきたします。建物を長持ちさせるためには、大規模修繕工事のなかでも、屋上防水工事は大きな位置を占めると認識することが大切です。
防水工事には防水シートや床の防水シートを使用する方法、ウレタン防水、水性塗料によるDIY塗装、フローリングへのコーティングなど、様々な種類があります。これらの工法にはそれぞれメリット・デメリットがあり、建物の状況や用途に適した選択が必要です。
今回の記事では、大規模修繕のなかで重要な防水工事の種類と重要性を詳しく解説します。適切な防水対策によってマンションの寿命を延ばし、快適な住環境を維持できるため、ぜひ最後までお読みください。
目次
防水工事が大規模修繕に必要な理由とは?
建物の劣化を進行させないためには、コンクリート内部への雨などの水分の侵入を防ぐことが重要です。
防水工事は、屋上や階段、外廊下、バルコニーなど、風雨にさらされる床面の工事が中心です。
また、屋上やルーフバルコニーは劣化が進むと居室への漏水につながるため、居住者の生活空間を守るためにも定期的なメンテナンスを行う必要があります。
防水工事では、ウレタンシート、塩化ビニル樹脂シート、アスファルトシートなどの防水材を使用します。
それぞれに特徴がありますが、補修の際には劣化状況や現在使用している防水層との相性を考慮して材料や工法を選定します。
開放廊下や外階段、バルコニーなどには塩化ビニール樹脂シートやウレタン防水を使用することが多いです。
塩化ビニール樹脂シートは色やデザインが豊富で、選ぶデザインによって印象を変えられます。
また、バルコニーの場合、防水工事に足場が必要になるため、大規模修繕工事と同時に施工すると経済的です。
2階廊下の防水工事についての注意点
2階廊下の防水工事では、建物全体の防水性を確保するだけでなく、安全性や施工の精度を重視する必要があります。下地が不十分なまま防水工事を行うと、施工後の不具合の原因となり、再施工が必要になる可能性があります。下地の補修や平坦化をしっかりと行うことが大切です。
2階廊下は人が頻繁に通行するため、摩耗に強い防水材料を選ぶ必要があり、ウレタン防水や塩ビシート防水などが用いられますが、廊下の形状や用途に応じて選択することが推奨されます。
大規模修繕で防水工事が重視される理由|雨漏りによる建物への被害
大規模修繕工事で防水工事が重視される理由のひとつは、防水性能の低下による浸水時の被害が大きいことです。
具体的には、大きく分けて3つの被害があるため、それぞれ見ていきましょう。
大規模修繕で防水工事が重視される理由.1停電
電気設備は基本的に浸水の可能性が低い1階や地下に設置されていますが、防水性能の劣化により、万が一浸水した場合、誤作動を起こし、建物全体が停電する可能性があります。
停電の影響は非常に大きく、給水ポンプが停止して水が出なくなったり、エレベーターやエントランスなどの共用部分の設備が使用できなくなったりと、居住者の生活に大きなダメージを与えます。
最悪の場合、電気設備の故障で交換が必要になり、莫大な修繕費がかかることもあるため注意が必要です。
大規模修繕で防水工事が重視される理由.2建物の劣化を進める
浸水は、木造、鉄筋コンクリート造(RC造)を問わず、建物の構造部分の劣化につながります。
なかでも鉄筋コンクリートは、耐圧強度が高いコンクリートと引張強度が強い鉄筋を組み合わせた造りです。
鉄筋コンクリートは木造建築よりも長寿命ですが、鉄部のサビに注意しなければなりません。
鉄部にサビが発生すると耐久性が低下するだけではなく、膨張してコンクリートにひび割れや剥離が生じ、さらに水の浸入を招き、劣化をさらに加速させます。
大規模修繕で防水工事が重視される理由.3雨漏り
廊下や居住スペースで雨漏りが発生し、入居者の日常生活に支障をきたします。
基本的に、賃貸物件では雨漏りの修繕はオーナーの負担となり、コスト面でも問題が生じます。
何より、入居者の快適な生活に支障をきたすため、雨漏り対策として防水工事が必要です。
大規模修繕の防水工事種類
大規模修繕の防水工事には、大きく分けて3つの方法があります。
塗膜防水、シート防水、アスファルト防水です。
これらの工法で施工する箇所は、主にベランダ、通路、ルーフバルコニー、屋上、出窓がある場合はその軒先が挙げられます。
ここでは、大規模修繕で行われる防水工事の特徴を紹介します。
大規模修繕の防水工事種類.1塗装防水工事
防水機能を持つ塗料を塗ることで、経年劣化で弱くなった防水機能を回復させる方法です。
ウレタン塗料とFRP(ガラス繊維強化プラスチック)の2種類があります。
塗膜防水は2~3層に塗り重ねられ、その厚さは3.0mmに達し、シート防水よりも厚い防水層になります。
ウレタン塗膜防水
ウレタン防水は、日本で最も主流の屋上防水工法です。
ウレタン防水は、液状のウレタンを何層にも塗り重ねて防水層を形成します。
防水層を重ねることで、雨水の侵入を防ぐ工法です。
ウレタン塗膜は液体であり、複雑な形状の屋根にも塗ることができ、継ぎ目がないため目地からの雨水の侵入を防ぐことができます。
最近は長尺シートと呼ばれるものもよく使われますが、長尺シートには防水効果はありません。
工法の違いについて
ウレタン防水の施工方法には、密着工法と絶縁工法の2種類があります。
密着工法はウレタン防水材を直接塗布する方法、絶縁工法は床と防水材の間に通気マットを使用する方法です。
バルコニーなど狭い面積の場合は、密着工法が一般的です。
密着工法は継ぎ目がないので雨水の侵入を防ぐことができ、工事が比較的簡単なため、工期が短いことがメリットです。
そのため、大きな人件費がかからず、材料費自体も安いため、トータルコストが抑えられるでしょう。
また、古い防水材を撤去する必要がなく、撤去費用がかかりません。
ただし、耐用年数が比較的短いことがデメリットです。
FRP(ガラス繊維強化プラスチック)防水
FRPとは、プラスチックにガラス繊維を練り込むことで、これまで使用されていたプラスチックよりも強度が高い材料です。
軽量で耐久性があり、浸食されにくく、耐候性に優れています。
防水層をトップコートで仕上げるだけで、人が歩く場所でも歩行が可能なほどの耐久性を持つことが特徴です。
近年では屋上緑化や屋上菜園の防水層としても注目されていますが、耐用年数が短い点がデメリットだといえます。
また、ウレタン防水と比較すると、材料費の関係で価格が高くなります。
大規模修繕の防水工事種類.2シート防水
シート防水とは、塗膜防水のように塗装するのではなく、防水シートを貼り付けて雨水の浸入を防ぐ方法です。
シート防水は塗膜防水よりも安くできますが、耐用年数は長くありません。
液体ではなくシート状の防水材であり、複雑な形状の屋根には施工できないこともあります。
施工に使われるシートは、主に3種類が挙げられます。
塩化ビニールシート防水
塩化ビニールシートとは、塩化ビニル樹脂製の防水シートをプライマーで屋根に貼り付ける工法です。
現在のシート防水の主流は塩化ビニールシート防水です。
塩化ビニールシートの厚みは1.5mm~2.5mmで、ゴムシート防水に比べて厚い防水層を形成します。
塩化ビニールシートは、施工直後から人が歩けるため、居住者の生活を制限しません。
色が選べるため、デザイン性を重視したい方におすすめです。
さらに、他の工法より安く、費用を抑えたいときにも選ばれます。
また、紫外線や熱に比較的強く、物を置くことができます。
ただし、塗装された床の上に物を置くと、表面が傷ついたり、物を持ち上げた時に塗装が剥がれたりすることがあるため注意が必要です。
ほかにも、シート状のため、平らな場所にしか使えません。
耐久性が10~15年と比較的短く、シートの重ね合わせ部分に高度な施工技術が必要なため、施工不良が発生しやすい点がデメリットです。
ゴムシート防水
塩化ビニールの代わりに合成ゴム製の防水シートを貼り付ける工法です。
ゴムシートの厚みは1.2mm~2.0mmであり、塩化ビニールシートよりも防水層は薄くなります。
最近の傾向として、ゴムシート防水の使用は減ってきています。
シートのため短期間、低コストで施工でき、塩化ビニールに比べ温度の影響を受けにくく、地域的な制約が少ないことがメリットです。
また、ゴムは弾力性・柔軟性に富んだ素材であり、地震の揺れに強く、耐久性が比較的高いです。
ただし、塩化ビニールシート同様、複雑な形状の場所には不向きです。
さらに、プライマーの耐用年数が短いため、プライマーから雨水が浸入する可能性があります。
シートの重ね合わせ部分に高品質な施工技術が要求され、施工不良が発生しやすい点に注意しましょう。
長尺シート防水
長尺シートは、防滑性ビニル床シートともいわれる床専用のシートであり、水に強く、水に濡れても染み込まない防水性があります。
また、汚れが付着しにくいため清掃の手間がかからず、遮音効果や滑りにくいことがメリットです。
マンションやアパートなど、歩行者が多い場所で足音を軽減でき、居住者の快適な生活を維持することにつながるでしょう。
さらに、強度があり、耐久性が高いことから、頻繁にメンテナンスをする必要がありません。
長尺シートは、デザインを重視したいときにも最適です。
デザインや仕上げを選択でき、大規模修繕をきっかけに印象を変えたいときにおすすめです。
施工が難しくDIYには不向きなため、大規模修繕で専門業者に施工を依頼しましょう。
大規模修繕の防水工事種類.3アスファルト防水
アスファルト防水は、防水材の塗装と貼り付けの両方を行う工法です。
合成繊維の不織布にアスファルトを含んだシート状のルーフィングを積層して、防水層を形成します。
ルーフィング層を重ねることで、より防水性の高い防水層が形成されますが、耐久性が高い分、価格も高くなります。
ルーフィングの上にコンクリートを塗れば、防水性を高めることが可能です。
ただし、重くなるため、木造など耐久性の低い建物には向かないでしょう。
工法の違い
工法には、トーチ工法とコールド工法の2種類があります。
それぞれのメリットとデメリットを確認しておきましょう。
トーチ工法
トーチバーナーと呼ばれる、ガスバーナーに似たものを使用する工法です。
アスファルトルーフィングの裏面に含まれるアスファルトをトーチバーナーで溶かし、下塗り材として使用し、塗装するようにルーフィングに塗ります。
トーチバーナーさえあれば簡単に施工でき、シート防水に比べ、隙間なく溶着できるため施工不良が少ないことがメリットです。
また、従来の熱工法に比べ、高度な技術を必要としません。
ただし、アスファルト防水は高価です。
さらに、トーチバーナーが発熱するため煙が出るほか、重量があるため木造住宅やアパートには適していません。
冷工法(常温工法)
冷工法は、熱に頼らずに溶接を行うことから「常温工法」とも呼ばれます。
アルファルトなどの溶融釜を使って材料を溶かすのではなく、常温で材料を塗布する防水工法です。
液状のアスファルト材を使用し、平らな屋根面に複数のルーフィングを交互に貼り付けていきます。
トーチ工法に比べ、発熱がないため煙が出ず環境に優しく、施工時に異臭が発生しないことがメリットです。
ただし、トーチ工法に比べ、高度な接着技術が必要であるほか、複雑な形状の屋根には施工できません。
さらに、他の工法に比べアスファルト防水は高価です。
大規模修繕の防水工事にかかる費用目安
大規模修繕の防水工事は、選択する施工方法によって費用が異なります。
防水工事ごとの費用目安は次のとおりです。
防水工事 | 耐用年数 | 費用相場 | 主な施工場所 |
FRP防水 | 10年〜15年程度 | 5,000円〜7,000円/㎡ | ベランダ・バルコニー |
ウレタン塗膜防水 | 10〜12年程度 | 5,500円〜6,500円/㎡ | ベランダ・バルコニー、屋上 |
塩化ビニールシート防水 | 13〜15年程度 | 4,000円〜7,500円/㎡ | 陸屋根やベランダ・バルコニー |
ゴムシート防水 | 10〜12年程度 | 4,000~6,000円/㎡ | 陸屋根や屋上 |
長尺シート防水 | 12~18年程度 | 4,000~7,000円/㎡ | 廊下、階段、バルコニー |
アスファルト防水 | 15年〜25年程度 | 5,000円〜7,000円/㎡ | 陸屋根 |
一般的に、シート防水は安価ですが平らな場所にしか施工できず、アスファルト防水は耐久性がありますが費用も高い傾向があります。
シーリング材や塗料も同様で、耐用年数が長いほど費用は高くなるため、予算に合わせて選びましょう。
5階建て防水工事の総費用例は?(50㎡の屋上防水)
5階建て防水工事の場合総費用例(50㎡の屋上防水)は以下になります。
- アスファルト防水の場合
- 防水工事費用:250,000〜350,000円
- 足場設置費用:300,000円(中間値)
- 下地補修費用:200,000円(中間値)
- 合計費用:750,000〜850,000円
- ウレタン塗膜防水の場合
- 防水工事費用:200,000〜325,000円
- 足場設置費用:300,000円(中間値)
- 下地補修費用:200,000円(中間値)
- 合計費用:700,000〜825,000円
- 塩ビシート防水の場合
- 防水工事費用:225,000〜325,000円
- 足場設置費用:300,000円(中間値)
- 下地補修費用:200,000円(中間値)
- 合計費用:725,000〜825,000円
大規模修繕で行う防水工事の注意点
防水材の選定も重要ですが、防水工事完了後のトラブルとして多いのが雨漏りです。
そのため、竣工時のしっかりとした検査と保証期間の確認が欠かせません。
ここでは、防水工事で押さえておきたい注意点、チェックポイントを紹介します。
大規模修繕で行う防水工事の注意点.1竣工検査時のチェックポイント
細かな仕様や防水工事の施工状況は素人には判断が難しいですが、防水工事を行った箇所にひび割れがないかをしっかりと確認する必要があります。
大きなひび割れを見落とすと、そこから雨水が浸入して雨漏りの原因になるためです。
特に、端部のひび割れは必ずチェックしましょう。
大規模修繕で行う防水工事の注意点.2保証期間や業者のアフターフォロー
保証期間中に雨漏りが発生した場合、工事業者は瑕疵工事として無償で修繕を行います。
しかし、保証期間を過ぎると、マンションが修繕工事を行わなければなりません。
基本的に、防水工事の保証期間は、施工業者や防水材の種類によって異なりますが、一般的な保証期間は次のとおりです。
屋上防水:7年~10年
ベランダ・バルコニー:3年~5年
大規模修繕で防水工事を行った箇所は全て保証書が発行されるため、まずは保証期間を確認しましょう。
防水工事でよくある質問
Q
防水工事の種類にはどんなものがありますか?
A
主な防水工事の種類には、ウレタン防水、シート防水、アスファルト防水、FRP防水などがあります。それぞれの工法にはメリットとデメリットがあり、適した場所や耐用年数も異なります。
Q
防水工事の費用はどのくらいかかりますか?
A
工法や使用する材料、建物の状態によって異なりますが、一般的には1㎡あたり4,000円〜7,000円程度が相場です。
Q
工事の期間はどのくらいかかりますか?
A
工法や天候、建物の規模によりますが、通常は数日〜1週間程度で完了することが多いです。
Q
工事中の生活にどんな影響がありますか?
A
騒音や臭気が発生することがありますが、できるだけ負担を軽減するよう配慮しております。また、バルコニーや屋上の使用が一時的に制限されることがあります。
Q
防水工事のタイミングはいつが良いですか?
A
一般的には10年〜15年ごとに定期的なメンテナンスが推奨されています。また、ひび割れや雨漏りが発生した場合は早急に工事を行うことが重要です。
大規模修繕で防水工事の重要点について理解を深めよう
マンションの大規模修繕工事で欠かせないのが、屋上・屋根・ベランダ・バルコニーの防水工事です。
屋上は外壁よりも紫外線や雨風の影響を受けやすい場所であり、築年数の経過したマンションでは防水層の劣化は避けられません。
防水性能が弱まれば、雨漏りが発生して居住者の生活に支障をきたし、水が浸入すれば建物を支える構造体にも影響を及ぼします。
防水工事の重要性を理解して、大規模修繕を成功させましょう。